• 著者: Sehhoon Park, Beung-Chul Ahn, Sung Won Lim, Jong-Mu Sun, Hye Ryun Kim, Min Hee Hong, Se-Hoon Lee, Jin Seok Ahn, Keunchil Park, Yoon La Choi, Byoung Chul Cho, Myung-Ju Ahn
  • Corresponding author: Myung-Ju Ahn (Division of Hematology-Oncology, Department of Medicine, Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-06-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29883837

背景

ROS1遺伝子再構成は、非小細胞肺癌(NSCLC)の約1〜2%に認められる、治療標的となりうる重要なドライバー変異である Bergethon et al. JClinOncol 2012。ROS1陽性NSCLCは、一般的に若年、女性、非喫煙者、腺癌の患者に多く見られ、ALK陽性NSCLCと類似した臨床的特徴を持つことが知られている Takeuchi et al. NatMed 2012。ROS1とALKのキナーゼドメインは、ATP結合ドメインにおいて約77%の高いアミノ酸配列相同性を有するため、ALK阻害薬がROS1タンパク質にも強力に結合することが可能である Gainor et al. Oncologist 2013。この構造的類似性が、ALK阻害薬であるクリゾチニブ(crizotinib)がROS1再構成陽性NSCLCに対して高い有効性を示す理由とされている。

クリゾチニブは、PROFILE 1001試験において、ROS1再構成陽性NSCLC患者に対し、奏効率(ORR)72%、無増悪生存期間(PFS)中央値19.2ヶ月という優れた成績を示した Shaw et al. NEnglJMed 2014。また、より強力なALK TKIであるセリチニブ(ceritinib)も、クリゾチニブ未治療の患者においてORR 62%、PFS中央値19.3ヶ月の有効性を示している Lim et al. JClinOncol 2017。これらのTKI以外にも、エンレクチニブ(entrectinib)やレポトレクチニブ(repotrectinib)など、複数のROS1阻害薬が臨床開発段階にある Drilon et al。しかし、クリゾチニブ治療後の獲得耐性メカニズムとして、CD74-ROS1融合タンパク質におけるROS1 G2032R変異が報告されており、耐性克服のための新たな治療戦略が求められている Awad et al. NEnglJMed 2013

ROS1陽性NSCLCのもう一つの特徴は、ペメトレキセド(pemetrexed)に対する持続的な奏効である。進行非扁平上皮NSCLC患者において、ペメトレキセドとプラチナ製剤併用後のペメトレキセド維持療法は、標的可能なゲノム異常がない場合、PFS中央値約4ヶ月であった Paz-Ares et al. LancetOncol 2012。対照的に、ROS1陽性NSCLC患者では、同様の治療でPFS中央値が最大9ヶ月に達することが報告されている。この高い有効性は、ROS1陽性腫瘍におけるチミジル酸シンターゼ(TS)の発現低下が関与していると考えられている。しかし、ALK陽性NSCLC患者ではTS発現レベルが類似しているにもかかわらず、PFSが4.2〜7.0ヶ月と短いことが示されており、ROS1陽性NSCLCにおけるペメトレキセドの特異的な有効性のメカニズムは未解明な点も多い。

これまでのROS1再構成陽性NSCLCに関する臨床研究は、主にTKIの有効性に焦点を当てたものであり、実臨床における包括的な長期アウトカムデータ、特に脳転移のパターンや複数TKIの比較、新規融合パートナーの同定に関する情報は不足していた。特に韓国のコホートからの大規模な実臨床データは限られており、これらのギャップを埋めることが本研究の重要な課題であった。実臨床における脳転移の発生頻度や、治療経過中の脳転移進行パターンに関する詳細な解析は依然として不十分であり、最適な治療シーケンスの確立に向けたデータが不足しているという課題が残されていた。

目的

本研究の目的は、韓国の2つの主要医療機関(Samsung Medical CenterおよびSeverance Hospital)におけるROS1陽性非小細胞肺癌(NSCLC)患者103例の実臨床データを後ろ向きに解析し、その包括的な臨床的特徴と治療アウトカムを明らかにすることである。具体的には、以下の点を評価した。

  1. ROS1陽性NSCLC患者の臨床病理学的特徴(年齢、性別、喫煙歴、組織型、病期、共存する遺伝子変異など)を詳細に記述する。
  2. 診断時および治療経過中の脳転移の発生率とパターン、特にTKI治療中とペメトレキセドベース化学療法中の脳転移進行率の違いを比較する。
  3. ROS1チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)治療の有効性(奏効率、無増悪生存期間、全生存期間)を評価し、異なるTKI(クリゾチニブ、セリチニブ、エンレクチニブ、TPX-0005/レポトレクチニブ)間の治療成績を比較する。
  4. ペメトレキセドベース化学療法の有効性(奏効率、無増悪生存期間、全生存期間)を評価し、ROS1陽性NSCLCにおけるその役割を明確にする。
  5. 次世代シーケンシング(NGS)によりROS1融合パートナーを同定し、既報の融合パートナーに加え、新規の融合パートナーを探索する。また、融合パートナーの種類とTKI治療成績との関連性を検討する。
  6. 免疫チェックポイント阻害剤の治療成績を評価し、ROS1陽性NSCLCにおける免疫療法の有効性を検討する。

これらの解析を通じて、ROS1陽性NSCLC患者の実臨床における治療戦略の最適化に資するエビデンスを提供することを目指した。

結果

患者背景と臨床病理学的特徴: 本研究では、ROS1陽性NSCLC患者103例が解析対象となった。患者の年齢中央値は56歳(範囲28〜85歳)であり、女性が68.9%(n=71)、非喫煙者が75.7%(n=78)を占めた。組織型は腺癌が98.1%(n=101)と圧倒的に多く、2例(1.9%)で多形性癌が認められた。ECOG PSは0-1が96.1%(n=99)であった。初診時の病期はステージIVが67.0%(n=69)であり、非手術可能例は80例(77.7%)であった。興味深いことに、4例(3.9%)でEGFR変異(exon 20多型、exon 20挿入、exon 19欠失、exon 21 L833V+L858R)との共存が同定された。初診時に胸腔外転移を有する患者は60.2%(n=62)であり、脳転移を有する患者は22.3%(n=23)であった。ROS1再構成の検出方法は、FISHが80.6%(n=83)、NGSが22.3%(n=23)、両方が2.9%(n=3)であった。中央値追跡期間は22.1ヶ月であった (Table 1)。

全体生存期間(OS)の解析: 全患者における診断日からの全生存期間中央値は52.1ヶ月(95% CI 23.6-未到達)であった (Figure 1A)。TKI投与群(n=58)のOS中央値は64.9ヶ月(95% CI 26.3-未到達)であったのに対し、TKI非投与群(n=45)では20.7ヶ月(95% CI 8.4-54.3)であり、TKI投与群で有意なOSの延長が認められた。Cox比例ハザードモデルによる解析では、TKI非投与群に対するTKI投与群の生存ベネフィットは、HR 0.44 (95% CI 0.25-0.79, p<0.05) であり、統計学的に有意であった (Figure 1B)。ペメトレキセドベース化学療法を受けた患者(n=90)のOS中央値は54.1ヶ月(95% CI 24.0-未到達)であった (Figure 1C)。TKIへのクロスオーバーがなかったペメトレキセド単独治療群(n=51)のOS中央値は60.1ヶ月(95% CI 25.6-未到達)であり、ペメトレキセドの長期的な有効性が示唆された (Figure 1D)。

TKI治療およびペメトレキセドベース化学療法の有効性比較: TKI治療を受けた患者全体(n=58)の奏効率(ORR)は70.7%(完全奏効[CR] 3例、部分奏効[PR] 38例、病勢安定[SD] 9例、病勢進行[PD] 7例、評価不能[NE] 1例)であり、病勢コントロール率(DCR)は86.2%であった。無増悪生存期間(PFS)中央値は12.7ヶ月(95% CI 8.1-21.8)であり、TKI開始からのOS中央値は23.2ヶ月(95% CI 12.2-未到達)であった (Figure 2A, B)。 個別のTKIの成績は以下の通りである (Table 2)。

  • クリゾチニブ(n=15):ORR 73.3%、DCR 80.1%、PFS中央値13.1ヶ月(95% CI 4.4-未到達)。
  • セリチニブ(n=23):ORR 65.2%、DCR 86.9%、PFS中央値17.3ヶ月(95% CI 8.1-23.2)。
  • エンレクチニブ(n=13):ORR 69.2%、DCR 84.6%、PFS中央値10.0ヶ月(95% CI 4.6-22.4)。
  • TPX-0005/レポトレクチニブ(n=7):ORR 85.7%、DCR 100.0%、PFS中央値は未到達。 一方、ペメトレキセドベース化学療法を受けた患者(n=90)のORRは53.3%(CR 1例、PR 47例、SD 31例、PD 9例、NE 2例)であり、DCRは87.8%であった。PFS中央値は 12.7 vs 8.0 months とペメトレキセド群で短かったが、8.0ヶ月(95% CI 6.4-11.7)と良好な成績を示した (Figure 2C)。ペメトレキセド開始からのOS中央値は42.5ヶ月(95% CI 21.9-未到達)であった (Figure 2D)。

脳転移の発生パターンと治療中の進行率: 初診時に脳転移がなかった80例のうち、追跡期間中に24例(30.0%)が脳転移を発症した。脳転移発症までの中央値期間は12.0ヶ月(95% CI 8.5-19.1)であった (Figure 4C)。病勢進行時の転移部位を比較すると、TKI治療中の脳転移進行は15.5%(9/58例)であり、ペメトレキセドベース治療中の6.7%(6/90例)よりも高頻度であった。特にエンレクチニブ治療中の脳進行率は30.8%(4/13例)と高く、一部のTKIのCNS(central nervous system:中枢神経系)移行性の限界を示唆する結果であった (Table 2)。

ROS1融合パートナーの同定とTKI奏効: NGSが実施された23例において、ROS1の融合パートナーが同定された (Figure 5)。最も一般的な融合パートナーはCD74(35.0%、8例)であり、次いでEZR(18.0%、4例)、TPM3、SDC4、TFGが同定された。さらに、ZCCHC8 (zinc finger CCHC-type containing 8)、SLMAP (sarcolemma associated protein)、MYO5C (myosin VC) という、これまで報告されていない新規の融合パートナーがそれぞれ1例ずつ同定された。すべての融合体においてROS1キナーゼドメインの保持が確認された。融合パートナーの種類とTKI治療奏効との間に明確な相関は認められなかった。クリゾチニブで32.0ヶ月治療後に耐性を示した1例では、CD79 (CD79 molecule)-ROS1融合遺伝子にG2032R変異が確認され、この患者はロルラチニブ(lorlatinib)で部分奏効を示した。また、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による治療を受けた12例では、ORR 25.0%、DCR 50.0%、PFS中央値1.6ヶ月(95% CI 1.0-6.5)と有効性は限定的であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、主に臨床試験の厳格な選択基準のもとで得られたデータとは異なり、実臨床における包括的な長期アウトカムを提示している。診断日からの全生存期間(OS)中央値が52.1ヶ月と極めて良好な長期OSを示した。特にTKI投与群では64.9ヶ月に達し、標準的な転移性NSCLCに比べて著明に長い生存期間を示した。また、ペメトレキセドベース化学療法の奏効率(ORR)53.3%、無増悪生存期間(PFS)中央値8.0ヶ月という成績は、一般的な転移性NSCLCでのPFS中央値約4ヶ月を大幅に上回るものであった。この結果は、TKIへのアクセスが困難な患者においてもペメトレキセドが極めて有効な治療選択肢となることを示唆しており、ROS1陽性腫瘍におけるチミジル酸シンターゼ(TS)低発現という生物学的特性と整合する。さらに、TKI治療中の脳転移進行率(15.5%)がペメトレキセドベース治療中(6.7%)よりも高かったことは、クリゾチニブをはじめとする第1・2世代TKIの不十分なCNS浸透性を反映する重要な観察であり、先行研究の知見を実臨床データで再確認・拡張したものである。

新規性: 本研究で初めて、次世代シーケンシング(NGS)により、ZCCHC8、SLMAP、MYO5Cといったこれまで報告されていない新規のROS1融合パートナーを同定した。これはROS1再構成の生物学的多様性を示すものであり、ROS1融合遺伝子のランドスケープを広げる新規な発見である。これらの新規融合パートナーの機能解析は今後の検討課題であるが、ROS1キナーゼドメインが保持されていることから、TKIに対する感受性が期待される。また、クリゾチニブ耐性後のG2032R変異の同定とロルラチニブへの奏効は、ROS1陽性NSCLCにおける耐性メカニズムと次治療選択肢に関する貴重な実臨床データを提供するものである。

臨床応用: 本研究で示されたROS1陽性NSCLC患者の良好な長期OSは、正確な診断と適切な標的治療へのアクセスが患者アウトカムを劇的に改善することを示している。特に、TKIが利用できない状況下でもペメトレキセドが有効な選択肢となりうるという知見は、リソースが限られた地域や患者にとって重要な臨床的含意を持つ。また、TKI治療中の脳転移の高頻度な発生は、CNS浸透性に優れた次世代TKI(例:ロルラチニブ、レポトレクチニブなど)の臨床現場での必要性を強調する。これらの薬剤は、脳転移を有する患者や脳転移リスクの高い患者において、より効果的な治療戦略となる可能性がある。

残された課題: 本研究は後ろ向き研究であるため、選択バイアスや情報バイアスが存在する可能性がlimitationとして挙げられる。また、ROS1陽性NSCLCの希少性から、個々のTKI間の直接比較には症例数の不足という課題がある。さらに、TKIを一次治療として受けた患者が少なく、治療ラインによる効果の解釈が複雑である。今後の検討課題として、新規融合パートナーの機能的意義の解明、TKI耐性メカニズムのさらなる詳細な解析、およびCNS浸透性の高いTKIの最適な使用戦略に関する前向き研究が必要である。ROS1再構成の検出方法の標準化と、より多くの患者が標的治療にアクセスできるような体制の構築も今後の重要な方向性である。

方法

本研究は、韓国のSamsung Medical CenterとSeverance Hospitalの2施設で実施された後ろ向き多施設コホート研究(retrospective cohort study)である。2001年1月から2018年2月までの期間に、ROS1遺伝子再構成陽性と診断された非小細胞肺癌(NSCLC)患者103例が特定され、解析対象となった。

ROS1再構成の同定: ROS1遺伝子再構成は、主にFISH(fluorescence in situ hybridization)法(n=84)または次世代シーケンシング(NGS)法(n=23)によって確認された。3例の患者では両方の方法が用いられた。FISH法では、Kreatech社のPOSEIDON ROS1 Dual Color Break Apart Probeを使用し、腫瘍細胞の15%以上でスプリットシグナルまたは単独シグナルが認められた場合に陽性と判定された。NGS法では、LabGenomics社のCancerScanパネルを用いて、ROS1のブレークポイントを同定した Shin et al. NatCommun 2017

患者データの収集と解析: 患者の臨床データは、電子カルテから後ろ向きに収集された。これには、患者背景(年齢、性別、喫煙歴、ECOG PS [Eastern Cooperative Oncology Group performance status]、組織型、病期、共存する遺伝子変異)、脳転移の発生状況、化学療法およびチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)治療に対する奏効などが含まれる。

治療と評価: 韓国の規制により、未承認薬の適応外使用が制限されていたため、TKIは主に臨床試験を通じて投与された。本研究で評価されたTKIには、クリゾチニブ、セリチニブ、エンレクチニブ、およびTPX-0005(レポトレクチニブ)が含まれる。ペメトレキセドベースの化学療法は、大半の患者(87.4%)で一次治療として投与された。治療奏効は、RECIST v1.1基準に従って評価された。画像評価は、各サイクル後の単純胸部X線撮影、および2〜3サイクルごとの胸部CTスキャンによって行われた。

統計解析: 無増悪生存期間(PFS)は、治療開始日から画像上の病勢進行または死亡までの期間と定義された。全生存期間(OS)は、治療開始日または診断日から死亡日までの期間と定義された。OSおよびPFSの推定には、Kaplan-Meier法が用いられ、群間比較にはログランク検定(log-rank test)が使用された。ハザード比(HR)およびその95%信頼区間(CI)はCox比例ハザードモデル(Cox proportional hazards regression model)を用いて算出された。p値が0.05未満を統計的に有意と判断した。統計解析にはSTATAソフトウェア(version 12.1, StataCorp LP)が使用された。