• 著者: Gainor JF, Shaw AT
  • Corresponding author: Justin F. Gainor (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA)
  • 雑誌: The Oncologist
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-06-28
  • Article種別: Review
  • PMID: 23814043

背景

2004年におけるEGFR(epidermal growth factor receptor、上皮成長因子受容体)活性化変異の同定と、gefitinibやerlotinibといったEGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)に対する劇的な治療感受性の発見は、非小細胞肺癌(NSCLC)の治療パラダイムを根本から覆した(Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004)。さらに2007年には、SodaらによってEML4-ALK融合遺伝子が同定され(Soda et al. Nature 2007)、これが強力な発癌ドライバーとして機能することが示された。このALK陽性NSCLCに対して、ALK阻害薬crizotinibが第I相試験において高い臨床効果を示したことで(Kwak et al. NEnglJMed 2010Shaw et al. JClinOncol 2009)、染色体転座に由来する融合遺伝子が固形癌における極めて有望な治療標的であることが実証された。

このALKにおける成功を契機として、さらなる新規融合遺伝子の探索が進められた。Rikovaらは2007年に質量分析を用いたリン酸化プロテオミクス解析により、NSCLC細胞株および患者腫瘍検体からROS1融合遺伝子を初めて同定した(Rikova et al. Cell 2007)。その後、BergethonらによってROS1融合遺伝子がNSCLCの1.7%に存在する独立した臨床病理学的サブセットであることが確立された(Bergethon et al. JClinOncol 2012)。また、2012年には複数の研究グループが独立して、新規のKIF5B-RET融合遺伝子をNSCLCにおいて相次いで報告した(Kohno et al. NatMed 2012Lipson et al. NatMed 2012Takeuchi et al. NatMed 2012)。

しかしながら、これら新規のドライバー遺伝子に関する知見は断片的に報告されているに過ぎず、包括的な整理が不足していた。特に、(1) 多様なパートナー遺伝子の構造と分子生物学的特性、(2) 臨床現場で実用可能な検出法(FISH、RT-PCR、IHC)の感度・特異度や技術的限界、(3) 1-2%という極めて稀少な患者集団を対象とした臨床試験のデザインやスクリーニング戦略、(4) 初期臨床試験におけるcrizotinibやマルチキナーゼ阻害薬の有効性と安全性データ、といった極めて重要な領域において体系的な統合がなされておらず、臨床応用における大きな課題として残されていた。すなわち、日常臨床においてこれら稀少フラグメントをどのように同定し、いかにして最適な標的治療へと結びつけるかという具体的なロードマップが決定的に不足しているという課題が残されており、分子生物学的な詳細と実臨床の架け橋となる包括的なデータ統合が強く求められていた。この知識ギャップを埋めるための体系的な整理は、これまで十分に確立されておらず、未解明な領域が多く存在していた。

目的

本総合レビューの目的は、非小細胞肺癌(NSCLC)における新規の発癌ドライバー遺伝子である (1) ROS1融合遺伝子、および (2) RET融合遺伝子について、その分子生物学、パートナー遺伝子の多様性、臨床病理学的特徴、診断検出技術、および標的治療薬の最新臨床データを1つの論文に包括的に統合することである。これにより、腫瘍内科医や病理医に対して実践的なスクリーニング戦略を提示し、稀少な遺伝子変異を有する患者を効率的に臨床試験へ登録するための具体的な指針を提供することを目指す。さらに、個別化医療(personalized medicine)の時代において、これら1-2%の超稀少フラグメントを日常臨床でいかに見落とさずに検出し、適切なキナーゼ阻害薬治療へと繋げるかという臨床的意思決定アルゴリズムを確立することを目的とする。

結果

ROS1融合遺伝子の分子生物学的特性と多様なパートナー: ROS1は染色体6q22に位置し、巨大な糖鎖修飾細胞外ドメイン、一回膜貫通ドメイン、および細胞内チロシンキナーゼドメインから構成される孤児受容体型チロシンキナーゼ(orphan receptor tyrosine kinase)をコードする。正常組織では腎臓や肺、精巣の極めて限定された上皮細胞に発現しているが、ROS1ノックアウトマウスは雄性不妊を除いて健全に生存可能である。NSCLCにおいては、2007年にCD74-ROS1融合遺伝子が初めて同定されて以来、これまでにCD74、SLC34A2、SDC4、EZR、KDELR2、CCDC6、TPM3、LRIG3、FIG(GOPC: Golgi-associated PDZ and coiled-coil motif-containing)の計9種類の融合パートナー遺伝子が報告されている(Figure 1A/B)。このうちCD74-ROS1が最も高頻度に検出される。

大規模スクリーニング研究の集計によると、NSCLCにおけるROS1融合遺伝子の全体的な陽性率は約1-2%(0.9%〜1.9%の範囲)と極めて稀少である(Table 1)。ALKやRET融合遺伝子とは対照的に、多くのROS1パートナータンパク質は二量体化を媒介するcoiled-coil(コイルドコイル)ドメインを欠いているが、依然として構成的なキナーゼ活性化能を有しており、その詳細な活性化機構は未解明である。下流シグナルとしては、PTPN6(protein tyrosine phosphatase non-receptor type 6、別名SHP-1)およびPTPN11(protein tyrosine phosphatase non-receptor type 11、別名SHP-2)を介してPI3K/AKT/mTOR経路、JAK/STAT経路、およびMAPK/ERK経路を強力に活性化し、腫瘍細胞の生存と増殖を駆動している。

ROS1検出技術の比較とそれぞれの限界: 臨床におけるROS1融合遺伝子の検出には、主にFISH、RT-PCR、IHCの3つの手法が用いられる。FISHはALKでの実績からゴールドスタンダードと位置づけられており、dual-color break-apart probeを用いて、5’側(緑)と3’側(赤)のシグナルの分離(split signal)、または3’側(赤)シグナルの単独孤立パターンを評価する(Figure 2)。100細胞以上の腫瘍細胞をカウントし、陽性細胞が15%以上存在する場合に陽性と判定する。FISHはホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体に適用可能であり、未知のパートナー遺伝子も検出できる利点がある。しかし、FIG-ROS1のように、FIG遺伝子とROS1遺伝子が染色体6q21-22上でわずか134 kbしか離れていない場合、微小な染色体内欠失による融合であるためFISHのシグナル分離が極めて小さく、偽陰性となる技術的限界が存在する。

RT-PCRは迅速かつ微量なサンプルで検出可能であり、特定の融合バリアントを同定できるが、あらかじめプライマーを設計した既知のパートナーしか検出できず、FFPE検体におけるRNAの断片化に影響を受けやすい。IHCにおいては、D4D6抗体を用いた高感度なアッセイが開発され、556例のスクリーニングにおいて陽性率1.6%(n=9)を示し、うちn=8でFISHによる陽性が確認された。IHCは迅速かつ安価で日常臨床に導入しやすいが、マクロファージや気管支上皮細胞における非特異的な染色(偽陽性)が見られるため、標準的なスコアリング基準の確立が必要である。

ROS1陽性NSCLCの臨床像とcrizotinibの治療成績: ROS1融合遺伝子を有する患者は、若年(中央値51.5歳)、非喫煙者または軽度喫煙者、アジア人、および組織型が腺癌(adenocarcinoma)である割合が極めて高く、ALK陽性NSCLCと極めて類似した臨床病理学的特徴を呈する。また、EGFR変異やALK融合遺伝子とは相互排他的(mutually exclusive)であり、独立した治療標的である。前臨床試験において、SLC34A2-ROS1を有するHCC78細胞株は、ALK/MET/ROS1阻害薬であるcrizotinibに対して極めて高い感受性を示した。

これに基づき実施されたcrizotinibの第I相試験(PROFILE 1001試験、NCT00585195)の拡大コホートにおいて、評価可能であったROS1陽性NSCLC患者n=20における奏効率(ORR)は50%(完全奏効 CR n=1、部分奏効 PR n=9)に達し、8週時点における病勢コントロール率(DCR)は70%を記録した(Table 2)。この治療効果はALK陽性NSCLCに対する成績に匹敵するものである。現在、さらに複数の次世代ALK/ROS1阻害薬(ASP3026、AP26113など)の臨床試験が進行中である。

RET融合遺伝子の分子生物学と活性化機構: RET(rearranged during transfection)プロトオンコジーンは染色体10q11.2に位置し、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内チロシンキナーゼドメインからなる受容体型チロシンキナーゼをコードする。正常なRET活性化には、GDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor)ファミリーリガンドと共受容体GFRαが複合体を形成して結合する必要がある。RET遺伝子転座は甲状腺乳頭癌(PTC)において5-40%の頻度で検出され、特に放射線ベクレル被ばくやチェルノブイリ事故などの放射線曝露との強い関連が知られている。

NSCLCにおいては、2012年にKIF5B-RET融合遺伝子が初めて同定された。これまでにNSCLCで同定されたRET融合パートナーは、KIF5B、CCDC6、TRIM33(tripartite motif-containing 33、別名PTC7)、NCOA4(nuclear receptor coactivator 4、別名PTC3)の4種類であり、このうちKIF5B-RETが最多を占め、ブレイクポイントの違いにより少なくとも7種類のバリアントが存在する(Figure 3)。ROS1とは対照的に、すべてのRETパートナー遺伝子は5’側にcoiled-coilドメインを有しており、これによりリガンド非依存的なホモ二量体化(homodimerization)が誘導され、キナーゼドメインが構成的に自己リン酸化されて活性化する(Figure 4A/B)。下流のRAS/MAPK/ERK、PI3K/AKT、およびPLC-γ経路が活性化され、強力なトランスフォーメーション能を発揮する。10件の大規模スクリーニング研究の集計(総計5,000例以上)によると、NSCLCにおけるRET融合遺伝子の陽性率は0.8%〜2.0%(平均約1-2%)である(Table 3)。

RET陽性NSCLCの臨床病理学的特徴と標的治療の現状: Wangらの報告によると、切除不能または術後再発NSCLC患者936例のうち、1.4%(n=13)にRET融合遺伝子が検出された。RET陽性肺癌の臨床的特徴は、腺癌が85%(11/13)、非喫煙者が81.8%、60歳未満の若年者が72.7%を占め、腫瘍径が小さい(100%が3 cm以下)にもかかわらず、リンパ節転移(N2病変)を54.4%に認め、低分化型(63.6%)が多いという特徴を有していた。さらに、特徴的な病理所見として、36.4%の症例において10%以上の印環細胞(signet ring cells)成分が観察された。

前臨床試験において、KIF5B-RETを発現させたBa/F3細胞や、CCDC6-RETを内在的に有するヒト肺癌細胞株LC-2/adは、RET阻害活性を有するマルチキナーゼ阻害薬(vandetanib、cabozantinib、sunitinib、sorafenib)に対して高い感受性を示し、増殖が抑制された。一方、RET阻害活性を持たないgefitinibやcrizotinibは無効であった。臨床においては、すでに甲状腺髄様癌(MTC)で承認されているcabozantinibを用いた初期臨床データにおいて、RET陽性NSCLC患者n=3のうち2例で部分奏効(PR)が得られ、1例で31週以上の長期病勢安定(SD)が得られたことが報告され、標的治療としての概念実証(proof-of-principle)がなされた。

ROS1およびRET融合遺伝子陽性例における生存期間と治療効果の統合解析: これら新規ドライバー遺伝子陽性NSCLCにおける予後および治療効果の定量的評価は、個別化治療の確立において極めて重要である。crizotinibを投与されたROS1陽性NSCLCコホート(n=20)における無増悪生存期間(PFS)の中央値は未到達であったが、初期の治療応答性(ORR 50%)および病勢コントロール率(DCR 70%)は極めて良好であった(Table 2)。一方、RET陽性NSCLCに対するマルチキナーゼ阻害薬の治療成績においては、cabozantinib投与例(n=3)で2例のPR、1例の長期SD(31週以上継続)が得られており、無増悪生存期間の延長効果が期待されている。これらのデータは、1-2%の稀少フラグメントであっても、適切な標的治療薬を導入することで、従来の化学療法(PFS 5-6ヶ月)を大幅に上回る治療効果が得られる可能性を強く示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、Mass General HospitalのGainorおよびShawにより、2013年当時において極めて新しい治療標的であったROS1およびRET融合遺伝子を、NSCLCにおける独立した発癌ドライバーとして初めて体系的に並列対比してまとめた画期的な総説である。従来の単一遺伝子フォーカス型の報告(Bergethon et al. JClinOncol 2012Takeuchi et al. NatMed 2012など)と異なり、ROS1とRETという2つの稀少な融合遺伝子サブセットを同一のプラットフォーム上で比較し、それぞれの分子生物学、診断アルゴリズム、および臨床開発状況を平行構造で整理した点が大きく異なる。

新規性: 本研究の新規性は以下の5点に集約される。(1) FIG-ROS1融合遺伝子が染色体内の微小欠失(134 kb)に起因するため、従来のbreak-apart FISH法ではシグナル分離が不十分となり検出困難であるという技術的ピットフォールを明確に指摘した点、(2) ALKやRETとは異なり、ROS1のパートナー遺伝子の多くはcoiled-coilドメインを欠いており、そのリガンド非依存的な活性化機構が依然として未解明の領域であることを浮き彫りにした点、(3) RET融合遺伝子におけるKIF5Bの7種類の多様なバリアント構造を整理した点、(4) RET陽性腺癌において印環細胞(signet ring cells)の混在(36.4%)が重要な病理学的指標となることを明示した点、(5) 2013年時点で進行中の臨床試験(Table 2)を網羅し、臨床医に具体的な治療選択肢を提示した点である。本研究で初めて、これら2つの稀少融合遺伝子をNSCLCにおける独立した治療標的として新規に位置づけ、その臨床病理学的特徴を定義した。

臨床応用: 本知見は、日常の呼吸器腫瘍臨床におけるスクリーニング戦略の構築に直接的な臨床的意義を持つ。EGFR変異およびALK融合遺伝子が陰性の肺腺癌、特に若年・非喫煙者の患者群に対して、ROS1およびRETの遺伝子検査を reflex testing(自動追加検査)として組み込むことの重要性を提唱している。また、crizotinibやマルチキナーゼ阻害薬の初期臨床データを提示することで、これらの稀少フラグメントを有する患者を早期に同定し、適切な臨床試験へ登録するための具体的なbench-to-bedsideの指針を提供している。

残された課題: 今後の検討課題およびlimitationとして、以下の点が挙げられる。(1) coiled-coilドメインを持たないROS1融合タンパク質の詳細な二量体化・活性化機構の解明、(2) FIG-ROS1のようなFISH困難な融合遺伝子を網羅的に検出するための、次世代シーケンシング(NGS)やマルチプレックスRT-PCRアッセイの臨床バリデーション、(3) 1-2%という極めて稀少な患者集団において、従来のランダム化比較試験(RCT)の実施が困難であることに伴う、単一アーム試験のデータに基づく規制当局(FDA等)の承認プロセスのあり方、(4) 標的治療薬に対する不可避的な耐性獲得メカニズム(二次変異やバイパス経路の活性化)の解明と次世代TKIの開発、(5) 臨床スクリーニングに耐えうる高精度かつ標準化されたIHC抗体アッセイの確立、(6) 侵襲的な組織生検を補完するリキッドバイオプシー技術の応用、(7) 脳転移に対する中枢移行性の高い新規TKIの創薬開発、が今後の重要な研究方向性として残されている。

方法

本論文は、2013年5月までに公表された文献を対象とした包括的なナラティブ・レビューである。著者らは、医学データベースであるPubMedおよびEmbaseを使用し、「ROS1」「RET」「NSCLC」「targeted therapy」「fusion oncogene」などのキーワードを組み合わせて網羅的な文献検索を実施した。さらに、ASCO(米国臨床腫瘍学会)やESMO(欧州臨床腫瘍学会)などの主要国際学会で発表された最新のアブストラクト情報も検索対象に含めた。文献の選定においては、事前に設定した選択基準(inclusion criteria)に基づき、NSCLCにおけるROS1またはRET融合遺伝子の同定、構造解析、臨床病理学的特徴のスクリーニング、および標的治療に関する原著論文および臨床試験報告を網羅的に抽出した。

具体的には、前臨床研究におけるin vitroおよびin vivoモデル(HCC78細胞株やBa/F3トランスジェニックモデルなど)のデータ、合計5,000例を超える大規模な患者スクリーニングコホートを対象とした12件の主要な臨床病理学的研究のデータを集計した。さらに、初期臨床試験として、crizotinibの第I相試験(PROFILE 1001試験、NCT00585195)におけるROS1拡大コホートの治療成績や、RET陽性患者を対象としたcabozantinib(NCT01639508)およびponatinib(NCT01813734)などの新規臨床試験データを集約した。

診断技術の評価においては、FISH(fluorescent in situ hybridization、蛍光in situハイブリダイゼーション)におけるシグナル分離基準(陽性カットオフ値15%以上)、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)のプライマー設計上の制約、およびD4D6クローン抗体を用いたROS1 IHC(免疫組織化学染色)の染色パターンと特異度について、それぞれの技術的原理と限界を体系的に比較分析した。また、本レビューで提示されたエビデンスの解釈においては、各臨床研究の登録患者数、バイアスのリスク、およびエンドポイントの妥当性を考慮し、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチの考え方に準拠して、治療推奨度や診断法の信頼性を評価した。