- 著者: Cappell KM, Sherry RM, Yang JC, Goff SL, Vanasse DA, McIntyre L, Rosenberg SA, Kochenderfer JN
- Corresponding author: James N. Kochenderfer, MD (Surgery Branch, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 33021872
背景
Chimeric antigen receptor (CAR; キメラ抗原受容体) T 細胞療法は、抗原認識ドメインと T 細胞シグナル伝達ドメインを融合させた人工受容体を T 細胞に発現させる adoptive immunotherapy (養子免疫療法) であり、B 細胞抗原 CD19 を標的とする anti-CD19 CAR T 細胞療法は再発・難治性 B 細胞悪性腫瘍の治療において劇的な進歩をもたらした。化学療法抵抗性の diffuse large B-cell lymphoma (DLBCL; びまん性大細胞型B細胞リンパ腫) は、従来のサルベージ治療において客観的奏効率 (ORR) 26%、生存期間中央値 (median OS) 6.3 ヶ月と極めて予後不良であった。これに対し、米国食品医薬品局 (FDA) に承認された axicabtagene ciloleucel や tisagenlecleucel などの anti-CD19 CAR T 細胞製品は、再発・難治性 DLBCL に対して 40-54% の完全奏効 (CR; 完全寛解) 率を達成している。また、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、chronic lymphocytic leukemia (CLL; 慢性リンパ性白血病) に対する有効性も、Porter et al. SciTranslMed 2015 などの先行研究によって多数報告されてきた。
しかしながら、これまでの臨床試験における追跡期間は中央値で 27 ヶ月程度と比較的短く、anti-CD19 CAR T 細胞療法の長期的な奏効持続性 (durability of response) や、遅発性毒性 (late-onset adverse event) に関するデータは極めて手薄であった。特に、長期生存例における B 細胞枯渇や低ガンマグロブリン血症の回復プロセス、二次性悪性腫瘍 (second primary malignancy) の発症リスク、さらには CAR T 細胞の長期的な体内持続性 (persistence) が持続的な寛解維持に本当に必須であるかという学術的問いについては、十分な検証が行われておらず未解明な課題として残されていた。また、遺伝子導入 T 細胞療法の長期安全性における懸念事項である replication-competent retrovirus (RCR; 複製可能レトロウイルス) の発生や、インサーショナルの変異導入による二次性白血病・骨髄異形成症候群 (MDS; 骨髄異形成症候群) の発症リスクについても、長期的な追跡データが不足していた。
著者らのグループは、2009 年に世界で初めて anti-CD19 CAR T 細胞療法の臨床試験を開始したパイオニアであり (Kochenderfer et al. Blood 2010)、本研究は最長 123 ヶ月 (10 年超) に及ぶ世界最長の追跡期間を有するコホートを対象としている。これにより、CAR T 細胞療法の長期的な治療成績と安全性プロファイルを体系的に解明し、これまでの知見のギャップを埋める極めて重要な役割を担うものである。
目的
本研究の目的は、National Cancer Institute (NCI) の Surgery Branch において 2009 年から 2015 年の間に anti-CD19 CAR T 細胞 (FMC63-28Z、axicabtagene ciloleucel と同一の CAR 構造) による治療を受けた再発・難治性 B 細胞悪性腫瘍患者 43 例 (DLBCL/PMBCL [primary mediastinal B-cell lymphoma; 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫] n=28、低悪性度 B 細胞リンパ腫 n=8、CLL n=7) を対象に、長期的な治療成績 (DOR [duration of response; 奏効期間]、EFS [event-free survival; イベントフリー生存期間]、OS [overall survival; 全生存期間]) を評価することである。さらに、遅発性有害事象 (二次性悪性腫瘍、感染症、持続性血球減少症、低ガンマグロブリン血症) の発生頻度、および末梢血中における CAR 陽性 T 細胞の長期持続性と B 細胞・免疫グロブリンの回復動態 (B-cell and immunoglobulin recovery) との関係性を解析し、本療法の長期的な安全性と治療生物学的な特徴を明らかにすることを目的とする。
結果
患者背景と治療実施状況: 本研究では、2009 年から 2015 年の間に 43 例の患者が登録され、計 46 回の CAR T 細胞治療が実施された (3 例が再治療を受けた)。患者背景 (Table 1) は、年齢中央値 54 歳 (範囲 26-68 歳)、男性が 33 例 (77%) であった。組織型は、DLBCL/PMBCL が 28 例、低悪性度 B 細胞リンパ腫が 8 例、CLL が 7 例であった。DLBCL/PMBCL 患者 28 例のうち 19 例 (68%) が化学療法抵抗性であり、10 例 (36%) が過去に ASCT の治療歴を有していた。また、DLBCL/PMBCL のうち 16 例が second-line age-adjusted International Prognostic Index (sAAIPI) で高リスクに分類され、評価可能であった 15 例中 3 例に double-hit リンパ腫 (C-myc および Bcl-2 または Bcl-6 [B-cell lymphoma 6] の再構成) が認められた。
長期的な治療効果と奏効持続性: 評価可能であった 43 回の治療において、客観的奏効率 (ORR) は 81% (95% CI 67-92%) であり、完全奏効 (CR) 率は 58% (25/43 例、95% CI 42-73%) に達した (Table 2)。初期に部分奏効 (PR) と判定された 4 例 (患者 1, 4, 7, 21) は、長期追跡中に CR へと移行した。CR を達成した 25 例のうち、19 例 (76%) が最終追跡時点で寛解を維持しており、その奏効期間 (DOR) は 43 ヶ月から 113 ヶ月 (約 9.4 年) に及んだ (Fig 1B)。PR または安定(SD)にとどまった患者では、長期的な持続奏効は得られなかった。3 年以上の持続奏効 (DOR > 3 years) を達成した割合は、全体で 51% (95% CI 35-67%) であった。組織型別での 3 年以上の持続奏効率は、DLBCL/PMBCL で 48% (95% CI 28-69%)、低悪性度リンパ腫で 63% (95% CI 25-92%)、CLL で 50% (95% CI 16-84%) であった。
生存期間 (EFS および OS) の長期成績: 全患者の追跡期間中央値は 42 ヶ月 (範囲 1-123 ヶ月) であった。評価可能であった 45 回の治療における EFS 中央値は 55 ヶ月であり (Fig 2A)、OS 中央値は未到達であった (Fig 2B)。組織型別の EFS 中央値は、DLBCL/PMBCL で 15 ヶ月、低悪性度リンパ腫で 55 ヶ月、CLL で 40.5 ヶ月であり、群間に統計学的有意差は認められなかった (Fig 2C)。コホート別の EFS 中央値は、Cohort 1 で 12 ヶ月、Cohort 2 で 66 ヶ月、Cohort 3 で 20 ヶ月であり、前処置や製造プロセスの違いによる有意な差は検出されなかった (Fig 2E)。一方、CR を達成した 25 例における EFS 中央値は未到達であった (Fig 2F)。
遅発性有害事象と長期安全性: 治療後 6 ヶ月以降に発生した遅発性有害事象は極めて稀であった。43 例中 7 例 (16%) に二次性悪性腫瘍が発生したが、このうち 1 例は治療前の前立腺がんの再発であり、新規固形がんは 5 例 (喉頭がん、前立腺がん + 消化管間質腫瘍、局所黒色腫、肝細胞がん) であった。また、2 例 (患者 14、23) がそれぞれ治療後 39 ヶ月および 20 ヶ月に骨髄異形成症候群 (MDS) を発症した。しかし、MDS 診断時の骨髄単核球における CAR 遺伝子の qPCR 解析では、患者 14 で 0.04% と極めて低値であり、患者 23 では検出限界以下であったため、CAR 遺伝子のインテグレーションによる変異導入 (insertion mutagenesis) が直接の原因ではないと考えられた。治療後 6 ヶ月以降に入院を要した重症感染症は 4 例 (播種性帯状疱疹 1 例、肺炎 3 例、Citrobacter 菌血症 1 例) のみであった。なお、全例において RCR は一度も検出されなかった。
CAR T 細胞の体内持続性と治療効果の相関: 末梢血中のピーク CAR+ 細胞数中央値は、CR 達成例において PR/SD/PD 例と比較して有意に高値であった (Fig 3A)。さらに、3 年以上の持続奏効を得た群 (DOR > 3 years) におけるピーク CAR+ 細胞数中央値は 98/µL (範囲 9-1,217/µL) であり、3 年未満の群 (DOR < 3 years) の 18/µL (範囲 0-308/µL) と比較して有意に高かった (p=0.0051, Fig 3C)。一方で、輸注後 28-56 日時点における末梢血中 CAR+ 細胞数は、CR 達成群と非達成群の間で有意差はなく (Fig 3B)、3 年以上の持続奏効群と 3 年未満群の間でも有意差は認められなかった (Fig 3D)。この結果は、長期的な寛解維持のために CAR T 細胞が体内に永久に持続する必要はないことを示唆している。
B 細胞および免疫グロブリンの回復動態: CR を達成し長期追跡が可能であった 24 例のうち、9 例 (38%) では追跡期間中央値 51 ヶ月の時点でも末梢血 B 細胞 (CD19+ 細胞) の正常化が認められなかった。一方、15 例 (63%) では輸注後中央値 12 ヶ月 (範囲 2-59 ヶ月) で B 細胞数が正常値まで回復した (Fig 4A)。注目すべき点として、B 細胞数が正常化した 15 例のうち 10 例 (67%) が、その後も中央値 50 ヶ月にわたり CR を維持していた。血清免疫グロブリンの回復に関しては、24 例中 6 例 (25%) のみが IgG、IgA、IgM のすべてにおいて正常値まで回復した。残る 18 例 (75%) では少なくとも 1 つの系統で長期的な低下が持続しており、特に IgA の未回復が 15 例 (63%) と最も頻度が高かった (Fig 4C)。IgG 低下に対しては 19 例 (79%) が一時的に静注用免疫グロブリン (IVIg; 静注用免疫グロブリン) 製剤の投与を受けたが、最終追跡時点で投与を継続していたのは 4 例 (17%) のみであった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、anti-CD19 CAR T 細胞療法を受けた B 細胞悪性腫瘍患者における、これまでで最も長い追跡期間 (中央値 42 ヶ月、最長 123 ヶ月) のデータを提示している。これは、axicabtagene ciloleucel の長期成績を報告した ZUMA-1 試験の追跡期間中央値 27.1 ヶ月 (Neelapu et al. NEnglJMed 2017) と比較して大幅に長く、9 年を超える超長期の持続的 CR を初めて実証した点で大きく異なる。また、急性リンパ性白血病 (ALL) を対象とした先行研究 (Maude et al. NEnglJMed 2014、Park et al. NEnglJMed 2018) では CAR T 細胞の長期的な体内持続性が寛解維持に重要であると報告されていたのに対し、本研究ではリンパ腫において輸注後 28-56 日目の CAR T 細胞数と長期奏効に相関が見られず、B 細胞が正常に回復した後も多くの患者が寛解を維持していることを示した。この事実は、疾患タイプや CAR の構築デザインによって、寛解維持に必要な CAR T 細胞の持続期間が異なる可能性を示唆している。
新規性: 本研究は、anti-CD19 CAR T 細胞療法後の 10 年に及ぶ超長期経過を体系的に解析し、以下の点を本研究で初めて明らかにした。第一に、再発・難治性 B 細胞悪性腫瘍の約半数 (51%) において 3 年以上の極めて強固な持続奏効が得られること。第二に、初期のピーク末梢血 CAR T 細胞数が長期的な奏効持続期間 (DOR > 3 years) と有意に相関する (p=0.0051) 一方で、後期の持続性は必須ではないこと。第三に、B 細胞および免疫グロブリンの長期的な回復プロセスにおいて、IgA の回復が最も遅れるという特異的な発達生物学的階層性 (recovery hierarchy) が存在すること。第四に、長期生存例における二次性悪性腫瘍や MDS の発症率が従来の化学療法歴から想定される範囲内であり、CAR 遺伝子の挿入変異や RCR の発生といった遺伝子治療特有の長期的リスクが極めて低いことを新規に証明した。
臨床応用: 本研究の知見は、再発・難治性 B 細胞リンパ腫治療における臨床現場の意思決定に直結する。特に、化学療法抵抗性 DLBCL に対する治療戦略として、anti-CD19 CAR T 細胞療法を第一選択の標準治療として位置づけるべきであり、同種造血幹細胞移植は CAR T 細胞療法後に病変が残存する症例に限定して保留すべきであるという強力な臨床的エビデンスを提供する。また、本療法が「単なる延命」ではなく「治癒 (cure)」をもたらす可能性が示されたことは、医療経済学的な評価や bench-to-bedside の橋渡し研究においても極めて重要な意義を持つ。さらに、初期のピーク CAR T 細胞数が長期予後の予測バイオマーカーとなるため、製造プロセスの改良 (Cohort 1 と比較して増殖能が向上した Cohort 2/3 の 10 日間製造法など) や、適切なリンパ球除去前処置 (Cy + Flu) の重要性を裏付けている。実臨床における支持療法として、CD4 陽性 T 細胞数が 200/µL 以上に回復するまでの帯状疱疹およびニューモシスチス肺炎予防薬の継続や、IgG < 400-500 mg/dL 時の IVIg 投与基準の標準化を支持するものである。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究は単一施設で実施された n=43 という小規模な phase 1 試験であるため、DLBCL の分子サブタイプ (GCB 型 vs ABC 型) や double-hit 症例における長期予後の差異を統計学的に十分に評価できていない。また、長期的な低ガンマグロブリン血症が患者のワクチン応答能や実生活における感染リスクに与える影響、および IVIg の長期投与における費用対効果については、今後の研究によるさらなる検証が必要である。さらに、CAR T 細胞療法後の再発機序として重要な CD19 抗原欠失 (antigen escape) の頻度やその克服戦略についても、本コホートでは詳細な解析に限界がある。これらの limitation を克服するため、今後は CD19 と CD22 を同時に標的とする bispecific CAR T 細胞療法や、同種他家 (off-the-shelf) CAR T 細胞、固形がんへの応用展開、さらには自己免疫疾患に対する CD19 CAR T 細胞療法の応用など、多角的な方向性でのさらなる検討が期待される。
方法
試験デザインと対象患者: 本研究は、NCI において実施された単施設オープンラベル phase 1 single-arm 臨床試験である (ClinicalTrials.gov 登録番号: NCT00924326)。対象は、前治療歴が中央値 4 ライン (範囲 1-12 ライン) であり、自家造血幹細胞移植 (ASCT) 後の再発または化学療法抵抗性 (chemotherapy-refractory) の B 細胞悪性腫瘍患者 43 例である。患者は CAR T 細胞輸注後、疾患進行 (PD) または新規治療の開始をもって本プロトコルから離脱し、その後は長期遺伝子治療追跡プロトコル (NCT00923026) にて評価された。
治療プロトコル (3つのコホート): 臨床試験の経過に伴い、前処置化学療法および CAR T 細胞の製造プロセスは以下の 3 つのコホートに進化を遂げた。
- Cohort 1: 24 日間の CAR T 細胞製造プロセスを採用。前処置として高用量 cyclophosphamide (Cy) 60 mg/kg を day -7, -6 に投与し、fludarabine (Flu) 25 mg/m² を day -5 から day -1 までの 5 日間投与。CAR T 細胞輸注 (day 0) 後に高用量 interleukin-2 (IL-2) を静脈内投与した (Kochenderfer et al. Blood 2012)。
- Cohort 2: 製造プロセスを 10 日間に短縮。前処置は高用量 Cy (30 or 60 mg/kg) + Flu 25 mg/m² 5 日間。IL-2 の投与は行わなかった (Kochenderfer et al. JClinOncol 2015)。
- Cohort 3: 製造プロセスは 10 日間。前処置を低用量化し、Cy 300 mg/m² (n=18) または 500 mg/m² (n=4) + Flu 30 mg/m² を day -5 から day -3 までの 3 日間投与。IL-2 投与はなし。
CAR 陽性細胞および免疫学的評価: 末梢血中の CAR 陽性 (CAR+) T 細胞数は、CAR 遺伝子特異的プライマーを用いた定量リアルタイム PCR (qPCR) 法により測定した。末梢血 B 細胞 (CD19+ リンパ球)、T 細胞、ナチュラルキラー (NK) 細胞数はフローサイトメトリーにより定量した。血清免疫グロブリン (IgG、IgA、IgM) レベルは、標準的な臨床免疫比濁法を用いて測定した。RCR の検出は、末梢血単核球 (PBMC) を用いた PCR アッセイにより実施した。
統計解析: 奏効期間 (DOR)、イベントフリー生存期間 (EFS)、および全生存期間 (OS) は Kaplan-Meier 法を用いて算出し、群間比較には log-rank 検定を用いた。リンパ腫の治療効果判定は Lugano 分類 (Cheson et al. JClinOncol 2014)、CLL は Rai 分類に準拠した。ピーク CAR+ 細胞数などの連続変数の比較には、2 尾側 Mann-Whitney U 検定を用いた。統計的有意差は p<0.05 と定義した。