- 著者: James N. Kochenderfer, Mark E. Dudley, Sadik H. Kassim, Robert P.T. Somerville, Robert O. Carpenter, Maryalice Stetler-Stevenson, James C. Yang, Giao Q. Phan, Marybeth S. Hughes, Richard M. Sherry, Mark Raffeld, Steven Feldman, Lily Lu, Yong F. Li, Lien T. Ngo, Andre Goy, Tatyana Feldman, David E. Spaner, Michael L. Wang, Clara C. Chen, Sarah M. Kranick, Avindra Nath, Debbie-Ann N. Nathan, Kathleen E. Morton, Mary Ann Toomey, Steven A. Rosenberg
- Corresponding author: James N. Kochenderfer, MD (National Cancer Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2014-08-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 25154820
背景
B細胞性悪性腫瘍、特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL: diffuse large B-cell lymphoma) における治療抵抗性症例の予後は極めて不良である。二次治療の化学療法に抵抗性を示すDLBCL患者において、三次治療としてのサルベージ化学療法に対する奏効率は約50%にとどまり、長期生存を達成できる例は極めて稀である。さらに、自家造血幹細胞移植後に再発・進行したDLBCL患者の全生存期間中央値は約10ヶ月にすぎず、既存の治療法では限界がある。このような高度治療抵抗性のB細胞性悪性腫瘍に対して、全く異なる作用機序を持つ革新的な治療アプローチの開発が強く望まれていた。
CD19抗原は、正常なB細胞系列の細胞およびほぼすべてのB細胞性悪性腫瘍細胞の表面に特異的に発現している一方で、造血幹細胞や他の正常組織には発現しないため、キメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) 療法の標的として極めて理想的な抗原である。CARは、抗原を認識する単鎖可変領域 (scFv: single-chain variable fragment) とT細胞の活性化シグナル伝達ドメインを融合させた人工受容体であり、これを遺伝子導入したT細胞は主要組織適合遺伝子複合体 (MHC: major histocompatibility complex) 非依存的に標的細胞を認識して強力な殺傷効果を発揮する。
これまでの先行研究において、インドレントB細胞性悪性腫瘍患者を対象とした Kochenderfer et al. Blood 2012 では、正常B細胞の特異的かつ持続的な除去と長期寛解が報告されている。また、慢性リンパ性白血病 (CLL: chronic lymphocytic leukemia) を対象とした Porter et al. NEnglJMed 2011 や Kalos et al. SciTranslMed 2011 においては、CAR-T細胞が体内で強力に増殖・維持され、持続的な抗腫瘍効果と免疫メモリを形成することが示された。さらに、Kochenderfer et al. Blood 2010 でも、自家T細胞を用いたCD19標的療法の初期の臨床的成功が報告されている。
しかしながら、化学療法抵抗性のDLBCLのような急速に進行するアグレッシブな大型リンパ腫に対するCAR-T細胞療法の有効性や安全性、および腫瘍組織への浸潤能については依然として未解明であり、治療法が確立されていない。特に、重度の前治療歴を有する患者における自家T細胞の製造効率や、外因性インターロイキン-2 (IL-2: interleukin-2) を併用しないプロトコルの実用性に関する臨床データが不足している。このような治療選択肢の不足とエビデンスのgapが残されている状況を打破するため、製造プロセスと治療プロトコルを改良した新たな臨床試験の実施が必要とされた。
目的
本研究の目的は、改良された抗CD19キメラ抗原受容体 (anti-CD19 CAR) 発現T細胞 (CD28共刺激ドメインを含有し、10日間の短縮プロセスで製造された自家T細胞) を用いた細胞療法の安全性、忍容性、および臨床的有効性を、進行CD19陽性B細胞性悪性腫瘍患者において評価することである。
具体的には、第一に、シクロホスファミドとフルダラビンによるリンパ球除去前処置 (コンディショニング化学療法) の後にCAR-T細胞を単回投与するプロトコルにおける急性毒性および長期毒性のプロファイルを明らかにし、その安全性を検証する。第二に、化学療法抵抗性のDLBCL、インドレントリンパ腫、およびCLL患者における全体奏効率 (ORR: overall response rate) および完全奏効 (CR: complete remission) 率、ならびに奏効持続期間を測定し、臨床的有効性を評価する。第三に、定量PCR (qPCR: quantitative polymerase chain reaction) 法やフローサイトメトリーを用いて、投与後のCAR-T細胞の体内動態 (血中ピーク値、持続期間) および表現型変化を詳細に解析し、in vivoにおけるT細胞の挙動を明らかにすることである。
結果
全体および疾患別の高い奏効率と持続的寛解: 本試験に登録された進行B細胞性悪性腫瘍患者 n=15 patients のうち、奏効評価が可能であった n=13 patients において極めて高い治療効果が観察された。評価可能患者における主要評価項目である全体奏効率 (ORR) は 92% (95% CI 64-100%, p<0.001) であり、13例中8例 (62%) が完全奏効 (CR)、4例 (31%) が部分奏効 (PR) を達成した (Table 1)。特に、既存の化学療法に抵抗性を示したDLBCL患者群 (評価可能例 n=7 patients) においては、完全奏効 (CR) 率が 57% (95% CI 18-90%, p=0.03) に達し、2例 (29%) がPRを獲得した。高度に治療抵抗性の病態に対しても強力な抗腫瘍効果を示すことが実証された。CRを達成したDLBCL患者4例のうち3例 (Patient 2, 7, 8) では、評価時点でそれぞれ22ヶ月以上、9ヶ月以上、12ヶ月以上にわたって無増悪でのCRが持続しており、CAR-T細胞療法が持続的な寛解をもたらすことが示された (Fig 2)。また、インドレントB細胞性悪性腫瘍患者群 (評価可能例 n=6 patients) においても、全例で奏効が得られ、そのうち3例 (50%) がCR、3例 (50%) がPRを達成した。CLL患者群 (n=4 patients) では、3例が骨髄のマルチカラーフローサイトメトリーで確認された持続的なCRを維持しており、最長23ヶ月以上の長期寛解が観察された。
CAR-T細胞の体内動態と表現型の分化シフト: 投与後の末梢血中におけるCAR-T細胞の動態を定量PCR (qPCR) 法を用いて解析したところ、血中CAR陽性細胞のピークレベルは患者間で 9 to 777 cells/μL と大きな幅が認められた (Fig 4)。血中CAR-T細胞数は注入後7〜17日の間にピークに達し、その後は急速に減少するパターンを示した。qPCR法とフローサイトメトリー法による血中CAR-T細胞数の測定値は極めて高い相関を示し、その相関係数は r^2 = 0.95 (95% CI 0.85-0.98, p<0.001) であった。また、注入されたCAR-T細胞と血中ピーク時の細胞の表現型を比較したところ、in vivoにおける急速な分化シフトが観察された。注入時には平均 34% を占めていたCCR7 (C-C chemokine receptor type-7) 陽性CD45RA陰性の中央記憶T細胞 (Tcm: central memory T cell) の割合が、血中ピーク時にはCD4陽性CAR-T細胞において 34% vs 5% (p<0.001) へと著明に減少し、CD8陽性CAR-T細胞においても 34% vs 2% (p<0.001) へと減少した (Fig 5)。これに伴い、エフェクター記憶型やCD57陽性の高分化型エフェクター細胞の割合が増加した。さらに、CD4陽性CAR-T細胞におけるPD-1 (programmed death-1) の発現は、注入時から血中ピーク時にかけて 3-fold 以上の有意な上昇を示した。
一過性の急性毒性と安全性のプロファイル: CAR-T細胞の注入に伴い、多くの患者でGrade 3以上の重篤な急性毒性が観察された (Table 1)。主な有害事象は、リンパ球除去前処置に伴う骨髄抑制のほか、CAR-T細胞の活性化に伴う一過性の発熱、低血圧 (Grade 3-4、4例)、および譫妄や失語、ミオクローヌスなどの神経毒性であった。これらの毒性は、血清中のインターフェロンガンマ (IFN-γ: interferon-gamma) やインターロイキン-6 (IL-6: interleukin-6) の上昇と相関しており、大半の症例において細胞注入後3週間以内に完全に回復した。しかし、広範な縦隔線維化を伴うPMBCL of DLBCLの1例 (Patient 4) において、注入16日後に突然死が発生した。剖検では明確な死因が特定されず、不整脈による心臓突然死が疑われた。また、重篤な毒性を示した2例に対して抗IL-6受容体抗体トシリズマブが投与されたが、低血圧や神経毒性に対する顕著な改善効果は認められなかった。なお、毒性管理のために投与細胞用量を 5 × 10⁶ cells/kg から 1 × 10⁶ cells/kg へと 5-fold 減量する措置が取られた。骨髄抑制に関しては、全例で好中球減少、血小板減少、および貧血が観察されたが、これらは前処理化学療法による予測された一過性の毒性であった。また、血清サイトカインの解析では、多くの患者でCAR-T細胞の増殖ピークと一致してIFN-γおよびIL-6の著明な上昇が認められたが、腫瘍壊死因子 (TNF: tumor necrosis factor) の上昇は軽微であった。
腫瘍組織へのCAR-T細胞の浸潤と正常B細胞の動態: 本療法が固形腫瘍塊に対して有効に作用する機序を解明するため、大きな頸部リンパ節腫瘤を有していたCLLの1例 (Patient 13) において、投与19日後に腫瘍の穿刺吸引細胞診を実施した (Fig 3)。フローサイトメトリー解析の結果、腫瘍組織に浸潤していたリンパ球の 70% がT細胞であり、さらにそのT細胞の 31% がCAR陽性T細胞であることが確認され、CAR-T細胞がin vivoでリンパ腫病変へ効果的に浸潤していることが初めて直接的に証明された (Fig 3)。また、正常B細胞および悪性B細胞に対する傷害活性の指標としてB細胞枯渇効果を評価した。CLL患者であるPatient 3においては、投与前に血中B細胞の 91% を占めていたCD19陽性CD5陽性のクローン性悪性CLL細胞が、CAR-T細胞投与10週後には完全に消失し、血中CD19陽性細胞が 0% となった。その後、投与13ヶ月後には正常なpolyclonal B細胞の回復 (kappa/lambda比の正常化) が確認され、持続的な腫瘍の根絶と正常造血の回復が両立し得ることが示された (Fig 3)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来のCAR-T細胞療法に関する臨床試験と異なり、対象をCLLや急性リンパ性白血病 (ALL) などの白血病性疾患に限定せず、化学療法抵抗性のDLBCLやPMBCLといったアグレッシブな大型固形リンパ腫にまで拡大してその有効性を検証した。先行研究である Grupp et al. NEnglJMed 2013 や Brentjens et al. SciTranslMed 2013 では主に急性白血病に対する劇的な効果が示されていたが、巨大な腫瘍塊を形成する悪性リンパ腫に対するCAR-T細胞の浸潤能や治療効果は不明であった。本研究は、外因性IL-2を併用しないシンプルなプロトコルを用いながらも、化学療法抵抗性DLBCLに対して高い奏効率を達成した。
新規性: 本研究は、化学療法抵抗性のDLBCL患者において、自家抗CD19 CAR-T細胞療法が持続的な完全奏効 (CR) をもたらし得ることを本研究で初めて実証した。また、腫瘍生検 (穿刺吸引) を通じて、投与されたCAR-T細胞が実際に固形リンパ節腫瘍内に高濃度で浸潤している事実をin vivoで新規に明らかにした。さらに、末梢血中におけるCAR-T細胞の分化動態を追跡し、注入された中央記憶T細胞がin vivoでエフェクター記憶型やCD57陽性の高分化型エフェクター細胞へと急速にシフトする現象を同定したことも、T細胞生物学における重要な新規知見である。
臨床応用: 本研究の成果は、極めて予後不良な化学療法抵抗性DLBCLに対する新たな標準治療としてのCAR-T細胞療法の臨床応用に向けた強固なマイルストーンとなった。本試験で確立された「10日間の短縮製造プロセス」および「シクロホスファミド+フルダラビンによるリンパ球除去前処置」のパッケージは、その後の商業用CAR-T製品の商業化に向けた大規模臨床試験へと直接的に継承された。臨床的意義として、従来のサルベージ化学療法では長期生存が極めて困難であった高度治療抵抗性リンパ腫患者に対し、単回投与で長期的な無病生存をもたらす可能性を示した点において、がん免疫療法の歴史におけるパラダイムシフトを決定づけたと言える。
残された課題: 一方で、本療法における残された課題およびlimitationも浮き彫りとなった。第一に、CAR-T細胞の体内持続性の限界である。血中CAR-T細胞数はピーク到達後に急速に減少しており、これが一部の患者における再発の一因と考えられ、今後の検討課題として、より未分化な表現型 (幹細胞様記憶T細胞など) を維持したCAR-T細胞の製造法の開発が必要である。第二に、失語やミオクローヌスを伴う重篤な神経毒性の発症機序の解明と、その安全な管理法の確立である。脳組織にはCD19発現がないにもかかわらず生じるこれらの神経事象の機序は依然として不明であり、トシリズマブ以外の有効な介入手段の探索が今後の研究における重要な方向性となる。
方法
試験デザインと患者選択: 本研究は、米国国立がん研究所 (NCI: National Cancer Institute) のSurgery Branchにおいて実施された単施設オープンラベル第I相臨床試験である (試験登録番号: NCT00924326)。対象は、標準治療に不応または再発した進行CD19陽性B細胞性悪性腫瘍患者15例である。組織型別の内訳は、DLBCL 9例 (原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 [PMBCL: primary mediastinal B-cell lymphoma] 4例、特定不能のDLBCL [DLBCL NOS: diffuse large B-cell lymphoma not otherwise specified] 4例、CLL形質転換DLBCL 1例)、インドレントリンパ腫2例 (低悪性度非ホジキンリンパ腫 [NHL: non-Hodgkin lymphoma] 1例、脾辺縁帯リンパ腫 [SMZL: splenic marginal zone lymphoma] 1例)、CLL 4例であった。DLBCL 9例中8例が化学療法抵抗性 (最終サルベージ化学療法で部分奏効 [PR: partial remission] 以上の奏効未達と定義) であり、7例が2次治療年齢調整国際予後指標 (sAAIPI: second-line age-adjusted international prognostic index) の高リスク群に分類された。
CAR-T細胞の製造プロセス: 自家CAR-T細胞の製造には、FMC63ハイブリドーマ由来の単鎖可変領域 (scFv)、CD28共刺激ドメイン、およびT-cell receptor (TCR) ζ活性化ドメインをコードするガンマレトロウイルスベクターを使用した。患者から採取した末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) を、抗CD3モノクローナル抗体OKT3およびIL-2存在下で刺激 (day 0) し、day 2にレトロウイルス転入を施行、day 10に注入する10日間の短縮製造プロセスを採用した。投与用量は、CD3陽性CAR陽性細胞数/kg体重で規定され、初期の5×10⁶ cells/kgから、毒性管理のために1×10⁶ cells/kgへと減量された。
前処置および奏効評価: CAR-T細胞注入の1日前に、リンパ球除去を目的としてシクロホスファミド (120 mg/kgまたは60 mg/kg) およびフルダラビン (25 mg/m²を5日間) による前処置化学療法を施行した。先行プロトコルと異なり、外因性IL-2の投与は行わなかった。奏効評価は、リンパ腫に対してはCheson 2007基準、CLLに対しては慢性リンパ性白血病国際ワークショップ (IWCLL: International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia) 2008基準を用いて、投与1ヶ月後から定期的に実施した。
統計解析手法: 血中CAR-T細胞数の測定において、定量PCR (qPCR) 法とフローサイトメトリー法の一致度を評価するためにピアソンの相関係数 (Pearson correlation coefficient) を算出した。また、注入時と血中ピーク時におけるCAR-T細胞の表現型 (中央記憶型、エフェクター記憶型など) の割合の変化を比較するために、対応のあるt検定 (paired t-test) を用いて統計学的有意差を検定した。