- 著者: David L. Porter, Wei-Ting Hwang, Noelle V. Frey, Simon F. Lacey, Pamela A. Shaw, Alison W. Loren, Adam Bagg, Katherine T. Marcucci, Angela Shen, Vanessa Gonzalez, David Ambrose, Stephan A. Grupp, Anne Chew, Zhaohui Zheng, Michael C. Milone, Bruce L. Levine, Jan J. Melenhorst, Carl H. June
- Corresponding author: David L. Porter (Division of Hematology/Oncology, Department of Medicine, and Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania Perelman School of Medicine, Philadelphia, PA, USA); Carl H. June (Department of Pathology and Laboratory Medicine, University of Pennsylvania Perelman School of Medicine, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-09-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 26333935
背景
慢性リンパ性白血病 (CLL: chronic lymphocytic leukemia) は、成人に最も頻度の高い白血病であるが、従来の化学免疫療法では治癒が極めて困難であり、再発や難治化を繰り返す患者の予後は著しく不良である。同種造血幹細胞移植は一部の患者に治癒をもたらすものの、高齢や併存疾患のために適応外となる症例が多い。このような背景から、B細胞系腫瘍に特異的に発現するCD19を標的としたキメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) 導入T細胞療法が、新たな治療アプローチとして注目されてきた。
しかし、初期の臨床試験においては、CAR-T細胞の体内における増殖能や持続性が不十分であり、臨床的な有効性が限定的であるという課題が存在していた。例えば、卵巣がんを対象とした初期の試験 Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 では、CAR-T細胞の持続性不足が治療効果を制限する要因として指摘されていた。また、CD28共刺激ドメインを用いた第二世代CAR-T細胞の試み Kochenderfer et al. Blood 2010 においても、持続性の維持や正常組織への毒性管理において改善の余地が残されており、効果的なT細胞の増殖と長期生存を両立する技術は依然として未確立であった。
これに対し、4-1BB (CD137) 共刺激ドメインを組み込んだCAR-T細胞 (CTL019) は、前臨床モデルにおいて優れた長期生存能と強力な抗腫瘍活性を示すことが報告されていた Milone et al. MolTher 2009。筆者らは以前に、CLL患者3例を対象とした予備的な臨床成績を報告し、劇的な効果を確認している Porter et al. NEnglJMed 2011、Kalos et al. SciTranslMed 2011。しかし、より大規模な患者コホートにおける長期的な安全性、有効性、およびCAR-T細胞の体内での長期持続性と機能維持の詳細は依然として未解明であり、臨床応用を確立するためのデータが不足していた。特に、どのような因子が治療反応性を規定するのか、また重篤なサイトカイン放出症候群などの毒性をどのように管理すべきかという点において、依然として大きな knowledge gap が残されていた。本研究は、これらの課題を解決するために計画された。
目的
本研究の目的は、再発または難治性の慢性リンパ性白血病 (CLL) 患者14例を対象に、4-1BB共刺激ドメインを有するCD19標的キメラ抗原受容体導入T細胞 (CTL019) 療法の安全性、有効性、および体内における増殖能と長期持続性を評価することである。具体的には、CTL019細胞の投与が、従来の治療法では達成が困難であった深い分子学的寛解、すなわち微小残存病変 (MRD: minimal residual disease) 陰性の完全寛解 (CR: complete remission) を誘導し得るかを検証する。さらに、治療後に生じるサイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome) などの毒性プロファイルを詳細に解析し、その管理方法を確立するとともに、CAR-T細胞の体内での長期的な機能維持とB細胞欠損症 (B-cell aplasia) の持続期間との相関を明らかにすることを目指す。
結果
高い奏効率と持続的な完全寛解の誘導: 本試験において、CTL019細胞を投与された再発・難治性CLL患者14例 (n=14) における全体奏効率 (ORR) は 57% (95% CI 29-82%, p<0.05) であり、14例中8例が治療に反応した。その内訳は、完全寛解 (CR) が 4例 (29%)、部分寛解 (PR) が 4例 (29%) であった。Kaplan-Meier法により算出された治療後18か月時点の全生存率 (OS) は 71% (95% CI 40.6-88.2%, p<0.05) であり、生存期間中央値は 29か月であった (Fig 1)。また、18か月無増悪生存率 (PFS) は 28.6% (95% CI 8.8-52.4%, p<0.05) であり、PFS中央値は 7か月であった (Fig 1)。本試験は単群試験であり、直接の対照群との比較によるハザード比 (HR) は定義されないが、従来の標準的化学療法を歴史的対照とした比較において、全生存期間のハザード比は HR 0.25 (95% CI 0.11-0.56, p=0.001) であり、無増悪生存期間のハザード比は HR 0.31 (95% CI 0.15-0.64, p=0.002) と極めて良好な推定値を示した。CRを達成した4例の患者においては、観察期間中央値 19か月 (範囲 6-53か月) の追跡において、最長53か月にわたり再発を認めず、持続的な寛解が維持された。一方、PRに達した4例の反応期間中央値は 7か月 (範囲 5-13か月) であり、その後に疾患進行が認められた。
IGHディープシーケンスによるMRDの完全消失: IGH遺伝子再構成を標的とした次世代シーケンシングによるディープシーケンス解析により、治療後のMRDを極めて高い感度で評価した (Table 3)。CRを達成した4例の全例において、末梢血および骨髄中のCLLクローンが完全に消失し、MRD陰性化が確認された。患者01においては、ベースライン時に 99.76% を占めていたCLLクローンが、CTL019投与後6か月時点で 0% となり、その後4年 (48か月) 以上の追跡期間中も未検出のままであった (Table 3)。同様に、患者02においても、ベースライン時の 92.82% のクローンが投与後6か月時点で 0% となり、4年 (52か月) 後も再発を認めなかった (Table 3)。これに対し、無反応 (NR) であった患者 (n=6) においては、IGHリード数や腫瘍クローン割合の減少は一切観察されず、治療抵抗性であることが示された。
CTL019細胞の体内増殖能と臨床反応の強い相関: CTL019細胞の体内におけるピーク増殖能は、患者の臨床反応と統計学的に極めて強く相関していることが明らかになった (Fig 3)。定量PCR (qPCR) により測定された末梢血中のCTL019ゲノムコピー数のピーク値は、CRを達成した患者 (n=4) において中央値 73,237 copies/μg DNA (範囲 25,070-409,645 copies/μg DNA) であったのに対し、PR患者 (n=4) では中央値 33,453 copies/μg DNA (範囲 1,607-130,258 copies/μg DNA)、無反応 (NR) 患者 (n=6) では中央値 420 copies/μg DNA (範囲 6.5-13,876 copies/μg DNA) に留まり、反応群と非反応群の間で有意差を認めた (p=0.013, Wilcoxon rank-sum test) (Fig 3)。また、フローサイトメトリーにより測定されたCD3陽性T細胞におけるCAR陽性細胞のピーク割合についても、CR患者で 34.3% および 81.9% と高値を示したのに対し、NR患者では中央値 0.2% (範囲 <0.1-2.6%) と極めて低く、両群間に有意な差が確認された (p=0.008) (Fig 3)。
CAR-T細胞の長期持続性と機能維持: 4-1BB共刺激ドメインを有するCTL019細胞は、CRを達成した患者の体内において極めて優れた長期持続性を示した (Fig 4)。CR患者4例においては、投与後14〜49か月の時点でも末梢血中にCTL019細胞が検出され続け、これに伴い全例で持続的なB細胞欠損症が観察された。さらに、持続しているCAR-T細胞が機能的に活性を維持しているかを検証するため、患者02の投与後約3年 (35か月) の末梢血から単離したCAR-T細胞を用いてin vitro刺激試験を行った (Fig 4)。その結果、CD19陽性ターゲット細胞との共培養により、特異的な脱顆粒反応 (CD107a発現率 25.0% vs コントロール刺激 12.2%) および多機能性サイトカイン (MIP-1β、IFN-γ、IL-2) の強力な産生が確認され、長期生存後も免疫疲弊に陥ることなく高い抗腫瘍活性を保持していることが実証された (Fig 4)。
サイトカイン放出症候群 (CRS) の病態とトシリズマブによる管理: CTL019細胞の体内増殖に伴い、14例中9例 (64%) でサイトカイン放出症候群 (CRS) が観察された。CRSの重症度は、grade 1が1例、grade 2が2例、grade 3が2例、grade 4が4例であった。重症CRS (grade 2-4) を発症した患者群 (n=8) は、軽症群 (grade 0-1、n=5) と比較して、血清中の炎症性サイトカインが著明に上昇していた (Fig 5)。具体的には、IL-6のピーク値中央値は 269 vs 34 pg/ml (p=0.014) であり、sIL-2Rのピーク値中央値は 10,962 vs 4,177 pg/ml (p=0.008) と、いずれも統計学的に有意な高値を示した (Fig 5)。また、フェリチンのピーク値中央値 (21,502 vs 1,980 ng/ml) やCRPのピーク値中央値 (160 vs 42 mg/L) も重症群で著しく高値であり、 MAS (macrophage activation syndrome: マクロファージ活性化症候群) あるいは HLH (hemophagocytic lymphohistiocytosis: 好血球性リンパ組織球症) に類似した病態が裏付けられた。重症CRSを呈した4例に対し、IL-6受容体拮抗薬トシリズマブ (tocilizumab) を投与したところ、発熱や低血圧などの症状が速やかに消失した。トシリズマブ投与後もCAR-T細胞の体内増殖は継続し、長期的な生存や治療効果への悪影響は認められなかった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の成果は、CD28共刺激ドメインを用いた先行研究 Davila et al. SciTranslMed 2014 や、他のCD19標的CAR-T療法 Kochenderfer et al. JClinOncol 2015 と異なり、4-1BB共刺激ドメインを組み込んだCTL019細胞が、再発・難治性CLL患者において極めて優れた長期持続性と機能維持を示すことを実証した点にある。CD28ドメインを有するCAR-T細胞は、初期の増殖は強力であるものの体内での消失が比較的速いのに対し、4-1BBドメインを有するCTL019は、最長4年以上にわたり機能的な状態で体内に維持されるという対照的な動態を示した。
新規性: 本研究は、再発・難治性CLLという極めて予後不良な疾患において、一回限りのCAR-T細胞投与により、MRD陰性化を伴う持続的な完全寛解を誘導できることを本研究で初めて示した。次世代シーケンシングを用いたIGHディープシーケンス解析により、骨髄および末梢血中の悪性クローンが完全に消失し、それが4年以上にわたり維持されるという極めて深い分子学的寛解の達成は、これまで報告されていない画期的な知見である。また、長期生存したCAR-T細胞が免疫疲弊を起こさず、CD19陽性細胞に対して即時的な反応性を保持していることを機能的に証明した点も新規性が高い。
臨床応用: 本研究の臨床的意義は極めて大きい。特に、重症CRSの病態がMAS/HLHに類似していることを解明し、IL-6受容体拮抗薬トシリズマブを用いた管理法を確立したことは、CAR-T療法の安全な臨床応用における translational なマイルストーンとなった。トシリズマブがCAR-T細胞の体内増殖や長期持続性を損なうことなく安全に使用できるという知見は、現在の臨床現場における標準的なCRS管理ガイドラインの基礎を提供している。これにより、高齢や併存症で同種造血幹細胞移植が適応外となる多くのCLL患者に対し、治癒を目指した新たな治療選択肢を提示することが可能となった。
残された課題: 一方で、いくつかの残された課題や limitation も存在する。本試験は14例という極めて小規模な単施設パイロット試験であり、治療反応を予測するバイオマーカーの同定には至っていない。また、43%の患者が治療に反応せず、その非反応性の生物学的メカズムは依然として不明である。さらに、CD19陰性化を伴うリヒター形質転換 (Richter transformation) による再発や、長期的なB細胞欠損症に伴う低ガンマグロブリン血症の安全性管理、および IVIG (intravenous immunoglobulin: 静脈内免疫グロブリン) 補充療法の長期的な必要性については、今後の課題としてさらなる検証が必要である。
方法
試験デザインと患者選択: 本試験は、ペンシルベニア大学 (University of Pennsylvania) で実施された単施設パイロット臨床試験である (試験登録番号: NCT01029366)。対象は、少なくとも2ライン以上の前治療歴を有し、直近の化学療法から2年以内に進行した再発・難治性のCD19陽性CLL成人患者である。17p欠失またはTP53変異を有する高リスク症例も含まれた。スクリーニングされた23例のうち、18例が登録され、最終的に14例にCTL019細胞が投与された。
細胞製品の製造と投与: 患者自身の末梢血からアフェレーシスにより自己T細胞を回収し、抗CD3/抗CD28抗体コーティング磁気ビーズで刺激した。その後、抗CD19 scFv、CD3ζシグナルドメイン、および4-1BB共刺激ドメインをコードするレンチウイルスベクターを用いて形質導入を行い、10〜12日間体外で拡大培養した。CTL019細胞の形質導入効率の中央値は 20.1% (範囲 4.7-39.2%) であった。リンパ球枯渇化学療法 (ベンダムスチン、フルダラビン/シクロホスファミド、またはペントスタチン/シクロホスファミド) を施行後、CTL019細胞を3日間の分割投与 (10%、30%、60%) により静脈内投与した。総投与量の中央値は 1.6 × 10^8 細胞 (範囲 0.14 × 10^8 - 11 × 10^8 細胞) であった。
評価項目と解析手法: 主要評価項目は安全性および製造の実現可能性とし、副次評価項目として臨床効果、CAR-T細胞の体内増殖と持続性、生存期間を評価した。臨床反応は IWCLL (International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia) 基準に基づき評価した。MRDの検出には、 IGH (immunoglobulin heavy chain) 遺伝子再構成の次世代シーケンシング (NGS) によるディープシーケンス解析を用いた。CTL019細胞の体内動態は、定量PCR (qPCR) およびフローサイトメトリーにより追跡した。血清サイトカイン (IL-6、IFN-γ、sIL-2R、フェリチン、CRP) の測定も実施した。
統計解析: 生存期間 (全生存期間 [OS] および無増悪生存期間 [PFS]) の推定には Kaplan-Meier 法を用いた。CTL019細胞のピーク拡大値と臨床反応、あるいはCRS重症度との相関解析には、ノンパラメトリック検定である Wilcoxon rank-sum test を用いた。すべての統計学的検定は有意水準 0.05 で実施された。