• 著者: Joseph B. Hiatt, David MacPherson
  • Corresponding author: David MacPherson (Fred Hutchinson Cancer Research Center, Seattle, WA)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-05-01
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 31043412

背景

小細胞肺癌(SCLC)は、TP53およびRB1の二アレル不活化が普遍的に認められる高悪性度神経内分泌癌であり、高い腫瘍変異負荷(TMB)を持つにもかかわらず、免疫チェックポイント阻害薬(ICB)への持続的奏効は稀である。2018年にはニボルマブがSCLCに対する初のFDA承認薬となったが、耐久性のある奏効は例外的にしか見られなかった。同年発表されたIMpower133試験(Horn et al. NEnglJMed 2018)では、アテゾリズマブの追加により全生存期間(OS)の延長が達成されたものの、その改善幅はわずか2か月に留まり、客観的奏効率(ORR)も改善しなかった。SCLCが高いTMBを持つにもかかわらずICBへの応答が不良である主な原因として、強固な免疫抑制機構、特にPD-L1非依存的な一次耐性が存在すると考えられていた。

SCLC細胞はTP53およびRB1の喪失により正常な細胞周期チェックポイントが機能しないため、残存するDNA損傷応答(DDR)経路に特に依存している。このDDR経路において、CHK1はTP53欠損細胞におけるDNA損傷後の細胞周期停止の主要なメディエーターであり、PARPファミリーはDNA修復の複数の経路を制御する。これらのDDR経路を標的とするDDR阻害薬(DDRi)は、SCLCに対して前臨床および初期臨床試験で検討されてきたが、ICBとの相乗効果については未探索であった。本Commentaryは、同号に掲載されたSen et al. CancerDiscov 2019の研究成果を解説するものであり、SCLCマウスモデルにおいてDDRiとICBの相乗効果およびその分子メカニズムが初めて実証された。この研究は、SCLCにおけるICB耐性の克服に向けた新たな治療戦略の可能性を示唆するものである。

目的

本Commentaryは、同号に掲載されたSen et al. CancerDiscov 2019の研究成果を詳細に解説し、以下の点を論じることを目的とする。(1) SCLCにおけるDDRi(CHK1阻害薬プレキサセルチブ、PARP阻害薬オラパリブ)とPD-L1阻害の劇的な相乗効果の根拠を提示する。(2) この相乗効果がcGAS-STING経路を介した分子メカニズムによってどのように誘導されるかを説明する。(3) この知見がSCLC治療に与える臨床的意義、および他の自然免疫活性化戦略との概念的位置付けを考察する。(4) 今後の研究および臨床試験への具体的な示唆を提供する。特に、SCLCにおける既存のICB治療の限界を克服するための新たなパラダイムを提示することを目指す。

結果

本Commentaryは、Sen et al. CancerDiscov 2019の主要な知見を解説し、著者らの考察を加えて提示する。

SCLCにおけるDDRiとICBの相乗効果の実証: Sen et al. CancerDiscov 2019は、Rb1/Trp53/Rbl2(p130)の3遺伝子を肺上皮で削除したRPP GEMMから樹立したSCLC細胞株をC57BL/6系統の免疫能マウスにflank移植する同系移植モデル(n=10例/群)を使用した。プレキサセルチブ(CHK1阻害薬)の単剤効果は、免疫能マウスで免疫不全(ヌード)マウスよりも顕著であり、適応免疫による増強効果が示唆された。免疫能マウスの原発腫瘍系でもCHK1阻害はCD8+ T細胞浸潤の増加と関連した。フランクモデルにおいて、ICB単剤およびPARPi単剤は最小限の効果にとどまり、CHK1i単剤は中程度の効果であった。しかし、ICBとCHK1iの併用により、深い持続的奏効が観察され、n=10例中6例(60%)で完全奏効が達成された(Sen et al. CancerDiscov 2019より引用)。ICBとPARPiの併用も、自己腫瘍系での単一時点の腫瘍体積減少において有意な相乗効果を示した。

cGAS-STING経路が相乗効果の中心機序: DDRi処理によりSCLC細胞内の細胞質DNAの蓄積(マイクロ核形成)が生じ、細胞質DNA感知経路であるcGAS-STINGが活性化された。STING活性化はIRF3リン酸化を介してIFNβおよびプロ炎症性サイトカインの転写を誘導し、同時にPD-L1発現を最大5-foldに上昇させた。このPD-L1の上昇がICB(抗PD-L1抗体)の標的として機能したと考えられる。実験的根拠として、cGASまたはSTINGのノックダウンを施したRPP細胞では、移植後にDDRi+ICBの相乗効果が消失し、cGAS-STING経路がこの相乗効果に不可欠であることが強力に支持された。DDRi+ICB処理後の腫瘍微小環境(TME)は、適応免疫細胞コンパートメントのリモデリングを示し、CD8+ T細胞および記憶/エフェクターT細胞の相対頻度が増加し、ナイーブ、疲弊、制御性T細胞の頻度が減少した。CD8+ T細胞抗体除去実験により、CD8+ T細胞が相乗効果に必須であることが確認された。

SCLCの「多相的免疫抑制」と治療戦略的示唆: 著者らはSen et al. CancerDiscov 2019の知見に基づき、SCLCには「PD-L1非依存的な一次免疫抑制状態」と「DDRi誘発によるPD-L1依存的免疫抑制状態への変換」という2段階の免疫抑制が存在すると解釈した。これは、SCLCでPD-L1発現が予測バイオマーカーとして機能しない理由の一部を説明しうる。また、RPPマウスモデルの体細胞変異負荷はヒトSCLCより大幅に低いにもかかわらず、完全奏効が頻繁に観察された点は、相乗効果が高TMBに依存しないことを示し、TMBが低いSCLC症例への適用可能性を示唆した。

他の自然免疫活性化戦略との概念的整合性: 著者らはSen et al. CancerDiscov 2019の知見が以下の先行研究群と共鳴することを指摘した。(1) LSD1阻害による内在性レトロウイルス(ERV)由来dsRNA産生を介したICB相乗効果(Sheng et al. Cell 2018)。(2) ADAR1喪失によるdsRNA感知を介したICB相乗効果(Ishizuka et al. Nature 2019)。(3) 卵巣癌におけるPARPiによるSTING活性化を介したICB相乗効果(Ding et al. Cell Rep 2018、Shen et al. Cancer Res 2019)。これらを総合すると、「腫瘍細胞の自然免疫シグナル抑制を担う経路の遮断」がICBとの「合成致死的免疫活性化(immunogenic synthetic lethality)」をもたらすという新たなパラダイムが浮かび上がる。

考察/結論

本Commentaryは、SCLCにおけるDDR阻害とICBの相乗効果、およびそのcGAS-STING経路を介したメカニズムが前臨床的に実証されたことの臨床的意義を論じた。Sen et al. CancerDiscov 2019の最大の貢献は、一次ICB耐性をPD-L1非依存的な基底免疫抑制状態としてではなく、DDRi誘発による自然免疫活性化によってPD-L1依存的な応答可能状態へと変換できることを示した点にある。これは、これまでのSCLCにおけるICB治療の限界、特にHorn et al. NEnglJMed 2018(アテゾリズマブ+EP)でOS中央値が約2か月改善したのみであり、真の耐久性のある奏効には不十分であったという課題に対し、新たな解決策を提示するものである。

新規性: 本研究で初めて、SCLCにおいてDDRiとICBの併用がcGAS-STING経路を介して強力な抗腫瘍免疫応答を誘導し、腫瘍退縮をもたらすことを明確に示した。特に、SCLCが持つDDR依存性(TP53/RB1喪失による細胞周期チェックポイント欠失)を、そのまま免疫活性化の弱点として逆用できるという点が新規である。

先行研究との違い: これまでの研究では、SCLCにおけるICBの有効性が限定的であり、その原因としてPD-L1非依存的な免疫抑制が指摘されてきた。本研究は、DDRiがPD-L1発現を誘導し、ICBへの感作を可能にするという点で、これまでのPD-L1発現が予測バイオマーカーとして機能しないという知見とは対照的なアプローチを提供する。また、LSD1阻害(Sheng et al. Cell 2018)やADAR1喪失(Ishizuka et al. Nature 2019)など、他の自然免疫活性化戦略と概念的に共鳴し、「immunogenic synthetic lethality」というパラダイムを共有するが、SCLCのDDR依存性を直接標的とする点が独自性を持つ。

臨床応用: 著者らは、この知見が「プラチナ+ICB+DDRi」の4剤レジメンを含む臨床試験の迅速な開発を支持すると結論した。SCLCの治療選択肢とアウトカムに大きな変化がなかった数十年間を経て、ICBの登場はSCLC治療の展望を確かに変えたが、他の疾患と比較してアウトカムの改善は小さい。本研究は、SCLC患者に対する次世代の免疫療法の確立に向けた理論的基盤を提供し、現在進行中の複数のSCLC DDRi+ICB試験の根拠となっている。

残された課題: 今後の検討課題として、DDRiによる正常組織でのSTING活性化と免疫関連有害事象(irAE)増強リスクの評価が挙げられる。また、RPPマウスモデルの変異負荷がヒトSCLCより大幅に低い点の外挿性、臨床試験におけるPD-L1およびcGAS-STING活性化のバイオマーカー確立、最適な投与スケジュール(例えば、プレキサセルチブ投与後の抗PD-L1抗体投与の順序)の検討が必要である。これらの課題を解決することで、本治療戦略の臨床的有用性がさらに高まると考えられる。

方法

本稿は、Sen et al. CancerDiscov 2019の研究成果を解説するCommentaryであるため、著者らによる新たな実験は実施されていない。Sen et al. CancerDiscov 2019は、SCLCの遺伝子改変マウスモデル(GEMM)であるRb1/Trp53/Rbl2(p130)の3遺伝子を肺上皮で削除したRPPモデルから樹立したSCLC細胞株を、C57BL/6系統の免疫能マウスに皮下移植する同系移植モデル(syngeneic model)を用いて実験を行った。具体的には、CHK1阻害薬プレキサセルチブおよびPARP阻害薬オラパリブのDDRi効果と、PD-L1阻害薬(ICB)の併用効果を評価した。免疫能マウスと免疫不全(ヌード)マウスにおけるDDRi単剤効果の比較により、適応免疫の関与を検討した。また、DDRi処理後のSCLC細胞における細胞質DNAの蓄積、cGAS-STING経路の活性化、IRF3リン酸化、IFNβおよび炎症性サイトカインの転写誘導、PD-L1発現の変化を分子生物学的に解析した。cGASまたはSTINGのノックダウンを施したRPP細胞を用いた実験により、cGAS-STING経路の相乗効果への必須性を検証した。さらに、DDRi+ICB処理後の腫瘍微小環境(TME)における免疫細胞コンパートメントのリモデリングをフローサイトメトリー等で解析し、CD8+ T細胞抗体除去実験により、CD8+ T細胞が相乗効果に必須であることを確認した。これらの実験は、統計解析として、群間の比較にt検定やANOVAが用いられ、生存曲線にはカプラン・マイヤー法が適用されたと推測される。