- 著者: Kaoru Kubota, Toyoaki Hida, Satoshi Ishikura, et al., on behalf of the Japan Clinical Oncology Group
- Corresponding author: Kaoru Kubota (Department of Pulmonary Medicine and Oncology, Nippon Medical School, Tokyo, Japan)
- 雑誌: The Lancet Oncology (Vol 15: 106-113)
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-12-03
- Article種別: Original Article (Randomised Phase 3 Trial)
- PMID: 24309370
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約13%を占め、その約3分の1が限局型 (Limited-stage SCLC; LS-SCLC) であると報告されている Govindan et al. JClinOncol 2006。SCLC治療の根幹は多剤併用化学療法であり、限局型SCLCにおいては胸部放射線療法を併用することで生存期間が有意に改善することが複数のメタアナリシスで示されている Pignon et al. NEnglJMed 1992, Warde et al. JClinOncol 1992。特に、etoposide (ETP) と cisplatin (CDDP) の併用化学療法に早期の同時胸部放射線療法を組み合わせることが、逐次照射や遅延照射と比較して全生存期間 (OS) を改善することが複数の無作為化試験で示されている Murray et al. JClinOncol 1993。
米国Intergroupの第III相試験 Turrisi et al. NEnglJMed 1999 では、ETP+CDDP併用化学療法と加速過分割胸部放射線療法 (AHTRT) を組み合わせた治療が、標準分割照射と比較して有意なOS改善を示し、5年生存率がそれぞれ26%と16%であった。この結果に基づき、ETP+CDDPとAHTRTの併用療法が限局型SCLCの標準治療として確立された。しかし、多くの限局型SCLC患者が再発し、疾患により死亡するため、さらなる治療改善の必要性が認識されていた。
一方、進展型SCLC (Extensive-stage SCLC; ES-SCLC) においては、日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) が実施したJCOG9511試験 Noda et al. NEnglJMed 2002 が、irinotecan (CPT-11) +CDDP併用療法がETP+CDDPと比較して奏効率とOSを有意に改善することを示した。この結果は、CPT-11+CDDPがES-SCLCにおいてETP+CDDPを上回る可能性を示唆し、限局型SCLCにおいても同様の優越性が期待された。しかし、欧米の同様の試験 Hanna et al. JClinOncol 2006, Lara et al. JClinOncol 2009 ではJCOG9511の結果が再現されず、日本人と非日本人患者間での薬理ゲノム学的差異の可能性が示唆された。それでも、非個別患者データを用いた2つのメタアナリシス Jiang et al. JThoracOncol 2010, Lima et al. JThoracOncol 2010 では、ES-SCLC患者においてCPT-11がETPと比較して有意な生存改善を示すことが報告された。
限局型SCLCにおけるCPT-11の可能性を探るため、JCOGは先行第II相試験 (JCOG9903) を実施した。この試験では、ETP+CDDPとAHTRTの同時併用後にCPT-11+CDDPを地固め療法として実施し、3年OS 38%という有望な結果が得られ、安全性も許容範囲内であることが示された。しかし、この有望な結果がETP+CDDPを上回るか否かは未解明であり、限局型SCLCにおけるCPT-11+CDDPの優越性を検証する大規模な第III相試験が不足していた。本試験は、この臨床的ギャップを埋めることを目的として計画された。
目的
本研究の主要目的は、限局型小細胞肺癌 (LS-SCLC) 患者において、導入化学放射線療法 (ETP+CDDP 1サイクルと同時加速過分割胸部放射線療法 (AHTRT)) 後の地固め化学療法として、ETP+CDDP 3サイクルとCPT-11+CDDP 3サイクルの全生存期間 (OS) を比較することである。
副次評価項目は以下の通りである。
- 導入化学放射線療法に関連する有害事象の評価。
- 地固め化学療法に関連する有害事象の評価。
- 胸部放射線療法後の晩期放射線障害の評価。
- 予防的全脳照射 (PCI) 中の有害事象の評価。
- 重篤な有害事象の発生率の評価。
- ランダム化後の無増悪生存期間 (PFS) の評価。
本試験は、CPT-11+CDDPがETP+CDDPと比較してLS-SCLC患者のOSを改善するという仮説を検証するために設計された。
結果
患者登録と治療完遂率: 2002年9月1日から2006年10月2日までに281名の患者が初回登録された。誘導療法 (ETP+CDDPおよび加速過分割胸部放射線療法 (AHTRT)) 完了後、258名の患者がセカンドレジストレーションされ、ETP+CDDP群 (n=129) またはCPT-11+CDDP群 (n=129) に無作為に割り付けられた (Figure 1)。CPT-11+CDDP群の1名が不適格と判明したが、安全性解析には含まれた。両群間の患者背景に有意な差は認められなかった (Table 1)。ETP+CDDP群では116名 (90%) が3サイクルの地固め化学療法を完遂し、CPT-11+CDDP群では110名 (86%) が3サイクルを完遂した。計画用量の70%以上を達成した患者の割合は、ETP+CDDP群でETPが89% (n=115/129)、CDDPが90% (n=116/129) であった。CPT-11+CDDP群ではCPT-11が69% (n=88/128)、CDDPが86% (n=110/128) であった。予防的全脳照射はETP+CDDP群で76名、CPT-11+CDDP群で73名に実施された。
全生存期間 (OS): 最終解析に含まれた257名の患者において、中央値フォローアップ期間は6.2年 (IQR 5.4-7.0) であり、173件のイベントが発生した。ETP+CDDP群の中央値OSは3.2年 (95% CI 2.4-4.1) であった。3年OSは52.9% (95% CI 43.9-61.1)、5年OSは35.8% (95% CI 27.4-44.1) であった。CPT-11+CDDP群の中央値OSは2.8年 (95% CI 2.4-3.6) であった。3年OSは46.6% (95% CI 37.7-55.1)、5年OSは33.7% (95% CI 25.5-42.0) であった。両群間でOSに有意差は認められず、ハザード比 (HR) は1.09 (95% CI 0.80-1.46, 片側層別ログランク検定 p=0.70) であった (Figure 3A)。この結果は、CPT-11+CDDPがETP+CDDPと比較してOSを改善するという仮説を否定した。
無増悪生存期間 (PFS): PFSについても両群間で有意差は認められなかった (Figure 3B)。ETP+CDDP群の中央値PFSは1.1年 (95% CI 0.9-1.4) であった。3年PFSは32.0% (95% CI 24.1-40.1)、5年PFSは30.2% (95% CI 22.4-38.3) であった。CPT-11+CDDP群の中央値PFSは1.0年 (95% CI 0.9-1.4) であった。3年PFSは30.8% (95% CI 23.0-38.9)、5年PFSは27.7% (95% CI 20.2-35.6) であった。ハザード比 (HR) は1.10 (95% CI 0.83-1.45, 片側非層別ログランク検定 p=0.74) であった。
毒性プロファイル: 地固め化学療法中のグレード3または4の有害事象は以下の通りであった (Table 2)。好中球減少はETP+CDDP群で95% (n=120/128) vs CPT-11+CDDP群で78% (n=101/129) と、ETP+CDDP群で高頻度であった。貧血はETP+CDDP群で35% (n=44/128) vs CPT-11+CDDP群で39% (n=50/129) と、両群で同程度であった。血小板減少はETP+CDDP群で21% (n=26/128) vs CPT-11+CDDP群で5% (n=6/129) と、ETP+CDDP群で高頻度であった。発熱性好中球減少はETP+CDDP群で17% (n=21/128) vs CPT-11+CDDP群で14% (n=18/129) と、両群で同程度であった。下痢はETP+CDDP群で2% (n=2/128) vs CPT-11+CDDP群で10% (n=13/129) と、CPT-11+CDDP群で有意に高頻度であった。晩期放射線障害は両群間で差はなかった (ETP+CDDP群でグレード3が2例、グレード4が2例 vs CPT-11+CDDP群でグレード3が2例)。治療関連死は計3例報告された。誘導化学放射線療法中に放射線肺臓炎による死亡が1例、ETP+CDDP群で治療完了後に放射線肺臓炎による死亡が1例、CPT-11+CDDP群で地固め化学療法中に脳梗塞による死亡が1例発生した。
サブグループ解析: 事前に計画されたサブグループ解析において、女性患者ではETP+CDDP群がCPT-11+CDDP群と比較して有意に優れたOSを示した。ETP+CDDP群の女性患者では中央値OSは未到達、5年OSは55.3% (95% CI 33.8-72.3) であったのに対し、CPT-11+CDDP群の女性患者では中央値OSは2.4年 (95% CI 1.6-3.4)、5年OSは26.1% (95% CI 10.6-44.7) であった (非層別HR 2.56, 95% CI 1.20-5.44, 片側 p=0.99)。男性患者では両群間にOSの差は認められなかった (HR 0.90, 95% CI 0.65-1.24, 片側 p=0.25)。その他のサブグループ (年齢、UICC-TNM第7版による病期、ECOG PS、誘導化学放射線療法への奏効、6ヶ月間の体重減少、喫煙歴) では両群間に有意な差は認められなかった。
考察/結論
本JCOG0202試験は、限局型SCLC患者において、導入化学放射線療法後の地固め療法としてCPT-11+CDDPがETP+CDDPと比較してOSを改善するという仮説を否定した初の第III相無作為化比較試験である。この結果は、進展型SCLCでCPT-11+CDDPの優越性が示されたJCOG9511試験の知見が、限局型SCLCには外挿できないことを明確に示した。したがって、4サイクルのETP+CDDPと同時加速過分割胸部放射線療法 (AHTRT) が、限局型SCLCの標準治療として維持されるべきであると結論付けられる。
先行研究との違い: JCOG9511試験では進展型SCLCにおいてCPT-11+CDDPがETP+CDDPよりも優れたOSを示したが、本研究の限局型SCLCではそのような優越性は認められなかった。これは、疾患の進行度や治療レジメンの組み合わせが、薬剤の効果に異なる影響を与える可能性を示唆しており、これまでの報告とは対照的な結果である。また、欧米の試験では進展型SCLCにおいてもCPT-11+CDDPの優越性が確認されなかったことから、日本人患者と非日本人患者間での薬理ゲノム学的差異の可能性が指摘されているが、本研究では限局型SCLCの日本人患者においてもCPT-11+CDDPの優越性は示されなかった。
新規性: 本研究は、限局型SCLCにおけるCPT-11+CDDPの地固め療法の有効性をETP+CDDPと比較した、世界で初めての第III相無作為化試験である。この結果により、限局型SCLCの治療ガイドラインにおけるCPT-11の役割について、これまで報告されていない明確なエビデンスが提供された。
臨床応用: 本試験の結果は、限局型SCLCの標準治療がETP+CDDPと同時AHTRTの組み合わせであることを再確認するものであり、臨床現場での治療選択に直接的な影響を与える。CPT-11+CDDPは、限局型SCLCの地固め療法としては推奨されない。毒性プロファイルに関しては、ETP+CDDP群で骨髄抑制 (好中球減少、血小板減少) が高頻度であったのに対し、CPT-11+CDDP群では下痢が有意に高頻度であった。この毒性の違いは、個々の患者の合併症や忍容性に応じて、治療選択の参考となりうる臨床的意義を持つ。
残された課題: 注目すべきサブグループ解析として、女性患者においてETP+CDDP群のOSがCPT-11+CDDP群よりも有意に優れるという結果が得られた。ETP+CDDP群の女性患者の5年OSは55.3% (95% CI 33.8-72.3) と非常に良好であった一方、CPT-11+CDDP群の女性患者の5年OSは26.1% (95% CI 10.6-44.7) と低かった。この性差のメカニズムは不明であり、検出力の限界や多重検定の問題も考慮する必要があるが、今後の検討課題として、SCLC治療における性差の生物学的背景や薬物動態学的差異をさらに詳細に解析する必要がある。また、本試験の全患者における5年OSが34.3%と、過去の報告 (24-26%) を上回る良好な結果であったことは、患者選択基準 (ECOG PS 0-1、70歳以下) や放射線治療の品質管理が寄与した可能性が考えられるが、さらなるOS改善のためには、二次治療や免疫療法との併用など、新たな治療戦略の開発が今後の研究方向性となる。
方法
本研究は、日本国内36施設が参加した多施設共同無作為化オープンラベル第III相試験 (JCOG0202) として実施された。
患者適格基準: 年齢20〜70歳、ECOG Performance Status (PS) 0-1、組織学的または細胞学的に確認された未治療の限局型SCLC患者が対象とされた。限局型SCLCは、片側胸腔内に限局し、同側肺門リンパ節、両側縦隔リンパ節、両側鎖骨上窩リンパ節転移を含む疾患と定義された。胸部CTで幅1cm未満の胸水は限局型とされたが、悪性胸水は進展型と定義され除外された。測定可能病変を有し、十分な臓器機能 (白血球数 ≥4000/μL、血小板数 ≥10⁵/μL、ヘモグロビン ≥90 g/L、血清クレアチニン ≤132.60 μmol/L、血清ビリルビン ≤34.21 μmol/L、血清AST/ALT ≤100 IU/L、PaO₂ ≥9.33 kPa) を有することが求められた。放射線腫瘍医との事前相談が必須であった。
誘導療法: 全登録患者は、導入療法としてETP 100 mg/m² (day 1-3) + CDDP 80 mg/m² (day 1) の静脈内投与と、同時加速過分割胸部放射線療法 (AHTRT) (1.5 Gyを1日2回、週5日、総線量45 Gy/3週間) を受けた。AHTRTは化学療法開始のday 2から開始された。放射線照射野は原発腫瘍、転移リンパ節、および対側肺門リンパ節を除く領域リンパ節を含み、必要に応じて鎖骨上窩リンパ節も含まれた。総線量45 Gyのうち、30 Gyは原発腫瘍と転移リンパ節を含む領域リンパ節に照射され、残りの15 Gyは原発腫瘍と転移リンパ節にブースト照射された。
ランダム化と地固め化学療法: 誘導療法後に病勢進行 (PD) を認めなかった患者は、セカンドレジストレーションの適格基準 (初回登録から49日以内、ECOG PS 0-1、血液学的・生化学的基準、Grade 2以下の放射線皮膚炎・食道炎、PDなし、誘導療法への奏効がCR/nCR/PR/SD) を満たした場合、JCOGデータセンターにて1:1の割合で無作為に割り付けられた。最小化法により、ECOG PS (0 vs 1)、誘導化学放射線療法への奏効 (CR+nCR vs PR+SD)、および施設で層別化された。
- ETP+CDDP群: CDDP 80 mg/m² (day 1) + ETP 100 mg/m² (day 1-3) を3週ごとに3サイクル。
- CPT-11+CDDP群: CDDP 60 mg/m² (day 1) + CPT-11 60 mg/m² (day 1, 8, 15) を3〜4週ごとに3サイクル。
予防的全脳照射 (PCI): 地固め化学療法後にCRまたはnCR (標的病変の長径の合計が70%以上縮小) を達成した患者には、PCI (25 Gy/10分割) が実施された。
用量調整と有害事象評価: 化学療法は、白血球数 <3000/μLまたは血小板数 <10⁵/μLの場合、回復まで延期された。CPT-11は、白血球数 <2000/μL、血小板数 <10⁵/μL、またはグレードを問わず下痢、発熱 ≥37.5°Cの場合、day 8またはday 15の投与がスキップされた。ETPの用量は、Grade 4白血球減少、Grade 4血小板減少、またはGrade 3非血液学的有害事象 (悪心、嘔吐、食欲不振、低ナトリウム血症、クレアチニンを除く) が発生した場合、次回サイクルで20 mg/m²減量された。CPT-11の用量は、Grade 4白血球減少、Grade 4血小板減少、Grade 2または3の下痢、またはGrade 3非血液学的有害事象 (悪心、嘔吐、低ナトリウム血症、クレアチニンを除く) が発生した場合、次回サイクルで10 mg/m²減量された。CDDPの用量は、血清クレアチニンが132.60 μmol/Lを超え176.80 μmol/L以下の場合、10 mg/m²減量された。Grade 4の非血液学的有害事象が発生した場合は治療が中止された。G-CSFの一次予防投与は禁止され、二次予防投与はGrade 4好中球減少またはGrade 3発熱性好中球減少が発生した場合に許可された。
有害事象はNCI-CTC (National Cancer Institute Common Terminology Criteria) version 2.0に従って評価された。
統計解析: 主要評価項目はランダム化後のOSであった。目標症例数はランダム化後250例、イベント数は223例と設定され、ETP+CDDP群の3年OS 30.0%に対し、CPT-11+CDDP群で42.5%への改善を検出するために、片側α=2.5%、検出力70%で設計された。最終解析は登録完了から5年後に計画された。OSおよびPFSはKaplan-Meier法を用いて推定された。主要評価項目の解析には、ECOG PS (0 vs 1) および誘導化学放射線療法への奏効 (CR+nCR vs PR+SD) で層別化したログランク検定が用いられた。ハザード比 (HR) は、同じ因子で層別化したCox回帰モデルで推定された。3回の中間解析がO’Brien-Fleming型α消費関数を用いて多重性を調整して実施された。有効性解析は修正intention-to-treat (ITT) 解析で行われ、安全性解析は少なくとも1回の治験薬投与を受けた全患者を対象とした。本試験はClinicalTrials.gov (NCT00144989) およびUMIN Clinical Trials Registry (C000000095) に登録されている。