- 著者: Park S, Lee H, Lee B, Lee SH, Sun JM, Park WY, Ahn JS, Ahn MJ, Park K
- Corresponding author: Park K (Division of Hematology-Oncology, Department of Medicine, Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-05-22
- Article種別: Original Article (後方視的コホート研究)
- PMID: 31125737
背景
SCLC (small cell lung cancer:小細胞肺癌) は肺癌全体の約15%を占め、極めて進行が早く予後不良な難治性悪性腫瘍である。cisplatin や carboplatin などのプラチナ製剤をベースとした2剤併用化学療法は、SCLCにおける標準治療として確立されており、初期治療において60%から70%の高い奏効率を示すものの、その効果は一時的であり、短期間で治療抵抗性を獲得し再発に至る。プラチナ製剤はDNA付加体を形成することでDNA複製を阻害し、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導する。このため、DNAの傷を修復するシステムである DDR (DNA damage response and repair:DNA損傷応答・修復) 経路に機能不全を持つ腫瘍は、プラチナ製剤に対する感受性が高いと考えられてきた。実際に、卵巣癌や乳癌など他のがん種においては、DDR経路(特に BRCA1/2 などの相同組換え修復遺伝子)の変異がプラチナ製剤の有効性を予測するバイオマーカーとして確立されている。
近年、がん免疫療法の進展に伴い、DDR経路は TMB (tumor mutational burden:腫瘍遺伝子変異量) との関連からも再注目されている。DDR遺伝子に変異を持つ腫瘍は、DNAのコピーエラーを修復できないため、ゲノム全体に突然変異が蓄積し、結果として高TMBを示す。高TMBは新生抗原(ネオアンチゲン)の増加を介して免疫チェックポイント阻害薬の良好な治療効果と相関することが、Rizvi et al. Science 2015 や LeDung et al. Science 2017 などの先行研究によって示されている。SCLCのゲノム景観については、Peifer et al. NatGenet 2012 や George et al. Nature 2015 により TP53 および RB1 の普遍的な不活化変異が明らかにされているが、DDR経路の遺伝子変異、TMB、およびプラチナ製剤に対する感受性の3者間の相互関連については十分に解明されておらず、臨床的な予測因子としての有用性は依然として不明であり、詳細な検証が不足しているという課題が残されている。このように、SCLCにおけるゲノム不安定性と治療感受性の関連を解き明かすための包括的なゲノム解析データは極めて手薄である。
目的
本研究の目的は、SCLC患者におけるDDR経路の遺伝子変異プロファイルを包括的に同定し、それらがTMBおよびプラチナ製剤ベースの化学療法の臨床的有効性とどのように関連しているかを明らかにすることである。具体的には、標的次世代シーケンスを用いてSCLC患者の腫瘍組織におけるDDR関連遺伝子の変異状況を解析し、DSB (double-strand break:二本鎖切断) および SSB (single-strand break:一本鎖切断) の各修復経路における変異とTMBとの相関関係を検証する。さらに、ED (extensive disease:進展型) および LD (limited disease:制限型) の各病期において、DDR変異およびTMBがプラチナ製剤ベース of 化学療法(LDにおいては同時化学放射線療法)の治療効果(無増悪生存期間、全生存期間、奏効率)に与える影響を評価し、臨床的バイオマーカーとしての有用性を検証する。
結果
SCLCにおけるゲノム景観とDDR変異の有病率: 解析対象となった166例において、TP53 変異はED患者の93.0%(n=93/100)、LD患者の89.4%(n=59/66)で検出され、RB1 変異はED患者の70.0%(n=70/100)、LD患者の69.7%(n=46/66)で検出された(Fig 1)。これはSCLCにおけるこれらのがん抑制遺伝子の普遍的な不活化を裏付けるものである。また、MYC ファミリー遺伝子(MYC, MYCL, MYCN)の増幅は、ED患者の10.3%(n=10/97)に対し、LD患者では22.7%(n=15/66)とより高頻度に認められた。DDR関連遺伝子セットの変異については、ED患者の52.0%にDSB経路変異、19.0%にSSB経路変異が認められ、LD患者では45.5%にDSB経路変異、18.2%にSSB経路変異が認められた。全体として、42.2%(n=70/166)の患者がDDR intact(DSBおよびSSB変異なし)であった(Table 2)。さらに、非喫煙者(never-smoker)のED患者11例においては、NOTCH1 変異(n=3)や CDKN2A 変異(n=3)などの特徴的なゲノム変化が観察された。
DDR遺伝子変異と高TMBの有意な相関関係: DDR経路の遺伝子変異とTMBの関連を解析した結果、DDR intact群(n=70)の中央値10.70 mutations/Mbと比較して、DDR変異を有する群では有意に高いTMBが確認された(Fig 3)。具体的には、HR pathway変異群(p<0.001)、NHEJ変異群(p=0.002)、MMR変異群(p<0.001)において、TMBの有意な上昇が認められた。DSB修復経路全体(p<0.001)およびSSB修復経路全体(p<0.001)のいずれにおいても、DDR intact群と比較してTMBが有意に高値であった(Table 2)。この結果は、DDR経路の機能不全が未修復 of DNA損傷の蓄積を介してTMBの上昇をもたらすというゲノム生物学的なメカニズムを強く支持するものである。一方で、FA(p=0.317)やBER(p=0.062)、NER(p=0.080)の変異群では、DDR intact群と比較してTMBの有意な上昇は認められなかった。
ED患者におけるDDR変異およびTMBの臨床的価値の欠如: 進展型(ED)患者(n=100)において、DDR変異の有無や個別の修復経路変異は、プラチナ製剤ベースの化学療法の治療効果と有意な相関を示さなかった(Fig 2)。さらに、TMB高値群(中央値13 mutations/Mb以上)と低値群(13 mutations/Mb未満)の比較においても、PFS中央値は 5.4 vs 5.1 months と有意な差は認められなかった(Fig 4)。主要エンドポイントであるPFSにおいて、TMB高値群 vs 低値群のハザード比は HR 1.12 (95% CI 0.72-1.74, p=0.296) であり、OSにおいても HR 1.18 (95% CI 0.75-1.85, p=0.234) と有意な治療効果の差を示さず、SCLCにおけるDDR変異やTMBのプラチナ感受性予測バイオマーカーとしての臨床的価値は、ED患者においては極めて限定的であることが示された(Table 1)。また、MYCファミリーの遺伝子異常を有するED患者群では、PFSが有意に短縮しており、ハザード比は HR 2.08 (95% CI 1.07-4.05, p=0.031) であった。
LD患者における高TMBと良好な予後の有意な関連: 制限型(LD)患者(n=66、同時化学放射線療法施行例)における解析では、ED患者とは対照的な結果が得られた。TMB高値群(中央値12 mutations/Mb以上)は、TMB低値群(12 mutations/Mb未満)と比較して、同時化学放射線療法に対するPFSが有意に延長し、PFS中央値は 14.7 vs 9.3 months であり、ハザード比は HR 0.497 (95% CI 0.279-0.884, p=0.015) であった(Fig 4)。さらに、全生存期間(OS)においても同様に有意な延長が認められ、OS中央値は 44.5 vs 24.4 months を示し、ハザード比は HR 0.393 (95% CI 0.188-0.821, p=0.010) であった(Fig 4)。この3点セットで示される予後改善効果は、放射線療法が加わるLDの治療設定において、高TMB腫瘍がより高い感受性を示すか、あるいは放射線による免疫活性化が関与している可能性を示唆している。なお、LD患者全体のOS中央値は 30.7 months (95% CI 24.4-44.5) であった。
個別DDR経路変異とLD患者における予後不良因子としてのFA変異: 個別のDDR経路変異と生存期間の関連をLD患者において検討したところ、FA経路の遺伝子変異を有する患者群(n=14)では、初期治療(同時化学放射線療法)に対するPFSが有意に短縮しており、ハザード比は HR 2.048 (95% CI 1.020-4.112, p=0.036) であった(Fig 2)。FA経路の変異は、DNA修復欠損によるプラチナ感受性増強をもたらすという一般的な仮説とは逆に、SCLCにおいては治療抵抗性や放射線感受性の低下と関連している可能性が示された。また、個別遺伝子解析において、KEAP1 変異を有する患者(n=3)はプラチナ製剤治療に対して極めて不良な経過をたどり、PFSのハザード比は HR 3.86 (95% CI 1.20-12.42, p=0.023) であった(Table 1)。さらに、FAT3 変異や EPHA5 変異などの個別遺伝子変異も、LD患者における同時化学放射線療法後のPFS短縮と有意に関連していた。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の結果は、尿路上皮癌や卵巣癌などの他のがん種においてDDR変異がプラチナ製剤感受性の良好な予測バイオマーカーであると報告してきた多くの先行研究と異なり、SCLCにおいてはDDR変異がプラチナ感受性と有意に関連しないことを示した。この相違は、SCLCにおける TP53 および RB1 の普遍的な喪失や、代替的なDNA修復経路(PARP1やATMなど)の代償的な活性化といった、SCLC特有の生物学的特性に起因すると考えられる。すなわち、単一のDDR経路の欠損によるプラチナ感受性の増強効果が、他の修復経路の代償的アップレギュレーションによって相殺されている可能性が示唆される。
新規性: しかしながら、本研究はSCLCにおいてDSBおよびSSB修復経路の遺伝子変異が、高TMBと極めて密接に相関していることを本研究で初めて包括的に明らかにした。これは、DDR変異がSCLCにおけるゲノム不安定性と突然変異蓄積の主要な駆動源の一つであることを示す新規の知見である。特に、DSB経路(HR pathway、NHEJ)およびSSB経路(MMR)の変異がTMB上昇に強く寄与していることが示された。
臨床応用: 本研究の臨床的意義として、LD患者においてのみ高TMBが同時化学放射線療法(CCRT)後の良好なPFSおよびOSと有意に相関した点が挙げられる。これは、放射線照射が腫瘍の免疫原性を高め、高TMB腫瘍における抗腫瘍免疫応答を増強するという機序を示唆しており、将来的にLD-SCLCにおける化学放射線療法と免疫療法の併用療法の患者選択において、TMBが有用なバイオマーカーとなる可能性を示している。臨床現場における治療層別化への応用が期待される。
残された課題: 一方で、本研究にはいくつかのlimitationおよび残された課題が存在する。第一に、本研究は単一施設における後方視的コホート研究であり、症例数が限定的であるため、より大規模な前向きコホートでの検証が必要である。第二に、標的NGSパネルによるTMB算出は全ゲノムや全外現子シーケンス(WES)と比較してバイアスが生じる可能性があり、標準化されたプラットフォームの確立が今後の課題である。さらに、免疫療法を併用した最新の標準治療(例えば、Horn et al. NEnglJMed 2018 で示されたアテゾリズマブ併用療法など)におけるDDR変異およびTMBの役割については、今後の詳細な検討が待たれる。
方法
本研究は、Samsung Medical Centerにおいて病理学的にSCLCと診断された患者を対象とした後方視的コホート研究である。登録された198例のうち、プラチナ製剤ベースの化学療法を少なくとも2サイクル以上受けた症例を選択した。LD患者については、CCRT (concurrent chemoradiotherapy:同時化学放射線療法) を施行された症例を対象とした。最終的に、ED患者100例およびLD患者66例の計166例が解析対象となった。
ゲノム解析には、患者の腫瘍組織(生検または手術検体)から抽出したDNAを使用し、標的 NGS (next-generation sequencing:次世代シーケンス) プラットフォームである「CancerSCAN」を用いてシーケンス解析を実施した。ED患者3例にはCancerSCAN version 1(83遺伝子パネル)を、残りのED患者97例およびLD患者66例にはCancerSCAN version 2(375遺伝子パネル)を使用し、計381遺伝子のエクソン領域をカバーした。
DDR経路は、先行文献に基づいて以下の6つの主要経路に分類した。
- DSB修復経路:HR pathway (homologous recombination pathway:相同組換え経路、54遺伝子)、NHEJ (non-homologous end joining:非相同末端結合、19遺伝子)、FA (Fanconi anemia:ファンコニ貧血、32遺伝子)
- SSB修復経路:MMR (mismatch repair:ミスマッチ修復、19遺伝子)、BER (base excision repair:塩基除去修復、7遺伝子)、NER (nucleotide excision repair:ヌクレオチド除去修復、6遺伝子)
DDR経路のいずれにも変異を認めない症例を「DDR intact群(n=70)」と定義し、比較対照とした。TMBは、標的遺伝子パネルのメガベース(Mb)あたりの非同義一塩基変異(SNV)およびインデル(挿入・欠失)の総数として算出した。
統計解析においては、生存期間の評価項目として PFS (progression-free survival:無増悪生存期間) および OS (overall survival:全生存期間) を設定し、Kaplan-Meier 法を用いて生存曲線を描画した。群間比較には log-rank 検定を用い、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の算出には Cox regression (コックス比例ハザードモデル) を使用した。連続変数の比較には Mann-Whitney 検定を、カテゴリ変数の比較には Fisher’s exact 検定またはカイ二乗検定を適用した。多重比較補正には Bonferroni 法を用いた。本研究は、再発SCLC患者を対象としたアンブレラ試験である SUKSES (Sungkyunkwan University Small cell lung cancer Personalized Therapy Group) 試験(NCT02688894)のスクリーニングコホートの一部として実施され、Samsung Medical Centerの IRB (Institutional Review Board:施設倫理委員会) の承認を得て行われた。