• 著者: Tsuruoka K, Horinouchi H, Goto Y, Kanda S, Fujiwara Y, Nokihara H, Yamamoto N, Asakura K, Nakagawa K, Sakurai H, Watanabe S, Tsuta K, Ohe Y
  • Corresponding author: Horinouchi H (Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-03-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28625622

背景

肺神経内分泌腫瘍 (NETs) は、WHO 2015分類においてtypical carcinoid (TC)、atypical carcinoid (AC)、large cell neuroendocrine carcinoma (LCNEC)、およびsmall cell lung cancer (SCLC) の4つの主要な組織型に分類される Travis et al. JThoracOncol 2015。これらの診断カテゴリーは、それぞれ異なる予後と治療戦略を必要とする。TCは通常、転移が稀で予後が良好であり、地域リンパ節転移があっても優れた予後を示す。しかし、ACは転移を起こしやすく、特に縦隔リンパ節が侵されると予後が悪化する傾向がある。LCNECの生存率は非小細胞肺癌 (NSCLC) や他の大細胞癌と比較して低く、SCLCと類似した生存率を示す Glisson et al. JNatlComprCancerNetw 2011。切除可能なカルチノイドやLCNECでは手術が第一選択となるが、進行期症例が稀であるため、進行期のカルチノイドやLCNECに対する標準治療レジメンは確立されていない。これらの患者はしばしばSCLCに準じたレジメンで治療されるが、SCLCほど予測可能な化学療法反応性は示さない Granberg et al. AnnOncol 2001。SCLCはプラチナ製剤とエトポシドによる初期奏効率が高いものの、急速な耐性獲得により依然として予後不良である。

近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI)、特に抗PD-1/PD-L1抗体が複数の癌種で顕著な有効性を示し、癌治療のパラダイムを大きく変えた Topalian et al. NEnglJMed 2012Postow et al. JClinOncol 2015。PD-L1発現は、これらの薬剤の治療効果予測因子として注目されている Borghaei et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015Garon et al. NEnglJMed 2015。NSCLCにおけるPD-L1発現率は15.2%から57.5%と幅広い報告がある一方、SCLCでは0%から71.6%とさらに広範な報告が存在する Ishii et al. JThoracOncol 2015Schultheis et al. EurJCancer 2015Ott et al. JClinOncol 2015。この差異は、使用されたPD-L1抗体クローン、カットオフ値、および腫瘍病期が異なることに起因すると考えられ、直接的な比較は困難である。SCLCにおけるPD-L1発現に関する報告はいくつか存在するものの、LCNECおよびカルチノイド腫瘍におけるPD-L1発現状況の系統的な評価はこれまで報告されておらず、この領域には知識のギャップが残されている。本研究は、この未解明な領域におけるPD-L1発現の包括的な理解に貢献し、免疫チェックポイント阻害療法の適応拡大に向けた新たな知見を提供することが期待される。特に、カルチノイド腫瘍におけるPD-L1発現の報告が不足しており、その臨床的意義も不明であった。

本研究で採用したE1L3Nクローン (Cell Signaling Technology) は、PD-L1タンパクの細胞内ドメインを特異的に認識するラビットモノクローナル抗体である。先行研究では、このクローンが5H1クローン (細胞外ドメイン認識) と比較して、腫瘍細胞とリンパ球、樹状細胞、間質細胞などの非腫瘍細胞の鑑別に優れ、膜上のPD-L1の半定量的評価に適していることが示されている Taube et al. ClinCancerRes 2014。H-score法による半定量評価 (染色強度0〜3 × 染色面積0〜100%、スコア0〜300) は、PD-L1発現のより詳細な定量的把握を可能にする。本研究では、H-score 1以上を陽性と定義し、PD-L1発現の有無を判定した。このアプローチにより、肺神経内分泌腫瘍におけるPD-L1発現の包括的な理解に貢献し、免疫チェックポイント阻害療法の適応拡大に向けた新たな知見を提供することが期待される。

目的

本研究の目的は、肺神経内分泌腫瘍の4つの主要な組織型 (typical carcinoid (TC)、atypical carcinoid (AC)、large cell neuroendocrine carcinoma (LCNEC)、およびsmall cell lung cancer (SCLC)) の手術切除標本におけるPD-L1発現頻度を比較評価することである。さらに、PD-L1発現と患者背景因子 (年齢、性別、喫煙歴、病期) との関連、および無病生存率 (DFS) と全生存率 (OS) との関連を検討し、PD-L1発現がこれらの腫瘍の予後因子または治療効果予測因子となりうるかを探ることを目的とした。特に、これまで報告が不足していたカルチノイド腫瘍およびLCNECにおけるPD-L1発現状況を系統的に明らかにすることを重要な目的とした。

結果

PD-L1発現頻度と組織型別の分布: 本研究の主要な所見として、肺神経内分泌腫瘍におけるPD-L1発現頻度が組織型別に詳細に評価された。H-score 1をカットオフ値としたPD-L1発現率は、typical carcinoid (TC) で0/46例 (0%)、atypical carcinoid (AC) で0/6例 (0%) であった。一方、large cell neuroendocrine carcinoma (LCNEC) では11/106例 (10.4%)、small cell lung cancer (SCLC) では4/69例 (5.8%) にPD-L1発現が認められた (Table 2)。全コホート227例中、PD-L1陽性例は合計15例 (6.6%) であり、そのうちLCNECが11例 (73.3%)、SCLCが4例 (26.7%) を占めた。PD-L1陽性例におけるH-scoreの中央値は45 (範囲10〜160) であった (Table 3)。この結果は、カルチノイド腫瘍ではPD-L1発現が認められないことを明確に示し、LCNECおよびSCLCに限定的に発現することを示唆する。

PD-L1発現と患者背景因子との関連: PD-L1発現陽性群 (n=15) と陰性群 (n=212) の患者背景因子を比較した結果、年齢において有意な相関が認められた (Table 4)。PD-L1陽性群の年齢中央値は73歳 (範囲37〜84歳) であったのに対し、陰性群では65歳 (範囲19〜77歳) であり、PD-L1陽性群で有意に高齢であった (p=0.016)。一方、性別 (陽性群男性80.0% vs 陰性群男性73.6%、p=0.584)、喫煙歴 (陽性群非喫煙13.3% vs 陰性群非喫煙15.1%、p=0.853)、および病期 (p=0.193) との間に有意な相関は認められなかった。PD-L1陽性例の大部分 (13/15例、86.7%) は元喫煙者であった。

PD-L1発現と生存期間との関連: LCNECおよびSCLCにおけるPD-L1発現と生存期間との関連がKaplan-Meier曲線を用いて解析された (Figure 2)。LCNEC患者において、PD-L1陽性群 (n=11) と陰性群 (n=95) の間で、無病生存期間 (DFS) および全生存期間 (OS) に統計的有意差は認められなかった。DFSについては、ハザード比 (HR) が0.373 (95% CI 0.090〜1.543、p=0.173) であった。OSの中央値は、PD-L1陽性群で244か月 (95% CI 94.8〜393.2) vs 陰性群で64か月 (95% CI 27.7〜100.3) であり、HRは0.421 (95% CI 0.167〜1.063、p=0.067) であった (Figure 2C)。SCLC患者においても、PD-L1陽性群 (n=4) と陰性群 (n=65) の間でDFS (p=0.259) およびOSに統計的有意差は認められなかった。SCLCのOS中央値は、PD-L1陽性群で140か月 (95% CI推定不能) vs 陰性群で38か月 (95% CI 15.9〜60.1) であり、HRは0.652 (95% CI 0.157〜2.709、p=0.557) であった (Figure 2D)。両組織型ともに、PD-L1陽性例でDFSおよびOSが長い傾向を示したが、統計的有意差には至らなかった。DFS中央値は、陽性例でのイベント数が少なく打ち切りが多いため、両組織型で推定不能であった。

PD-L1発現の代表的な免疫染色画像: Figure 1には、LCNECおよびSCLCにおけるPD-L1発現の代表的な免疫染色画像が示されている。LCNECのPD-L1陽性例ではH-score 160の強い染色が認められ、陰性例ではH-score 0であった。SCLCのPD-L1陽性例ではH-score 90の染色が確認され、陰性例ではH-score 0であった。これらの画像は、本研究で採用されたE1L3NクローンによるPD-L1染色が、腫瘍細胞の膜上に特異的に発現していることを視覚的に裏付けている。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究でSCLCにおけるPD-L1発現率が5.8%と報告されたことは、既報のSCLCにおけるPD-L1発現率 (0%〜71.6%と広範) と比較して低値であった。この差異の主要因として、(1) 本研究で使用したE1L3NクローンがPD-L1の細胞内ドメインを認識するのに対し、多くの既報で使用された5H1クローンは細胞外ドメインを認識するという抗体認識ドメインの違い、(2) 採用したカットオフ値の相違、(3) 本コホートが手術適応のある比較的早期病期症例 (Stage IAが34.8%) を多く含む点が挙げられる。PD-L1発現は疾患の進行に伴い増加するとの報告 Mu et al. MedOncol 2011 があり、進行期症例を主体とした他報告との対照的な結果を説明しうる。

新規性: 本研究は、カルチノイド腫瘍 (TCおよびAC) におけるPD-L1発現を系統的に評価した世界初の報告であり、これらの低悪性度腫瘍ではPD-L1発現が全く認められない (0%) という新規の知見を提供した。この結果は、カルチノイド腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害療法の適応が限定的である可能性を示唆する。また、LCNECにおける10.4%というPD-L1発現率は、SCLC様化学療法で治療されるLCNEC患者に対するICI上乗せ試験の対象患者選択において有用な情報を提供する。

臨床応用: PD-L1陽性例において、統計的有意差は認められなかったものの、LCNEC (OS中央値244 vs 64か月) およびSCLC (OS中央値140 vs 38か月) の両組織型でOS延長傾向が示されたことは、PD-L1発現が腫瘍免疫応答の活性化を反映している可能性を示唆する。この結果は、免疫チェックポイント阻害薬の治療候補患者を同定する上で臨床的意義を持つ可能性がある。ただし、食道癌、胃癌、腎細胞癌など他の癌種ではPD-L1高発現が予後不良と相関するという報告 Herbst et al. Nature 2014 とは逆の傾向であり、腫瘍種間でのPD-L1の予後意義の違いが示唆される。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、TMAを用いた解析では、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) などの非腫瘍細胞におけるPD-L1発現を十分に評価することが困難であった。PD-L1発現は腫瘍細胞だけでなく、免疫細胞にも認められ、その発現パターンが治療効果予測に重要である可能性が指摘されている。第二に、PD-L1陽性例が15例と少数であったため、生存解析における統計的検出力が不十分であった可能性がある。このため、観察された生存延長傾向が統計的有意差に至らなかったと考えられる。第三に、本研究は単施設の後向き研究であり、その結果の外的妥当性には限界がある。今後の検討課題として、より多数の症例、特に進行期症例を含む多施設共同研究や、腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現を詳細に評価する前向き研究が必要である。これらの研究を通じて、PD-L1の予測的意義をさらに解明し、免疫チェックポイント阻害薬の最適な適応判断に繋げることが期待される。

方法

コホート: 本研究は、1982年から2010年の間に国立がん研究センター病院 (東京) の胸部外科で手術治療を受けた肺神経内分泌腫瘍患者227例を対象とした後向きコホート研究である。患者の臨床データは診療録の後向きレビューにより収集された。対象患者の内訳は、男性168例 (74.0%)、女性59例 (26.0%) であり、年齢中央値は65歳 (範囲19〜84歳) であった。喫煙歴のある患者は193例 (85.0%) を占めた。病理組織型別では、TCが46例 (20.3%)、ACが6例 (2.6%)、LCNECが106例 (46.7%)、SCLCが69例 (30.4%) であった (Table 1)。病期の内訳は、Stage IA 79例 (34.8%)、IB 36例 (15.9%)、IIA 26例 (11.5%)、IIB 29例 (12.8%)、IIIA 47例 (20.7%)、IIIB 5例 (2.2%)、IV 5例 (2.2%) であった。

組織マイクロアレイ (TMA) 作製: 各手術切除標本から2つの代表的な腫瘍コアをランダムに選択し、TMAブロックを作製した。作製されたTMAブロックは4 µm厚に切片化された。専門病理医 (TK) がTMAスライド上で全症例の病理診断を再確認し、TC、AC、LCNEC、SCLCの診断を確定した。

PD-L1免疫染色: 脱パラフィン処理後、抗原賦活化は10 mMクエン酸バッファー中で121°C、10分間加熱することにより実施された。一次抗体としてPD-L1抗体E1L3Nクローン (1:800希釈、Cell Signaling Technology, Inc., Danvers, MA, USA) を使用した。二次抗体にはペルオキシダーゼ標識二次抗体 (EnVision/HRP system, DAKO, Carpinteria, CA, USA) を適用し、3,3′-ジアミノベンジジン (DAB) で発色させた。

PD-L1発現スコアリング: 染色されたスライドは、2名の独立した観察者によりブラインド下で評価された。腫瘍細胞におけるPD-L1発現スコアは、半定量的H-score法により算出された。H-scoreは、染色強度 (0: 陰性、1: 非常に弱い、2: 中程度、3: 強い) と染色された腫瘍細胞の割合 (0%〜100%) を乗じることで算出され、スコア範囲は0〜300であった。抗体の高い特異性に基づき、H-scoreが1以上をPD-L1陽性と定義した。

統計解析: PD-L1発現と患者背景因子 (年齢、性別、喫煙状況) との相関は、Fisher’s exact testを用いて解析された。生存率はKaplan-Meier法により推定された。無病生存期間 (DFS) は手術日から最初の再発またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。全生存期間 (OS) は手術日から死亡または追跡不能日までの期間と定義された。群間の生存期間の比較にはlog-rank testが用いられた。統計的有意差は両側P値が0.05未満の場合と定義された。全ての統計解析はSPSS version 22 (IBM SPSS, Armonk, NY, USA) を用いて実施された。