• 著者: Shintaro Yokoyama, Hiroaki Miyoshi, Kazutaka Nakashima, Joji Shimono, Toshihiro Hashiguchi, Masahiro Mitsuoka, Shinzo Takamori, Yoshito Akagi, Koichi Ohshima
  • Corresponding author: Hiroaki Miyoshi (Department of Pathology, Kurume University School of Medicine; miyoshi_hiroaki@med.kurume-u.ac.jp)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-05-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27166394

背景

胸腺上皮性腫瘍は前縦隔に発生する最も頻度の高い悪性腫瘍であり、胸腺癌 (thymic carcinoma) はその中でも比較的稀な高悪性度腫瘍である。胸腺癌は隣接構造への直接浸潤と遠隔転移をきたす特徴を持つ。外科的完全切除が最も有効な治療法であり、完全切除が達成された症例では5年全生存期間 (OS) が 53.0%〜65.7% に改善することが報告されているが、完全切除が得られない場合の5年 OS は 33.3%〜65.0% と不良である Kondo et al. AnnThoracSurg 2003。化学療法への反応率は 20%〜36% と低く、特にカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法で比較的良好な結果が示されているものの、依然として治療成績は十分ではない Lemma et al. JClinOncol 2011。二次治療においては、難治性患者に対して経口チロシンキナーゼ阻害薬であるスニチニブが一定の有効性を示すにとどまる状況であった Thomas et al. LancetOncol 2015。これらの背景から、胸腺癌に対するより効果的な治療戦略の開発が強く求められていた。

PD-1/PD-L1経路は、様々な悪性腫瘍において宿主の抗腫瘍免疫監視からの腫瘍免疫逃避に重要な役割を担うことが知られている Dong et al. NatMed 2002。PD-L1発現やPD-1陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の存在は、肺癌、膀胱癌、腎細胞癌など多くの癌腫で予後因子として報告されている。抗PD-1抗体は悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌において既に臨床承認されており、抗PD-L1抗体も臨床試験で有効性が示されていた。この免疫チェックポイント阻害療法は、進行性、化学療法抵抗性、または転移性の悪性腫瘍に対する治療を改善する可能性を秘めている。

胸腺上皮性腫瘍におけるPD-L1発現に関する先行研究は、胸腺腫と胸腺癌を混在させて解析していることが多く、高PD-L1発現が進行したMasaoka-KogaステージやB2/B3型胸腺腫・胸腺癌などの高悪性度組織型と相関することが示されていた Padda et al. JThoracOncol 2015Katsuya et al. LungCancer 2015。しかし、生存解析においては、高PD-L1発現が不良予後と相関したとする報告と、予後への影響を認めないとする報告が相反しており、その予後意義はcontroversialなままであった。特に、胸腺癌単独でのPD-L1およびPD-1両者の予後意義は未解明であり、TILにおけるPD-1発現については詳細な検討が不足していた。これらの知識のギャップを埋めるため、胸腺癌においてPD-1/PD-L1経路阻害免疫療法が新たな治療選択肢となる可能性を探索するためのバイオマーカー研究が強く必要とされていた。

目的

本研究の目的は、胸腺癌単独の患者コホートにおいて、腫瘍細胞におけるPD-L1発現と腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) におけるPD-1発現を免疫組織化学的に定量評価することである。これらの発現パターンと臨床病理学的特徴、細胞傷害性T細胞 (CTL) 浸潤 (TIA-1陽性およびgranzyme B陽性細胞) との関連性を検討する。さらに、全生存期間 (OS) および無病生存期間 (DFS) に対するPD-L1およびPD-1発現の予後的意義を単変量および多変量解析を用いて明らかにすることを目指す。また、PD-L1遺伝子コピー数変化とPD-L1発現量の関係を定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR) により解析し、PD-L1高発現の分子機序の一部を探索することも目的とする。これらの包括的な解析を通じて、胸腺癌におけるPD-1/PD-L1経路の役割を解明し、将来的な免疫療法標的としての可能性を評価する。

結果

患者背景とPD-L1発現の分布: 25例の胸腺癌患者の基本特性は、男性17例 (68%)、年齢中央値63歳 (範囲 32-81歳) であった。外科的完全切除は16例 (64%) で達成され、Masaoka-KogaステージIVa/IVbの患者は9例 (36%) であった。ネオアジュバント療法は4例 (放射線療法2例、化学放射線療法2例) に施行され、これら全例でその後の外科的完全切除が成功した。追跡期間の中央値は33ヶ月 (範囲 1-124ヶ月) であった。組織型は扁平上皮癌 (SCC) が19例 (76%) と最多であった。PD-L1発現のH-score中央値は100 (95% CI 77.8-154.4、範囲 0-300) であり、定義されたカットオフ値 (H-score >20) に基づくと、25例中20例 (80%) が高PD-L1発現に分類された。PD-L1発現状況は、年齢 (p=0.586)、性別 (p=1.000)、Masaoka-Kogaステージ (p=0.312)、組織型 (p=1.000)、腫瘍サイズ (p=0.838)、手術完全切除の有無 (p=0.312)、PD-1陽性TIL数 (p=0.837) のいずれとも有意な関連を示さなかった (Table 1)。

PD-L1コピー数変化と発現量の関係: 11例で実施されたPD-L1遺伝子コピー数解析では、3例 (27%) でPD-L1遺伝子コピー数増加 (gain) が認められた (正常対照の平均コピー数 2.07)。コピー数増加を示した症例は、正常コピー数の症例と比較してPD-L1 H-scoreが有意に高値であった (Mann-Whitney p=0.040) (Figure 2)。この結果は、PD-L1遺伝子コピー数増加がPD-L1過剰発現の一因である可能性を示唆するが、大多数の症例 (73%) ではコピー数以外の機構 (例えば、IFN-γ誘導性転写活性化や後成的制御など) が主な発現制御機構であると考えられた。

PD-L1発現と生存 (OS・DFS) の関連: Kaplan-Meier解析により、PD-L1高発現群は低発現群と比較して全患者のOSが有意に良好であった (log-rank p=0.010) (Figure 3A)。この有意な関連は、完全切除が達成された患者のサブグループ (p=0.0009) (Figure 3B) および扁平上皮癌のサブセット19例 (p=0.005) (Figure 3C) においても確認された。さらに、完全切除が達成された患者の無病生存期間 (DFS) においても、PD-L1高発現群が低発現群よりも有意に良好であった (p=0.004) (Figure 3D)。

予後因子の単変量・多変量解析: 単変量解析では、Masaoka-KogaステージIVa/IVb (HR 6.578, 95% CI 1.789-30.971, p=0.004)、不完全切除 (HR 6.578, 95% CI 1.789-30.971, p=0.004)、低PD-L1発現 (HR 5.837, 95% CI 1.265-30.167, p=0.025)、およびPD-1陽性TIL数の増加 (10細胞/HPFごとのHR 1.496, 95% CI 1.029-2.162, p=0.037) が、不良なOSの有意な予測因子として同定された (Table 2)。扁平上皮癌サブセットでは、低PD-L1発現のHRが8.073 (95% CI 1.538-59.367, p=0.014) と、全コホートよりもさらに高値を示した。多変量Cox比例ハザードモデル解析では、Masaoka-Kogaステージ (HR 7.000, 95% CI 1.765-34.991, p=0.005)、手術完全切除の有無 (HR 7.000, 95% CI 1.765-34.991, p=0.005)、低PD-L1発現 (HR 6.854, 95% CI 1.229-38.259, p=0.028)、およびPD-1陽性TIL数の増加 (HR 1.546, 95% CI 1.049-2.278, p=0.026) が、すべて独立した予後因子として残存した (Supplementary Table S2)。この結果は、高PD-L1発現が良好な予後の独立因子であり、PD-1陽性TIL数の増加が不良な予後の独立因子であることを明確に示した。

PD-L1発現とCTL浸潤の相関: 細胞傷害性T細胞 (CTL) の代表的なマーカーであるT細胞細胞内抗原1 (TIA-1) 陽性CTL数とPD-L1発現量の間に有意な正の相関が認められた (Pearson r=0.566, p=0.003) (Figure 4)。形態学的所見、T細胞による抗腫瘍免疫の原則、およびCD56陽性リンパ球の非存在に基づいて、TIA-1陽性細胞はCTLであると検証された。一方、活性化CTLのマーカーであるグランザイムB陽性TIL数との間には有意な相関は見られなかった (r=0.051, p=0.808)。TIA-1陽性CTLは存在するもののグランザイムB陰性であるという表現型は、PD-L1を介したT細胞疲弊状態を反映していると解釈された。CD56陽性NK細胞数も解析されたが、PD-L1発現との間に有意な相関は示されなかった (補足データ)。

扁平上皮癌サブセットでの感度解析: 25例中扁平上皮癌 (SCC) を占めた19例のサブセットでも、PD-L1高発現群 vs 低発現群のOS差は全体コホートより一層顕著で有意差を維持した (log-rank p=0.005)。低PD-L1発現のHRは扁平上皮癌サブセットで8.073 (95% CI 1.538-59.367, p=0.014) と全体コホート (HR 5.837) を上回り、扁平上皮癌においてPD-L1の予後的意義が特に強いことが示唆された。非扁平上皮癌の症例数が少なく (6例) 独立した感度解析は困難であったが、胸腺癌の主要組織型である扁平上皮癌での再現性はサブセット解析で示された。また完全切除例 (16例) のサブグループ解析でもOS・DFSの双方においてPD-L1高発現群が有意に優れており (OS p=0.0009、DFS p=0.004)、手術により根治が期待できる患者においてもPD-L1発現が再発・生存を規定する独立因子となることが確認された。

考察/結論

本研究は、胸腺癌単独のコホートにおいて、腫瘍細胞の高PD-L1発現が良好な予後と独立して相関し (多変量解析でHR 6.854, 95% CI 1.229-38.259, p=0.028)、PD-1陽性TIL数の増加が不良な予後と独立して相関する (多変量解析でHR 1.546, 95% CI 1.049-2.278, p=0.026) ことを多変量解析で初めて示した。

先行研究との違い: 多くの悪性腫瘍では「PD-L1発現=予後不良 (免疫逃避の指標)」という関連が報告されているが、本研究での逆転した結果 (高PD-L1発現=良好予後) は、CTL浸潤に誘導された適応的PD-L1アップレギュレーションという機序で説明できる。すなわち、腫瘍特異的CTL (TIA-1陽性) が浸潤・活性化されると、腫瘍細胞はIFN-γ刺激を受けてPD-L1を発現し、CTLを抑制するフィードバックが働く。この「適応的免疫抑制 (adaptive immune resistance)」状態にある腫瘍は、PD-1/PD-L1阻害薬による制動解除 (disinhibition) が最も効果的に働く免疫微小環境を持つと考えられる。TIA-1陽性CTL数とPD-L1発現の間に認められた有意な正の相関 (Pearson r=0.566, p=0.003) は、この機序を支持する所見である。これまで胸腺腫を混在させた先行研究ではPD-L1発現の予後意義がcontroversialであったが、本研究が胸腺癌単独での解析を徹底したことで、胸腺腫とは異なる胸腺癌特有の免疫微小環境におけるPD-L1の役割が明確になった。

新規性: 本研究で初めて、胸腺癌におけるPD-L1遺伝子コピー数増加がPD-L1過剰発現の一因となることを示した (p=0.040)。また、PD-1陽性TIL数の増加が不良予後因子であることは、TILにおけるPD-1発現の増加がT細胞疲弊 (exhaustion) の進行と腫瘍免疫逃避の強化を反映し、制動を解除されなければ予後を悪化させることを示す新規の知見である。これは、PD-1発現をTILのマーカーとして単純に「抗腫瘍免疫の存在指標」として評価するのではなく、「疲弊したT細胞の存在指標」として解釈すべきことを示唆する。

臨床応用: 胸腺癌の高いPD-L1発現率 (80%) と化学療法抵抗性という背景から、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害療法が胸腺癌の新たな治療選択肢となる可能性が強く示唆される。本研究の発表以降、実際に胸腺癌に対するペムブロリズマブ (抗PD-1抗体) の臨床試験が実施され、奏効が確認されている (KEYNOTE-028など)。PD-L1高発現、TIA-1陽性CTLの存在、およびPD-1陽性TILが比較的少数であるという組み合わせ (適応的免疫抑制が働いているが疲弊は軽度) の患者が、免疫チェックポイント阻害療法の恩恵を最も受ける可能性がある。これらの知見は、胸腺癌患者の層別化と個別化医療の臨床応用において重要な意義を持つ。

残された課題: 本研究のlimitationとして、サンプルサイズが25例と小さいこと、単施設での後ろ向きデザインであること、およびTMAによる組織代表性の問題 (腫瘍内不均一性が十分評価されない可能性) が挙げられる。TMAコアのサイズ (3,000 μm) は可能な限り大きく設定され、生検標本の現実を模擬しているが、腫瘍辺縁部の免疫細胞浸潤パターンを完全に反映できない点は残る。また、追跡期間の不均一性 (1-124ヶ月) も考慮すべき点である。今後は、より大規模な前向き研究および免疫チェックポイント阻害療法の介入試験による検証が必要である。PD-L1とPD-1陽性TILを組み合わせた患者層別化 (高PD-L1/低PD-1 TIL群 vs 低PD-L1/高PD-1 TIL群) が、胸腺癌の免疫療法候補患者同定に有用である可能性が今後の研究課題として残されている。

方法

本研究は、後ろ向きコホート研究デザインで実施された。久留米大学病院で1999年から2015年の間に新たに診断された胸腺癌患者25例のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織標本を解析した。対象症例は連続症例であり、2015年WHO分類およびCD5・CD117免疫組織化学 (IHC) を用いて、2名の経験豊富な病理医 (H. MiyoshiとK. Ohshima) が胸腺癌の確定診断を行った。未熟リンパ球 (terminal deoxynucleotidyl transferase陽性) を含む症例や、病理学的に胸腺腫と胸腺癌が混在する症例は解析から除外された。全ての患者は診断後少なくとも6ヶ月ごとに臨床的フォローアップを受けていた。本研究における検体および医療記録の使用は、久留米大学の研究倫理委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言の倫理的ガイドラインに準拠している。全ての患者から、検体および臨床情報の使用に関するインフォームドコンセントを得た。

組織マイクロアレイ (TMA) は、Standard Tissue Microarrayer (Azumaya Corp.) を用いて作製された。腫瘍細胞が最も多く含まれる腫瘍中央部から直径3,000 μmのコアを採取した。この手順は、画像誘導下で臨床的に採取されることが多い小生検検体を模倣しており、腫瘍の中心部が抽出される可能性が高いことを考慮した。TMAブロックは2.5 μmの厚さに薄切され、ヘマトキシリン・エオジン染色またはIHCに供された。

IHCに用いた一次抗体は以下の通りである:ウサギモノクローナル抗PD-L1 (EPR1161[2]、Abcam、1:200)、マウスモノクローナル抗PD-1 (NAT105、Abcam、1:50)、マウスモノクローナル抗CD56 (1B6、Leica Biosystems、1:100)、マウスモノクローナル抗T細胞細胞内抗原1 (TIA-1; 2G9A10F5、Beckman Coulter、1:200)、マウスモノクローナル抗グランザイムB (GrB-7、Merck Millipore、1:500)。組織切片は脱パラフィン後、H2Oで再水和した。抗原賦活化は、pH 8.0のEDTAバッファー中でマイクロ波加熱 (95°C、20分間) により実施した。内因性ペルオキシダーゼ活性は3% H2O2中で5分間インキュベートすることによりブロックした。TMAスライドは一次抗体とインキュベートされた:PD-L1は4°Cで16時間、PD-1/CD56/TIA-1/グランザイムBは室温で30分間。その後、Dako REAL (EnVision Detection System) の西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗ウサギ/マウス二次抗体と室温で30分間インキュベートした。免疫反応はジアミノベンジジン発色基質 (Dako) で5分間処理することにより可視化された。各スライドは、臨床情報に盲検化された2名の研究者 (S. YokoyamaとH. Miyoshi) によって評価され、不一致は合意が得られるまで議論された。

PD-L1発現は、H-score (染色強度 0-3 × 各強度陽性腫瘍細胞割合の積和、範囲 0-300) で定量化した。最適なカットオフ値は、ROC曲線とYouden indexに基づいて決定された。Masaoka-Kogaステージと手術完全切除の可否を二値変数として考慮し、最終的にH-score 20が最適なカットオフ値として決定された (>20を高発現と定義)。PD-1、TIA-1、グランザイムB陽性TILは、最も染色が強い部位の5視野 (400倍) でカウントし、HPFあたりの平均TIL数を算出した。PD-1陽性TILとグランザイムB陽性TILは腫瘍巣内または血管周囲の間質でカウントされた。TIA-1陽性TILは主に腫瘍巣内または腺構造の傍でカウントされたが、これらの部位にTIA-1陽性TILが存在しない場合は間質でカウントされた。

PD-L1遺伝子コピー数解析は、11例のFFPE組織検体で定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR) (TaqMan DNA Copy Number Assay Hs03704252_cn) を実施し、RNase P参照アッセイで補正した。正常対照として反応性扁桃5例を使用し、平均コピー数は2.07であった。

統計解析には、Fisherの直接確率検定 (名義変数)、Mann-Whitney U検定 (連続変数)、Pearsonの積率相関係数 (TIL数とPD-L1発現の相関)、Kaplan-Meier法とログランク検定 (生存解析)、Cox比例ハザードモデル (多変量予後解析) を用いた。P値は両側検定に基づき、0.05未満を有意と判断した。全ての統計解析はJMPバージョン11ソフトウェア (SAS Institute Inc.) を用いて実施された。