• 著者: Sukhmani K. Padda, Jonathan W. Riess, Holbrook E. Kohrt, Erich J. Schwartz, Joel W. Neal, Robert B. West, Lu Tian, Heather A. Wakelee
  • Corresponding author: Heather A. Wakelee (Department of Internal Medicine, Division of Oncology, Stanford Cancer Institute, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25402569

背景

免疫チェックポイント阻害剤(特にPD-1/PD-L1抗体)は、メラノーマ、腎細胞癌、肺癌など複数のがん種で顕著な臨床活性を示しており、PD-L1発現が応答予測バイオマーカーとして浮上していた。例えば、ニボルマブの第I相試験では、PD-L1陽性例で36%の客観的奏効率(ORR)が認められたのに対し、陰性例では0%であったことが報告されている(Topalian et al. NEnglJMed 2012)。胸腺上皮性腫瘍(TET)は稀少腫瘍であるが、その起源である胸腺はT細胞の分化・選択の中枢器官であり、PD-1/PD-L1経路がT細胞の正の選択に必須の役割を果たすことが示されている。

先行研究として、Brown et al. (2003) は小規模なTETシリーズにおいてPD-L1発現を確認していたが、その系統的な免疫組織化学(IHC)解析、WHO組織型分類との関連、および予後への影響については未解明な点が多かった。TETは、重症筋無力症(MG)などの自己免疫疾患をしばしば合併し、その免疫微小環境が特殊であることから、PD-L1発現の臨床的意義を解明することが急務であった。PD-L1は腫瘍細胞および腫瘍浸潤免疫細胞(TILs)に発現する免疫チェックポイントタンパク質であり、その発現は腫瘍の種類によって予後に様々な影響を与えることが知られている(Taube et al. ClinCancerRes 2014)。正常胸腺においてもPD-L1は胸腺上皮細胞に発現し、PD-1との相互作用を通じてT細胞の選択とレパートリーの調節に重要な役割を担っている。しかし、TETにおけるPD-L1発現の網羅的な解析と、それが臨床転帰に与える影響に関するデータは不足しており、この知識ギャップを埋めることが本研究の背景にある。また、PD-L1発現の評価方法や抗体の選択には標準化されたプロトコルが確立されておらず、異なる研究間での結果の比較が困難であるという課題も存在した。TETsにおけるPD-L1発現の予後予測因子としての役割を明確にすることは、この稀少疾患に対する新たな治療戦略を開発する上で不可欠であった。

目的

本研究の目的は、スタンフォード大学医療センターで収集された胸腺上皮性腫瘍69例の組織マイクロアレイ(TMA)を用いて、PD-L1タンパク発現を免疫組織化学(IHC)により詳細に評価することである。具体的には、PD-L1発現の頻度と強度をTETsおよび対照群で比較し、その発現がWHO組織型分類、Masaoka-Koga病期、および患者の予後(全生存期間(OS)および無イベント生存期間(EFS))とどのように関連するかを明らかにすることを目指した。これにより、TETsにおけるPD-L1/PD-1経路の阻害が新たな治療戦略となり得るかどうかの根拠を提供することを意図した。本研究は、後方視的コホート研究として、PD-L1発現の臨床的意義を初めて大規模に評価し、将来的な抗PD-1/PD-L1療法の臨床試験の設計に資する情報を提供することを目指した。

結果

患者背景と対照との比較: 本研究では、TETs患者69例(平均年齢54.9歳、女性47.8%、ECOG PS 0-1が91.3%)が解析された (Table 2)。36.2%の患者が傍腫瘍症候群を合併していた。Masaoka-Koga病期はI-IIbが68.1%、III-IVbが26.1%であった。胸腺全摘術が87.0%の患者で実施され、正中切開が81.2%であった。TETsにおけるPD-L1 highの頻度は68.1%(n=47/69)であり、対照群の17.6%(n=3/17)と比較して有意に高かった(p=0.0036)。PD-L1染色は、ほとんど全てのTETs症例において上皮細胞に拡散性(>50%の細胞)の膜性および細胞質性染色として認められた (Figure 1)。

PD-L1発現頻度とWHO組織型との相関: PD-L1 highの頻度はWHO組織型と有意な相関を示した(p=0.039)。具体的には、B3型(100%, n=7/7)、B1型(76.9%, n=10/13)、B2型(75.0%, n=15/20)、C型(75%, n=3/4)で高頻度にPD-L1 highが認められ、AB型(58.8%, n=10/17)、A型(25%, n=2/8)の順で低頻度であった。これは、PD-L1高発現が悪性度の高いWHO組織型と関連することを示唆する。一方、腫瘍浸潤リンパ球(TALs)におけるPD-L1染色は、TETsの14.8%(n=8/54)にのみ認められ、対照群の29.4%よりも低い傾向にあった。TALsのPD-L1染色は、ほとんどの症例で弱強度(スコア2)であった。TALsのPD-L1染色と上皮細胞のPD-L1染色強度との間には相関は認められなかった(p=0.31)。

PD-L1 high vs low TETsの臨床的特徴: PD-L1 highのTETsは、PD-L1 lowのTETsと比較して、より進行した病期(p=0.056)、不完全切除(R1またはR2切除、p=0.053)、および高悪性度のWHO組織型(p=0.039)と関連する傾向が認められた (Table 3)。PD-L1 lowのTETs患者はPD-L1 highのTETs患者よりも平均年齢が約10歳高かった(51.9歳 vs 61.4歳, p=0.035)。しかし、傍腫瘍症候群の合併率には有意差はなかった(PD-L1 high 40.4% vs PD-L1 low 27.3%, p=0.42)。

WHO組織型(B3/C型)による生存解析: 高悪性度WHO組織型(B3/C型)は、その他の組織型と比較して有意に不良な予後と関連した。年齢および性別調整後の解析では、B3/C型は無イベント生存期間(EFS)においてハザード比(HR)5.21(95% CI 1.94–13.98, p=0.0011)を示し、全生存期間(OS)においてはHR 7.60(95% CI 2.34–24.66, p=0.0007)と、非常に強い予後不良効果が認められた。病期をさらに調整した場合でも、OSのHRは6.24(95% CI 1.55–25.07, p=0.0099)と有意な不良予後が維持された。EFS中央値はB3/C型で16.7ヶ月、その他の組織型で92.3ヶ月であった。

PD-L1発現と生存への影響: 無調整解析では、PD-L1 highとPD-L1 lowのTETs間でEFS(HR 1.94, 95% CI 0.71–5.29, p=0.20)およびOS(HR 1.14, 95% CI 0.36–3.64, p=0.83)に有意差はなかった(Figure 2)。しかし、年齢および性別で調整後、PD-L1 highのTETsはEFSにおいてHR 2.94(95% CI 0.94–9.24, p=0.064)と不良な傾向を示し、OSにおいてはHR 5.40(95% CI 1.13–25.89, p=0.035)と統計学的に有意な不良予後と関連した。切除状態をさらに調整した場合でも、OSのHRは5.39(95% CI 1.06–27.28, p=0.042)で有意性が維持された。病期を調整すると、OSのHRは4.41(95% CI 0.88–22.11, p=0.071)と境界域の傾向となった。これは、PD-L1発現が病期とは独立した予後因子である可能性を示唆する。OSイベント数はPD-L1 high群で10/47例、PD-L1 low群で5/22例であった。腫瘍浸潤リンパ球(TALs)のPD-L1染色陽性またはTALsの欠如は、多変量解析において独立した予後因子ではなかった。

考察/結論

本研究は、当時最大規模の胸腺上皮性腫瘍(TETs)におけるPD-L1発現解析であり、PD-L1が上皮成分に広く、かつ高濃度に発現することを明確に示した。TETsの68.1%がPD-L1 highという高頻度で発現していたことは、他の腫瘍型と比較しても特筆すべき高さである。PD-L1陽性腫瘍で免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の感受性が高い可能性を示した複数の臨床試験の結果(Hamid et al. NEnglJMed 2013Topalian et al. JClinOncol 2014)と合わせて、この知見はTETsに対する抗PD-1/PD-L1療法の臨床試験実施の強力な根拠を提供するものである。

先行研究との違い: 従来の小規模な研究ではPD-L1発現の有無が報告されていたが、本研究はPD-L1発現の強度とそれがWHO組織型や予後に与える影響を詳細に解析した点で、これまでの報告と異なり、より包括的な知見を提供している。

新規性: PD-L1 high発現が年齢、性別、切除状態調整後にも不良な全生存期間(OS)と関連するという予後的知見は、PD-L1発現がWHO組織型や病期と関連しつつも、独立した予後情報を持つ可能性を示唆する。これは、PD-L1発現が非小細胞肺癌の肉腫様形質や高悪性度膀胱癌など、他の腫瘍型におけるより悪性度の高い組織型と関連するという先行研究(Velcheti et al. LabInvest 2014)と類似している。本研究で初めて、TETsにおけるPD-L1発現と臨床転帰の関連を大規模に検討したことは新規性がある。

臨床応用: 本知見は、TETsにおける抗PD-1/PD-L1療法の臨床応用への道を開くものである。PD-L1高発現が予後不良因子であることは、PD-1/PD-L1経路の阻害が治療効果をもたらす可能性を示唆している。特に進行期TETs患者において、PD-L1発現をバイオマーカーとして活用することで、個別化医療の推進が期待される。

残された課題: 本研究のサンプルサイズは比較的小さく(OSイベント数:PD-L1 high 10例、PD-L1 low 5例)、後方視的コホートであるため、交絡因子による限界があることは認識されるべきである。今後の検討課題として、TETs患者、特に重症筋無力症などの自己免疫疾患を合併する患者へのICI適用には注意が必要である。Giaccone et al. (2018) の試験では心筋炎が5%で発生するなど、自己免疫関連有害事象(irAEs)のリスクが知られており、TETの種類によってICIの適応を慎重に検討する必要がある。今後の研究では、PD-L1発現の標準化された評価方法の確立、およびTETsのサブタイプごとのICI応答性やirAEsプロファイルの詳細な検討が求められる。

方法

本研究は、スタンフォード大学医療センターにおける後方視的単施設研究として実施された。ホルマリン固定パラフィン包埋された胸腺上皮性腫瘍(TETs)69例と胸腺対照17例から組織マイクロアレイ(TMA)が作製された。各症例は3つの600 μmコアで代表され、腫瘍の中心部から選択された。PD-L1の免疫組織化学(IHC)染色には、ウサギモノクローナル抗体(クローン15, Sino Biological)が使用された。当初試用されたクローン5H1は非特異的染色が強く、意味のあるスコアリングが困難であったため不採用となった。正常胎盤が抗体滴定に用いられた。サイトケラチンCK5/6染色も併用され、PD-L1発現が上皮細胞とリンパ球のどちらに局在するかを特定するのに役立てられた。

PD-L1染色は、染色強度に基づいて以下の通りスコア化された:0=染色なし、1=判定不能/解釈不能、2=弱、3=中等度~強。PD-L1陽性の定義として、上皮成分において全てのコアが強度3以上を示す症例をPD-L1 high、それ以外をPD-L1 lowと分類した。PD-L1の拡散染色が観察されたため、陽性細胞の割合ではなく染色強度を主要な基準とした。腫瘍浸潤リンパ球(TALs: Tumor-Associated Lymphocytes)のPD-L1染色も同様の強度スコアで評価された。TALsの浸潤度は、コア内のリンパ球の割合に基づいて0=最小、1=<25%、225%とスコア化され、全てのコアがスコア2を示す症例をLymph high、それ以外をLymph lowと定義した。

評価病理医(E.J.S.)は、臨床データおよび検体IDについて盲検化された。統計解析には、カテゴリー変数の関係を評価するためにFisher’s exact testまたはChi-square testが用いられた。生存解析には比例ハザードモデルが適用され、全生存期間(OS)および無イベント生存期間(EFS)が評価された。OSは診断日から死亡日まで、EFSは遠隔転移のない症例において診断日から再発または死亡日までと定義された。調整変数として、年齢、性別、Masaoka-Koga病期、WHO組織型、および切除完全性(R0: 完全切除、R1: 顕微鏡的残存、R2: 肉眼的残存)が考慮された。データカットオフは2014年4月1日であった。統計的有意性は両側p値<0.05とされた。サンプルサイズが限られていたため、大規模な多変量解析は実施されなかった。本研究はNCT番号を有さない後方視的単施設研究であり、主要エンドポイントはOSおよびEFSである。