T790M-mediated resistance
一行要約
T790M (Thr790Met) は EGFR exon 20 の gatekeeper 残基変異で、1st/2nd 世代 EGFR-TKI (gefitinib / erlotinib / afatinib) への獲得耐性を示す EGFR 変異陽性 NSCLC の約 50-60% に出現する代表的耐性機序である。3rd 世代 EGFR-TKI osimertinib が T790M を選択的に阻害して 2L 標準を確立し、現在は 1L osimertinib が標準となったことで耐性 landscape の中心は post-osimertinib 機序へ移行している。
メカニズム
T790M は ATP 結合ポケットの gatekeeper 位 Thr790 がより嵩高い Met に置換する変異である。立体障害が一因ではあるが、主たる耐性機構は変異キナーゼの ATP (アデノシン三リン酸, adenosine triphosphate) 親和性が野生型に近い水準まで回復し、高濃度の細胞内 ATP が可逆的 TKI と競合する点にあると、結晶構造と酵素速度論の解析で示された (Yun et al. ProcNatlAcadSciUSA 2008)。第 2 世代不可逆 TKI (afatinib / dacomitinib) は T790M 活性を持つものの、野生型 EGFR への強い阻害が皮疹・下痢の用量制限毒性となり、克服に必要な体内濃度に到達できなかった。Osimertinib はモノアニリノピリミジン骨格で変異 EGFR の Cys797 に共有結合する mutant-selective 不可逆阻害薬であり、L858R/T790M に対し野生型の約 200 倍の選択性を示して T790M を克服する (Cross et al. CancerDiscov 2014)。Osimertinib への耐性としては共有結合の足場 Cys797 自体が置換する C797S が出現し、T790M と cis 配置にある場合は現行の全 EGFR-TKI に耐性となる一方、trans 配置では第 1 世代と第 3 世代 TKI の併用に感受性を残す (Ricordel et al. AnnOncol 2018)。osimertinib 耐性機序は三次 EGFR 変異 (C797S / L718Q / G724S)、バイパス RTK 活性化 (MET 増幅 / HER2 増幅 / RET 融合)、RAS-MAPK 下流活性化、組織学的転換 (SCLC / EMT) の 4 系統に整理される。ATP 競合という共通原理に立つ本機序は、ALK G1202R や ROS1 G2032R など他の driver の gatekeeper / solvent-front 耐性 (→ Solvent-front-mutation) を管理する paradigm の原型となった。
治療戦略
T790M+ 2L では osimertinib が標準であり、AURA3 第 III 相試験はプラチナ + pemetrexed に対し PFS 中央値 10.1 か月 vs 4.4 か月 (HR 0.30)、ORR 71% vs 31% と良好な忍容性を示した (Leonetti et al. BrJCancer 2019)。組織再生検に加え ctDNA (循環腫瘍 DNA, circulating tumor DNA) panel (cobas EGFR / Guardant360) による plasma genotyping が T790M 検出と耐性モニタリングに広く採用される。1L 標準が osimertinib に移行した現代では耐性 landscape が治療ラインで異なり、2L osimertinib 後は C797S (10-26%) と MET 増幅が最頻である一方、1L osimertinib 後は MET 増幅 (約 15%) が最多で C797S は約 7% と低く、原因不明が 40-50% を占める。MET 増幅・獲得 RET 融合・C797S などはいずれも組織再生検 + ctDNA で同定され、機序に応じた上乗せ治療 (MET 増幅には savolitinib 併用、獲得 RET 融合には選択的 RET 阻害薬 BLU-667 併用で約 78% の腫瘍縮小) が概念実証されている (Piotrowska et al. CancerDiscov 2018)。MET 増幅例での osimertinib + savolitinib の有効性は SAVANNAH/TATTON 系の検討でも支持される (Sequist et al. LancetOncol 2020)。C797S cis には 4th 世代 (allosteric) EGFR-TKI、SCLC 転換には白金系化学療法、pan-resistance には HER3-DXd / Dato-DXd などの ADC (抗体薬物複合体, antibody-drug conjugate) が検討される。1L 強化としては EGFR-MET 二重特異性抗体 amivantamab + lazertinib が MARIPOSA 試験で osimertinib 単剤に対し全生存を有意に延長し (HR 0.75、3 年生存率 60% vs 51%)、化学療法を含まない併用で耐性クローン出現を先回り抑制する戦略を確立した (Yang et al. NEnglJMed 2025)。FLAURA2 (osimertinib + プラチナ + pemetrexed) も並立する 1L 選択肢である。詳細な耐性スペクトラムは EGFR-T790M-resistance を参照。
Open Questions
- 1L osimertinib 後の最適シークエンス (C797S / MET 増幅 / 系統可塑性ごとの mechanism-stratified 治療と OS benefit)
- 1L osimertinib 耐性の 40-50% を占める原因不明機序の分子的解明
- C797S compound mutation (cis 配置) を標的とする 4th 世代 (allosteric) EGFR-TKI の臨床効果
- MET / RET / HER2 などバイパス機序への上乗せ併用の有効性と毒性 (ILD・VTE 等) の最適管理
- MARIPOSA 型 1L 併用強化 (amivantamab + lazertinib) と FLAURA2 など化学療法併用の使い分け・予測バイオマーカー
- Pan-resistance ADC (HER3-DXd / Dato-DXd) のシークエンスと予測バイオマーカー
- Drug-tolerant persister 由来の lineage plasticity (SCLC / EMT 転換) の予防・標的化
関連エンティティ・概念
- エンティティ: EGFR / EGFR-TKI / FLAURA / Osimertinib
- 関連概念: EGFR-T790M-resistance / EGFR-C797S-resistance / Solvent-front-mutation / Compound-mutation-resistance / ALK-TKI-resistance (並列 paradigm)
- ドメイン: lung-cancer-biology / lung-cancer-treatment