- 著者: Lecia V Sequist, Ji-Youn Han, Myung-Ju Ahn, Byoung Chul Cho, Helena Yu, Sang-We Kim, James Chih-Hsin Yang, Jong Seok Lee, Wu-Chou Su, Dariusz Kowalski, Sergey Orlov, Mireille Cantarini, Remy B Verheijen, Anders Mellemgaard, Lone Ottesen, Paul Frewer, Xiaoling Ou, Geoffrey Oxnard
- Corresponding author: Geoffrey Oxnard (Department of Thoracic Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-02-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 32027846
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) が標準的な一次治療として確立されている。しかし、EGFR-TKI治療後には薬剤耐性がほぼ必発し、その獲得耐性機序は多岐にわたる。中でもMET遺伝子増幅は重要な耐性機序の一つであり、第一世代および第二世代EGFR-TKI治療後の患者の約5〜10%に、第三世代EGFR-TKIであるosimertinib治療後の患者では最大25%に認められることが報告されている Engelman et al. Science 2007、Sequist et al. SciTranslMed 2011、Yu et al. ClinCancerRes 2013。MET増幅は、HER3を介したPI3K/Aktシグナル経路をバイパス活性化することで、EGFRの遮断効果を回避し、腫瘍細胞の増殖を促進すると考えられている。
これまでの前臨床研究では、EGFR-TKIとMET-TKIの併用療法が、MET増幅によるEGFR-TKI耐性を克服する可能性が示唆されていた。しかし、EGFR変異陽性かつMET増幅を有するNSCLC患者において、EGFR-TKIとMET-TKIの併用療法の安全性と有効性を臨床的に評価したデータは、本研究の開始時点では不足していた。特に、第三世代EGFR-TKIであるosimertinibと、高度に選択的かつ強力な経口MET-TKIであるsavolitinib (AZD6094/volitinib) の併用療法に関する臨床データは未解明であった。TATTON試験は、この知識ギャップを埋めることを目的として、osimertinibとsavolitinibの併用療法の安全性、忍容性、および抗腫瘍活性を評価する初の臨床試験として設計された。本研究は、MET駆動型耐性に対する併用療法の臨床的意義を確立するための重要な一歩となる。
目的
本研究の主要な目的は、EGFR変異陽性かつMET増幅を有する、EGFR-TKI治療後に進行した局所進行性または転移性NSCLC患者を対象として、osimertinib 80mgとsavolitinib (600mgまたは300mg) の併用療法の安全性および忍容性を評価することであった。これは主要評価項目として設定された。
副次評価項目としては、RECIST 1.1基準に基づく客観的奏効率 (ORR) を含む抗腫瘍活性の評価、奏効期間 (DoR)、病勢進行までの期間 (PFS)、およびベースラインからの標的病変サイズの変化を評価することであった。また、osimertinibとsavolitinibおよびそれらの代謝物の薬物動態 (PK) プロファイルの特性評価も副次評価項目に含まれたが、その結果は別途報告されることになっている。本研究は、特にMET駆動型耐性を示す患者群における併用療法の臨床的有用性を明確にすることを意図している。
結果
患者登録と治療実施: 2015年5月26日から2019年2月14日までに、Part Bには144例、Part Dには42例の患者が登録された。Part Bでは138例がosimertinibとsavolitinibの併用療法を受け、内訳はsavolitinib 600mgが130例、300mgが8例であった。Part Dでは全42例がosimertinibとsavolitinib 300mgの併用療法を受けた。Part Bの患者背景は、中央年齢59歳、女性59%、アジア人72%、ECOG PS 1が63%であった。前治療ライン数の中央値は2であった。Part Dの患者背景は、中央年齢62歳、女性60%、アジア人67%、ECOG PS 1が64%であった。Part Bの全患者は局所検査でMET陽性であり、104例 (75%) で中央でのMET増幅確認が可能であった。Part Dの全患者も局所検査でMET陽性であり、27例 (64%) で中央でのMET増幅確認が可能であった。
安全性プロファイル: Part Bにおいて、138例中135例 (98%) が何らかの有害事象を報告した。Grade 3以上の有害事象はPart Bで79例 (57%)、Part Dで16例 (38%) に認められた。Savolitinibに関連する可能性のある有害事象は、Part Bで115例 (83%)、Part Dで25例 (60%) に発生した。重篤な有害事象はPart Bで62例 (45%)、Part Dで11例 (26%) に報告された。治療関連死はPart Bで2例 (急性腎不全1例、原因不明1例) 発生した。最も頻繁に報告された有害事象 (全グレード、Part B/Part D) は、悪心 (49%/31%)、食欲不振 (34%/14%)、倦怠感 (35%/10%)、末梢浮腫 (32%/19%)、嘔吐 (33%/12%)、下痢 (28%/19%) であった (Table 2)。Grade 3以上の主な有害事象は、ALT増加 (Part B 5%、Part D 0%)、AST増加 (Part B 6%、Part D 0%)、肺炎 (Part B 3%、Part D 12%)、好中球数減少 (Part B 6%、Part D 2%) であった。Savolitinibの過敏症反応はPart Bで7% (10例) に観察されたが、プロトコル改訂による体重に応じた用量調整 (体重≤55kgで300mg) 後に減少傾向を示した。治療関連の永久中止はPart Bで29例 (21%)、Part Dで8例 (19%) であった。Savolitinibの用量減量はPart Bで28%、Part Dで12%の患者に実施された。
抗腫瘍活性 (客観的奏効率 [ORR]): Part B全体 (n=138) におけるORRは48% (66例; 95% CI 39-56) であり、全例が部分奏効 (PR) であった。完全奏効 (CR) は認められなかった。Part D (n=42) におけるORRは64% (23例; 95% CI 46-79) であり、Part Bよりも高い奏効率を示した。Part Bのサブコホート別のORRは以下の通りであった。
- B1 (第三世代EGFR-TKI前治療歴あり; n=69): 32% (95% CI 22-45)
- B2 (第三世代EGFR-TKI前治療歴なし、T790M陰性; n=51): 52% (95% CI 38-66)
- B3 (第三世代EGFR-TKI前治療歴なし、T790M陽性; n=18): 64% (95% CI 39-84) 中央でMET増幅が確認された患者群でのORRは、Part Bで45% (95% CI 36-55)、Part Dで66% (95% CI 47-82) であった。MET増幅のコピー数レベルが高い患者群では、より高いORRが示される傾向が認められた (Figure 2)。
奏効持続期間 (DoR) と無増悪生存期間 (PFS): Part B全体におけるDoR中央値は9.7ヶ月 (95% CI 5.6-12.0) であった。PFS中央値は5.5ヶ月 (95% CI 4.2-8.3) であった。Part DにおけるDoR中央値は9.3ヶ月 (95% CI 6.0-15.0) であり、PFS中央値は9.1ヶ月 (95% CI 5.9-13.4) であった。Part DではPart Bと比較して良好なPFSとDoRが観察された。これは、Part Dの患者群が前治療歴が少なく、T790M陰性であったこと、およびsavolitinib 300mgの用量設定が安全性と有効性のバランスに寄与した可能性が考えられる。
考察/結論
TATTON Part BおよびPart D試験の中間結果は、EGFR変異陽性かつMET増幅を有するEGFR-TKI耐性NSCLC患者において、osimertinibとsavolitinibの併用療法が許容可能な安全性プロファイルと有望な抗腫瘍活性を示すことを明らかにした。本研究は、MET駆動型耐性に対するEGFR-TKIとMET-TKIの併用療法の臨床的有効性を初めて定量的に評価したものである。
先行研究との違い: これまでの研究では、MET増幅がEGFR-TKI耐性の重要なメカニズムであることは示唆されていたものの、EGFR-TKIとMET-TKIの併用療法の臨床データは不足していた。本研究は、特に第三世代EGFR-TKIであるosimertinibとsavolitinibの併用に着目し、その安全性と有効性を評価した点で、これまでの研究とは対照的である。
新規性: Part B全体で48%、Part Dで64%という客観的奏効率 (ORR) は、MET駆動型耐性を示す患者群において、この併用療法が新規かつ有望な治療選択肢となり得ることを示唆している。特に、Part D (前第三世代EGFR-TKI未使用、T790M陰性、MET増幅) でのORR 64%は、この特定の患者群における併用療法の高いポテンシャルを本研究で初めて示した。
臨床応用: 本研究の知見は、EGFR-TKI治療後にMET増幅による耐性を獲得したNSCLC患者に対する新たな治療戦略の臨床応用に直結する。特に、savolitinib 300mgの用量でGrade 3以上の有害事象がPart B (57%) よりもPart D (38%) で低率であったことは、低用量savolitinibの採用が安全性改善の鍵となり、より多くの患者にこの併用療法を提供できる可能性を示唆している。これは、EGFR-TKI耐性後のバイオマーカー誘導治療戦略の推進に貢献する臨床的意義を持つ。
残された課題: しかし、Part Bで57%の患者にGrade 3以上の有害事象が認められたように、高率の毒性は依然として忍容性上の課題として残されている。リスク・ベネフィット比のさらなる精緻化と、最適な用量設定の検討が今後の課題である。また、本研究は第1b相試験であり、より大規模な第2相および第3相試験による有効性と安全性の確認が必要である。TATTON試験の知見をもとに、後継試験であるSAVANNAH (osimertinib後のMET増幅例; NCT03778229) およびORCHARD (osimertinib後の広義の耐性機序; NCT03944772) が設計されており、これらの試験からさらなるデータが得られることが期待される。
方法
TATTON試験 (NCT02143466) は、2014年に開始された多施設共同、多アーム、非盲検の第1b相試験であり、7カ国 (カナダ、日本、ポーランド、ロシア、韓国、台湾、米国) で実施された。本研究では、EGFR変異陽性、MET増幅を有する局所進行性または転移性NSCLC患者で、EGFR-TKI治療後に病勢進行を認めた18歳以上の成人患者を登録した。ECOGパフォーマンスステータスは0-1、最低余命12週以上、RECIST 1.1基準で測定可能な病変を有することが組み入れ基準であった。主要な除外基準には、savolitinibまたは他のMET阻害薬による前治療歴、および試験薬初回投与前14日以内の細胞傷害性化学療法や他の抗がん剤治療が含まれた。
MET増幅は、登録前に局所検査で確認された。検査法としては、組織蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH; MET遺伝子コピー数≥5またはMET-CEP7比≥2)、組織免疫組織化学 (IHC; MET +3発現が腫瘍細胞の≥50%)、または次世代シーケンシング (NGS; 腫瘍細胞≥20%、シーケンス深度≥200倍、METコピー数≥5) が許容された。T790M変異ステータスも中央または局所検査で確認された。
本報告では、2つの拡大コホート (Part BおよびPart D) の中間結果が提示された。
- Part B: 以前にEGFR-TKI治療を受けたMET増幅陽性患者を対象とした。
- B1: 第三世代EGFR-TKIによる前治療歴がある患者。
- B2: 第三世代EGFR-TKIによる前治療歴がなく、T790M陰性の患者。
- B3: 第三世代EGFR-TKIによる前治療歴がなく、T790M陽性の患者。
- 投与レジメンはosimertinib 80mgとsavolitinib 600mgを毎日経口投与とした。ただし、プロトコル改訂 (2018年3月12日) 後は、体重55kg以下の患者にはsavolitinib 300mgが投与された。
- Part D: 第一世代または第二世代EGFR-TKI治療後に進行し、第三世代EGFR-TKIによる前治療歴がなく、T790M陰性かつMET増幅陽性の患者を対象とした。
- 投与レジメンはosimertinib 80mgとsavolitinib 300mgを毎日経口投与とした。
主要評価項目は安全性と忍容性であり、全投与患者で評価された。副次評価項目はRECIST 1.1に基づく客観的奏効率 (ORR)、奏効期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS) であり、全投与患者および中央でMET増幅が確認された患者で評価された。有害事象はNCI-CTCAE v4.03に基づきグレード分類され、治験薬との関連性が評価された。腫瘍評価はベースライン時および治療開始後6週間ごと (サイクル7まで)、その後8週間ごとにCTまたはMRIで実施された。統計解析にはSAS (version 7.13) が使用され、Kaplan-Meier法による生存解析も行われた。データカットオフは2019年3月29日であった。