• 著者: Bohyun Moon, Suhwan Chang
  • Corresponding author: Suhwan Chang (Asan Medical Center, Department of Biomedical Sciences, University of Ulsan College of Medicine)
  • 雑誌: Cells
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-01-18
  • Article種別: Review
  • PMID: 35159126

背景

がんは世界的に主要な死亡原因の第2位であり、年間900万人の死亡と約1810万人の新規症例が報告されている Sung et al. CACancerJClin 2021。現在の主要ながん治療法である化学療法は、急速に増殖するがん細胞を標的とするが、非選択的であるため正常組織にも損傷を与え、吐き気や嘔吐などの重篤な副作用を引き起こす。さらに、薬剤の組織浸透性が低いため、高用量が必要となり、正常細胞への毒性が増大するという課題がある。このため、標的のがん細胞に効果的に到達し、副作用を軽減しつつ治療効果を向上させる化学療法の開発が強く求められている。

近年、治療効果を向上させるための薬物送達システムであるDDS (drug delivery system) の開発が盛んに行われている。ナノテクノロジーの利用は、臨床治療に大きな影響を与えてきた。従来の化学療法剤と比較して、ナノスケールの薬物キャリアは、EPR (Enhanced Permeability and Retention) 効果による腫瘍への高い選択的蓄積や、能動的な細胞取り込みといった利点により、正常細胞への毒性を回避しつつ治療効果を向上させる。しかし、合成ナノキャリアは、その毒性や生体適合性の低さ、単核食細胞系であるMPS (mononuclear phagocyte system) による迅速なクリアランスといった根本的な課題を抱えている。これらの課題を克服するため、ポリエチレングリコールによるリポソーム表面の立体安定化が広く用いられてきたが、これはオプソニンの吸着を減らし、MPSによる認識を低下させることで、循環時間の延長と腫瘍への送達改善をもたらすとされている。しかし、PEG化はMPSによるクリアランスを減少させる一方で、ナノ製剤と標的細胞やバリア細胞との相互作用を低下させ、病変組織における薬剤の生体内分布を減少させる。さらに、PEGは抗体関連の免疫反応を誘発し、血液クリアランスを加速させるという新たな問題も生じる。これらの問題により、従来の合成ナノキャリアには限界があり、より効果的で安全なDDSの開発が不足している状況である。

これに対し、エクソソームは、生体適合性、免疫回避、バリア透過性といった利点から、がん治療における薬物送達システムとして大きな可能性を秘めている。エクソソームは、直径40〜100 nmの細胞由来小胞であり、タンパク質、脂質、核酸を内包する天然のナノキャリアである。エクソソームは、その天然由来の低免疫原性、生物学的バリア透過能、固形腫瘍への浸透能、in vivoでの長期作用性といった優位性を持つ。がん細胞は正常細胞の約10倍のエクソソームを分泌し、腫瘍微小環境であるTME (tumor microenvironment) の形成・維持・前転移ニッチ形成に深く関与することが明らかとなっている Skog et al. NatCellBiol 2008。しかし、天然エクソソームの低収率、高コスト、および生産方法の標準化の欠如は、その広範な臨床応用を制限する要因となっている。これらの課題を克服するため、人工エクソソームの開発が進められているが、その大規模生産、精製、薬物搭載、および安定性に関する課題が残されており、このギャップを埋める研究が未解明な部分が多い。エクソソームの生物学的機能が近年になってようやく特定されたばかりであり、その薬物送達キャリアとしての可能性は未開拓な領域である。このように、天然エクソソームの臨床応用には依然として多くの課題が残されており、人工エクソソームの製造技術や効率的な薬物搭載法に関する体系的な知見が不足しているという大きなknowledge gapが存在している。

目的

本レビューの目的は、エクソソームががん治療における薬物送達システム (DDS) として持つ可能性を包括的に評価することである。具体的には、天然エクソソームの多様な細胞起源とその免疫機能への影響、人工エクソソームの利点と課題、エクソソームの単離・精製技術、薬物搭載アプローチ、腫瘍微小環境 (TME) との相互作用、および工学的標的化戦略について詳細に検討する。最終的に、エクソソームを基盤としたがん治療の現状と将来的な臨床応用への展望を提示することを目的とする。本レビューは、エクソソーム研究の現状における知識ギャップを埋め、次世代のがん治療法開発に向けた基礎情報を提供することを目指す。

結果

エクソソームの基本構成と共通マーカー: エクソソームは脂質二重膜(コレステロール、ジアシルグリセロール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリンが豊富)を有し、表面にテトラスパニン(CD9、CD63、CD81、CD82)、アネキシン、Rab GTPase、フロチリン、TSG101、Alix、インテグリンを発現する。内部にはmRNA、miRNA、非コードRNA、cDNA、HSP (Heat Shock Protein)、リソソームタンパクが含まれる。ホスファチジルセリンはリン脂質輸送酵素によって外葉に露出し、標的細胞との膜融合を促進する。エクソソームは血液、尿、気管支肺胞洗浄液、母乳、羊水、滑液、腹水など多様な体液中に安定して存在することが報告されている。これらの特性は、エクソソームが天然のナノキャリアとして多様な生体環境で機能する基盤となっている (Figure 1)。

細胞種別エクソソームの特性と免疫機能: DC (樹状細胞) 由来エクソソームはMHC I、MHC II、CD86、HSP70/HSP90を発現し、CD4+ T細胞とCD8+ T細胞の両方を活性化できる。IL-2の共刺激とエクソソーム上のペプチドにより、MHC IがCD8+ T細胞に受け渡されてin vivoで強力な抗腫瘍免疫が誘導されることが示されている (Figure 1)。NK細胞由来エクソソームはNKG2D、CD94、パーフォリン、グランザイム、CD40LなどのNKマーカーおよびキラータンパクを内包し、MHC I陰性の腫瘍細胞を直接傷害する。NKエクソソームは腫瘍組織内に拡散して細胞溶解活性を発揮し、腫瘍部位へのNK細胞のホーミング不足を補完する。マスト細胞由来エクソソームはCD63+、OX40L+として、OX40L-OX40相互作用を介しCD4+ Th2細胞の増殖・分化を促進し、未熟DCにMHC II、CD40、CD80、CD86の発現を誘導してT細胞への抗原提示能を付与する。好中球由来エクソソームはインテグリンMac-1と好中球エラスターゼを介して細胞外マトリックスを分解し、炎症性疾患の進展に関与する。間葉系幹細胞由来エクソソームはMHC I/II、共刺激分子 (CD80、CD86) を欠如し免疫検出を回避できる。MSC由来EVは異なる動物モデル (n=20 mice) で比較的良好な耐容性を示し、ヒト血漿中での安定性と持続性に優れる。

薬物搭載法の比較と効率: 薬物搭載アプローチは、細胞ベース法(ドナー細胞にカーゴを導入後エクソソームを回収)と非細胞ベース法(単離EVへの直接ローディング)に大別される。主要な非細胞ベース法として、ソニケーション、エレクトロポレーション、混合(インキュベーション)、サポニン透過化が報告されている。マウスマクロファージ (Raw264.7) 由来エクソソームへのパクリタキセル (PTX) 搭載では、ソニケーションで搭載量 (loading capacity) 28.29 ± 1.38%、エレクトロポレーションで5.3 ± 0.48%、単純混合で1.4 ± 0.38%であり、ソニケーションが最高効率を達成した (Table 2)。ドキソルビシン (Dox) 搭載ではソニケーションで封入効率8〜11%、未熟DCへのエレクトロポレーションで<20%、一次未熟DC (マウス) へのsiRNAエレクトロポレーションで10〜38%が報告された。カタラーゼ搭載ではソニケーション26.1 ± 1.2%、サポニン透過化18.5 ± 1.3%、混合4.9 ± 0.5%と搭載法間で大きな差異が認められた。ソニケーションはマクロファージ由来エクソソームに、エレクトロポレーションは一次DC由来エクソソームに有効な手法とされる。

エクソソーム単離精製法の特徴: 超遠心分離法 (differential centrifugation) は最も汎用されるゴールドスタンダードで低コスト・高純度・大量生産が可能だが、時間がかかり機械的損傷リスクがある。密度勾配超遠心分離 (スクロースまたはイオジキサノール) は最高純度のエクソソームを得られるが、平衡達成に時間を要する。限外ろ過 (ultrafiltration) は時間・コスト面で優れ専用設備不要だが、純度は中程度で機械的損傷の可能性がある。サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) は可溶性タンパク夾雑物除去が可能でスケールアップしやすいとされる。免疫親和性分離 (抗体コートビーズ・プレート・クロマトグラフィーマトリックス) は高純度・化学夾雑物なしで迅速だが、高コストで大量生産に不向きである。臨床試験では接線流分画 (TFF) と超遠心分離の組み合わせが最も頻用され、純度・均一性・完全性を最大化する手法として採用される (Table 1, Figure 2)。これらの方法は、エクソソームの特性や目的によって使い分けられる。

エクソソームの腫瘍微小環境 (TME) への関与: 腫瘍細胞は正常細胞の10倍の分泌効率でエクソソームを産生し、癌関連線維芽細胞 (CAF) と腫瘍関連マクロファージ (TAM) と相互作用してTMEを形成する。膵がん由来エクソソームはTGFβシグナルを介して肝星細胞を活性化し、フィブネクチン蓄積による骨髄由来マクロファージの肝臓への流入を促進して肝転移前ニッチを構築する Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015。乳がん細胞由来エクソソームはmiR-21を破骨細胞に転送して骨転移前ニッチを形成する Zhou et al. CancerCell 2014。腫瘍細胞由来エクソソームは遠隔臓器に適応的変化を誘導し、二次転移病巣形成に有利な環境 (pre-metastatic niche) を整備する (Figure 3)。CAFから分泌されるサイトカインであるCXCL (C-X-C motif chemokine ligand)、IL-6、TGFβを標的化したエクソソームが将来的な標的治療戦略として期待される Lambrechts et al. NatMed 2018。HSPはがんにおいてアポトーシス抑制・免疫回避・血管新生・転移促進・薬剤耐性関連分泌表現型の媒体として機能するため、治療用エクソソームへの組み込みは最小化することが推奨される。

標的化工学と機能増強戦略: iRGD (internalizing RGD peptide) 修飾エクソソームは腫瘍血管に豊富なαvβ3・αvβ5インテグリンへの高結合親和性を示し、DC由来エクソソームと組み合わせると化学薬剤単独より効率的に乳がんを標的化できる Tian et al. Biomaterials 2014。CD47修飾によりMPSによる取り込みが低減し血中循環が延長する。一方、カチオン化マンナン修飾EVはMPSを飽和させる「eat me戦略」として機能する。エクソソームに天然存在するメタロプロテイナーゼはECM分解を介してエクソソーム媒介薬物送達の効率を増強する可能性がある。メラノーマエクソソームがセンチネルリンパ節にホーミングする固有能力は、エクソソームが内在的な組織指向性 (organotropism) を持つことを示す Hood et al. CancerRes 2011

臨床応用の現状: 静脈内 (IV: intravenous) 投与がエクソソームのin vivo解析で最多用経路 (78%) であり、肝臓、肺、脾臓、腎臓への集積が最も多い。抗がん薬搭載エクソソームを用いた前臨床・臨床研究として、マクロファージ由来エクソソームへのドキソルビシン・PTX搭載(多剤耐性がん)、DC由来エクソソームへのVEGF siRNA搭載(乳がん)、好中球由来エクソソームへのドキソルビシン搭載(悪性グリオーマ)、MSC由来エクソソームへのドキソルビシン搭載(大腸がん)、牛乳由来エクソソームへのPTX搭載(肺がん)など多様なモデルが報告されている (Table 3)。またTRAIL (腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド) 搭載EVが胸膜中皮腫、腎がん、乳腺腺がん、神経芽腫、メラノーマに対して複数の細胞源で検討されている。がん分野ではCRISPR/gRNA、siRNA、アプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチドのエクソソーム送達も探索段階にある。

考察/結論

エクソソームは、低免疫原性、長期安全性、非細胞毒性の観点から合成ナノ粒子を凌駕する薬物送達プラットフォームである。天然エクソソームは血液脳関門、内皮、細胞、組織バリアをトランスサイトーシスにより通過できるが、合成ナノ粒子はこれらを透過できない。また、胃酸、ファゴリソソーム、腫瘍組織の低酸素・酸性環境に対する高い耐性を示す Parolini et al. JBiolChem 2009。人工エクソソームは特定表面分子の固定により標的部位での局所濃度を高め、毒性・副作用を低減しながら治療効果を最大化できる可能性がある。

先行研究との違い: これまでのPEGylatedリポソームは加速クリアランスや免疫反応誘発が問題となるが、エクソソームは「don’t eat me」シグナルを内在的に保有する点で優れる。本レビューは、天然エクソソームと人工エクソソームの起源、単離・精製法、薬物搭載アプローチ、腫瘍微小環境 (TME) との相互作用、工学的標的化戦略、および臨床応用の現状について、包括的かつ系統的に整理した点で、先行研究と異なる。特に、ソニケーションやエレクトロポレーションなどの定量的搭載効率データと、iRGD修飾やCD47修飾といった工学的戦略を詳細に比較検討した点は新規性がある。

新規性: 本研究で初めて、エクソソームが持つ多様な細胞起源ごとの特性と、それが免疫応答に与える影響を詳細に分析し、それぞれの細胞種由来エクソソームががん治療においてどのような利点を持つかを新規に提示した。また、人工エクソソームの設計において、特定の表面分子を固定することで標的特異性を高める戦略が、毒性低減と治療効果最大化に繋がる可能性を強調した。

臨床応用: エクソソームは、その生体適合性とバリア透過性から、がん治療における次世代の薬物送達システムとして臨床応用への大きな可能性を秘めている。特に、腫瘍微小環境への標的化や、多剤耐性がんに対する治療薬の送達において、臨床的有用性が期待される。CRISPR/gRNA、siRNA、アプタマーなどの遺伝子治療薬の送達キャリアとしても、その応用が拡大する可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームの大量生産の標準化、安定した製剤の開発、厳格な品質管理、および臨床グレード製造プロセスの確立が挙げられる。また、エクソソームの生体内動態や長期的な安全性プロファイルのさらなる解明も不可欠である。非がん分野ではすでに臨床試験が進行しているが、がん治療への本格的な臨床応用実現にはこれらの障壁の克服が不可欠である。

方法

本研究は、エクソソームを薬物送達システムとして用いたがん治療に関する包括的なレビューである。特定の実験プロトコルや患者コホートを用いた研究ではないため、実験的な「方法」セクションは適用されない。レビューの対象となる文献は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて検索された。検索キーワードには、「exosome」、「extracellular vesicles」、「drug delivery」、「cancer therapy」、「nanoparticles」、「tumor microenvironment」などが含まれた。関連する原著論文、レビュー記事、総説が収集され、エクソソームの生物学的特性、単離・精製方法、薬物搭載技術、腫瘍微小環境における役割、および臨床応用に関する最新の知見が分析された。特に、エクソソームの細胞起源による特性の違い、人工エクソソームの開発状況、および標的化戦略に焦点を当てて情報を整理した。薬物搭載効率に関する数値データや、エクソソームの生体内分布に関する報告も詳細に検討された。本レビューでは、エクソソームの利点と課題を比較検討し、将来的な研究の方向性と臨床応用の可能性について考察した。文献検索は2021年10月までに行われた論文を対象とし、主に英語で出版された論文が選定された。文献の選定基準は、エクソソームの基礎研究から臨床応用までを網羅し、特に薬物送達システムとしての側面を詳細に記述しているものを優先した。系統的レビューの原則には従うが、特定のメタ解析手法は適用されていない。本レビューでは、文献の質を評価するためにGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムのような厳密なエビデンスレベルの評価は適用していないが、各研究の報告されたデータの一貫性と信頼性を考慮した。また、本レビューで言及される基礎研究データには、A549、H1299、MCF-7、HEK293T、Raw264.7 (マウスマクロファージ細胞株) などの細胞株 (cell line) を用いたin vitro実験や、C57BL/6J、BALB/c、NSG、NOD/SCIDなどのマウス系統 (mouse strain) を用いたin vivo実験が含まれる。統計的解析手法として、生存率解析におけるKaplan-Meier法やlog-rank検定、多変量解析におけるCox regressionモデル、2群間比較におけるMann-WhitneyのU検定やFisher’s exact検定などの適用状況についても整理した。