• 著者: Jonathan Cooper, Filippo G. Giancotti
  • Corresponding author: Filippo G. Giancotti (UT MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 30889378

背景

Integrin は 1980 年代後半の発見以来、細胞接着とシグナル伝達を担う受容体ファミリーの中核として位置づけられ、ECM (extracellular matrix) への結合を介して生存・増殖・遊走・細胞運命転換を制御する (Giancotti and Ruoslahti, 1999; Hynes, 1992)。とりわけ integrin は RTK (receptor tyrosine kinase) と共役して Ras-ERK 経路や PI3K-AKT 経路を最適に活性化し、サイトカイン・増殖因子受容体の作用に位置情報的制御を与える (Danen and Yamada, 2001)。しかし KRAS のような prevalent な oncogenic 変異が integrin と RTK 双方の下流シグナルを脱制御するため、初期には「腫瘍細胞はもはや integrin シグナルに依存しない」と論じられた (Schwartz, 1997)。

この見方に反し、その後の遺伝学・生化学研究は、integrin が促有糸分裂・促生存シグナルを buttress するだけでなく、腫瘍開始から休眠播種腫瘍細胞の転移再活性化に至る多様な過程を直接制御することを示してきた (Desgrosellier and Cheresh, 2010; Guo and Giancotti, 2004)。一方で、mechanotransduction・stemness・上皮可塑性・治療抵抗性という新規機能の分子基盤と context 依存性の決定因子については体系的整理が不足しており、Cilengitide の臨床的失敗が示すように治療標的化の合理的枠組みも手薄であった。本総説はこの gap in knowledge を埋めることを企図する。

目的

癌における integrin シグナル制御異常の起源・機序・帰結を、mechanotransduction・stemness・上皮可塑性・治療抵抗性という新規機能を中心に統合し、それらの context 依存性を規定する決定因子を明らかにすることを目的とする。さらに、これまで Phase III 試験で頓挫してきた integrin 標的治療の失敗を analytical に再評価し、機序ベースの治療機会 (FAK 阻害、併用戦略、診断 probe) を提示する。

結果

Integrin シグナルの基本構造と RTK 協調:Integrin は 24 種のヘテロ二量体受容体から成り、ECM や対向受容体に結合する (Figure 1A)。リガンド結合または細胞内 GTP-Rap1 → MRL タンパク (RIAM, lamellipodin) → talin 結合が大規模なアロステリック構造変化を誘導し、bent から extended conformation へ移行して inside-out 活性化が起こる (Figure 1B)。talin と kindlin が actin 細胞骨格に連結して integrin clustering を促し、FAK (focal adhesion kinase) と SFK (Src family kinase) を活性化する (Figure 1C)。これらは Ras-ERK・PI3K-AKT・YAP-TAZ 経路と転写因子 (MRTF-SRF, AP-1, FOXO 抑制, YAP-TEAD) に収束し、integrin と RTK が additive・co-dependent・synergistic に Shc/PI3K/Rac/MEK を活性化する (Figure 2A, 2B)。正常細胞では強い負のフィードバックが flux を制限し腫瘍化の barrier となる。

癌での integrin シグナル脱制御の機序:脱制御は 3 経路で起こる (Figure 3, Figure 4)。(1) ECM 組成・構造変化: HIF1 が誘導する LOX (lysyl oxidase) が collagen I を架橋して tumor stiffness を上昇させ integrin シグナルと増殖を増強する (Levental et al., 2009)。(2) integrin レパートリ変化: 活性型 KRas/BRAF が促腫瘍性の α6/β3 を ERK 経由で誘導し、tumor suppressor microRNA miR-25 喪失が同 mRNA の silencing を解除する (Zoni et al., 2015)。gain-of-function TP53 変異は p63 を dominant negative に阻害し、Rab-coupling protein を介して α5β1 と EGFR のリサイクルを亢進させて EMT 転写因子 TWIST1 を誘導する。(3) 配線再構築: FAK をコードする PTK2 は卵巣癌の約 40%、浸潤性乳癌の約 25% で増幅/過剰発現し、SRC は大腸癌の約 10% で増幅、LKB1 は NSCLC (non-small cell lung cancer) の約 25% で不活化される。

遺伝学的証明 — 腫瘍開始・進展での必須性:マウス遺伝学研究は integrin/FAK が腫瘍開始と進展に必須であることを組織横断的に示す (Figure 5)。表皮基底層での構成的活性型 β1 発現は化学発癌モデルで papilloma の SCC (squamous cell carcinoma) への転換を促進し、逆に talin/kindlin 結合を担う NPXY motif 変異はこれを阻害する (Meves et al., 2011)。乳癌では Itgb1 または Fak 欠失が PyMT 誘導腫瘍化を阻害し、効率的な MMTV-Cre による Fak 欠失は腫瘍形成をほぼ完全に遮断する (Pylayeva et al., 2009)。ErbB2 駆動 (MMTV-Neu) 乳癌では FAK 欠失の効果は小さいのに対し、b4 integrin signaling domain の標的欠失が c-Jun リン酸化と STAT3 活性化を遮断して進展を強く抑える (Guo et al., 2006)。前立腺癌 (Pb-TAg/Pten loss)・骨髄性白血病 (αvβ3 依存) でも integrin が幹細胞性と engraftment に必須である。

Stemness と CSC 自己複製の制御:CSC (cancer stem cell) は niche-integrin シグナルを cooptして自己複製を駆動する (Figure 6)。GBM (glioblastoma) と皮膚腫瘍では VEGF が周血管 niche を形成し、CSC が laminin 結合性 α6β1 を介して内皮基底膜に接着し FAK 経由で自己複製シグナルを受ける (Lathia et al., 2010)。より未熟な GBM・食道癌 CSC は α7β1 に依存する。TNBC (triple-negative breast cancer) では α6β1 が VEGFR2-neuropilin2 複合体と会合して FAK/ERK と Hedgehog 経路を活性化し、α6 細胞質ドメインのスプライス変異体が β1 と対合して TAZ を活性化し laminin 511 を過剰産生する (Chang et al., 2015)。基底型乳癌 CSC では αvβ3 が Slug 発現を介して FAK 非依存的に腫瘍開始能を支え、EGFR 阻害剤抵抗性 CSC では αvβ3 が KRas-NFκB を活性化する (Seguin et al., 2014)。白血病幹細胞も CD98 と αvβ3 (osteopontin 結合) に依存する。

EMT・上皮可塑性・mechanotransduction:αv integrin (αvβ6, αvβ8) は LAP を引っ張って TGFβ を活性化し、canonical EMT で間葉系マトリクスとその integrin 受容体の発現を誘導する。一方 pEMT (partial EMT) では FAK/SFK が E-cadherin-β-catenin 複合体を直接リン酸化して plastic 接着を保ち集団遊走を可能にする。β4 と CD44 は hybrid epithelial/mesenchymal (E/M) state の CSC マーカーである (Bierie et al., 2017)。剛性 ECM は vinculin 依存的な adhesion clutch 補強と catch bond 形成で機械力を感知し、bulky glycocalyx が integrin clustering を増強して FAK 活性化を高める (Paszek et al., 2014)。MMTV-Neu 乳癌では LOX 架橋が PI3K と miR-18a/PTEN 経路を活性化し (Mouw et al., 2014)、GBM では integrin-FAK mechanosignaling が mesenchymal/stem 表現型と侵潤・治療抵抗性を feedforward に促進する (Barnes et al., 2018)。

転移カスケードと exosome integrin organotropism:転移過程で integrin は CTC (circulating tumor cell) clusters の生存、αvβ3 結合 platelet による NK 認識回避、α4β1 介在の lymphangiogenesis と所属リンパ節 colonization を担う。低酸素腫瘍が分泌する LOX は骨髄前駆細胞を介して肺 pre-metastatic niche を形成する (Kaplan et al. Nature 2005)。膵癌・メラノーマ由来 exosome は肝・骨髄前駆細胞を教育して niche 形成を駆動し (Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015Peinado et al. NatMed 2012)、とりわけ exosome 上の integrin レパートリが転移臓器指向性を規定する: α6β4/α6β1 を持つ exosome は肺常在上皮・線維芽細胞へ、αvβ5 を持つ exosome は肝 Kupffer cells へ home する (Hoshino et al. Nature 2015)。休眠播種細胞は β1 integrin と FAK 活性化により stiff matrix 上で再活性化し、NET (neutrophil extracellular trap) が laminin を切断して α3β1 と YAP を活性化することで炎症が転移再活性化を誘発する (Albrengues et al. Science 2018) (Figure 8B)。

治療抵抗性と治療標的化:matrix 結合 β1 integrin は DNA 修復と促生存シグナルを活性化して放射線抵抗性を、α5β1 は p53 抑制を介して GBM の temozolomide 抵抗性を付与する。ErbB2 陽性乳癌では α6β4/α3β1 阻害が lapatinib/trastuzumab 感受性を回復させ、FAK 欠失/阻害は CCL5 分泌と制御性 T 細胞動員を遮断して KPC 膵癌モデルで免疫チェックポイント療法の感受性を回復させる (Jiang et al., 2016)。治療開発では αvβ3/αvβ5 標的 RGD ペプチド Cilengitide が GBM の phase III CENTRIC 試験 (MGMT methylation で層別化、n=545) で OS エンドポイントを達成できず頓挫し (cilengitide 群・対照群とも median OS 26.3 か月、OS の HR 1.02、95% CI 0.81-1.29、p=0.86)、FAK/PYK2 阻害剤 defactinib も中皮腫 phase II (NCT01870609) で NF2 変異状態に依らず poor performance で中止された。一方 αvβ3 は proneural/classic 亜型 GBM 幹細胞の生存を YAP/TAZ-Glut3 経由で支え、αv 標的 18F/68Ga-PET (positron emission tomography) probe や αvβ6 標的 ADC (antibody-drug conjugate)、integrin 標的 siRNA ナノ粒子が診断・治療技術として発展している。

考察/結論

本総説は integrin が癌における “structural” な接着受容体から “functional master regulator” へとパラダイム転換した最新理解を統合し、mechanotransduction・stemness・上皮可塑性・治療抵抗性・exosome organotropism という 5 つの新規機能軸を体系化した点に意義がある。①これまでの研究との違い: 初期に支配的だった「腫瘍細胞は integrin 非依存」という見方 (Schwartz, 1997) とは対照的に、本稿は遺伝学的エビデンス (Fak/Itgb1/b4 欠失が腫瘍開始を遮断) を統合し、既報の促有糸分裂シグナル buttress 説を超えて integrin が運命転換を直接制御することを論証する。②新規性: mechanotransduction が rigid ECM を能動的に読み取り CSC 自己複製と治療抵抗性を駆動するという視点、および hybrid E/M state の CSC マーカーとしての β4-CD44 は、本研究で初めて統合的に提示された novel な枠組みである。

③臨床応用: Cilengitide の Phase III 失敗の臨床的意義は、(a) 感受性 biomarker の不在、(b) αv/α5/fibronectin が腫瘍血管新生に dispensable であった事実、(c) integrin の context-dependent な二面性 (促進/抑制) を考慮しなかった点に集約され、bench-to-bedside での教訓となる。今後は GEMM/PDX を用いた時間制御的遺伝子欠失で integrin 依存性を事前評価し、biomarker 駆動の臨床試験へ橋渡しすることが、臨床的有用性を確保する合理的経路となる。具体的には PTK2 増幅乳癌・卵巣癌での FAK 阻害剤、squamous/膵癌での FAK 阻害 + 免疫チェックポイント併用、αvβ3 陽性 proneural GBM の層別化治療、exosome integrin tropism を活用した臓器特異的薬剤送達が有望である。④残された課題: exosome integrin の臓器特異性を規定する分子基盤、CSC が正常幹細胞より integrin 依存性が高いか否か、long-range な mechanosensitive 核-クロマチン連関の腫瘍学的重要性は未解明であり、これらは今後の検討を要する limitation である。総じて本稿は integrin biology の reference として、機序駆動の治療開発に向けた future research の方向性を提示する。

方法

本稿は narrative review (非系統的レビュー) であり、PubMed-indexed の一次文献を網羅的に統合する形式を採る。形式的な systematic search protocol・メタ解析・統計的プーリングは適用しておらず、定量的効果量や p 値の再計算は行っていない。代わりに、(1) 遺伝子改変マウスモデル (GEMM; genetically engineered mouse model) における条件付き遺伝子欠失・点変異 (例: Itgb1 / Fak 欠失、integrin NPXY motif 変異、b4 signaling domain 欠失) の表現型解析、(2) patient-derived xenograft (PDX) を用いた依存性検証、(3) TCGA (The Cancer Genome Atlas) などのゲノムデータに基づく遺伝子増幅・変異頻度、(4) Cilengitide CENTRIC/CORE や defactinib (NCT01870609) などの臨床試験成績、を主要な evidence base として横断的に参照する。引用する臨床試験の生存成績は Kaplan-Meier 法・log-rank 検定・Cox 比例ハザードモデルによる群間比較を、前臨床データは ANOVA や t 検定による有意差検定を、各一次論文の報告値のまま引用する形で扱い、本稿独自の再解析・effect size 再計算は行わない。

機序の記述は、integrin の inside-out / outside-in 双方向アロステリック制御、talin/kindlin による clustering、FAK-SFK 複合体形成、Rho ファミリー GTPase (Cdc42/Rac/Rho) の局所活性化、MRTF-SRF・AP-1・YAP-TEAD などの転写出力という階層に沿って構成される。エクソソーム integrin による臓器指向性については、Hoshino らの proteomic 解析と機能実験を一次根拠として扱い、本稿独自の実験データは含まない。