• 著者: Clifford V. Harding, John E. Heuser, Philip D. Stahl
  • Corresponding author: Philip D. Stahl (Washington University School of Medicine, St. Louis, MO)
  • 雑誌: The Journal of cell biology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 23420870

背景

エクソソームは直径40-150 nmの脂質二重膜小胞であり、多胞体 (MVE; multivesicular endosome) の内腔に形成された小胞が、MVEの形質膜との融合・エクソサイトーシスによって細胞外に放出されることで生じる。この現象は1983年に初めて報告され、本コメンタリーは、その発見から30年目の2013年に、3名の原著者 (Harding CV、Heuser JE、Stahl PD) がエクソソーム発見の歴史的経緯、その後の30年間の主要な研究進歩、さらに将来の診断・治療への展望を振り返ったものである。

エクソソームの概念は、当初は網状赤血球におけるトランスフェリン受容体 (Tf-R) の細胞外排出メカニズムとして認識された。当時のワシントン大学セントルイス校において、Stahl研究室はリセプター介在性エンドサイトーシス・リサイクリング経路の研究に注力しており、一方Heuser研究室はdeep-etch電子顕微鏡法という先進的な技術を開発していた。C.V. HardingはMD/PhD学生として、これらの技術と知見を統合し、Tf-Rの動態研究に取り組む中で、この画期的な発見に至った。

1983年当時、細胞が膜小胞を細胞外に放出するメカニズムについては、形質膜からの直接的な脱落 (shedding) が主に想定されており、MVEからのエクソサイトーシスという経路は全く新規の概念であった。エクソソームという名称は数年後にRose Johnstoneによって命名されたが、当初は「多胞体エクソサイトーシス」として記載された現象である。この発見は、細胞がどのように膜タンパク質を排除し、また細胞間で情報を伝達するかという細胞生物学の根本的な理解に大きな影響を与えた。しかし、その生合成の分子メカニズムや、細胞間コミュニケーションにおける役割、そして疾患への関与については、発見当初はほとんど未解明な状態であった。特に、エクソソームがRNAなどの核酸を輸送し、受容細胞の機能に影響を与えるという概念は、当時の科学的知識では全く想定されておらず、この分野には大きな知識のギャップが残されていた。本コメンタリーは、これらの未開拓な領域がどのように解明されてきたかを概説し、今後の研究方向性を示すことを目的としている。

目的

本コメンタリーの目的は、エクソソーム発見 (1983年) の実験的経緯を詳細に記録し、その後の30年間における分子生物学的進歩を概説することである。具体的には、ESCRT経路やRab GTPaseによるエクソソーム生合成の制御、RNA転送機能、免疫調節における役割といった主要な進展に焦点を当てる。さらに、エクソソームが診断 (液体生検) および治療応用において持つ将来的な可能性を提示し、この分野の今後の方向性を示すことを目指す。本論文は、エクソソームが単なる細胞廃棄物ではなく、細胞間コミュニケーションの重要な担い手であるという概念の発展を強調し、その意義を再評価するものである。

結果

1983年:エクソソーム発見の直接的経緯と同時報告: ラット網状赤血球を用いたTf-Rリサイクリング研究において、コロイド金標識トランスフェリン (AuTf) が細胞内に取り込まれた後、多胞体内腔の小型小胞 (約50 nm) 表面に局在することが電子顕微鏡で観察された。驚くべきことに、AuTf標識小胞を含むMVEが形質膜と融合し、小胞を細胞外に放出する過程が直接可視化された (Fig. 1)。固定アーチファクトを除外するため、急速凍結 (quick freeze) による非固定サンプルでも同様の現象が確認された (Fig. 1 right; bar = 200 nm)。同じ1983年にPanとJohnstone (Cell) が羊の網状赤血球でもTf-Rを含む小胞が均一なサイズで細胞外に放出されることを報告し、1週間のうちに2つの独立した論文が同時発表された。ただし、Pan/Johnstone論文は形質膜からのectosome様の脱落 (shedding) を想定しており、MVEエクソサイトーシスを直接示したのはHardingらが最初である。この発見は、網状赤血球が成熟する過程でTf-Rを失うメカニズムとして、MVEからのエクソソーム放出が関与していることを強く示唆した。

Tf-R輸送の2経路モデルの確立: Hardingら (1984) は、細胞内AuTf粒子の局在定量とTf-Rリサイクリングの速度論から、網状赤血球でのTf-R輸送の2経路モデルを提示した。すなわち、(1) エンドサイトーシス後にearly endosomeから速やかに形質膜にリサイクルされる速い経路 (大部分の受容体、表面トリプシン処理による検出) と、(2) MVEに取り込まれてエクソサイトーシスにより外排出される遅い経路である。Tf-Rの細胞外放出速度が網状赤血球成熟に伴うTf-R消失速度と一致することから (Harding et al. 1984)、エクソソーム放出経路がTf-R喪失の主要ルートであることが確立された。このモデルは現在まで基本的に有効であり続けている。同研究では、エクソソームが従来想定されていたearly endosomeから形質膜への直接リサイクリングではなく、後期エンドサイトーシスコンパートメントからの排出という新規メカニズムを提示した点で、細胞生物学の概念を刷新した (Fig. 2)。この二経路モデルは、細胞が特定の膜タンパク質を効率的に排除するための洗練されたメカニズムを持つことを明らかにした。

エクソソーム生合成の分子機構解明:ESCRT・Rab・脂質: MVEの運命には (a) リソソームへの融合による分解と (b) 形質膜への融合によるエクソソーム放出の2択がある。MVE形成の分子機構としてESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 経路が同定され (Henne et al. 2011 Dev Cell)、ESCRT-III構造と内腔側への小胞出芽機構が解明された。特に、ESCRT経路の構成要素であるALIXおよびVPS4は、syndecan-syntenin経路を介したエクソソーム分泌に必須であることがBaietti et al. NatCellBiol 2012によって示された。脂質成分としては、セラミドがMVE内への小胞出芽に必要であることがTrajkovic et al. Science 2008によって示された。エクソソーム分泌のRab GTPase制御として、Rab4・Rab5 (Vidal/Stahl 1993)、Rab11 (Savina et al. 2002)、Rab27a/b (Ostrowski et al. 2010 Nat Cell Biol)、Rab35 (Hsu et al. 2010 JCB) が同定された。特に、Ostrowski et al. NatCellBiol 2010は、Rab27aとRab27bがエクソソーム分泌経路の異なるステップを制御することを示した。さらに、カルシウムトランジェントがエクソソーム分泌を誘発することも確認され (Savina et al. 2005)、分泌が厳密に制御されたプロセスであることが示唆された。

免疫分野への展開:抗原提示・免疫調節: 1996年にRaposo et al. JExpMed 1996がBリンパ球由来MVE (MIIC) がMHC-II搭載エクソソームを放出し、T細胞応答を直接活性化できることを示した。続いて樹状細胞 (Zitvogel et al. 1998 Nat Med; Thery et al. 2001 J Immunol) や、マクロファージ由来エクソソームのT細胞抗原提示能 (Ramachandra et al. 2010 Infect Immun) が明らかになった。特に、Zitvogel et al. NatMed 1998は、樹状細胞由来エクソソームが確立されたマウス腫瘍を根絶する能力を持つことを示し、エクソソームをベースとした細胞フリーワクチンという新たな治療概念を提示した。Mycobacterium tuberculosis感染マクロファージはMtb抗原を搭載したエクソソームを産生し、自然免疫受容体を介して抗原提示細胞を制御する可能性が示された (Ramachandra et al. 2010)。Leishmaniaなどの非哺乳類病原体もエクソソームを産生し、宿主の防御応答や免疫回避に関与することが示された (Silverman et al. 2010)。これらの知見は、エクソソームが感染のシグナルを伝達し、宿主応答を拡大する一方で、病原体が免疫応答を回避する手段としても利用される可能性を示唆している。

RNA転送機能と細胞間情報伝達: 最大の発見の一つは、Valadi et al. NatCellBiol 2007によるマウス・ヒトマスト細胞エクソソームへのmRNAおよびmicroRNAの包含であり、エクソソームRNAが受容体細胞に移行して生物学的活性を示すことが示された。この発見は、エクソソームが単なる膜小胞ではなく、細胞間遺伝情報交換の新たなメカニズムであることを確立した。エクソソームRNAの存在が偶発的ではなく選択的であることは複数の独立研究で確認され、腫瘍細胞エクソソームが受容体細胞に2〜5倍以上の遺伝子発現変化をもたらしうることも示唆された。Skog et al. NatCellBiol 2008は、グリオブラストーマ微小胞が腫瘍増殖を促進するRNA・タンパク質を輸送し、診断バイオマーカーとなりうることを示した。siRNAを脳に送達したAlvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011の実験では、GAPDH mRNAが約60%以上ノックダウンされることが示され、エクソソームの臓器特異的治療送達能力がin vivoで初めて実証された。さらに、Mittelbrunn et al. NatCommun 2011は、T細胞から抗原提示細胞へのmicroRNAの一方向性転送を報告し、免疫応答におけるエクソソームの役割の複雑性を示した。これらの研究は、エクソソームが遺伝子治療や薬物送達システムとしての大きな可能性を秘めていることを明らかにした。

考察/結論

本コメンタリーは、1983年のエクソソーム発見の直接の目撃者・実験者である3名が、発見の偶発性と実験設計の詳細を後世に残した歴史的記録として意義深い。Tf-Rリサイクリング研究という明確に異なる目的の研究から、予期せずMVEエクソサイトーシスという全く新規の細胞生物学的経路が発見された点は、基礎研究の重要性と科学的偶発性を体現している。

先行研究との違い: これまでの細胞外小胞に関する研究では、主に形質膜からの直接的な小胞脱落 (ectosome/microvesicle) に焦点が当てられていた。本研究で示されたMVEからのエクソソーム放出は、細胞が膜小胞を放出するメカニズムが、これまで考えられていたよりも多様であり、特に後期エンドソーム系が関与するという点で、従来の概念と対照的であった。この発見は、細胞内コンパートメントの動態に関する理解を大きく深めるものであった。

新規性: 本研究で初めて、網状赤血球におけるTf-Rの細胞外排出がMVEエクソサイトーシスを介して行われることを直接的に可視化した。この新規メカニズムは、細胞が特定の膜タンパク質を選択的に排除する手段を提供し、細胞生物学における新たな研究領域を開拓した。特に、エクソソームがRNAなどの核酸を輸送し、受容細胞の遺伝子発現や機能に影響を与えるというValadi et al. NatCellBiol 2007による発見は、ゲノム科学の枠組みを超えた細胞間遺伝情報交換という概念転換をもたらし、これまで報告されていない細胞間コミュニケーションの形態を明らかにした。

臨床応用: 発見から30年間でエクソソーム分野は1,000件以上の論文が発表され (2013年時点)、国際細胞外小胞学会 (ISEV) や米国エクソソーム・ミクロ小胞学会 (ASEMV) などの専門学会が形成されるほどに発展した。エクソソームのサイズ (直径40〜150 nm) と特性から、血液・尿などの体液中に安定して存在し分子プロファイリングが可能な点が、液体生検としての実用化を支える根拠となっている。エクソソームは「移動可能な組織特異的分子署名」として機能し、がん、神経変性疾患、感染症などの診断における臨床応用が期待される。また、siRNAを特異的に脳へ送達できる「組換えエクソソーム」(Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011) の実証は、がん・自己免疫疾患等への治療担体応用への道を拓き、臨床現場での新たな治療戦略開発に繋がる可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、(a) エクソソームとミクロ小胞 (ectosome) の精確な分離・定義の標準化、(b) RNAカーゴの細胞種・刺激依存的選択機構の解明、(c) 液体生検としての診断感度・特異性の臨床検証、(d) Rab GTPase・ESCRT経路を標的としたエクソソーム産生調節による治療介入の開発、(e) 腫瘍促進的エクソソーム (Skog et al. NatCellBiol 2008) の阻害と治療送達担体としての利用の両面的アプローチの確立、が挙げられる。これらの課題を克服することで、エクソソーム研究はさらなる発展を遂げ、基礎科学から臨床応用への橋渡しを強化することが期待される。

方法

本論文は、エクソソームの発見から30年間の歴史的経緯と科学的進歩を振り返るコメンタリーおよび歴史的レビューであるため、特定の実験プロトコルやデータ収集方法は存在しない。本コメンタリーの記述は、1983年から2013年にかけて発表された主要な研究論文の引用、および著者自身の研究経験と知見に基づいている。特に、エクソソームの発見に至った初期の実験の詳細な記述は、著者らが直接関与した研究に基づいている。

具体的には、著者らはラット網状赤血球を用いたトランスフェリン受容体 (Tf-R) のリサイクリング研究において、コロイド金標識トランスフェリン (AuTf) を用いた電子顕微鏡観察を行った。この観察では、AuTfが細胞内に取り込まれた後、多胞体内腔の小型小胞表面に局在すること、そしてAuTf標識小胞を含む多胞体が形質膜と融合し、小胞を細胞外に放出する過程を直接可視化した。固定アーチファクトの可能性を排除するため、急速凍結 (quick freeze) による非固定サンプルでも同様の現象を確認し、その結果を比較検討した。

エクソソーム生合成の分子機構に関する記述は、ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 経路、Rab GTPase、および脂質成分 (例: セラミド) の関与を明らかにした複数の研究論文の成果を統合したものである。免疫学分野への展開については、Bリンパ球、樹状細胞、マクロファージ由来エクソソームの抗原提示能や免疫調節機能に関する報告を引用している。RNA転送機能と細胞間情報伝達に関する記述は、mRNAおよびmicroRNAのエクソソームへの包含、受容細胞への移行、および生物学的活性を示すことを実証した研究 (例: Valadi et al. NatCellBiol 2007) を中心に構成されている。また、診断および治療応用への展望は、液体生検としてのエクソソームの可能性や、siRNA送達担体としての「組換えエクソソーム」に関する研究 (例: Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011) に基づいている。これらの情報は、PubMedなどの主要な医学・生物学データベースを用いた文献検索によって収集されたものと推測される。