- 著者: Qin Zhang, Dennis K. Jeppesen, James N. Higginbotham, Ramona Graves-Deal, Vincent Q. Trinh, Marisol A. Ramirez, Yoojin Sohn, Abigail C. Neininger, Nilay Taneja, Eliot T. McKinley, Hiroaki Niitsu, Zheng Cao, Rachel Evans, Sarah E. Glass, Kevin C. Ray, William H. Fissell, Salisha Hill, Kristie Lindsey Rose, Won Jae Huh, Mary Kay Washington, Gregory Daniel Ayers, Dylan T. Burnette, Shivani Sharma, Leonard H. Rome, Jeffrey L. Franklin, Youngmin A. Lee, Qi Liu, Robert J. Coffey
- Corresponding author: Robert J. Coffey (Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN, USA)
- 雑誌: Nature cell biology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-12-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 34887515
背景
細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) および非小胞性ナノ粒子は、細胞間コミュニケーションや疾患バイオマーカーの担体として近年急速に注目を集めている。特に、直径 40-150 nm のエンドソーム由来膜結合性小細胞外小胞 (sEV: small extracellular vesicle) であるエクソソームは広く研究されてきた。しかし、EV の不均一性や分離法の多様性が、その臨床的応用を阻む主要な課題となっている。2018年には、非対称フローフィールドフローフラクショネーション (AF4: asymmetric flow field-flow fractionation) を用いた解析により、直径 50 nm 未満の非膜性ナノ粒子「エクソメア」が同定され、エクソソームとは異なるプロテオームおよび機能を持つことが報告された (Zhang et al. NatCellBiol 2018)。
しかし、これまでの細胞外粒子 (EVP: extracellular vesicle and nanoparticle) の分類体系には大きな知識ギャップが存在していた。AGO2 (Argonaute 2)、TGFBI (Transforming Growth Factor Beta Induced)、APP (Amyloid Precursor Protein)、ACE2 (Angiotensin-Converting Enzyme 2)、PCSK9 (Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9)、MET (Mesenchymal-Epithelial Transition factor)、GPC1 (Glypican-1) といった複数の疾患関連タンパク質や細胞外 RNA (exRNA: extracellular RNA) の大部分が、これまで「エクソソーム由来」として文献報告されてきたが、これらが実際にどの細胞外粒子サブタイプに局在するかは厳密に検証されておらず、液体生検研究の解釈に大きな不確実性をもたらしていた。例えば、AGO1-4 などの miRNA 結合タンパク質は、以前はエクソソーム関連タンパク質と推定されていたが、精製法の改良により主に非小胞性画分やエクソメアに関連することが示されている (Jeppesen et al. Cell 2019)。
さらに、COVID-19 (coronavirus disease 2019) パンデミックを背景として SARS-CoV-2 (severe acute respiratory syndrome coronavirus 2) 受容体 ACE2 の細胞外動態、およびアルツハイマー病との関連から APP の細胞外分布が特に注目されていた文脈においても、EVP サブタイプの正確な分類は緊急の科学的課題であった。細胞外 RNA のキャリアに関する基礎的な理解も不足しており、特定の miRNA がどの粒子に濃縮されているかを正確に特定することは、その機能的役割を理解する上で不可欠である。これらの背景から、既存の細胞外粒子分類体系では捉えきれない新たな粒子集団の存在とその特性を明らかにすることが、EV 生物学および液体生検の分野における重要な未開拓領域であり、この点が未解明であった。従来の技術ではナノ粒子画分の分離能が不足しており、真の機能的キャリアを特定できないという課題が残されていた。このように、非小胞性画分に潜むさらなる超小型ナノ粒子の実態や機能については、これまで詳細な解析が行われておらず、研究データが著しく不足していた。
目的
本研究の目的は、大腸がん (CRC: colorectal cancer) 細胞株 Di希 (DiFi) のエクソメア上清の高速超遠心分離により、新規の細胞外ナノ粒子を同定し、その特性を詳細に解析することである。具体的には、以下の4点を目的とした。
- 新規ナノ粒子の物理的形態、サイズ、および細胞内外での取り込み動態を、既存の sEV およびエクソメアと比較して詳細に規定すること。
- 新規ナノ粒子のプロテオームおよび RNA 組成を、sEV およびエクソメアと比較同定し、その分子プロファイルを明らかにすること。
- がん、神経変性疾患、心血管疾患、感染症に関連する疾患バイオマーカータンパク質(例: AGO2、TGFBI、ACE2、PCSK9、APP、MET、GPC1)の新規ナノ粒子への局在を確定し、従来の「エクソソーム由来」という概念を再評価すること。
- がん由来の新規ナノ粒子が示す機能的特性(乳酸代謝調節、薬剤耐性転移、肝代謝変化)を実証し、循環バイオマーカーおよび治療標的としての臨床応用可能性を評価すること。
これらの目的を達成することで、細胞外粒子生物学における新たな分類体系を確立し、液体生検研究の解釈に根本的な影響を与える知見を提供することを目指した。
結果
スーパーメアの物理的同定と形態的特徴: 367,000 g の超遠心分離により、新規細胞外ナノ粒子であるスーパーメアが安定して単離された (Fig. 1a)。AFM 解析の結果、スーパーメアの平均高さと直径はエクソメアと比較して有意に小さく、楕円体近似による体積測定において、スーパーメアの平均体積は約 2,872 nm^3 であったのに対し、エクソメアは約 5,894 nm^3 であり、スーパーメアはエクソメアの約半分の体積であることが実証された (Fig. 1c)。TEM 観察により、スーパーメアはエクソメアと同様に非膜性の球状構造を有することが確認され、脂質二重膜を持つ sEV とは明確に異なる物理的実体であることが示された (Fig. 1b)。
生体内取り込みにおけるスーパーメアの優位性: in vitro における細胞取り込み実験において、蛍光標識したスーパーメアは sEV と比較して緩徐な取り込み動態を示した (Fig. 1d)。しかし、C57BL/6 マウスを用いた in vivo 生体内分布解析 (n=3 mice) においては、スーパーメアは sEV やエクソメアを著しく凌駕する高い生体内取り込み効率を示した (Fig. 1g)。特に、従来の sEV やエクソメアでは取り込みが極めて微量であった脳組織において、スーパーメアは顕著な集積を示し、血液脳関門を効率的に通過する能力を有することが示唆された (Fig. 1g)。細胞内取り込み経路の阻害実験 (n=30 cells) では、マクロピノサイトーシス阻害剤であるバフィロマイシン A1 の添加により、スーパーメアの細胞内集積が最も強く抑制された (Fig. 1e)。
疾患関連タンパク質および RNA の高度濃縮: プロテオーム解析により、スーパーメアは sEV やエクソメアとは完全に異なる独自のタンパク質組成を持つことが判明した (Fig. 2a,b)。従来「エクソソームに特異的」と信じられてきた AGO2、TGFBI、APP、ACE2、PCSK9 などの重要タンパク質が、実際にはスーパーメア画分に極めて高度に濃縮されていることが明らかになった (Fig. 2c,e,h)。特に TGFBI は DiFi 由来スーパーメアにおいて最も存在量の多い最主要タンパク質として同定された (Fig. 2c)。RNA 解析においては、細胞外に放出される全 RNA の大部分がスーパーメア画分に回収され、sEV やエクソメアの保持量は極めて低いことが示された (Fig. 5a)。特にがん関連 miRNA である miR-1246 は、細胞内と比較してスーパーメア中で 1,024-fold increase という極めて高い濃縮度を示した (Fig. 5e,g)。
がん由来スーパーメアによる代謝および薬剤耐性の伝播: 機能評価において、セツキシマブ耐性細胞である SC および CC-CR 由来のスーパーメア (50 μg/ml) を感受性 CC 細胞に処理したところ、受容細胞における乳酸分泌量が 1.5-fold 増加し、Warburg 効果の代謝表現型が効率的に転移することが実証された (Fig. 3f)。さらに、3D コラーゲン培養系を用いた薬剤感受性試験 (n=3 replicates) において、SC 由来スーパーメアを投与した CC 細胞は、セツキシマブ存在下においても細胞増殖阻害を完全に回避し、形態的にも多突起を形成する耐性表現型へとリプログラミングされることが確認された (Fig. 3g,h,i)。
体内投与による肝臓代謝の遠隔リプログラミング: C57BL/6 マウス (n=6 mice) に対する DiFi 由来スーパーメア (300 μg) の静脈内投与実験において、投与 24 時間後の肝臓組織では Oil Red O 染色陽性の脂質滴が著明に減少し、トリグリセリド含量の低下が認められた (Fig. 6c,d)。また、PAS 染色により肝細胞内のグリコーゲン貯蔵量が著しく減少していることが確認された (Fig. 6e,f)。この代謝変化は、肝組織における p-AKT および p-ERK1/2 シグナル伝達経路の有意な活性抑制 (p<0.01) と相関しており、がん由来スーパーメアが遠隔臓器の代謝恒常性を直接的に修飾する機能活性物質であることが実証された (Fig. 6g,h)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、細胞外ナノ粒子画分から「スーパーメア」という新たな機能的非膜性ナノ粒子を分離・同定し、sEV、エクソメア、スーパーメアからなる3層の細胞外粒子分類体系を確立した。この成果は、従来の細胞外小胞研究における「多くの疾患バイオマーカーや exRNA がエクソソームに内包されて分泌される」という定説と異なり、実際にはその大部分が非膜性のスーパーメアに局在していることを明確に示した。これは、Jeppesen et al. Cell 2019 が提唱したエクソソーム組成の再評価をさらに推し進め、vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018 や Mathieu et al. NatCellBiol 2019 が指摘していた EV の不均一性問題に対して、非小胞性ナノ粒子という具体的なキャリアを特定することで決定的な回答を与えるものである。特に、RNA サイレンシングの鍵分子である AGO2 が、高純度に精製された sEV ではなくスーパーメアに特異的に濃縮されているという事実は、細胞外 RNA の安定保持と輸送を担う主役が小胞ではなく超小型ナノ粒子であることを示しており、従来の理解と対照的である。
新規性: 本研究は、直径 50 nm 未満のスーパーメアが、in vivo において sEV やエクソメアを著しく凌駕する高い生体内取り込み効率を持ち、さらには血液脳関門を通過して脳組織へも効率的に移行することを本研究で初めて明らかにした。また、がん由来スーパーメアが受容細胞の乳酸分泌を亢進させ、セツキシマブ耐性を伝播し、in vivo で肝臓の脂質・グリコーゲン代謝を著しく変化させるという3つの独立した機能的活性を実証した。miR-1246 がスーパーメアに高度に濃縮されているという発見は、Melo et al. CancerCell 2014 が報告したエクソソームによる miRNA 生合成経路とは異なる、非小胞性ナノ粒子を介した新たな exRNA 分泌機序の存在を強く支持するものである。
臨床応用: 本研究の知見は、がん、神経変性疾患、心血管疾患、感染症における液体生検バイオマーカーの探索に極めて重要な臨床的意義をもたらす。大腸がん患者の血漿からスーパーメア画分を回収し、TGFBI や DPEP1、CD73 などのマーカーを定量することで、高精度ながん診断や予後予測が可能となる。実際に、TGFBI の高発現が大腸がん患者の不良な全生存期間および無増悪生存期間と有意に関連することが示された。さらに、ACE2 や PCSK9、APP がスーパーメアに濃縮されているという事実は、COVID-19 感染症、心血管疾患、アルツハイマー病の病態解明や、スーパーメアを標的とした新規治療薬開発への臨床応用を可能にする。例えば、ACE2 含有スーパーメアを SARS-CoV-2 に対するデコイ受容体として治療に応用するアプローチは、Melo et al. Nature 2015 が GPC1 を用いてがん診断を革新したのと同様に、感染症治療に新たなプラットフォームを提供する可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、スーパーメアの細胞内における生合成および分泌制御メカニズムの解明が挙げられる。プロテオーム解析においてレトロマー複合体成分が濃縮されていたことは、その形成経路を示唆する重要な手がかりであるが、具体的な分子機序は依然として不明であり、今後の研究が必要である。また、スーパーメアが示す極めて高い in vivo 臓器移行性、特に脳への移行を規定する表面分子や受容体の特定も重要な課題である。さらに、臨床応用に向けて、血漿などの複雑な生体試料から高純度かつハイスループットにスーパーメアを分離精製する技術の確立が、今後の実用化における最大の limitation であり、HDL などの他の非小胞性粒子との厳密な分離プロトコルの最適化が急務である。
方法
スーパーメア単離プロトコル: 大腸がん細胞株である DiFi、HCA-7 由来の spiky colony (SC) 細胞、正常腎上皮細胞 (HREC: human renal proximal tubule epithelial cell)、乳がん細胞株 MDA-MB-231、肺がん細胞株 Calu-3、膵がん細胞株 PANC-1 (pancreatic cancer-1) の条件培地から差速遠心を逐次実施した。まず、300 g で細胞を除去し、次に 2,000 g で死細胞や大型破片を除去した。その後、10,000 g でアポトーシス小体を沈殿させ、100,000 g で sEV ペレットを回収した。さらに、167,000 g でエクソメアペレットを回収し、最終的にその上清を 367,000 g で超遠心分離することで、新規粒子「スーパーメア」のペレットを取得した。一部の実験では、sEV 上清を高解像度密度勾配遠心法でさらに純粋な sEV と非小胞 (NV: non-vesicular) 画分に分離した。ヒト血漿サンプルからの EV およびナノ粒子単離も、同様の差速遠心プロトコルを用いて実施した。
形態解析: 各粒子画分の形態的特徴を評価するため、流体力学的原子間力顕微鏡 (fluid-phase AFM) および透過電子顕微鏡 (TEM) を用いて、粒子の高さ、直径、および楕円体近似による体積を定量的に比較した。AFM 画像は Dimension FastScan microscope を用いて取得し、Gwyddion またはカスタム R ソフトウェアで解析した。
取り込み動態解析: Alexa Fluor-647 で蛍光標識した sEV、エクソメア、スーパーメアを MDA-MB-231 細胞に添加し、iSIM (instant structured illumination microscopy) 顕微鏡で 15 分間隔で 24 時間追跡し、細胞内取り込みの動態を評価した。取り込みメカニズムを解析するため、バフィロマイシン A1 (マクロピノサイトーシス阻害剤)、ダイナソール、サイトカラシン D、CK666 などの阻害剤を用いた実験も実施した。in vivo 取り込み実験では、近赤外色素で標識した各粒子を C57BL/6 マウスの腹腔内に注射し、24 時間後に各臓器の蛍光シグナルを評価した。
プロテオーム解析: sEV、NV、エクソメア、スーパーメアのプロテオームプロファイルを比較するため、液体クロマトグラフィータンデム質量分析 (LC-MS/MS) を実施した。TMT (tandem mass tag) 定量プロテオミクスおよびイムノブロットにより、AGO2、TGFBI、MET、GPC1、APP、ACE2、PCSK9、DPEP1 (Dipeptidase 1)、CD73 (Cluster of Differentiation 73)、FASN (Fatty Acid Synthase)、HSPA13 (Heat Shock Protein A13) などの代表的タンパク質の局在を確認した。蛍光活性化小胞ソーティング (FAVS: fluorescence-activated vesicle sorting) を用いて、TGFBI や AGO2 などの粒子レベルでの発現解析も行った。
RNA 解析: small RNA-seq を実施し、各画分における miRNA (microRNA)、lncRNA (long non-coding RNA)、snoRNA (small nucleolar RNA) などの RNA 含量およびプロファイルを比較した。TaqMan small RNA assays を用いた定量的 RT-PCR で miR-1246 および miR-675 の発現レベルを検証した。miR-1246 の組織局在は、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション (FISH) で評価した。
機能実験:
- 乳酸産生: セツキシマブ感受性 CRC 細胞 (CC 細胞) に、CC、SC、CC-CR (セツキシマブ耐性 CC) 細胞由来の各粒子画分を 50 μg/ml で処理し、培地中の乳酸濃度を定量した。
- セツキシマブ耐性転移: 3D コラーゲン培養系において、CC 細胞に SC または CC-CR 由来スーパーメアを投与し、セツキシマブ存在下での増殖阻害に対する反応性を評価した。
- 肝代謝変化: C57BL/6 マウスに各粒子画分を静脈内注射し、24 時間後に肝臓の Oil Red O (脂質) および PAS (periodic acid-Schiff) 染色を実施した。肝組織のトリグリセリド含量も定量し、RNA-seq による遺伝子発現解析も行った。
統計解析: 統計解析には Student’s t-test、一元配置 ANOVA、Holm-Bonferroni 補正、Kruskal-Wallis 検定、Wilcoxon 順位和検定、log-rank 検定、DESeq2 を用いた。