- 著者: Gang Wang, Jianlong Li, Linda Bojmar, Haiyan Chen, Zhong Li, Gabriel C. Tobias, Mengying Hu, Edwin A. Homan, Serena Lucotti, Fengbo Zhao, Valentina Posada, Peter R. Oxley, Michele Cioffi, Han Sang Kim, Huajuan Wang, Pernille Lauritzen, Nancy Boudreau, Zhanjun Shi, Christin E. Burd, Jonathan H. Zippin, James C. Lo, Geoffrey S. Pitt, Jonathan Hernandez, Constantinos P. Zambirinis, Michael A. Hollingsworth, Paul M. Grandgenett, Maneesh Jain, Surinder K. Batra, Dominick J. DiMaio, Jean L. Grem, Kelsey A. Klute, Tanya M. Trippett, Mikala Egeblad, Doru Paul, Jacqueline Bromberg, David Kelsen, Vinagolu K. Rajasekhar, John H. Healey, Irina R. Matei, William R. Jarnagin, Robert E. Schwartz, Haiying Zhang, David Lyden
- Corresponding author: David Lyden; Haiying Zhang (Children’s Health Research Institute, Department of Pediatrics, Weill Cornell Medicine, New York, NY, USA); Robert E. Schwartz (Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Weill Cornell Medicine, New York, NY, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-05-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 37225988
背景
がんは原発腫瘍局所の疾患ではなく、全身性に多臓器機能を変容させる疾患である。従来、腫瘍由来の細胞外小胞・粒子 (extracellular vesicles and particles: EVPs) は肝臓・肺などの Peinado et al. NatRevCancer 2017に寄与することが報告されていたが、転移を起こさない臓器での機能変容への寄与は未解明であった。特に肝臓は薬物代謝・脂質代謝・全身免疫恒常性の中枢であり、がん患者では化学療法耐容性低下・カヘキシア・脂肪肝・心血管疾患などの「paraneoplastic」症候が高頻度に認められる。これらの全身合併症の分子機構は不明であり、EVPsを介した「肝臓リモート教育」という概念の実証が必要であった。
先行研究として、Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015やHoshino et al. Nature 2015は、腫瘍由来エクソソームが肝臓のPMN形成を促進することを示した。また、Zhang et al. NatCellBiol 2018は、EVPのサブポピュレーション(エクソメア <50 nm、Exo-S 60-80 nm、Exo-L 90-120 nm)が臓器親和性を持つことを報告している。しかし、これらの研究は主に転移形成に焦点を当てており、肝転移を起こさない腫瘍のEVPsが、転移のない肝臓の代謝機能にどのような影響を与え、脂肪肝形成や薬物代謝低下を引き起こすかについては、詳細な分子機構が未検証であった。特に、がん関連脂肪肝の病態生理学的役割や、化学療法感受性への影響に関する知識は不足しており、このギャップを埋めることが喫緊の課題であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、肝転移を起こさない肺指向性の腫瘍(B16F10メラノーマ・K7M2骨肉腫など)のEVPsが、転移の存在しない「tumor-free liver」でどのように代謝機能を再配線し、脂肪肝形成・薬物代謝低下・化学療法副作用増強を引き起こすかを多オミクス解析とヒト検体で実証することである。具体的には、EVPカーゴ(パルミチン酸)、標的細胞(Kupffer細胞)、シグナル経路(TLR4-TNF-CYP450)を分子レベルで同定し、これらの病態を標的とする治療戦略の可能性を探ることを目指した。また、EVPサブタイプ(エクソメア、Exo-S、Exo-L)が肝臓の代謝機能障害に与える影響を評価することも目的とした。本研究は、がん関連脂肪肝の病態生理学的役割と化学療法感受性への影響に関する知識の不足を解消し、新たな治療アプローチを開発するための基盤を確立することを目指す。
結果
遠隔腫瘍による肝代謝機能障害の表現型: B16F10およびK7M2原発腫瘍マウスの転移非発症肝臓において、RNA-seqにより469遺伝子の上昇と317遺伝子の低下(q<0.05、両モデル共通)が検出された (Fig 1a)。Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005では、炎症およびTNF-NF-κBシグナル経路の上昇、酸化的リン酸化(OXPHOS)および脂肪酸代謝の低下が同定された (Fig 1b)。メタボロミクス解析では、アミノ酸、糖、TCAサイクル中間体、脂質の上昇が、リピドミクス解析ではセラミド、コレステロールエステル、トリグリセリドの蓄積が検出された。BODIPY染色により、B16F10、K7M2、B16F1、67NR、4T1、および自然発症NRAS-メラノーマの全モデルで脂肪肝形成が確認された (Fig 1e, f)。ヒトPDAC患者の肝生検でも同様のTNF-NF-κB経路の上昇、OXPHOSの低下、脂肪肝が確認された(n=5患者、n=8対照、BMI差なし)。PDAC 14週モデル(肝転移前PMN)では脂肪肝は形成されず、「PMN形成と脂肪肝形成は相互排他的」であることが示唆された。
EVPs自体が肝代謝を再配線: 近赤外標識EVPを静脈内投与すると、24時間後に肝臓への集積が確認された (Fig 2a, b)。B16F10-TE-EVPsまたはK7M2-TE-EVPsを10 μg、4週間隔日投与すると、腫瘍非存在下で肝炎症の増加、OXPHOSの低下、脂質滴蓄積が再現された(腫瘍モデルより軽度) (Fig 2c, d, i, j)。EVP除去conditioned mediumでは脂肪肝は発生せず、EVPsが必要十分な因子であることが判明した。Ostrowski et al. NatCellBiol 2010ノックアウト/ノックダウンによるEVP分泌抑制は、脂肪肝形成を有意に減少させ、腫瘍成長も減弱させたが、同一腫瘍量での比較でも脂肪肝の減少が確認された (p<0.001)。AF4で分離したexomere、Exo-S、Exo-Lのうち、exomereとExo-Sが最も脂肪肝誘導能が高く、Rab27a欠損時のexomere減少が最も顕著であった (Fig 2l)。
Kupffer細胞をハイジャックするEVP: フローサイトメトリー解析により、静脈内投与されたEVPの取り込みは主にCD45+免疫細胞(90%以上がCD11b+F4/80+Kupffer細胞)とCD31+血管内皮細胞に集中し、肝細胞、星細胞、LYVE1+内皮細胞にはほとんど取り込まれないことが確認された (Fig 3a, b)。ClodronateリポソームによるKupffer細胞の枯渇は、腫瘍担がんマウス(n=8 mice)およびEVP教育マウスの脂肪肝をほぼ完全に消失させ (p<0.001)、腫瘍成長には影響しなかった (Fig 3d)。PCLSを用いたex vivo実験でも、Kupffer細胞枯渇により脂質滴形成が消失し (p<0.001)、Kupffer細胞がEVP誘導性脂肪肝形成に必須のエフェクターであることが証明された (Fig 3e, f)。
EVP教育Kupffer細胞のTNF過剰分泌: Kupffer細胞のサイトカインアレイ解析では、IL-1α、TNF、CCL2、CCL3、CXCL1、CXCL2、CXCL13が濃縮され、特にTNFはB16F10-EVP処理により対照比で約100倍に増加した(ELISA、p<0.001)。腫瘍担がんマウスおよびEVP教育マウスの血漿TNFレベルも有意に上昇した (Fig 4a, b)。組換えTNFは初代肝細胞に脂質滴形成と脂肪酸異化遺伝子低下を誘導した (Fig 4c)。抗TNF中和抗体投与によりin vivoでの脂肪肝が有意に減弱し(腫瘍成長は不変、p<0.001)、Kupffer細胞-TNF-肝細胞軸の必要性が証明された (Fig 4d, e)。
EVPカーゴとしてのパルミチン酸-TLR4経路: メタボロミクス質量分析により、B16F10-TE-EVPsおよびK7M2-CL-EVPsには長鎖飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸)が対照EVP(皮膚組織、melan-Aメラノサイト、骨芽細胞由来)と比較して顕著に濃縮されていることが示された (Fig 4f, g)。パルミチン酸単独処理はKupffer細胞のTnf発現を誘導し、FASN阻害剤C75でEVP中のパルミチン酸を減少させるとTnf誘導が消失した (p<0.001) (Fig 4h)。TLR4阻害剤TAK-242は、パルミチン酸およびEVPの両方によるTnf誘導を阻害し (p<0.001)、飽和脂肪酸-TLR4-TNFシグナル軸を確立した (Fig 4i)。パルミチン酸が少ない骨芽細胞由来EVPsは、肝臓に取り込まれても脂肪肝を誘導しなかった。
CYP450薬物代謝低下と化学療法副作用増強: 組換えTNFまたは腫瘍EVP処理肝細胞において、Cyp1a2、Cyp2b10、Cyp2c38、Cyp2d9/10、Cyp3a11などのCYP遺伝子が有意に低下し (p<0.001)、Liberzon et al. CellSyst 2015により薬物代謝CYP450経路が有意に抑制されることが示された(マウス腫瘍モデル、EVP教育モデル、ヒトPDAC肝で一致) (Fig 5a, b, c, d)。PCLSを用いた実験では、基質特異的CYP活性の低下が確認され、抗TNF抗体投与によりCyp発現と薬物代謝が回復した。化学療法副作用評価では、ダカルバジン(60 mg/kg)投与により、EVP教育マウス(n=12 mice)は赤血球が5.6%減少し、網赤血球が26.9%減少し、ヘモグロビンが4.9%減少するなど、PBS教育群(n=9 mice)と比較して骨髄抑制が有意に増強された (p<0.001) (Fig 5e)。ドキソルビシン(累積投与量25 mg/kg)投与では、K7M2-CL-EVP教育マウスの左室駆出率が61.3%から43.7%へと28.7%低下し、心毒性の増強が確認された(PBS群では18.2%低下、骨芽細胞EVP群では19.2%低下) (p<0.001) (Fig 5f)。
考察/結論
本研究は、腫瘍EVPsが肝転移なしに肝機能を全身的に再配線する新たなparaneoplastic機序を同定し、「腫瘍→EVPs→Kupffer細胞→TNF→肝細胞CYP/脂質代謝変容→全身毒性」という連続的シグナル軸を分子-細胞-個体レベルで実証した最初の包括的研究である。特に、肝親和性エクソメア(<50 nm)が脂肪肝の主因であること、パルミチン酸-TLR4-TNF経路が非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の既知機序とがん関連脂肪肝を結ぶ共通軸であることを示した点は概念的に新規かつ重要である。
先行研究との違い: Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015やHoshino et al. Nature 2015が肝親和性腫瘍のTGFβ-星細胞経路を介した肝PMN形成を示したのに対し、本研究は非肝親和性腫瘍がTNF軸を介して脂肪肝形成を誘導することを対照的に定式化した。PMN形成と脂肪肝形成が相互排他的であるという観察は、肝Kupffer細胞が腫瘍の臓器指向性に応じて異なる病理応答(線維性PMN vs 脂肪性paraneoplasia)を起こすことを示唆する。
新規性: 本研究で初めて、腫瘍由来EVPs、特にエクソメアが、遠隔臓器である肝臓の代謝機能障害を誘導し、脂肪肝形成、薬物代謝低下、化学療法感受性低下を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明した。EVPカーゴとしてのパルミチン酸がKupffer細胞のTLR4-TNF経路を活性化するという新規のシグナル伝達経路を同定したことは、がん関連脂肪肝の病態生理学に対する理解を深める上で画期的な知見である。
臨床応用: 本知見は、がん患者の全身合併症に対する新たな治療戦略の臨床応用に直結する。具体的には、(1) TNF阻害剤(インフリキシマブ、エタネルセプトなど)と化学療法の併用による薬物代謝回復と副作用軽減、(2) Ostrowski et al. NatCellBiol 2010やEVP分泌阻害によるparaneoplastic対策、(3) 肝脂肪化をバイオマーカーとした隠れた遠隔転移リスク層別化(PDAC診断時のBODIPY陽性が後の肺・腹膜転移を予測)、(4) パルミチン酸-TLR4軸を標的とする肝保護戦略、(5) 抗EVP戦略とエクソメア特異的な阻害薬開発が展望される。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒト患者でのエクソメア特異的バイオマーカー化、他のEVPカーゴ(特にタンパク質・miRNA)の寄与、脂肪肝形成のがんカヘキシアやT細胞機能障害への関与、免疫療法奏効への影響、および肝代謝再配線の他臓器(心・脳・骨)へのカスケード効果の解明が挙げられる。Limitationとしては、本研究の大部分がマウスモデルに基づいているため、ヒトにおけるこれらのメカニズムの完全な検証にはさらなる臨床研究が必要である。本研究はがん治療パラダイムを「原発腫瘍局所」から「全身paraneoplastic network」へ拡張する基礎となる画期的成果である。
方法
マウス腫瘍モデル:B16F10メラノーマおよびK7M2骨肉腫をそれぞれ皮下またはorthotopicに移植し、3-4週間後に肺転移は確認されたが肝転移は認められなかった。低転移B16F1、非転移67NR、高転移4T1乳がん、自然発症NRAS Q61R メラノーマ、遺伝子工学型PDACモデルも併用し、多様な腫瘍タイプでの肝臓への影響を評価した。マウスはC57BL/6、BALB/c、Nude、NOD/SCID/IL2Rγ null (NSG) マウスを実験目的に応じて使用した。
EVP精製・投与:超遠心とZhang et al. NatCellBiol 2018を用いてexomere、Exo-S、Exo-Lを分離し、電子顕微鏡とNTA(nanoparticle tracking analysis)で特性を検証した。精製したEVPsは10 μgを隔日静脈注射で4週間マウスに投与し、肝臓の「教育」効果を評価した。
Kupffer細胞操作:clodronateリポソームによるKupffer細胞の枯渇実験を実施し、その効果をフローサイトメトリーと免疫蛍光染色で確認した。ex vivoでは、分離したKupffer細胞をEVP(10 μg/mL、3日間)で処理し、サイトカインアレイおよびELISAでサイトカイン分泌を測定した。
シグナル経路阻害:TLR4阻害剤TAK-242および脂肪酸合成酵素(FASN)阻害剤C75を用いて、EVPのパルミチン酸によるTNF誘導経路を解析した。
肝機能解析:BODIPY脂質滴染色、RNA-seqとSubramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005、metabolomic/lipidomic質量分析法により、肝臓の代謝プロファイルを詳細に解析した。また、precision-cut liver slices (PCLS) を用いたex vivo薬物代謝アッセイにより、CYP450酵素活性を評価した。
遺伝子操作:Ostrowski et al. NatCellBiol 2010ノックアウト/ノックダウンによりEVP分泌を抑制し、その影響を評価した。
化学療法毒性:EVP教育マウスにダカルバジン(60 mg/kg、メラノーマモデル)またはドキソルビシン(1 mg/kg、25日間、骨肉腫モデル)を投与し、赤血球減少や心エコーによる心機能評価を通じて化学療法副作用を評価した。
ヒト検体:膵臓がん(PDAC)患者(後に肺・腹膜転移発症)の診断時肝生検(n=5)と良性対照(n=8)のRNA-seq解析、およびPDAC患者(n=11)と対照(n=8)の肝臓のBODIPY染色を実施した。また、ヒトSK-MEL-192メラノーマおよび7系統の骨肉腫PDXモデルも用いた。
統計解析: データはGraphPad Prism 9ソフトウェアを用いて、両側不対t検定、Tukey’s検定を伴う一元配置ANOVA、Bonferroniの多重比較検定を伴う二元配置ANOVA、またはFisherの最小有意差検定を伴う二元配置ANOVAにより統計的有意性を評価した。GSEAではKolmogorov-Smirnov検定によりP値とFDR q値を決定した。P値 < 0.05を統計的に有意とみなした。