- 著者: Ruidong Xue, Qiming Zhang, Qi Cao, Ruirui Kong, Xiao Xiang, Zemin Zhang, Ning Zhang 他
- Corresponding author: Jiye Zhu; Zemin Zhang; Ning Zhang (Peking University First Hospital / Peking University / Peking University People’s Hospital, Beijing, China)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-11-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 36352227
背景
原発性肝臓がん (PLC) は、肝細胞がん (HCC)、肝内胆管がん (ICC)、混合型肝細胞・胆管がん (CHC) の3つの主要な組織型から構成される。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の導入により治療成績は向上しているものの、PLC患者の予後は依然として不良であり、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。腫瘍免疫微小環境 (TIME) は、多様な免疫細胞および間質細胞によって構成され、その細胞組成の異質性が腫瘍の転移、再発、薬剤耐性に深く関与することが指摘されている Binnewies et al. NatMed 2018、Thorsson et al. Immunity 2018。しかし、PLC全体にわたるTIMEサブタイプの系統的な定義とその臨床的意義については、これまで十分に解明されていなかった。
特に、好中球 (neutrophil) は腫瘍内において抗腫瘍作用と促進作用の両方が報告されており Coffelt et al. NatRevCancer 2016、Jaillon et al. NatRevCancer 2020、その機能的多様性は注目されている。しかし、好中球の短い寿命と、単一細胞解析における技術的制約から、腫瘍関連好中球 (TAN) の分子・機能的不均一性の全貌は未解明であった。従来の単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 研究では、コホート規模が比較的小さく、また抗体ベースの細胞濃縮に依存していたため、好中球を含む全細胞集団の網羅的かつバイアスのない解析が不足していた。このような背景から、大規模な患者コホートを用いた包括的なscRNA-seq解析により、肝臓がんのTIMEサブタイプを詳細に定義し、特に好中球の異質性と機能的役割を明らかにすることが、新たな治療標的の同定に繋がるものと考えられた。
目的
本研究の目的は、大規模な単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析を用いて、原発性肝臓がん (PLC) の腫瘍免疫微小環境 (TIME) を包括的に特徴付け、新たな分類体系であるTIMELASER (Tumour Immune Microenvironment Subtypes at Single-cell rEsolution) を確立することである。さらに、腫瘍関連好中球 (TAN) の表現型および機能的異質性を詳細に解明し、特に免疫抑制機能を持つTANサブセットを特定することを目指した。最終的に、同定されたプロ腫瘍性TANサブセットを標的とした治療戦略の有効性を、マウスモデルを用いてin vivoで検証することを目的とした。これにより、肝臓がんにおける免疫療法の新たな標的を同定し、患者層別化および治療選択の精密化に貢献する知見を提供することを目指す。
結果
TIMELASER:肝臓がんの5つのTIMEサブタイプ定義: 大規模scRNA-seq解析により、肝臓がん患者124例から得られた1,092,172個の細胞を解析し、89のTIME細胞クラスターを同定した (Fig. 1b,c)。これらのクラスター間の相関に基づき、階層クラスタリングにより5つの安定したセルラーモジュール (CM1-CM5) を抽出し、TIMELASER (Tumour Immune Microenvironment Subtypes at Single-cell rEsolution) 分類体系を確立した (Fig. 2a)。この分類体系は、TIME-IA (免疫活性化)、TIME-ISM (骨髄細胞性免疫抑制)、TIME-ISS (間質細胞性免疫抑制)、TIME-IE (免疫排除)、TIME-IR (免疫常在) の5つのサブタイプから構成される (Fig. 2d)。
各サブタイプは特徴的な細胞組成と遺伝子発現プロファイルを示した。TIME-IAはLAMP3+樹状細胞、CXCL9+マクロファージ、IFNγ高発現T細胞など、活性化された骨髄系細胞とT細胞クラスターが豊富であった。TIME-ISMはSPP1+マクロファージ、好中球、IL-1B高発現細胞が特徴で、骨髄細胞性免疫抑制状態を示唆し、患者の無増悪生存期間 (PFS) が有意に短縮した (log-rank p<0.01) (Fig. 2e)。TIME-ISSはFAP+線維芽細胞、COL1A1/MMP11高発現細胞が豊富で、間質細胞性免疫抑制と関連し、同様に予後不良と相関した (log-rank p<0.01)。TIME-IEはCXCL12+線維芽細胞が特徴で、GZMK+CD8+T細胞が腫瘍外ストロマに局在し、免疫排除状態を示した (Fig. 2f)。TIME-IRはKupffer細胞や肝洞内皮細胞などの肝臓常在細胞が豊富で、予後良好と関連した。既報のscRNA-seqデータおよびバルクRNA-seqデータセットの再解析でもTIMELASER分類の再現性が確認され、CODEXおよび空間トランスクリプトーム解析により空間的妥当性も検証された (Extended Data Fig. 4f,g)。
好中球の11サブセット同定と組織局在: 34,307個のヒト好中球 (n=34,307 cells) を11のサブセット (Neu_01~Neu_11) に分類した (Fig. 3a,b)。これらのサブセットは明確な組織分離とがん種特異性を示した。Neu_02_S100A12、Neu_03_ISG15、Neu_04_TXNIPは主に末梢血好中球 (PBN) であり、Neu_05_ELL2、Neu_06_PTGS2は隣接肝臓好中球 (ALN) であった。残りの6サブセット (Neu_01_MMP8、Neu_07_APOA2、Neu_08_CD74、Neu_09_IFIT1、Neu_10_SPP1、Neu_11_CCL4) は腫瘍内に濃縮されており、腫瘍関連好中球 (TAN) と同定された。発達軌跡解析により、PBNからALN、そしてTANへと至る明確な分化経路が示された (Fig. 3a)。ATAC-seq解析により、PBNではSPI1、ALN/TANではNFE2L2/CREM、TANではMAFG/BHLHE40/HES4といった空間的・時間的な転写因子活性パターンが確認された (Extended Data Fig. 8a,b)。特に、TIME-ISMに優位に存在する3つのTANサブセット (Neu_09/10/11) の高割合が予後不良と相関した (平均86.8%のTANがこれらのサブセットに属する) (Extended Data Fig. 7g)。
CCL4+TANによるマクロファージリクルートメント: Neu_11_CCL4サブセットはCCL3およびCCL4ケモカインを高発現し、多重免疫組織化学 (mIHC) によって腫瘍組織内での発現が確認された (Fig. 3d)。ex vivo患者由来TANの解析では、ATAC-seqシグナルおよびELISAによるCCL4タンパク質分泌が非TAN (PBN/ALN) と比較して有意に高かった (p<0.05, n=4 donors) (Fig. 3f,g)。リガンド-レセプター (L-R) 解析により、CCL4-CCR5軸を介したマクロファージのリクルートメントが予測され、走化性アッセイにおいて自己由来単球の遊走増加として機能的に確認された (Fig. 3h)。in vitro誘導TAN (PBNと肝臓がん細胞株の共培養) においてもCCL4発現の継続的な上昇が観察された (Fig. 3e)。
PD-L1+TANによるT細胞免疫抑制: Neu_09_IFIT1サブセットはCD274 (PD-L1をコード) を最高レベルで発現し、in vitro誘導TANでもCD274発現が時間依存的に上昇した (Fig. 3i,j)。患者由来TANのATAC-seqおよびFACS解析でもPD-L1の高発現が確認された (Fig. 3l,m)。CD8+T細胞とin vitro誘導TANの共培養実験では、T細胞の細胞傷害性マーカーであるIFNγおよび活性化マーカーであるCD25、CD69の発現が有意に低下した (Fig. 3n)。このIFNγ低下は、抗PD-L1抗体の添加によりMHCC97H群で逆転したことから、PD-L1がTANの免疫抑制機能に関与することが確認された (Fig. 3o)。患者由来TANと自己CD8+T細胞の共培養でも、増殖能 (CFSE) およびIFNγ、GZMB、PRF1、CD25の発現が有意に低下した (Fig. 3p)。mIHCにより、PD-L1+CD66b+好中球とPD-1+CD8+T細胞の物理的近接が示され、直接的な相互作用が示唆された (Fig. 3q)。
マウスモデルでの保存性と好中球除去実験: 自然発症肝臓がんマウスモデル (pTMC: HCC; pTMK: ICC) の17,780個の好中球 (n=17,780 cells) を12サブセットに分類した (Fig. 4a,b)。ヒトとマウスの好中球サブセットは高度に保存されており、特にヒトのTIME-ISM由来TANサブセット (Neu_09/10/11) はマウスのmNeu_10/11/12にそれぞれ対応することが、交差種データ統合によって確認された (Fig. 4c)。抗Ly6G抗体を用いた好中球除去実験 (約70%の除去効率) により、マウス肝臓がんの結節数および腫瘍重量が有意に減少し (p<0.05, n=15 mice) (Fig. 4f)、TAN除去後にCD8+T細胞の疲弊マーカー (PD-1、TIM3) の発現が低下した (Fig. 4g)。好中球除去群では浸潤マクロファージも46.6%減少しており、CCL4+TANによるマクロファージリクルートの機能的寄与がin vivoで確認された (Extended Data Fig. 10n)。
考察/結論
本研究は、原発性肝臓がん (PLC) 患者124例、100万細胞超という大規模かつ抗体濃縮なしの単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析により、肝臓がんの腫瘍免疫微小環境 (TIME) を包括的に特徴付け、TIMELASER (Tumour Immune Microenvironment Subtypes at Single-cell rEsolution) という新たな分類体系を確立した点で新規性が高い。このTIMELASER分類は、免疫活性化、骨髄細胞性免疫抑制、間質細胞性免疫抑制、免疫排除、免疫常在の5つのサブタイプからなり、それぞれが異なる臨床的予後と関連することを示した。特に、骨髄細胞性免疫抑制サブタイプ (TIME-ISM) に豊富に存在する腫瘍関連好中球 (TAN) の異質性を詳細に解明し、CCL4+TANによるマクロファージリクルートメントと、PD-L1+TANによるT細胞免疫抑制という2つの独立した免疫抑制メカニズムを初めて機能的に証明した。
先行研究との違い: これまでの好中球研究では、TANが単一の細胞集団として扱われることが多かったが、本研究はPBN→ALN→TANという分化軌跡上で複数の機能的サブセットが出現し、各々が異なる免疫抑制戦略を担うという概念を提示した点で、従来の理解と対照的である。また、大規模な患者コホートと網羅的な細胞解析により、TIMEサブタイプをバイアスなく定義できた点も、小規模コホートや特定の細胞集団に焦点を当てた先行研究とは異なる。
新規性: 本研究で初めて、肝臓がんのTIMEを5つのTIMELASERサブタイプに分類し、その空間的組織化、ケモカインネットワーク、ゲノム特徴との関連を明らかにした。特に、CCL4+TANとPD-L1+TANという特定のTANサブセットが、それぞれマクロファージのリクルートとT細胞の細胞傷害性抑制を介して、肝臓がんの免疫抑制に寄与することを機能的に実証したことは、これまで報告されていない重要な発見である。マウスモデルにおける好中球除去が腫瘍増殖を抑制し、CD8+T細胞の疲弊を緩和した結果は、TANが肝臓がんの新たな免疫療法標的となる可能性を強く示唆する。
臨床応用: 本知見は、肝臓がん患者の層別化と免疫療法選択の精密化に直結する臨床的意義を持つ。例えば、TIME-ISMに分類される患者では、骨髄細胞性免疫抑制が顕著であるため、好中球を標的とした治療戦略や、PD-L1+TANを介したT細胞抑制を解除する抗PD-L1療法の優先的な適用が示唆される。TIMELASER分類は、バイオマーカーとしての活用や、個別化医療の推進に貢献すると考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、TAN特異的除去戦略(汎好中球除去ではなく、特定の免疫抑制性TANサブセットを選択的に標的化する薬剤の開発)が残されている。また、TIMELASERサブタイプ間の遷移ダイナミクスや、治療介入によるTIMEの変化を長期的に追跡する研究が必要である。さらに、本TIMELASER分類が他臓器がんにも適用可能であるか、その汎用性を検証することも今後の研究方向性となる。
方法
本研究では、治療歴のない原発性肝臓がん (PLC) 患者124例 (HCC 79例、ICC 25例、CHC 7例、その他9例) から採取された160サンプルと、自然発症肝臓がんマウスモデル (pTMC/pTMK) 8匹から採取された189サンプルを収集した。これらのサンプルに対し、抗体濃縮を伴わないシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) 解析を実施し、合計1,092,172個のヒト細胞と205,437個のマウス細胞を解析した。
scRNA-seqデータはCellRangerツールキットv.3.1を用いてアラインメントおよび定量化された。空の液滴はRパッケージdropletUtils v.1.10.3のemptyDrops関数を用いて除去された。細胞品質管理基準として、UMI総数30,000未満、検出遺伝子数500~6,000 (好中球は100~6,000)、ミトコンドリア遺伝子割合50%未満の細胞が選択された。二重細胞はscran Rパッケージv.1.18.7のdoubletCells関数を用いて除去された。主要な細胞型はscanpy (v.1.6) Pythonパッケージ Wolf et al. GenomeBiol 2018 を用いて同定され、既知のマーカー遺伝子に基づいてアノテーションされた。腫瘍細胞はinferCNV (v.1.3.3) Rパッケージによる大規模コピー数変異 (CNV) 解析によって非悪性細胞と区別された。
TIMEサブタイプを定義するため、腫瘍組織由来細胞の共濃縮パターンを解析し、階層クラスタリングにより5つの安定したセルラーモジュール (CM1-CM5) を同定した。これらのモジュールに基づき、TIMELASER (Tumour Immune Microenvironment Subtypes at Single-cell rEsolution) 分類体系を確立した。TIMELASER分類の空間的妥当性は、CODEX解析および公開されている空間トランスクリプトームデータセットの再解析によって検証された。
好中球の異質性を詳細に解析するため、34,307個のヒト好中球を11のサブセット (Neu_01~Neu_11) に分類した。これらのサブセットの機能は、SCENIC転写因子解析、ATAC-seq解析、およびex vivo患者由来TAN解析によって検証された。in vitroでのTAN誘導系は、ヒト末梢血好中球 (PBN) と3種類の肝臓がん細胞株 (HepG2, HCCLM3, MHCC97H) の共培養によって確立された。
マウスモデルでは、自然発症HCC (pTMC) およびICC (pTMK) マウスのscRNA-seq解析により、17,780個の好中球を12サブセットに分類し、ヒトとマウスの好中球サブセット間の保存性を評価した。腫瘍増殖におけるTANの機能的寄与を検証するため、pTMCマウスにおいて抗Ly6G抗体を用いた好中球除去実験を実施した。好中球除去の効率は約70%であり、腫瘍結節数、腫瘍重量、および腫瘍免疫微小環境への影響が評価された。
統計解析はGraphPad Prism (v.9.0)、R (v.3.6.1)、RStudio (v.3.5.3)、Python (v.3.7.4) を用いて実施された。群間比較にはχ2検定、Fisherの正確検定、Studentのt検定、Wilcoxon順位和検定、ANOVAが用いられた。生存解析にはログランク検定が用いられ、p<0.05が統計的に有意であると判断された。