- 著者: Aleksandra J. Ozga, Melvyn T. Chow, Andrew D. Luster
- Corresponding author: Andrew D. Luster (Center for Immunology & Inflammatory Diseases, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-04-10
- Article種別: Review
- PMID: 33838745
背景
ケモカインは8-12 kDaの分泌性タンパク質であり、Gαi-protein-coupled seven-transmembrane receptor (GPCR) を介して免疫細胞の走化性、接着、局在、細胞間相互作用を制御する。ヒトでは約50のケモカインリガンド、20の古典的シグナリングGPCR、および4つの非典型受容体 (ACKR) が存在し、発生、恒常性、炎症、感染、腫瘍形成において中心的役割を果たすことが知られている。腫瘍微小環境 (TME) は多様なケモカイン発現を示し、同じケモカイン軸が抗腫瘍免疫と促腫瘍免疫の両方を制御するため、臨床応用におけるターゲティングが難しいという課題がある。例えば、Spranger et al. Nature 2015は、メラノーマにおけるWnt/β-cateninシグナルがcDC1の腫瘍浸潤を阻害することを示し、Spranger et al. SciTranslMed 2013は、活性化CD8+ T細胞がCCL22を産生しCCR4+ Tregを引き寄せることを報告した。免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) の登場により腫瘍免疫の重要性が再認識され、TMEにおけるケモカイン環境を理解することが治療最適化に不可欠であるとされている。しかし、ケモカイン系が腫瘍免疫応答の生成、輸送、機能においてどのように細胞の動員、局在、細胞間相互作用を精密に制御しているかについては、依然として多くの側面が未解明であり、特に腫瘍免疫の文脈依存的な複雑性に対する理解が不足している。例えば、CXCR3やCCR5といったケモカイン軸が、抗腫瘍性T細胞と促腫瘍性Treg細胞の両方を動員するメカニズムは完全には解明されておらず、この知識ギャップが効果的な治療戦略の開発を妨げている。
目的
本総説は、ケモカイン系の最新知見を、(1)腫瘍免疫細胞の生成・動員・機能、(2)腫瘍免疫contexture、(3)癌治療におけるケモカイン系の役割、という3つの軸で統合的に整理することを目的とする。具体的には、抗腫瘍応答に関わる細胞種と促腫瘍応答に関わる細胞種の動員メカニズムを対比させ、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB)、化学療法、放射線療法、養子細胞療法といった既存の癌治療との併用戦略におけるケモカイン系の役割を議論する。さらに、腫瘍微小環境がケモカイン環境をどのように形成し、免疫応答のタイプと結果を決定するかを考察し、治療効果を改善するためのケモカイン系を標的とした戦略の可能性を提示する。
結果
ケモカイン系の基本構成と抗腫瘍・促腫瘍軸の分類: ケモカイン系は約50のリガンド、20のシグナリングGPCR、4つのACKR (非典型受容体、ACKR1-4) から構成される。腫瘍免疫において重要な抗腫瘍ケモカイン軸としてはCXCR3 (リガンド:CXCL9・CXCL10・CXCL11) が中心的存在であり、Th1細胞、CD8+ Teff細胞、NK細胞をTMEに動員するtype 1免疫応答の核心軸として機能する。XCR1-XCL1/XCL2軸はcross-presenting cDC1のみが発現するユニークな軸であり、NK細胞由来XCL1がcDC1を腫瘍に動員するために不可欠である。この軸は他のケモカイン軸との機能的冗長性がほとんどないため、特異的な治療標的として注目される。CX3CR1-CX3CL1はNK細胞動員を担う。CCR5-CCL5は複雑であり、CD8+ Teff・cDC1動員 (抗腫瘍) とTreg・TAM動員 (促腫瘍) の両面を持つ。CCR4-CCL17/CCL22およびCCR8-CCL1は高抑制性のCCR8+CCR4+ Tregを選択的に腫瘍に動員する促腫瘍軸であり、CCR8+ TregはCD25、CTLA4、CD39、TIGIT、PD1、ICOSなどの抑制マーカーを高発現し治療耐性に寄与する (Figure 1)。TAM、MDSC、TANの動員には主にCCR2-CCL2、CXCR2-CXCL1/CXCL5/CXCL8、CXCR4-CXCL12が関与し、免疫抑制的TMEを形成する。
腫瘍免疫応答の生成・輸送における段階的ケモカイン制御: 抗腫瘍T細胞応答の開始はTDLN (tumor-draining lymph node) 内でのcDCとT細胞の相互作用から始まる。cDC1はTAA取り込みと炎症刺激によってCCR7を上方制御し、CCR7-CCL19/CCL21軸を介してTDLNに移行する。CCR7欠損cDC1では抗腫瘍T細胞応答が障害され、腫瘍増大が起こることが報告された (Roberts et al., 2016)。TDLNに入ったnaive T細胞 (CCR7-CCL19/CCL21依存) はcDC1・cDC2と相互作用してCXCR3を上方制御し、interfollicular region (IFR) に移行して二次的な相互作用を行う。TCF-1+CXCR3+ stem-like CD8+ T細胞はcDC1由来CXCL9/CXCL10によって再活性化・増殖し、IL-12暴露を通じてエフェクター機能を獲得する。腫瘍内のcDC1はCXCL9・CXCL10を産生してCXCR3+CD8+ T細胞を動員し、DC-T細胞相互作用を促進することでエフェクター機能を維持・強化する (Figure 2)。NK細胞由来CCL5とXCL1がcDC1をTMEに動員し (Böttcher et al., 2018)、cDC1はFlt3Lを産生してNK細胞生存を支援するという正のフィードバックループが存在する。このNK-cDC1-CD8+ T細胞クロストークの破壊が、cold tumorの成立に関与する主要機序の一つである。
腫瘍免疫contextureの4分類とケモカイン景観の調節: 腫瘍はCD8+ Teff細胞浸潤のパターンに基づき、(1) cold tumor (T細胞浸潤なし)、(2) altered immune-excluded tumor (辺縁部のみ浸潤)、(3) altered immunosuppressed tumor (低密度浸潤)、(4) hot inflamed tumor (高密度浸潤) の4種に分類される (Galon and Bruni, 2019)。Cold tumorでは黒色腫でのWnt/β-catenin活性化が転写抑制因子ATF3を介してCCL4産生を抑制し、cDC1動員が妨げられることがSpranger et al. Nature 2015により報告された。COX2過剰発現によるPGE2産生もNK細胞の生存低下とCXCL9/CXCL10などの抗腫瘍ケモカイン産生抑制を引き起こし、NK-cDC1クロストークを遮断する。CXCR3リガンド (CXCL9・CXCL10) はPRC2 (H3K27me3;EZH2を含む) によるエピジェネティックサイレンシング、DPP4・MMP-9・cathepsin-Bによるタンパク質分解的不活化、peroxynitriteによるCCL2ニトロ化など、多層的な不活化機序によって腫瘍内で機能を失わせられる。免疫排除型 (immune-excluded) 腫瘍ではT細胞が腫瘍辺縁部に留まる原因として、CAFsによるCXCL12産生 (T細胞排除)、collagen-rich ECMによる物理的障壁、腫瘍コア内でのT細胞招集シグナルの欠如が挙げられる。Hot tumorでは活性化CD8+ Teff細胞がCCL22を産生してCCR4+ Tregを引き寄せ、免疫抑制のフィードバックが形成されることがSpranger et al. SciTranslMed 2013により示された。また、慢性的な腫瘍抗原刺激と非産生的なDCとの相互作用によってT細胞疲弊が進行し、PD-L1、IDO、Foxp3などの免疫抑制分子が腫瘍内T細胞活性化の結果として誘導される。
がん遺伝子変異・エピジェネティック調節によるケモカイン景観の形成: NFκBによる炎症性ケモカイン産生誘導 (CCL2・CCL5・CCL22・CCL20など) は多くのがん種での免疫抑制性TME形成に寄与する。K-RasはCXCL3産生を介してMDSCを動員し、BRAF V600E変異はCCL17・CCL22を誘導してCCR4+ Tregを誘引する (Shabaneh et al., 2018)。MYC過剰発現はCCL2・CCL5産生を介してマスト細胞・炎症細胞を動員し血管新生を促進する。ATF4はCCL2産生を介してTAMを動員し、低酸素条件下でのVHL不活化によるHIF-1α安定化がCXCR4を腫瘍細胞上に誘導して転移を促進する。卵巣癌では低酸素によるCCL28産生がCCR10+ Tregを動員して腫瘍耐性を形成し、肝細胞癌ではCCL26誘導がMDSCをリクルートする。ACKR1 (DARC: Duffy Antigen Receptor for Chemokines) およびACKR2 (D6: Duffy binding protein) はそれぞれCXCL1/2・大部分のCCケモカインのスカベンジャーとして機能するが、腫瘍内での制御機構は十分解明されていない。ACKR1の発現はマウスモデルで腫瘍量の減少と相関することが示された (Shen et al., 2006)。
治療応用:化学療法・放射線療法・ICB・養子細胞療法とケモカイン: 化学療法はCCL2・CXCL9・CCL5などの抗腫瘍ケモカインを誘導してT細胞・APCの動員を増強する (乳癌・大腸癌モデルで実証;Hong et al., 2011)。アントラサイクリン投与後の腫瘍によるCXCL10産生増加が抗腫瘍T細胞応答に重要であることも示された。一方で化学療法後のCCL2・CCL5上昇は免疫抑制細胞のリクルートを促進し、治療耐性を形成する側面もある。放射線療法ではCXCL16発現誘導がCXCR6+CD8+ T細胞の腫瘍浸潤を増強し (Matsumura et al., 2008)、I型・II型IFN誘導を介したCXCL9/CXCL10上昇がCXCR3+エフェクターT細胞を動員する。ICB (特にanti-PD-1) ではcDC1が産生するCXCL9がCXCR3+非終末exhausted CD8+ T細胞を選択的に活性化・動員することが治療応答に必須であることがマウスモデルで実証された (Chow et al., 2019)。TIM-3 blockadeもcDC1によるCXCL9産生促進を介してCD8+ T細胞応答を増強する。エピジェネティック阻害剤 (DNMT・EZH2阻害剤) によるCXCL9/CXCL10のエピジェネティックサイレンシング解除がT細胞浸潤増加・腫瘍増殖抑制をもたらすことも前臨床的に示されている (Figure 3)。養子T細胞療法においては、adoptively transferred T細胞へのCXCR1・CXCR2・CXCR6・CX3CR1の遺伝子導入が腫瘍浸潤能を改善するエンジニアリング戦略として前臨床モデルで評価されている。CCR5阻害薬 (Maraviroc) は大腸癌患者でTAMをM1型に転換し、客観的奏効率 (ORR) 26%を示すなど臨床的効果を示した (Halama et al., 2016)。
ケモカインバイオマーカーとしての可能性と文脈依存性: CXCL9・CXCL10・CCL5・CXCR6はT細胞inflamed GEP (gene expression profile) の構成要素として、抗PD-1療法応答の予測バイオマーカーとして評価されていることがCristescu et al. Science 2018により示された。高TMBと高T細胞inflamed GEPの組み合わせが最も強い客観的奏効率と長いPFSを示す。一方CXCL9は卵巣癌・膵臓癌・大腸癌では高発現が良好な予後と相関するが、口腔癌・上咽頭癌・淡明細胞型腎癌では逆に不良予後と相関するという腫瘍型依存的なcontextがある点に注意が必要である。例えば、卵巣癌患者では高CXCL9レベルが有意に長い無再発生存期間と関連する (Lieber et al., 2018)。CCR2-CCL2阻害は前臨床で有望だったが、PF-04136309の大腸癌臨床試験では客観的効果が限定的であり、CCR4阻害 (mogamulizumab) は末梢Treg減少に伴う自己免疫懸念が残る。
考察/結論
本レビューは、ケモカイン系が腫瘍免疫において抗腫瘍 (CXCR3・XCR1・CX3CR1) と促腫瘍 (CCR4・CCR8・CCR2・CXCR2) の両方向に作用する複雑なネットワークを形成していることを体系的に整理した。
先行研究との違い: これまでの研究ではケモカインが免疫細胞の単純な動員因子として捉えられがちであったが、本レビューはケモカインがTMEの免疫細胞組成を規定するだけでなく、免疫細胞の細胞状態、機能フェノタイプ、空間的局在まで制御するという新たな概念を強調した点で、先行研究と異なる視点を提供している。特に、CXCR3-CXCL9/CXCL10軸がICB応答性の機能的マーカーとして治療応答予測と治療戦略の鍵を握るという知見は、Tumeh et al. Nature 2014やAyers et al. JClinInvest 2017といった研究で示されたPD-1阻害効果のメカニズムをケモカインの観点から深く掘り下げたものである。
新規性: XCR1-XCL1軸がcDC1特異的かつ非冗長な標的として独自の治療応用が期待されるという点は、本研究で初めて詳細に議論された新規性の高い知見である。また、腫瘍微小環境がケモカイン景観を動的に調節し、免疫応答のタイプと結果を決定するメカニズムを、がん遺伝子変異やエピジェネティック制御の観点から統合的に提示した点も新規である。
臨床応用: 本知見は、癌治療におけるケモカイン系を標的とした治療戦略の臨床応用に直結する。例えば、養子T細胞療法において、T細胞に特定のケモカイン受容体を遺伝子導入することで腫瘍浸潤能を改善するエンジニアリング戦略は、臨床現場での治療効果向上に大きく貢献する可能性がある。また、ケモカインプロファイルをバイオマーカーとして活用することで、個々の患者に合わせたテーラーメイド治療の実現が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、同一ケモカイン軸が腫瘍型、腫瘍進行ステージ、患者の免疫状態によって抗腫瘍・促腫瘍の相反する役割を担うメカニズムの解明が残されている。ACKR (Atypical Chemokine Receptor) の腫瘍における機能、ケモカイン受容体ヘテロマー化の意義、三次リンパ構造 (TLS) 形成との関連性についても、さらなる研究が必要である。Limitationとして、CCR2・CCR5単独阻害の臨床的限界を踏まえ、ICBとの組み合わせ、養子T細胞療法へのケモカイン受容体導入、エピジェネティック制御を介したケモカイン誘導といった統合的アプローチが次世代戦略として有望視される。
方法
本論文は総説であるため、特定の実験手法やデータ収集方法は該当しない。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学データベースを用いて、2020年12月までの期間で実施された。検索キーワードには、「chemokines」、「chemokine receptors」、「tumor microenvironment」、「cancer immunity」、「immunotherapy」などが含まれた。レビュー対象とする文献の選定には、特定の包含基準と除外基準が適用された。具体的には、ケモカインおよびケモカイン受容体に関する過去の発表論文、特に腫瘍免疫応答における役割、免疫細胞の動員、局在、細胞間相互作用の制御、および癌治療への応用に関する研究が広範にレビューされた。レビューされた文献は、約50のケモカインリガンド、20の古典的シグナリングGPCR、4つの非典型受容体 (ACKR: Atypical Chemokine Receptor) からなるケモカイン系の機能的側面を網羅している。腫瘍免疫応答の生成、輸送、機能におけるケモカインの役割に関する知見は、主にウイルス感染および細菌感染モデルからのデータに基づいており、これらの知見が腫瘍形成においても同様に機能するという仮定の下で議論が進められている。また、腫瘍微小環境におけるケモカインの発現パターン、腫瘍免疫contextureの分類、がん遺伝子変異やエピジェネティック調節によるケモカイン景観の形成、および化学療法、放射線療法、ICB、養子細胞療法といった癌治療におけるケモカインの役割についても包括的に分析された。本レビューでは、各研究の証拠レベル (evidence level) を評価し、その知見の信頼性を考慮に入れた。