• 著者: Zhao Y, Moon E, Carpenito C, Paulos CM, Liu X, Brennan AL, Chew A, Carroll RG, Scholler J, Levine BL, Albelda SM, June CH
  • Corresponding author: June CH, Zhao Y (University of Pennsylvania)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2010
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20926399

背景

がん治療における養子免疫療法、特にCAR (chimeric antigen receptor: キメラ抗原受容体) を導入したT細胞療法は、血液がんや一部の固形がんにおいて有望な成果を示しつつあった (Rosenberg et al. NatRevCancer 2008)。初期の臨床試験では、レトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルスベクターを用いてCAR遺伝子を安定的に導入したT細胞が用いられ、持続的な抗腫瘍効果が報告されていた (Pule et al. NatMed 2008Till et al. Blood 2008)。しかし、ウイルスベクターによるゲノムへのランダムな統合は、挿入変異によるゲノム毒性や悪性転化のリスクを内包していた。さらに、CAR-T細胞の持続的な発現は、標的抗原を微量に発現する正常組織への予期せぬ交差反応 (オンターゲット・オフ腫瘍毒性) を引き起こし、重篤な致死性有害事象を招く危険性が臨床試験で明らかになっていた (Morgan et al. MolTher 2010Lamers et al. JClinOncol 2006)。

このような安全性の懸念を克服するため、ゲノム統合を伴わない非ウイルス性の遺伝子導入法として、mRNAの電気穿孔法 (エレクトロポレーション) による一過性のCAR発現システムが注目されていた。しかし、従来のmRNA電気穿孔T細胞は、in vitroでの一過性発現は確認されていたものの、生体内 (in vivo) における抗腫瘍効果や、進行した播種性腫瘍モデルでの有効性については全くの未解明であった。特に、生体内でのCAR発現持続時間が短いことや、複数回投与による治療プロトコルが生体内で機能するかどうかに関するデータが決定的に不足しているという深刻な課題が存在した。また、患者由来の自家T細胞と自家腫瘍細胞を用いた、臨床を模した自家移植モデルにおける検証も手薄である状態であり、非ウイルス性CAR-T療法の治療プラットフォームとしての実用性を証明するための前臨床エビデンスが強く求められていた。

目的

本研究の目的は、IVT (in vitro transcription: in vitro転写) mRNAのベクターバックボーンおよび5’キャップ構造、3’ UTR (untranslated region: 非翻訳領域)、ポリAテールを系統的に最適化することにより、電気穿孔されたT細胞におけるCARの発現量と持続時間を最大化することである。さらに、この最適化されたmRNA電気穿孔T細胞 (RNA CAR-T細胞) の複数回投与が、ゲノム挿入リスクを完全に回避しつつ、前臨床の大型血管化腫瘍モデルおよび進行した播種性ヒト中皮腫異種移植モデルにおいて、有効な抗腫瘍効果を発揮できるかを検証することを目的とした。最終的には、悪性中皮腫患者から採取した自家T細胞と同一患者由来の腫瘍細胞を用いた、臨床に極めて近い自家移植マウスモデル (matched patient system) において、複数回投与による腫瘍退縮効果と生存期間の延長効果を実証し、安全かつ高効率な非ウイルス性CAR-T細胞療法の臨床応用への基盤を確立することを目指した。

結果

mRNAの構造最適化によるCAR発現量と持続時間の劇的向上: IVT mRNAの非翻訳領域およびポリAテールの最適化実験において、3’ UTRへのβ-グロビン2リピート (2bgUTR) と延長ポリAテール (150A) の同時導入 (2bgUTR.150A) は、従来の64Aテールと比較してCAR発現量を大幅に増加させた (Fig 1)。さらに、5’キャップ構造の比較では、ARCAキャップを用いたmRNAは、通常のRC (regular cap: 通常のキャップアナログ) と比較して電気穿孔4時間後に約3.0-fold高いMFI (mean fluorescence intensity: 平均蛍光強度) を示した (Fig 2)。電気穿孔後5日目 (day 5) においても、ARCAキャップ群では50%以上のT細胞がCAR発現を維持していた。また、酵素的キャッピングシステムにより作製したcap1構造 (CE1+A) は、ARCAと同等の高い発現効率を示した。臨床グレードのOFベクター (pD-A.ss1.OF) から調製したmRNAを用いることで、電気穿孔後最大7日間にわたりCAR発現が検出可能であり、一過性発現の治療ウィンドウが大幅に拡大した (Fig 3)。この実験は複数の健康ドナー由来のT細胞 (n=3 donors) を用いて再現性が確認された。

in vitroにおける抗原特異的なT細胞活性化と細胞傷害活性の証明: 最適化されたss1-bbz mRNAを電気穿孔したT細胞は、メソテリン陽性標的細胞 (K562-meso) との共培養において、極めて強力かつ特異的な活性化を示した。CD8陽性T細胞における活性化マーカー4-1BBの上方制御が顕著に観察され、IL-2産生量はss1.OF群において最大20,800 pg/mLに達した (Fig 3)。また、脱顆粒マーカーであるCD107aの表面移行 (脱顆粒率) も抗原特異的に有意に増加した (Fig 3)。フローサイトメトリーベースの細胞傷害活性アッセイにおいて、ss1-bbz RNA CAR-T細胞はK562-meso細胞を効率的に溶解したが、メソテリン陰性のK562-CD19細胞に対しては溶解活性を示さず、厳格な抗原特異性が確認された。この優れたin vitro活性は、共刺激ドメインとして4-1BBとCD3ζを組み合わせた第二世代CAR (ss1-bbz) の機能的優位性を裏付けるものであった (Milone et al. MolTher 2009Carpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009)。なお、第一世代CAR (ss1-z) は電気穿孔直後の発現量が最も高かったが、共刺激ドメインを欠くため持続的な活性化能に劣り、4-1BBまたはCD28を組み込んだ第二世代CARが治療開発において優先された (Zhao et al. JImmunol 2009)。このアッセイは、異なるエフェクター対ターゲット比を用いて3回以上の独立した実験 (n=3 replicates) で検証された。

複数回投与による大型皮下腫瘍および腹腔内播種腫瘍の退縮効果: 生体内における治療効果を検証するため、NSGマウスを用いた異種移植モデルで試験を行った。M108細胞を皮下接種した大型血管化側腹部腫瘍モデル (n=6 mice/群) において、腫瘍接種66日後からss1-bbz RNA CAR-T細胞を週2回、計4回腫瘍内投与した結果、腫瘍の著明な退縮が観察された (Fig 4)。一方、生理食塩水投与群では腫瘍が持続的に増大した。また、より臨床に近いM108-Luc細胞を用いた腹腔内播種モデル (n=6 mice/群) において、腫瘍接種58日後からss1-bbz RNA CAR-T細胞 (1 × 10^7細胞/回) を週2回、計4回腹腔内投与した。Day 78におけるBLI (bioluminescence imaging: 生物発光イメージング) 解析の結果、ss1-bbz群の発光シグナルは、対照であるCD19-bbz群および生理食塩水群と比較して有意に抑制されていた (p<0.01) (Fig 4)。レンチウイルスベクターによる持続発現CAR-T細胞の単回投与と比較すると効果は緩徐であったが、RNA CAR-T細胞の複数回投与は、生存期間の有意な延長 (p<0.05) をもたらした。

患者由来自家T細胞を用いた播種性中皮腫モデルでの劇的な腫瘍退縮と生存延長: 臨床応用へのトランスレーショナルな検証として、悪性中皮腫患者 (Patient 108) の自家T細胞と同一患者由来のM108-Luc細胞を用いた自家移植NSGマウスモデル (n=30 mice) において治療実験を行った。腫瘍接種56日後の高度な腹水貯留期から、自家ss1-bbz RNA CAR-T細胞を週2回投与した。最初の6回投与後において、腫瘍BLIシグナルの平均変化率は、対照のCD19-bbz群が243.6%増、生理食塩水群が237.1%増であったのに対し、ss1-bbz群では38.6%の低下 (腫瘍退縮) を示し、統計学的に極めて有意な差が認められた (p<0.001) (Fig 5)。さらに、腹水貯留の指標となる平均体重変化量において、生理食塩水群が11.4 g増、CD19-bbz群が6.21 g増であったのに対し、ss1-bbz群はわずか1.62 g増に抑制された (p<0.001) (Fig 5)。Kaplan-Meier生存解析において、ss1-bbz群の生存期間中央値は73 daysであり、CD19-bbz群の62 daysおよび生理食塩水群の36 daysと比較して有意に延長した (p<0.05) (Fig 5)。一部のマウスではBLI上で完全な腫瘍消失 (治癒) が確認されたが、計14回の投与終了後に最終的には腫瘍の再発が観察された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、レトロウイルスやレンチウイルスベクターを用いてCAR遺伝子をゲノムに恒常的に統合させる従来の主流なアプローチ (Pule et al. NatMed 2008Till et al. Blood 2008) と異なり、mRNA電気穿孔法を用いた一過性発現システムを採用している。ウイルスベクターによる恒常的発現が深刻なオンターゲット・オフ腫瘍毒性や挿入変異のリスクを伴うのに対し、本アプローチは毒性発現時に投与を中断すれば速やかにCAR-T細胞が体内から消失するため、安全性を極めて高く制御できる点でこれまでと一線を画している。

新規性: 本研究は、非ウイルス性のRNA CAR-T細胞の複数回投与が、生体内において大型の血管化腫瘍および進行した播種性腫瘍を退縮させ、生存期間を延長できることを本研究で初めて実証した。さらに、悪性中皮腫患者から得られた自家T細胞と同一患者由来の腫瘍細胞を用いたマッチド自家移植モデルにおいて、顕著な抗腫瘍効果と腹水貯留抑制効果を示したことは、これまで報告されていない極めて新規な知見である。

臨床応用: 本知見は、メソテリン陽性の中皮腫や卵巣がん、膵がんに対する安全なCAR-T細胞療法の臨床応用に直結する。特に、強力な活性化ドメインを持つCARの初期臨床試験において、致死的なサイトカイン放出症候群や予期せぬ毒性を回避するための安全なスクリーニングプラットフォームとして、臨床的意義が極めて大きい。また、GMP準拠の臨床グレードmRNA製造コストはウイルスベクターよりも安価であり、臨床現場への迅速な導入を可能にする。

残された課題: 一方で、RNA CAR-T細胞の最大の制限因子は、生体内におけるCAR発現の持続期間が短いことである。特に、リンパ球枯渇前処置を行ったレシピエント体内では、T細胞の恒常的増殖に伴いCAR発現がさらに急速に希釈される懸念があり、これが本治療法の主要なlimitationである。今後の検討課題として、投与回数や投与間隔のさらなる最適化、あるいは局所投与 (胸腔内や腹腔内投与) との組み合わせによる局所滞留性の向上が挙げられる。また、強力なRNA CAR-T細胞を初期の「寛解導入療法」として用い、その後に安定的なウイルスベクター型CAR-T細胞を「維持療法」として投与するハイブリッド戦略なども、今後の研究の方向性として残された課題である。

方法

mRNAベクターの構築と最適化:抗メソテリン (ss1) scFv (single-chain variable fragment: 1本鎖可変領域フラグメント) および抗CD19 scFvに、CD3ζ、CD28、4-1BB (CD137) の各共刺激ドメインを組み合わせたCARをコードするIVT mRNAを調製した。pGEMベースのベクターを改変し、3’ UTRにヒトβ-グロビン非翻訳領域の2リピート (2bgUTR) および延長ポリAテール (150A) を導入した。また、5’キャップ構造として、ARCA (anti-reverse cap analog: アンチリバースキャップアナログ) や、キャップ1 (cap1) 構造を付加する酵素的キャッピングシステムであるCE (capping enzyme: キャップ化酵素) を用いてmRNAを合成した。さらに、臨床グレードの製造に向けて、内部オープンリーディングフレームであるORF (open reading frame: オープンリーディングフレーム) を排除したORF-freeであるOF (open reading frame-free: オープンリーディングフレームフリー) ベクター (pD-A.ss1.OFおよびpD-A.19.OF) を作製した。

T細胞の培養と電気穿孔:健康ドナーまたは悪性中皮腫患者 (Patient 108) の末梢血単核球からT細胞を分離し、抗CD3/CD28ビーズを用いて刺激・拡大培養した。培養10日目に、最適化したCAR mRNAをMaxCyte電気穿孔装置を用いてT細胞に導入した。CARの発現量および持続時間は、フローサイトメトリーを用いて経時的に評価した。

in vitro機能評価:電気穿孔後のT細胞を、メソテリン陽性標的細胞 (K562-meso) または対照細胞 (K562-CD19) と共培養し、4-1BBの上方制御、IL-2産生 (ELISA: enzyme-linked immunosorbent assay: 酵素結合免疫吸着測定法)、CD107aの脱顆粒、およびフローサイトメトリーベースの特異的細胞傷害活性 (特異的溶解率) を測定した。

in vivo腫瘍モデル試験:免疫不全マウスであるNSG (NOD/scid/gamma c(-/-)) マウスを用いて、3つのモデルを構築した。 (1) 側腹部皮下腫瘍モデル:NSGマウスにヒト中皮腫細胞株M108を皮下接種し、接種66日後にss1-bbz RNA CAR-T細胞 (10-15 × 10^6細胞/回) を週2回、計4回腫瘍内投与した。 (2) 腹腔内播種モデル:NSGマウスにルシフェラーゼ発現M108細胞 (M108-Luc) を腹腔内接種し、接種58日後 (播種性腫瘍および腹水形成を確認後) から、ss1-bbz RNA CAR-T細胞 (1 × 10^7細胞/回) を週2回、計4回腹腔内投与した。対照群にはCD19-bbz RNA CAR-T細胞または生理食塩水を用いた。 (3) 自家移植モデル:Patient 108由来のM108-Luc細胞をNSGマウスに腹腔内接種し、56日後から同患者由来の自家T細胞にss1-bbzまたはCD19-bbz mRNAを電気穿孔したCAR-T細胞 (1 × 10^7細胞/回) を週2回、最大14回腹腔内投与した。

統計解析:データの比較には、Mann-Whitney検定、Kruskal-Wallis検定 (Dunn多重比較検定)、および生存曲線の解析にKaplan-Meier法とlog-rank検定を用いた。