• 著者: Stephen M. Ansell, Alexander M. Lesokhin, Ivan Borrello, Ahmad Halwani, Emma C. Scott, Martin Gutierrez, Stephen J. Schuster, Michael M. Millenson, Deepika Cattry, Gordon J. Freeman, Scott J. Rodig, Bjoern Chapuy, Azra H. Ligon, Lili Zhu, Joseph F. Grosso, Su Young Kim, John M. Timmerman, Margaret A. Shipp, Philippe Armand
  • Corresponding author: Stephen M. Ansell (Mayo Clinic, Rochester, MN), Philippe Armand (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2014-12-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25482239

背景

PD-1 (programmed death 1) 経路は、T細胞を介した免疫応答を制限する重要な免疫チェックポイントである。PD-1リガンドであるPD-L1およびPD-L2は、PD-1受容体と結合することでT細胞の「疲弊」を誘導し、T細胞の活性化と増殖を可逆的に抑制する。腫瘍細胞は、細胞表面にPD-1リガンドを発現し、PD-1受容体陽性の免疫エフェクター細胞と結合することで、このPD-1経路を悪用し、免疫回避を達成することが知られている。

固形癌の分野では、抗PD-1抗体がT細胞の免疫機能を増強し、良好な安全性プロファイルとともに持続的な臨床的奏効をもたらすことが確立されていた。具体的には、ニボルマブに関する Topalian et al. NEnglJMed 2012 の報告や、ペムブロリズマブに関する先行研究、およびBMS-936559に関する Brahmer et al. NEnglJMed 2012 の報告がその基盤を築いた。さらに、腫瘍微小環境におけるPD-L1発現と治療効果の相関についても Taube et al. ClinCancerRes 2014 などの既報で議論が重ねられてきた。これらの研究により、PD-1経路阻害が固形癌治療において有望な戦略であることが示された。

古典的ホジキンリンパ腫 (cHL) は、少数の悪性リード・シュテルンベルグ (Reed-Sternberg) 細胞が、広範ではあるものの効果的ではない炎症性および免疫細胞浸潤に囲まれているという独特の腫瘍微小環境を持つ疾患である。この疾患では、リード・シュテルンベルグ細胞において染色体9p24.1の増幅が頻繁に認められる。この9p24.1増幅は、特に結節硬化型ホジキンリンパ腫で多く見られる再発性の遺伝子異常であり、PD-L1 (CD274)、PD-L2 (PDCD1LG2)、およびJAK2の遺伝子コピー数増加を引き起こす。JAK2のコピー数増加は、JAK-STATシグナル伝達経路の活性化を介してPD-1リガンドの発現をさらに上方制御する。さらに、エプスタイン・バーウイルス (EBV) 感染もEBV陽性ホジキンリンパ腫におけるPD-1リガンドの発現を増加させることが報告されている。これらの相補的なメカニズムによるPD-1リガンドの過剰発現は、ホジキンリンパ腫がPD-1経路阻害に対して遺伝的に決定された脆弱性を持つ可能性を示唆していた。

しかし、再発・難治性ホジキンリンパ腫患者におけるPD-1阻害薬の安全性と有効性、および9p24.1増幅とPD-1リガンド発現の関連性については、大規模な臨床データが不足しており、その詳細なメカニズムは未解明な点が残されていた。特に、前治療歴の多い難治性患者集団におけるニボルマブの臨床的有用性は確立されていなかった。本疾患における免疫微小環境の制御機構に関する知見は不十分であり、治療抵抗性を克服するための分子基盤の解明に向けた研究は不足していた。本研究は、この臨床データおよび生物学的背景の不足という知識のギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究の主要な目的は、再発または難治性のホジキンリンパ腫患者に対するPD-1阻害抗体ニボルマブの安全性プロファイルと臨床的有効性を評価することである。副次的な目的として、腫瘍組織におけるPD-L1 (CD274) およびPD-L2 (PDCD1LG2) 遺伝子座の完全性(特に9p24.1増幅の有無)と、リード・シュテルンベルグ細胞におけるPD-L1およびPD-L2タンパク質の発現を解析し、これらのバイオマーカーがニボルマブの治療効果と関連するかどうかを検討することであった。これにより、ホジキンリンパ腫におけるPD-1経路の免疫回避メカニズムと、ニボルマブの作用機序との関連性を分子レベルで解明することを目指した。

結果

患者背景と前治療歴: 本研究には、再発または難治性のホジキンリンパ腫患者23例が登録された (Table 1)。患者のベースライン特性は、中央年齢35歳 (範囲20-54歳) であり、17例 (74%) がECOGパフォーマンスステータス1であった。全患者が広範な前治療歴を有しており、87%の患者が3レジメン以上の治療を受けていた。また、78%の患者がブレンツキシマブ ベドチンの治療歴があり、78%の患者が自家造血幹細胞移植の既往があった。節外病変は17%の患者で認められ、骨、肺、骨盤、腹膜、胸膜に及んでいた。1例を除き、全患者が結節硬化型ホジキンリンパ腫であり、残りの1例は混合細胞型であった。最も一般的な初回化学療法はABVD (ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン) であり、20例 (87%) に投与されていた。

ニボルマブの極めて高い臨床的有効性: ニボルマブの臨床的有効性は非常に高かった。主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) は87% (95% CI 66-97) であった。内訳は、完全奏効 (CR) が4例 (17%)、部分奏効 (PR) が16例 (70%) であった。残りの3例 (13%) は病勢安定 (SD) であり、病勢進行 (PD) を示した患者はいなかった。24週時点での無増悪生存率 (PFS率) は86% (95% CI 62-95) と高い値を示した (Figure 1B)。治療開始から最初の奏効までの期間は、20例の奏効患者のうち12例 (60%) で8週以内 (範囲3-39週) であった (Figure 1A)。データロック時点 (2014年6月16日) で、11例 (48%) の患者が試験を継続中であった。治療中止の主な理由は、幹細胞移植 (6例)、病勢進行 (4例)、および薬剤毒性 (2例) であった。患者が受けたニボルマブの投与回数の中央値は16回 (範囲6-37回) であり、治療期間の中央値は36週 (範囲13-77週) であった。患者の65%が予定総投与量の90%以上を受領していた。

サブグループにおける奏効の維持: 前治療の有無によるサブグループ解析においても、ニボルマブは一貫して高い有効性を示した。自家造血幹細胞移植およびブレンツキシマブ ベドチンの両方の治療歴があり、その後に再発した極めて難治性のサブグループ (n=15 patients) における客観的奏効率は87% (95% CI 60-98) であり、その内訳はCRが7% (n=1 patient)、PRが80% (n=12 patients)、SDが13% (n=2 patients) であった (Table 3)。また、自家造血幹細胞移植の既往がなくブレンツキシマブ ベドチンのみで治療に失敗したサブグループ (n=3 patients) では、ORR 100% (95% CI 29-100) を達成し、全例がPRであった。さらに、ブレンツキシマブ ベドチンの治療歴がないサブグループ (n=5 patients) におけるORRは80% (95% CI 28-99) であり、CRが60% (n=3 patients)、PRが20% (n=1 patient)、SDが20% (n=1 patient) であった。

許容可能な安全性プロファイル: 安全性プロファイルは良好であった。全23例中22例 (96%) で何らかの有害事象が報告された。グレード3または4の有害事象は12例 (52%) で発生した。薬剤関連の有害事象は18例 (78%) で報告された。最も頻繁に報告された薬剤関連有害事象は、発疹 (22%) および血小板数減少 (17%) であった。グレード3の薬剤関連有害事象は5例 (22%) で報告され、骨髄異形成症候群、膵炎、間質性肺炎、口内炎、大腸炎、消化管炎症、血小板減少症、リパーゼ上昇、リンパ球減少、白血球減少などが含まれた。薬剤関連のグレード4または5の有害事象は報告されなかった。重篤な薬剤関連有害事象は3例で発生し、グレード3の膵炎、グレード3の骨髄異形成症候群、グレード2のリンパ節痛であった。骨髄異形成症候群を発症した患者は、自家造血幹細胞移植を含む6種類の前治療歴があった。治療関連死は認められなかった。治療を中止した12例中、2例 (9%) が毒性によるものであった。9例 (39%) で少なくとも1回の投与遅延が発生したが、全員が治療を再開できた。

PD-1リガンド遺伝子座と発現の解析: 治療前腫瘍検体が入手可能であった患者 (n=10 patients) において、バイオマーカー解析が実施された (Figure 2)。FISH解析の結果、評価可能な全10例の腫瘍細胞 (n=100 cells、p<0.001) において、PDL1およびPDL2のコピー数増加が認められた。これらのパターンは、増幅、相対的コピー数増加、または染色体9pの多体性として特徴づけられた (Figure 2D)。この9p24.1転座に伴うPDL1/PDL2遺伝子増幅は、3-fold to 15-fold increase (p=0.003) の範囲で検出された。免疫組織化学染色により、リード・シュテルンベルグ細胞はPD-L1およびPD-L2タンパク質を過剰発現していることが確認された。さらに、これらの腫瘍細胞の核内にはリン酸化STAT3 (pSTAT3) が陽性であり、これはJAK-STATシグナル伝達経路が活性化していることを示唆した (Figure 2C)。核内陽性化はドナーサンプル (n=10 donors、p<0.001) の評価により確認された。これらのバイオマーカー所見は、9p24.1増幅とJAK-STAT経路の活性化が、ホジキンリンパ腫におけるPD-1リガンドの過剰発現を介した免疫回避メカニズムであり、PD-1阻害に対する遺伝的脆弱性の根拠となることを実証した。

考察/結論

本研究は、再発・難治性ホジキンリンパ腫患者において、PD-1阻害薬ニボルマブが前例のない高い奏効率 (ORR 87%) と持続的な奏効を示すことを明らかにした画期的な論文である。特に、ブレンツキシマブ ベドチンおよび自家造血幹細胞移植後の再発患者という、最も治療が困難な集団においても、ニボルマブが持続的な腫瘍縮小をもたらしたことは特筆すべきである。

先行研究との違い: 固形癌におけるPD-1阻害薬の奏効率 (悪性黒色腫で30-40%、非小細胞肺癌で15-20%) と比較して、本研究で示されたホジキンリンパ腫における奏効率87%は著しく高く、これまで報告された他の癌種とは対照的な結果であった。この高い奏効率は、ホジキンリンパ腫がPD-1経路阻害に対して遺伝的に決定された脆弱性を持つという仮説を強力に支持するものである。

新規性: 本研究で初めて、ホジキンリンパ腫における9p24.1増幅がPD-L1/PD-L2の過剰発現とJAK-STAT経路の活性化を介してPD-1経路の免疫回避を促進し、これがニボルマブの治療効果と密接に関連していることを分子レベルで実証した。この知見は、腫瘍の遺伝的特性に基づいた精密免疫療法の概念を確立する上で新規性が高い。

臨床応用: 本研究の知見は、再発・難治性ホジキンリンパ腫患者に対するニボルマブの臨床応用に直結する。限られた治療選択肢しかなかったこの難治性集団において、ニボルマブは有望な標的治療薬となる可能性を示した。本研究の結果は、その後の大規模臨床試験で確認され、ニボルマブは再発・難治性cHLに対してFDA承認を取得した。同時期にペムブロリズマブの臨床試験でも同様の結果が示されており、ホジキンリンパ腫におけるPD-1阻害薬の臨床的有用性が確立された。

残された課題: 本研究は症例数23例と小規模であり、長期的なフォローアップ期間が短い (中央値40週、最長77週) という limitation がある。また、一部の患者がニボルマブ治療中に幹細胞移植を選択したため、治療中止理由の解釈に影響を与える可能性がある。今後の検討課題として、ニボルマブとブレンツキシマブ ベドチンとの併用療法、初回治療におけるPD-1阻害薬の評価、および同種造血幹細胞移植前後の使用に関する研究が挙げられる。本研究は、非小細胞肺癌などの固形癌領域とは異なる「腫瘍遺伝子駆動型」の免疫療法応答性という新たなパラダイムを提示した重要な論文である。

方法

本研究は、進行中の第I相試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT01592370) のホジキンリンパ腫コホート拡大パートとして実施された。用量漸増コホートでは最大耐用量 (MTD) に達しなかったため、拡大コホートではニボルマブ3 mg/kgの用量が選択された。

患者選択: 2012年8月以降、組織学的に確認された再発または難治性のホジキンリンパ腫患者23例が登録された。対象患者は18歳以上、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス0または1、少なくとも1.5 cm以上の測定可能病変を有し、1レジメン以上の化学療法歴があることが条件とされた。SCT (stem-cell transplantation; 幹細胞移植) のうち、自家造血幹細胞移植である ASCT (autologous stem-cell transplantation) を受けた患者は、移植後100日以上経過している必要があった。主要な除外基準には、中枢神経系への癌浸潤、自己免疫疾患の既往または活動性、同時性二次癌、および同種臓器移植または同種骨髄移植の既往が含まれた。

治療プロトコル: 患者にはニボルマブ3 mg/kgが、初回投与後、4週目、その後は2週間隔で、病勢進行、完全奏効 (CR)、または最大2年間まで投与された。

安全性評価: 有害事象は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0を用いて、試験期間中および最終投与後100日まで評価された。

有効性評価: 腫瘍評価は、4週目、8週目、16週目、24週目、その後は16週ごとにCTスキャンにより実施された。CRの確認にはFDG-PET (18F-fluorodeoxyglucose–positron-emission tomography) スキャンが用いられた。奏効評価は、改訂悪性リンパ腫奏効基準に基づいて行われた。最良総合奏効は、初回投与日から最終有効性評価日までの最良の奏効と定義された。客観的奏効率 (ORR) は、CRまたは部分奏効 (PR) を達成した患者の割合とされた。無増悪生存期間 (PFS) は、初回投与日から病勢進行または死亡までの期間と定義され、Kaplan-Meier法を用いて推定された。

バイオマーカー解析: 治療前腫瘍検体を用いて、以下の解析が行われた。

  • FISH解析: 蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法により、染色体9p24.1におけるPDL1 (CD274) およびPDL2 (PDCD1LG2) のコピー数異常が評価された。RP11 (Rosewell Park Cancer Institute-11) ゲノムライブラリー由来のプローブである RP11-599H2O (CD274を含む) および RP11-635N21 (PDCD1LG2を含む) のプローブが共ハイブリダイズされ、コントロールとして CEP9 (chromosome 9 centromere probe) セントロメアプローブが使用された。ターゲット対コントロールプローブ比が3:1以上を増幅、1:1超3:1未満を相対的コピー数増加、1:1で各プローブが2コピー超を多体性と分類した。
  • 免疫組織化学 (IHC) 解析: 自動染色システムである BOND-III (Leica Biosystems) を用いて、PD-L1/PAX5 (paired box 5) およびPD-L2/リン酸化STAT3 (pSTAT3) の二重染色が実施された。リード・シュテルンベルグ細胞におけるPD-L1、PD-L2、および活性型JAK-STATシグナル伝達の指標である核内pSTAT3の発現が評価された。

統計解析: 少なくとも1回ニボルマブを投与された全患者が安全性および有効性解析の対象とされた。データベースは2014年6月16日にロックされた。有害事象はMedical Dictionary for Regulatory Activities (MedDRA) v17.0を用いてコード化され、Kaplan-Meier法によりPFSが推定された。