- 著者: Karinna Almodovar, Wade T. Iams, Catherine B. Meador, Zhiguo Zhao, Sally York, Leora Horn, Yingjun Yan, Jennifer Hernandez, Heidi Chen, Yu Shyr, Lee P. Lim, Christopher K. Raymond, Christine M. Lovly
- Corresponding author: Christine M. Lovly (Vanderbilt-Ingram Cancer Center, Nashville, TN, USA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-09-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 28951314
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は、全肺癌の約13%を占める神経内分泌起源の悪性腫瘍であり、その高い増殖速度と早期転移性により、極めて予後不良な疾患として知られている。標準的な初回治療である白金ベースの化学療法に対しては高い奏効率を示すものの、ほとんどの患者が1年以内に再発し、5年生存率は7%にとどまるのが現状である。SCLCの腫瘍組織は、気管支鏡下生検などで得られる検体量が限られることが多く、また、再発時の反復生検によるゲノム解析は、患者への負担が大きく、臨床現場での実施は困難であるという課題が存在する。このため、SCLCの治療効果モニタリングや再発早期検出のための非侵襲的なバイオマーカーの確立が強く求められていた。
近年、血液中の循環腫瘍DNA (circulating tumor DNA; ctDNA) を用いた液体生検は、非侵襲的に腫瘍のゲノム情報を取得し、治療モニタリングや再発検出に活用できる可能性が示され、非小細胞肺癌 (NSCLC) をはじめとする多くのがん種でその有用性が報告されている。しかし、SCLC領域におけるctDNAの縦断的解析の臨床的有用性については、体系的な検証が不足しており、特に治療経過中の動態的変化と臨床転帰との関連を詳細に評価した前向き研究は未解明な点が多かった。
これまでの研究では、SCLCのゲノムランドスケープが複雑かつ不均一であることが示されており、特に腫瘍抑制遺伝子であるTP53とRB1の二対立遺伝子不活性化がほとんどのSCLC腫瘍で検出されることが報告されている George et al. Nature 2015、Peifer et al. NatGenet 2012、Rudin et al. NatGenet 2012。これらの分子学的特徴に加え、MYCファミリー遺伝子の増幅、FGFR1の増幅、PTENの欠失、PIK3CA、BRAF、NOTCH遺伝子ファミリーの活性化変異なども低頻度で検出されている。しかし、これらのゲノム異常を標的とした個別化治療はSCLCにおいてまだ確立されておらず、有効な治療法の開発が急務である。SCLCの治療効果判定にはRECIST (Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) 基準に基づく画像診断が用いられるが、これは腫瘍径の変化を評価するため、微小残存病変や早期の分子学的再発を検出するには感度が不足しているという課題が残されている。
本研究は、Resolution Bioscience社が開発した14遺伝子パネル(hybrid-capture NGS法、最小VAF 0.1%検出可能)を用いて、SCLC患者における血漿cfDNA (cell-free DNA) の縦断的モニタリングの実現可能性と臨床的意義を前向きに評価することを目的とした。特に、治療前および治療経過中のcfDNA変異アレル頻度 (VAF) の動態が、治療反応、疾患再発、および全生存期間 (OS) などの臨床転帰とどのように関連するかを明らかにすることで、液体生検がSCLCの疾患管理において新たなツールとなり得るかを探ることを目指した。
目的
本研究の目的は、進行期および限局期SCLC患者において、血漿cfDNAを用いたゲノム変異検出の成功率を評価することである。さらに、治療前および治療経過中に測定されるcfDNA中の変異アレル頻度 (VAF) の動態が、全生存期間 (OS) や無増悪生存期間 (PFS) などの臨床転帰とどのように関連するかを明らかにすることを目指した。また、cfDNAの経時的変化が、従来の画像診断よりも早期に治療反応や疾患再発を予測できるか否かを検証することも重要な目的とした。これらの解析を通じて、SCLCの疾患モニタリングにおける液体生検の臨床的有用性を確立することを目的とした。本研究は、SCLCにおけるcfDNAの縦断的モニタリングの臨床的意義を評価する前向きコホート研究としてデザインされた。
結果
患者背景と変異検出率: 27例のSCLC患者(進展期SCLC (ES-SCLC) 16例 (59%)、限局期SCLC (LS-SCLC) 11例 (41%)、年齢中央値66歳、男性48%)から、約26ヶ月間にわたり合計140の血漿サンプルが収集された (Table 1)。ほとんどの患者 (n=25/27例, 93%) で複数のサンプルが採取された。cfDNAを抽出した結果、85% (n=23/27例) の患者で少なくとも1つの疾患関連体細胞変異が検出された。変異アレル頻度 (AF) は0.1%から87%の範囲であった。この高い検出率は、病期によらず安定しており、少量採血(10-20mL)で臨床的に有用なゲノム情報が得られることを示唆している。解析された140の血漿サンプルのうち、82サンプル (59%) で体細胞変異が検出された。変異が検出されなかった58サンプルのうち35サンプル (60%) は、治療反応により体細胞変異が検出限界以下に低下した患者のものであった。
変異スペクトラム: 最も高頻度に検出された疾患関連変異はTP53変異であり、70% (n=19/27例) の患者で認められた。次いでRB1変異が52% (n=14/27例) の患者で検出された (Figure 1B)。14例 (52%) の患者ではTP53とRB1の両方に変異が検出された。これらの頻度は、SCLC組織検体で報告されている頻度(TP53約80-95%、RB1約35-70%)と概ね一致しており、cfDNAがSCLCの腫瘍ゲノムを代表的に反映していることを示唆する。TP53およびRB1変異に加え、PTEN、NOTCH1 (notch 1 gene)、NOTCH2 (notch 2 gene)、NOTCH3 (notch 3 gene)、NOTCH4 (notch 4 gene)、MYC、MYCL1、PIK3CA、KIT、BRAFを含む10の追加遺伝子に変異が検出された。NOTCHファミリー遺伝子の不活性化変異は14例 (52%) で、MYCファミリー遺伝子のゲノム増幅は4例 (15%) で検出された。全体として、42の一塩基変異、39のコピー数異常、10の挿入/欠失を含む、12遺伝子における合計91の変異が検出された。SCLC患者のcfDNAにおける変異アレル頻度は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者のTP53変異と比較して有意に高かった (SCLC: 0.45%-70.4% vs NSCLC: 0.4%-36.9%, p=0.006)。
治療前VAFと予後の関連: 治療前cfDNA中最大VAFを中央値 (7.9%) で二分し、高VAF群と低VAF群で比較した結果、高VAF群の全生存期間 (OS) は有意に短縮していた (単変量解析におけるハザード比 (HR) 2.65, 95% CI 1.41-4.98, p=0.0024)。年齢、性別、病期、パフォーマンスステータスで補正した多変量解析においても、高VAFは独立した予後不良因子として有意であった (HR 2.56, 95% CI 1.29-5.10, p=0.007)。無増悪生存期間 (PFS) においても、高VAF群は有意な短縮を示した (HR 2.11, 95% CI 1.14-3.89, p=0.017)。この結果は、cfDNAレベルがLDHや病期単独よりも高いリスク層別化能力を持つ可能性を示唆している。血漿中のcfDNAゲノム当量 (GEs) の増加もOSの悪化と関連しており、単変量解析 (HR 2.65, 95% CI 1.41-4.98, p=0.0024) および多変量解析 (HR 2.73, 95% CI 1.27-5.86, p=0.0099) の両方で有意な関連が認められた。cfDNA GEsが2000(コホート中央値2044)の患者の1年生存率は90%であったのに対し、GEsが4000、6000、8000、12000、16000の患者ではそれぞれ75%、60%、47%、26%、13%と予測された。
VAFの治療反応動態: 治療に反応した患者では、治療開始後1-2サイクルでVAFが検出限界以下、またはベースラインの10%未満に急激に減少した。これに対し、治療抵抗性を示した患者では、VAFの減少が軽微であるか、あるいは増加する傾向が観察された。画像診断で部分奏効 (PR) と判定された症例では、治療開始後数週以内にVAFが低下し、画像評価よりも早期に治療反応を予測できる可能性が示された。例えば、患者VSC-14では、一次治療であるカルボプラチンとエトポシドの1サイクル後にTP53 (R158L) およびRB1 (Q850*) 変異のAFがそれぞれ54.5%および57.4%と高値を維持し、治療抵抗性を示した (Figure 5B)。
再発検出のリードタイム: 維持療法中または経過観察中にVAFが再上昇した9例の患者では、画像診断による疾患再発の確認よりも中央値で数週から数ヶ月先行してVAFの上昇が検出された。例えば、患者VSC-8では、一次化学放射線療法後にTP53変異のVAFが検出限界以下に低下したが、治療完了8週後 (診断後200日目) にVAFが1.3%で再出現した (Figure 2B)。この時点では画像診断で明確な再発は認められなかったが、その後VAFは74%に急増し、診断後289日目に骨髄生検でSCLCの浸潤が確認された。これは、cfDNA検査がCT画像では捉えられない疾患進行を検出した事例である。また、患者VSC-10では、二次治療後にTP53およびNOTCH3変異のVAFが検出限界以下に低下したが、治療開始約6ヶ月後 (診断後417日目) にこれらの変異が再出現した (TP53 E285K 3.9%, NOTCH3 G1551C 3.7%) (Figure 3B)。この時点の画像診断では明確な腫瘍再発は認められず、むしろ肺結節の縮小が認められた。しかし、その後VAFはTP53で20倍以上 (82.6%)、NOTCH3で10倍以上 (39.9%) に急増し、診断後494日目の画像診断で大規模な腹腔内疾患が確認された。これらの事例は、血漿cfDNAモニタリングが画像診断に先行して再発を早期に検出する可能性を示している。
クローン進化の観察: 複数の患者で、治療前に検出された主要な変異(例: TP53)が治療後も維持されつつ、新規のPIK3CA変異やRB1変異が治療後期に出現する現象が観察された。これは、治療圧下でのSCLCのサブクローン進化を縦断的に捉えることができることを示している。
考察/結論
本研究は、SCLC患者における血漿cfDNAの縦断的モニタリングの実現可能性を前向きに示し、その臨床的価値を包括的に実証した点で新規性が高い。具体的には、85%という高い変異検出率、治療前cfDNAレベルの独立した予後予測能 (OS HR 2.65, 95% CI 1.41-4.98, p=0.0024)、および画像診断に先行する疾患再発の早期検出という3つの重要な臨床的意義を同時に示した。
先行研究との違い: SCLC組織におけるTP53およびRB1変異の既報頻度(それぞれ約80-95%、60-70%)と、本研究でcfDNAから検出された頻度(それぞれ70%、52%)が概ね一致することは、cfDNAがSCLCの腫瘍ゲノムを代表的に反映していることを強く示唆する。これは、SCLCの組織生検が困難である現状において、cfDNAが腫瘍のゲノムプロファイリングに有用な代替手段となり得ることを裏付けるものである。先行研究ではSCLCにおけるctDNAの検出が報告されているが、本研究は特に縦断的な採血による治療反応および再発モニタリングに焦点を当てた初期の前向きデータとして、これまでの報告と異なり、より詳細な動態情報を提供した。例えば、Bettegowda et al. SciTranslMed 2014は様々な悪性腫瘍におけるctDNA検出を示したが、SCLCにおける縦断的モニタリングと臨床転帰の関連を詳細に評価したものではなかった。
新規性: 本研究で初めて、SCLC患者におけるcfDNAの縦断的解析が、画像診断よりも早期に疾患再発を予測し得ることを具体例をもって示した。これは、SCLCの疾患管理において、cfDNAが従来の画像診断を補完し、治療介入のタイミングを最適化する新たなツールとなり得るという新規な知見である。また、治療前cfDNAのゲノム当量 (GEs) がOSの独立した予後不良因子であることも本研究で初めて示された。
臨床応用: 本研究の知見は、SCLCの臨床応用において重要な含意を持つ。SCLCでは生検検体が限定的であるため、cfDNAは繰り返し実施可能な「ゲノムウィンドウ」として、治療選択、治療効果判定、および早期再発検出に活用できる可能性がある。特に、免疫チェックポイント阻害剤(例: Antonia et al. LancetOncol 2016)がSCLCの治療選択肢として登場している時代において、RECIST評価上のpseudoprogressionとの鑑別や、早期の治療耐性検出にctDNAが重要な役割を果たす可能性が考えられる。また、治療反応が良好な患者において、予防的全脳照射 (PCI) のような毒性の高い治療の必要性を再評価する情報を提供する可能性も示唆された。
残された課題: 残された課題として、まず本研究が27例という比較的小規模なコホートでの検証にとどまっている点が挙げられる。より大規模な多施設共同前向きコホートでの再現性確認が今後の検討課題である。第二に、本研究で用いた14遺伝子パネルはSCLCで高頻度に変異する遺伝子をカバーしているものの、SCLCで重要なMYC増幅、NOTCH経路変異、SLFN11などの網羅的な変異を検出するには、より広範なパネルや全エクソームシーケンシングが必要となる可能性がある。第三に、cfDNAの結果に基づいて治療内容を変更する介入試験を実施し、その臨床的有用性を検証する必要がある。第四に、限局期SCLCにおける術後モニタリングや補助化学療法の効果判定へのcfDNAの応用可能性についても検討が求められる。最後に、SCLCの分子サブタイプ(例: ASCL1, NEUROD1, POU2F3, YAP1)とcfDNA変異プロファイルとの関連を詳細に検討することで、より個別化された治療戦略の開発に繋がる可能性がある。例えば、Mollaoglu et al. CancerCell 2017はMYC増幅がオーロラキナーゼ阻害剤への感受性を示唆すると報告しており、cfDNAによるMYC増幅検出が治療選択に影響を与える可能性もある。
方法
本研究は、Vanderbilt大学にて2014年から2016年にかけてSCLCと診断された27例の患者を前向きに登録し、実施された。研究プロトコルは施設内倫理委員会によって承認され、全ての患者から血液検体採取および臨床情報利用に関するインフォームドコンセントを取得した。本研究は単施設前向きコホート研究として実施された。
検体採取とcfDNA抽出: 患者からは、ベースライン(治療前または治療開始後早期)および治療継続中の各サイクル前に末梢血10-20 mLをStreckチューブに採取した。採取された血液は、遠心分離により血漿を分離し、さらに再遠心分離を行った後、直ちに分注し-80℃で保存した。cfDNAは、Qiagen社のCirculating Nucleic Acids Extraction kitを用いて血漿から抽出された。製造元の指示に従い、プロテイナーゼKによるインキュベーション時間を30分から1時間に延長した。抽出された二本鎖DNAの収量は、Qubit蛍光光度計(Thermo Fisher)と高感度DNA定量キットを用いて定量された。ライブラリ調製には、サンプルからのcfDNA収量に応じて約40-100 ngのcfDNAが使用された。
ターゲット次世代シーケンシング (NGS): Resolution Bioscience社が開発したhybrid-capture NGSパネルを用いて、cfDNA中の体細胞変異が検出された。このカスタムパネルは、SCLC腫瘍で高頻度に報告されている14遺伝子(TP53, RB1, PIK3CA, EGFR, KRAS, BRAF, NRAS, PTEN, MET, ERBB2, ALK, ROS1, KIT, CTNNB1)の全コード領域を標的とする1608のプローブを含んでいた。このパネルは、一塩基変異 (SNV)、コピー数異常 (CNA)、および挿入/欠失 (indel) を検出可能であり、最小VAF 0.1%の検出感度を有していた。また、FGFR1, MYC, MYCL1, MYCN遺伝子のコピー数変動検出用プローブと、22の常染色体上の選択領域を標的とするコントロールプローブも含まれていた。
臨床情報との突合と統計解析: 収集されたcfDNAのゲノムデータは、患者の臨床情報(病期、治療内容、RECIST 1.1に基づく画像評価、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS))と突合された。OSは診断日からあらゆる原因による死亡日、または最終フォローアップ日までと定義された(データカットオフ日:2017年2月8日)。治療前cfDNA中最大VAFを中央値で高低二群に分け、Kaplan-Meier法を用いて生存曲線を推定し、ログランク検定で比較した。予後との関連を評価するため、Cox比例ハザードモデルを用いた単変量および多変量解析が実施された。cfDNAレベルは血漿中のゲノム当量 (GEs) として測定され、時間依存性共変量としてモデルに組み込まれた。多変量モデルでは、疾患病期と治療状況が臨床的知識に基づいて事前に調整因子として選択された。VAFの経時変化は、画像上の治療反応および増悪時期と比較され、cfDNAによる早期検出の可能性が評価された。