- 著者: Mollaoglu G et al.
- Corresponding author: Sos ML, Oliver TG
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-01-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 28089889
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約14%を占め、米国では年間約30,000人が死亡する予後不良な疾患である。診断時に50%-80%の患者が遠隔転移を有しており、平均生存期間は約10ヶ月、2年生存率はわずか6%に過ぎない。標準治療はプラチナ製剤とエトポシドの併用化学療法であり、初回奏効率は60%-80%と高いが腫瘍は急速に多剤耐性を獲得する。この治療状況は約40年間変わっておらず、新たな分子標的戦略の確立が急務であった。
包括的ゲノム解析により RB1・TP53 の機能喪失が90%-100%の SCLC で認められ、MYC ファミリー遺伝子 (MYC・MYCL・MYCN) の増幅が約20%の症例に相互排他的に生じることが明らかになっている (Peifer et al. NatGenet 2012、George et al. Nature 2015)。MYC 増幅は原発ヒト腫瘍の6%-25%、SCLC 細胞株の30%-50%に認められ、不良予後・腫瘍進行・治療耐性との関連が指摘されてきたが、in vivo でこれらのプロセスへの MYC の影響は解明されていなかった。
ヒト SCLC 細胞株は古典型 (classic) とバリアント型 (variant) に分類され、バリアント型は速い倍加時間・頻繁な MYC 増幅・神経内分泌マーカー低発現という特徴を持つ。neurogenic 転写因子 ASCL1 (Achaete-Scute Homologue 1) と NEUROD1 (Neuronal Differentiation 1) は逆相関関係を示し、NEUROD1 高発現がバリアント型および MYC 増幅と関連することが複数の研究で報告されている (Borromeo et al. CellRep 2016)。しかしながら、既存の遺伝子改変マウスモデル (GEMM) はすべて Rb1/Trp53 欠損と Mycl 増幅を組み合わせた古典型 SCLC を再現するに留まっており、MYC 高発現がバリアントサブタイプをどのように誘導するかという重要な gap in knowledge が存在していた。in vivo での MYC 駆動バリアント型 SCLC の分子基盤と、このサブタイプに特異的な治療戦略の知見が不足していた点が本研究の出発点である。
目的
MYC 高発現が Rb1/Trp53 欠損マウス SCLC の腫瘍形成速度・神経内分泌サブタイプ・転移能・化学療法感受性・Aurora kinase 阻害薬応答に与える影響を in vivo で解明し、MYC 高発現 SCLC に対する分子標的治療戦略を確立すること。
結果
MYC による急速腫瘍形成と高転移:RPM マウスは Cgrp-Cre 感染後わずか5週以内から呼吸困難を呈して死亡する個体が出現し、中央生存期間は60日であった。RPP マウスの中央生存期間164日と比較して有意な短縮であり (log-rank p < 0.0001)、MYC の発現が腫瘍形成を劇的に加速することが示された (Fig 1A)。microCT 解析では RPM 腫瘍は主気管支・大細気管支を中心とした中枢気道に集中し、ドーナツ状の密度パターンとして可視化された。感染後2-3週時点から Ki67 陽性の微小増殖巣が気道周囲に確認され、5-6週後には大規模なリンパ管・血管周囲・気管支周囲浸潤を呈した。組織病理学的には3人の認定病理医全員が SCLC と分類し、古典型 (小型細胞・顆粒状核クロマチン) とバリアント型 (核小体明瞭・好酸性細胞質) の2種の細胞集団の混在が確認された。
転移評価では、感染後8週の RPM マウスの88% (n=14/16例) が肝転移を示し、血管内での腫瘍細胞集塊と有糸分裂像も確認された (Fig 4A)。71% (n=15/21例) が縦隔・遠隔リンパ節転移を呈した。RPP マウスの肝転移率は36%に留まり (Fisher 検定 p = 0.0115)、RPM モデルの顕著に高い転移能が際立った。pHH3 陽性率 (増殖) および CC3 陽性率 (アポトーシス) の双方が RPP・RP・RPR2 比較で RPM 腫瘍において有意に高く (p < 0.0001)、高増殖性・高アポトーシス性という SCLC の臨床的特徴を忠実に再現した (Fig 1J-1L)。ChIP-seq 解析により転移促進因子 NFIB が RPM 細胞における MYC 直接標的遺伝子として同定され、MYC-NFIB 軸が急速転移の分子基盤として機能することが示唆された (Fig 4F)。
NEUROD1 高発現バリアントサブタイプへの誘導:神経内分泌マーカー (SYP・CHGA・CHGB・CALCA・SCG2 等) の発現解析では、RPM 腫瘍は RP・RPR2 腫瘍と明確に区別される独立クラスターを形成し、大多数の神経内分泌遺伝子の低発現と NEUROD1 高発現・ASCL1 低発現を示した (Fig 2A, 2B)。GSEA では RPM vs RPR2 比較において ASCL1 高発現シグナチャーが有意に depleted (NES (normalized enrichment score) -1.91, p < 0.006)、NEUROD1 高発現シグナチャーが有意に enriched となった (Fig 2C)。IHC による多モデル比較では RPM 腫瘍の ASCL1 が他の全 GEMM より有意に低く (p < 0.0001)、NEUROD1 は RPM 腫瘍に特異的に高発現かつ異質なパターンを示した。
病変ステージ別の IHC 解析では、in situ 病変 (感染後1-4週) の88% (n=23/26例) が ASCL1 陽性・古典型形態であったのに対し、NEUROD1 陽性は0例であった。浸潤期病変 (感染後6-8週) では44% (n=18/41例) がバリアント形態・NEUROD1 陽性へと転換し、17%は ASCL1/NEUROD1 双方低発現を示した (Fig 3D)。この経時的なサブタイプ転換は MYC が ASCL1 陽性前駆細胞を起点として腫瘍進行とともにバリアント型への転換を促進することを示す。ヒト SCLC 81例 + 細胞株 34例の統合 RNA-seq 解析でも MYC 高発現サンプルは一貫して ASCL1 低/NEUROD1 高の発現パターンを示し (GSEA 有意)、マウスモデルとの高い分子的一致が確認された (Fig 3A-3C)。
化学療法感受性と急速再発:シスプラチン 5 mg/kg + エトポシド 10 mg/kg の2回投与では RPM 腫瘍量が 19.5±3.1% から 3.8±1.6% へと劇的に減少した (p < 0.0007; Fig 5E)。microCT による経時評価では PBS 群が12日間で腫瘍量12%→35%へ急速増大したのに対し、化学療法群は12%→17%に留まった (p < 0.0008)。しかし RPM 腫瘍は化学療法中も増殖を停止せず (BrdU 解析で細胞周期停止なし)、化学療法単独による生存延長は中央値わずか +10.5日にとどまった (Fig 5G)。繰り返し投与後も RPM マウスの肺に腫瘍が残存し急速な再発・耐性化が確認された。化学療法後の IHC では ASCL1 陽性細胞が有意に減少しており (p < 0.05)、古典型・初期病変がより化学療法感受性を持つ一方、NEUROD1 陽性バリアント型が治療後に相対的に富化される可能性が示唆された。
Aurora kinase 阻害薬への選択的感受性と化学療法との相乗効果:n=17 種のヒト SCLC 細胞株のスクリーニングでは、MYC 増幅 SCLC が Alisertib (p = 0.001)・Barasertib (p = 0.022)・エトポシド (Bonferroni-Holm adjusted p = 0.038) に対し MYCL/MYCN 増幅または増幅なし SCLC より有意に高感受性を示した (Fig 6A, 6B)。RPM マウス由来細胞株は Alisertib・Barasertib に対してナノモル濃度の GI50 を示し、シスプラチン (高 μM GI50) とは対照的な選択的感受性パターンが確認された (Fig 6C-6F)。Alisertib は用量依存性に G2/M 期細胞の蓄積 (mitotic arrest) を誘導し、続いて subG1 細胞 (アポトーシス) の増加をもたらしたが、MYC タンパク質量への直接影響は限定的であった (Fig 6H, 6I)。
In vivo 試験では RPM マウスを無作為に PBS (n=13)・化学療法 (n=14)・Alisertib (n=12)・化学療法 + Alisertib 併用 (n=16) の4群に割り付け3サイクル施行した (Fig 7A)。waterfall 解析では化学療法 + Alisertib 群の10/16例が stable disease を達成し (うち3例は >30% 腫瘍縮小)、化学療法単独群の stable disease は5/14例 (残9/14例は進行) に過ぎなかった (Fig 7D)。生存解析では Alisertib 単独が中央値 +10日、化学療法単独が +11日の延長をもたらしたのに対し、化学療法 + Alisertib 併用は +14日を達成し単剤各群より有意に優れた効果を示した。30日生存率は PBS 群0%・化学療法群5%・Alisertib 群8% に対し、化学療法 + Alisertib 群では47% と顕著に改善した (Fisher 検定、化学療法 vs 併用: p = 0.0032; Fig 7G)。
考察/結論
本研究は、MYC が in vivo でバリアント SCLC 形態を再現するというこれまで報告されていない知見を提示した。先行研究では Mycl が他の GEMM の主要な腫瘍ドライバーであり古典型 SCLC が形成されるのと異なり、MYC は NEUROD1 高発現・ASCL1 低発現・神経内分泌低発現という独自の転写プログラムを駆動する。この分子的差異は MYC ファミリー各メンバーが独立した腫瘍生物学的文脈で機能することを示しており、SCLC が均一な疾患ではなく分子サブタイプにより構成されることを in vivo で初めて明確に実証した。
RPM 腫瘍の in situ 病変が ASCL1 陽性古典型形態で発生し、腫瘍進行とともに ASCL1 低/NEUROD1 高のバリアント型へと転換するダイナミックな経時変化は新規の重要な発見である。MYC が NEUROD1 を間接的に調節する機構—ChIP-seq で NEUROD1 は直接 MYC 標的ではなく、in situ 病変では MYC 陽性でありながら NEUROD1 陰性であること—は NEUROD1 の上流制御が複雑な間接経路によることを示唆する。NEUROD1 は転移促進シグナル (TrkB/NCAM 軸) の制御因子として機能し (Borromeo et al. CellRep 2016)、MYC-NFIB-NEUROD1 軸が連携して急速転移を駆動するという novel なモデルが提唱される。
臨床的意義として複数の重要な示唆が得られた。第一に MYC 高発現 SCLC は神経内分泌マーカー低発現であることから、DLL3 抗体薬物複合体などの神経内分泌標的療法への感受性が低下する可能性があり、MYC 発現状態に基づく患者層別化が治療選択において重要である。第二に Aurora kinase 阻害薬の MYC 駆動 SCLC に対する選択的有効性を in vivo で実証し、化学療法 + Alisertib 第一選択併用療法を MYC 増幅 SCLC に対する治療候補として位置づけた。当時の再発 SCLC における Alisertib 単剤の臨床試験で約20%の奏効率が報告されており、本研究の結果は一次治療での化学療法との臨床応用に向けた橋渡しとなり、Alisertib と化学療法の第二選択併用を検討する臨床試験 (NCT02038647) の科学的根拠を提供した。
残された課題として、RPM モデルで確認された古典型 (ASCL1 陽性) とバリアント型 (NEUROD1 陽性) の各細胞集団が化学療法・Aurora kinase 阻害薬に対してそれぞれ異なる感受性を持つか否かは未解明であり、腫瘍内不均一性が治療応答のヘテロジェニティに与える影響の解明が今後の検討課題である。また MYC が化学療法耐性に直接関与するか否か (本研究では MYC 単独では耐性に十分ではないが急速再発が生じた) および Alisertib の最適投与スケジュールについても更なる検討が必要である。RPM モデルが免疫コンピテントであることから、免疫チェックポイント阻害薬との併用効果や免疫細胞との相互作用の解析も今後の重要な展望である。
方法
マウスモデルの樹立: Lox-Stop-Lox (LSL) Myc T58A-IRES (internal ribosome entry site)-Luciferase ノックインマウスを Rb1fl/fl (floxed Rb1 allele) Trp53fl/fl (floxed Trp53 allele) (RP) マウスと交配し Rb1fl/fl Trp53fl/fl MycLSL/LSL (RPM) マウスを樹立した。比較対照として Rb1fl/fl Trp53fl/fl Ptenfl/fl (RPP, Rb1/Trp53/Pten triple conditional knockout) マウス (5-8ヶ月で SCLC 発症) を用いた。CGRP プロモーター駆動 Cre アデノウイルス (10^6-10^8 pfu) による気管内感染で腫瘍を誘発した。腫瘍形成は生物発光イメージング (BLI) および microCT (Quantum FX、45 μm 解像度) で経時監視した。
組織学的・分子生物学的解析: 組織病理 (H&E) と IHC (ASCL1・NEUROD1・Ki67・pHH3 (phospho-histone H3)・CC3 (cleaved caspase-3)・NKX2-1・NFIB (nuclear factor I/B)) を実施した。神経内分泌マーカーの発現解析は RNA-seq と GSEA (Gene Set Enrichment Analysis) を用い、MYC 標的遺伝子の同定には ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing) を行った。ヒト SCLC データとして公開 RNA-seq データ (81例 SCLC 組織、20例細胞株) および自施設新規 RNA-seq (14例細胞株) を統合解析した。
薬剤感受性スクリーニング: n=17 種のヒト SCLC 細胞株を用いてエトポシド・シスプラチン・Alisertib (Aurora A 阻害薬)・Barasertib (Aurora B 阻害薬)・MS436 (BRD4 阻害薬)・Milciclib (CDK2 阻害薬) を 72-96 時間処理し GI50 (50% growth inhibition) を三連試験で評価した。RPM・RPP・RP・KP マウス細胞株も同様に評価した。細胞周期解析はフローサイトメトリーにより BrdU (bromodeoxyuridine) 取り込みと DNA 含量で実施した。
In vivo 薬剤試験: RPM マウスを microCT で腫瘍確認後、無作為に PBS・化学療法 (シスプラチン 5 mg/kg + エトポシド 10 mg/kg、週1回)・Alisertib (20 mg/kg、1日2回、5日投与2日休薬)・化学療法 + Alisertib 併用の4群に割り付け、3サイクル (20日間) 施行し microCT で腫瘍体積を定量した。
統計解析: 生存分析は log-rank (Mantel-Cox) 検定、群間比較は two-tailed unpaired t 検定、転移率比較は Fisher 検定を用いた。薬剤感受性の多群比較は Bonferroni-Holm 補正付き t 検定で実施した。