• 著者: Jan P. van Meerbeeck, Dean A. Fennell, Dirk K.M. De Ruysscher
  • Corresponding author: Jan P. van Meerbeeck (Ghent University Hospital, Ghent, Belgium)
  • 雑誌: The Lancet
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-10-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 21565397

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、全肺癌の約13〜15%を占める高悪性度神経内分泌癌であり、世界で年間18万例以上が新たに診断されている。その特徴は、急速な腫瘍増殖と早期広範転移であり、診断時に約3分の2の患者が遠隔転移を有する進展型 (ED-SCLC) で発症する。SCLCの90%以上は現喫煙者または既喫煙者であり、喫煙量および喫煙期間と強い因果関係が認められる。近年、先進国では喫煙率の低下に伴いSCLCの罹患率も減少傾向にあるが、東欧やアジア諸国では依然として高い喫煙率が維持されており、罹患率の増加が予測されている。Devesa et al. IntJCancer 2005は、国際的な肺癌の組織型別トレンドにおいて、男女差が縮小し腺癌が増加していることを報告しており、SCLCの相対的減少を示唆している。

SCLCは化学療法に対して高い初期奏効率を示すものの(限局型SCLCで70〜80%、進展型SCLCで50〜60%)、ほとんどすべての患者が治療後早期に再発し、長期生存は稀である。限局型SCLC (LD-SCLC) の中央生存期間は15〜20ヶ月、2年生存率は20〜40%に留まり、進展型SCLCでは中央生存期間8〜13ヶ月、2年生存率5%程度と極めて予後不良である。1980年代以降、SCLCの生存率改善は緩徐であり、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題であった。この点において、これまでの治療法では、多くの患者が再発に至り、再発後の治療選択肢が限られているという課題が残されていた。

SCLCの分子生物学的特徴としては、ほぼ全症例 (90%以上) でTP53遺伝子変異とRB1遺伝子欠失が認められ、これらが急速な細胞増殖とアポトーシス抵抗性の根幹をなすと考えられている。Hanahan et al. Cell 2000は、がんの「ホールマーク」としてアポトーシス回避を挙げており、SCLCにおけるTP53変異とRB1欠失がこのメカニズムに深く関与していることを示唆する。また、3p (14-23) 領域の欠失も高頻度で観察される。しかし、非小細胞肺癌 (NSCLC) で見られるようなEGFR変異やKRAS変異はSCLCでは稀である。これらの分子生物学的知見は、SCLCの病態理解を深める一方で、日常診療における診断方法や治療選択に直接的に影響を与えるまでには至っていなかった。新規標的治療薬の開発も進められているが、日常診療への導入には至っていないという課題が残されている。

SCLCの治療は、限局型ではプラチナ製剤とエトポシドによる化学療法と早期同時胸部放射線療法が標準であり、進展型ではプラチナ製剤とエトポシドまたはイリノテカン併用化学療法が第一選択となる。また、誘導化学療法後に病勢進行がない患者には予防的全脳照射 (PCI) が推奨される。しかし、これらの標準治療をもってしても、多くの患者が再発に至り、再発後の治療選択肢は限られているのが現状であった。特に、化学放射線療法の最適化やPCIの役割に関するエビデンス、そして新規生物学的標的の探索状況については、依然として未解明な点が多く、さらなる研究が不足している状況であった。

本論文は、2011年時点におけるSCLCの疫学、病理、診断、病期分類、標準治療、および新規標的治療の進展を包括的にレビューしたLancet誌の権威ある総説である。SCLCの疾患管理における現状と課題を体系的に整理し、今後の研究方向性を示唆することを目的としている。

目的

本レビューの目的は、小細胞肺癌 (SCLC) の疫学、分子病理、診断、病期分類、および治療に関する2011年時点での最新の科学的進展を包括的に整理し、その管理における現状と課題を明らかにすることである。具体的には、以下の項目に焦点を当ててレビューを実施した。

  1. 疫学と分子病理: SCLCの罹患率、喫煙との関連性、およびTP53、RB1などの主要な遺伝子異常を含む分子生物学的特徴を概説する。
  2. 診断と病期分類: SCLCの組織学的特徴、免疫組織化学的診断基準、および従来のVALG分類 (Veterans Administration Lung Study Group分類) とUICCのTNM分類の適用、主要な予後因子について解説する。
  3. 標準治療:
    • 進展型SCLC (ED-SCLC): プラチナ製剤とエトポシドまたはイリノテカンを基盤とした化学療法の有効性、用量増強や交互投与レジメンの限界について評価する。
    • 限局型SCLC (LD-SCLC): 化学療法と胸部放射線療法 (TRT) の最適なタイミング、線量分割 (加速過分割照射など)、および照射容積に関するエビデンスを検証する。
    • 予防的全脳照射 (PCI): LD-SCLCおよびED-SCLCにおけるPCIの脳転移予防効果と生存改善効果、ならびに神経毒性に関する知見をまとめる。
  4. 再発・難治性SCLCの治療: トポテカンなどの二次治療薬の役割と、新規薬剤開発の動向を評価する。
  5. 支持療法と新規標的治療: 傍腫瘍症候群の管理、抗凝固療法、スタチン、禁煙の重要性、およびBCL-2ファミリー阻害剤、ヘッジホッグ経路阻害剤、FGF2 (Fibroblast Growth Factor 2) シグナル阻害剤などの新規生物学的標的治療の開発状況と今後の展望を提示する。

これらの包括的なレビューを通じて、SCLCの疾患管理における未解決の課題を特定し、将来の研究および臨床実践の方向性を示唆することを意図している。

結果

疫学と罹患率のトレンド: SCLCは世界の肺癌の13%を占め、年間18万例以上が診断される。米国では1970年代の17%から2010年代には約13%に低下傾向にある。この罹患率低下は、主に喫煙率の低下と、WHO分類改訂による一部症例のNSCLCへの再分類に起因すると考えられる。SCLC罹患者の90%以上が現または元喫煙者であり、非喫煙者での発症は稀である。NSCLCと異なり、EGFR変異などの特定の体細胞変異との関連は認められない。典型的患者像は70歳以上の男性で大量喫煙歴を持ち、複数の併存症を有する。症状発現から受診までの期間は通常8〜12週と急速な進行が特徴である。先進国での罹患率低下に対し、喫煙率が高い東欧・アジアでは増加が予測されている。Devesa et al. IntJCancer 2005は、国際的な肺癌の組織型別トレンドにおいて、男女差が縮小し腺癌が増加していることを報告しており、SCLCの相対的減少を示唆する。

分子生物学的特徴と化学療法耐性機序: SCLC細胞の分子的特徴として、virtually全症例 (90%以上) でTP53変異とRB1欠失が認められ、これらが急速増殖・アポトーシス抵抗性の根幹をなす。3p (14-23) の欠失はFHIT腫瘍抑制遺伝子を含み、ほぼすべてのSCLC腫瘍で観察される。7p22.3のコピー数増加 (有糸分裂スピンドルチェックポイント蛋白MAD1 (Mitotic Arrest Deficient 1) をコードするMAD1L1 (MAD1 Mitotic Arrest Deficient-Like 1) を含む) も特徴的所見である。KRAS・EGFR変異は稀であり、NSCLCとは対照的である。Hanahan et al. Cell 2000は、がんの「ホールマーク」としてアポトーシス回避を挙げており、SCLCにおけるTP53変異とRB1欠失がこのメカニズムに深く関与していることを示唆する。

化学療法耐性の主要機序として、①細胞外マトリックス (コラーゲンIV・テナスシン・フィブロネクチン・ラミニン) への接着がβ1-インテグリンを介してPI3Kを活性化し、エトポシド誘導性のアポトーシスおよび細胞周期停止を阻止すること、②BCL-2ファミリー蛋白 (BCL-2・BCL-XL・MCL-1 (Myeloid Cell Leukemia 1)) の過剰発現によるBAX・BAKを介したミトコンドリア経路の抑制が挙げられる。オートクリン増殖ループ (bombesin、IGF-I、FGF2、HGF等) やプロトオンコジーン活性化 (MYCファミリー増幅) も多くの症例で認められる。次世代シーケンシングによるSCLC細胞株H209の全ゲノム解析では、22,910の体細胞変異が同定され、そのうち134がエクソーム内に存在し、タバコ曝露のシグネチャーを示した。ATP依存性クロマチンリモデリング酵素ファミリーであるCHD-7の特異的な遺伝子再編成も報告され、腫瘍形成に関与する遺伝子ネットワーク解明の端緒となっている。

診断・病理・免疫組織化学: SCLCはWHO定義によれば「小型細胞、乏しい細胞質、不明瞭な細胞境界、微細顆粒状核クロマチン、核小体消失または微小」という特徴的な組織像を持つ (Figure 1)。気管支粘膜下に増殖するため、気管支生検・細胞診・喀痰細胞診が偽陰性になりうる。免疫組織化学的にはchromogranin・synaptophysin・CD56 (神経内分泌マーカー) ・TTF-1 (90%まで陽性) ・サイトケラチンが典型的所見で、リンパ腫・大細胞NEC癌との鑑別に有用である。神経内分泌マーカーが全陰性のSCLCは10%未満にとどまる。

病期分類と予後因子: 病期分類は従来のVALG (Veterans Administration Lung Study Group) 分類 (限局型LD:一側胸郭内+同側縦隔・鎖骨上リンパ節で1放射線フィールドに収まる;進展型ED:それを超える広がり) と、UICCのTNM分類 (第7版) の両方が使用されている。IASLC 2007年の勧告として、8000例のSCLCレトロスペクティブ解析からTNMでのリンパ節病変がLD内でも予後に有意差があることが示され (Stage I > Stage II > Stage III)、TNM分類の使用が推奨された。胸水が細胞診陰性の場合はStage IIIとして分類される。主要な予後因子は病期 (LD vs ED) であり、さらにperformance status・女性・一部の血清マーカー (LDH・ALP・Na・好中球比率・クレアチニン) が複数のアルゴリズムで検証されている (Table 2)。脳MRIはCTより脳転移検出率が高く (MRI 24% vs CT 10%)、化学放射線療法を考慮する症例への施行が推奨される。

進展型 (ED-SCLC) の標準化学療法: 進展型SCLCの標準一次治療は4〜6サイクルのetoposide+cisplatin (またはcarboplatin) であり、3件のメタ解析によって支持されている (Table 3)。Pujol et al. Br J Cancer 2000のメタ解析 (19試験4054例) ではcisplatin含有レジメンがnon-platinum比較で奏効率を有意に改善し (OR 1.35, 95% CI 1.18-1.55, p<1×10⁻⁵)、1年死亡リスクを低下させた (OR 0.80, 95% CI 0.69-0.93, p=0.002)。Amarasena et al.のメタ解析 (29試験5530例) では完全奏効率はplatinum群で有意に高かったが、6・12・24ヶ月時点の全生存に有意差はなく、悪心・嘔吐・貧血・血小板減少がplatinum群で有意に増加した。高齢者や不良リスク患者においてもcarboplatin+分割cisplatinレジメンで生存は変わらず (JCOG9702試験)、許容性を優先してcarboplatinを選択することは臨床的に合理的とされた。

イリノテカン+cisplatin (IP) については、JCOG9511試験 (日本) でEP比較で有意な生存改善が示されたが、米国SWOG S0124試験・Hermes試験等の欧米試験では再現されなかった。6試験1476例のプール解析 (Jiang et al., JTO 2010) ではイリノテカン含有レジメンがEPより奏効率・OS改善を示し (治療関連死亡は同等)、貧血・好中球減少・血小板減少はEP群より軽微であったが嘔吐・下痢はイリノテカン群で多かった。Noda et al. NEnglJMed 2002は、イリノテカン+シスプラチンがエトポシド+シスプラチンと比較して、進展型SCLCの生存期間を有意に延長することを示した。しかし、Hanna et al. JClinOncol 2006は、欧米人患者では同様の優位性を示さなかった。トポイソメラーゼI酵素をコードする遺伝子の変異体アレル頻度の人種差がイリノテカン代謝に影響する可能性が示唆されている。

限局型 (LD-SCLC) の化学放射線療法: LD-SCLCの治療原則として、手術は節外郭清で確認されたT1N0M0の稀な症例のみに考慮される。2件の大規模メタ解析がTRT追加の3年絶対生存改善5.4%を支持したが、5年生存率は10〜15%に留まった。Pignon et al. NEnglJMed 1992およびWarde et al. JClinOncol 1992は、胸部放射線療法が限局期SCLCの生存率と局所制御を改善することを示した。

照射タイミングについては、platinum含有化学療法開始から30日以内の早期TRT開始が遅延より5年生存率で優れることが複数のPhase 3試験から示された (5年OS:20% vs 14%)。TRTとEPの同時投与が推奨される。照射線量・分割については、Turrisi et al. NEnglJMed 1999のPhase 3試験が決定的であり、etoposide+cisplatin同時投与下で45Gy/1.5Gy×2/日 (加速過分割、BID、3週間) が45Gy/1.8Gy×1/日 (QD、5週間) と比較し、5年生存率26%対16%という有意な改善を示した (全患者がelective縦隔照射)。G3急性食道炎はBIDで27% (56/211例) と高く、QDで11% (22/206例) であった。肺毒性は両群で差がなく、このBID 45Gyが世界標準となった。加速過分割の合理性として、「腫瘍クローン細胞の加速増殖は化学療法・放射線療法いずれかの有効な細胞障害剤投与開始によりトリガーされる」という仮説 (accelerated repopulation) が支持され、治療開始から放射線療法終了までの期間が短いほど長期生存が改善するメタ解析が報告された (30日以内の方が有意に良好) (Figure 4)。

予防的全脳照射 (PCI): LD-SCLCにおけるPCIの意義は、放射線学的に確認された完全奏効後の患者を対象としたメタ解析 (Auperin et al.の更新版) によって確立されており、PCI群では3年生存率21%対15% (p=0.01) という有意な改善が認められ、無病生存率の改善と脳転移累積発生率の有意な低下が示された。線量については25Gy/2.5Gy×10/日が標準とされており、それより高線量の36Gyとの比較Phase 3試験では生存改善なく神経毒性が増加したため、標準25Gyレジメンが維持された。

ED-SCLCへのPCIについては、Slotman et al. NEnglJMed 2007のPhase 3試験 (ED-SCLC、初回化学療法後非進行例) でPCI群が症候性脳転移発症率を低下させ (1年:15% vs 41%)、1年生存率を有意に改善した (27% vs 13%, OS HR 0.68, 95% CI 0.52-0.88)。PCIの神経毒性については、PCI施行前から47%の患者に認知機能障害が認められており、大分割照射と化学療法の同時投与は避けるべきとされた。

再発・難治性SCLCの治療: 初回EPレジメン後の再発は急速な耐性化によるものが多い。再発の分類として:①感受性再発 (初回治療完了後90日以上) —白金再投与が有効で奏効率50%以上;②耐性再発 (90日以内再発) —2次治療の選択肢が限られる;③難治性 (一次治療中の進行)。2次治療はトポテカン (1.5 mg/m²を5日間21日サイクル) が唯一の承認薬であり、CAV (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine) レジメンと同等の生存を示したが、3次治療はほとんど使用されない。vonPawel et al. JClinOncol 1999は、再発SCLCに対するトポテカンの有効性を報告した。OBrien et al. JClinOncol 2006は、再発SCLC患者において、経口トポテカンが支持療法単独と比較して生存期間を延長することを示した。Amrubicinについてはtopotecan比較のPhase 2試験で感受性・耐性例いずれでも有効性を示し、Phase 3試験が進行中であった (NCT00547651等)。

傍腫瘍症候群と支持療法: SCLCは傍腫瘍症候群の最も多い原因腫瘍であり、SIADH (Syndrome of Inappropriate Antidiuretic Hormone secretion、15〜40%)、Cushing症候群 (2〜5%)、Lambert-Eaton症候群 (3%)、上大静脈症候群 (50%) などが報告されている (Table 1)。これらの症候群はSCLC診断に先行することがあり、スクリーニングの契機となりうる。支持療法として抗凝固療法の検討が行われており、ワルファリンのメタ解析では6ヶ月時点の死亡率低下が示されたが (特にED-SCLCで有効)、重大出血リスクの増加と1年時点での利点消失が問題となった。スタチン (simvastatin) の前臨床試験ではSCLC細胞のアポトーシス誘導・etoposide感受性増強が示され、pravastatinの標準治療への追加を評価するPhase 3試験が英国で進行中であった (NCT00433498)。禁煙はSCLC管理の必須要素であり、継続喫煙は放射線肺炎リスクの増加・口腔粘膜炎・口腔乾燥・疲労の悪化と関連する。喫煙継続・再喫煙者では二次原発癌リスクが年間2〜10%と高く、生涯禁煙が推奨される。

新規生物学的標的と今後の展望: 2011年時点で複数の経路が新規治療標的として探索されていた (Figure 6)。BCL-2ファミリー阻害については、ABT-737 (経口製剤ABT-263) がBH3ミメティックとして臨床試験で評価されていたが (NCT00445198)、SCLCにおけるMCL-1過剰発現による耐性機序が課題であった。Obatoclax (MCL-1を含む全antiapoptotic BCL-2ファミリーメンバーを標的) やAT-101も試験中であった (NCT00682981、NCT00773955)。ヘッジホッグ経路の異常活性化がSCLC細胞のin vitro/in vivo維持に必要であることが確認されており、itraconazoleのヘッジホッグ阻害作用が注目されていた。FGF2シグナル (SCLC増殖・化学療法耐性への関与) の阻害剤PD173074がin vitro/in vivoで有望な結果を示し、IGF-I・HGFに対するモノクローナル抗体も臨床開発中であった (NCT00940225)。Src阻害剤も再発・難治性SCLCで評価中であった (NCT00528645)。低酸素 (60%以上の患者で重篤な低酸素) によるHIF-1 (Hypoxia-Inducible Factor 1) 活性化とオートファジーへの対応として、HIF-1阻害剤・オートファジー阻害剤も探索されていた。EGFR・c-Kit・VEGFR等の受容体チロシンキナーゼ阻害剤は、選択マーカーなしのPhase 2試験で期待された活性を示せず、thalidomide (抗血管新生) とmatrix metalloproteinase阻害剤の2件のPhase 3試験も生存改善を示せなかった。

考察/結論

本レビューは、SCLCが研究・治療の双方において依然として困難な疾患であり続けているという率直な認識を示した上で、2011年時点での疾患管理の現状と課題を包括的に整理した先駆的な文書である。

先行研究との違い: 本論文は、SCLCの疫学、分子病理、診断、病期分類、標準治療、再発治療、新規治療開発動向、および支持療法に関する広範な知見を統合し、体系的な枠組みで提示した点で、これまでの個別の研究報告や部分的なレビューとは対照的である。特に、化学放射線療法の最適化(早期TRT、BID 45Gy、PCI)に関するエビデンスを詳細に分析し、その臨床的意義を強調した点は、当時のSCLC治療の標準化に大きく貢献した。また、分子機序(ECM/β1-インテグリン/PI3K経路、BCL-2ファミリー、オートクリンループ)と臨床エビデンス(Turrisi et al. NEnglJMed 1999のBID試験、AuperinのPCIメタ解析、Slotman et al. NEnglJMed 2007のED-SCLC PCI試験)を同一論文内で体系化した包括性が際立っている。

新規性: 本レビューは、SCLCの分子生物学的特徴、特にTP53変異、RB1欠失、3p欠失、7p22.3コピー数増加といった遺伝子異常が、急速な腫瘍増殖とアポトーシス抵抗性の根幹をなすことを改めて強調した。さらに、化学療法耐性の主要機序として、細胞外マトリックスへの接着を介したPI3K活性化やBCL-2ファミリー蛋白の過剰発現を詳細に解説し、これらが新規治療標的となりうる可能性を提示した。特に、BCL-2ファミリー阻害剤(ABT-737/ABT-263、Obatoclax、AT-101)、ヘッジホッグ経路阻害剤(itraconazole)、FGF2シグナル阻害剤(PD173074)、Src阻害剤、HIF-1阻害剤、オートファジー阻害剤といった、当時開発中の新規生物学的標的治療薬の動向を網羅的に紹介したことは、今後のSCLC治療開発の方向性を示す上で新規性が高い。

臨床応用: 本レビューで示されたエビデンスは、SCLCの臨床現場における治療戦略に多大な影響を与えた。エトポシドとシスプラチンを基盤とした化学療法の標準的位置づけ、LD-SCLCに対するBID 45Gyの胸部放射線療法による5年生存率26%という当時の最高水準、そしてED-SCLCに対するPCIによる1年生存率27% vs 13% (OS HR 0.68, 95% CI 0.52-0.88) という改善は、その後のSCLC治療ガイドラインの基礎となった。これらの知見は、2010年代後半に免疫チェックポイント阻害剤が導入される以前のSCLC治療において、患者の生存期間を改善するための数少ない、かつ最も強力なエビデンスとして参照され続けた。また、傍腫瘍症候群の早期診断と管理、禁煙の徹底といった支持療法の重要性も強調され、患者のQOL向上に貢献する臨床的含意を持つ。

残された課題: 本レビューは、SCLCの治療成績が依然として不十分であることを指摘し、多くの残された課題を明確にした。具体的には、①SCLCの分子サブタイプに基づいた層別化治療戦略の確立、②早期発見のための低線量CTスクリーニングのSCLCへの位置づけ、③ED-SCLCにおけるPCIの再評価(特に、Slotman et al. NEnglJMed 2007の試験結果の解釈と、その後の観察のみ群との比較試験の必要性)、④喫煙予防と禁煙支援の継続的な取り組みの強化が挙げられる。さらに、新規生物学的標的治療薬の開発は進むものの、日常診療への導入には至っておらず、その有効性と安全性を確立するための大規模臨床試験の実施が今後の検討課題として残されている。

方法

本レビューは、SCLCに関する包括的な総説であり、特定の研究デザインに基づくものではない。著者らは、PubMedデータベースを用いて、SCLCの疫学、病理、生物学、診断、病期分類、治療、管理、抗悪性腫瘍薬、標的薬、放射線療法、手術に関するキーワードを様々な組み合わせで検索した。検索は主に2005年以降に発表された査読付き英文文献に限定されたが、一部の古典的文献も著者らの知識に基づいて選択された。

治療管理に関するセクションでは、全ての関連文献が検索対象とされた。その他のセクションでは、英語で出版されたジャーナルに限定して検索が行われた。さらに、英国のNICE (National Institute for Health and Clinical Excellence)、ACCP (American College of Chest Physicians)、NCCN (National Comprehensive Cancer Network)、ESMO (European Society for Medical Oncology) の最新の診療ガイドラインも参照された。本レビューでは、エビデンスの質を評価するために、各研究のランダム化、盲検化、サンプルサイズ、およびアウトカムの明確さといった要素が考慮された。

本レビューでは、特定の患者コホートを対象とした前向き研究や介入は実施されていない。したがって、統計解析や倫理的承認に関する記述は該当しない。収集された文献は、SCLCの各側面に関する既存のエビデンスを統合し、体系的に整理するために用いられた。特に、化学療法、放射線療法、予防的全脳照射に関する主要なランダム化比較試験やメタ解析の結果が詳細に分析され、その臨床的意義が評価された。例えば、生存率の比較にはログランク検定 (log-rank test) の結果が用いられ、ハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (95% CI) が報告された。また、SCLCの分子生物学的特徴や新規標的治療の開発状況についても、基礎研究および初期臨床試験のデータに基づいて考察が加えられた。本レビューは、特定の系統的レビュー手法(例:PRISMAガイドライン)に厳密に従ったものではないが、SCLCの包括的な現状を提示するために、広範な文献検索と専門家による評価が行われた。