• 著者: Hülya Taner, Wang Gong, Emily A. Lanzel, Kala Chand Debnath, Felipe Nör, Kohei Okuyama, Yuesong Wu, et al.
  • Corresponding author: Yu Leo Lei (MD Anderson Cancer Center, Houston TX)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: N/A

背景

頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC: head and neck squamous cell carcinoma) は免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への奏効率が 15% 以下と低く、抗 PD-1 + 抗 CTLA-4 併用でも単剤比で臨床的優位性が示せなかった (Ferris et al. NEJM 2016、Cohen et al. Lancet 2019)。HNSCC の前駆病変として OED (oral epithelial dysplasia: 口腔上皮異形成) が知られており、全人口の約 4.5% が罹患するが、悪性転化率は 3.5~34% と幅がある (Iocca et al. Head Neck 2020)。既存研究では確立された腫瘍の TME (腫瘍微小環境) における多重免疫抑制機構—複数チェックポイント受容体、大量 MDSC (myeloid-derived suppressor cell: 骨髄由来抑制細胞)、制御性 T 細胞など—は詳細に解明されているが、前がん段階で免疫回避が「不可逆的」に確立されるメカニズムは不明だった (Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009)。SOX2 は 3q26.3 領域の増幅遺伝子として HNSCC の 20% で、Fanconi 貧血関連 HNSCC では 78% で増幅が認められ、先行研究では SOX2+ 腫瘍が細胞傷害性 T リンパ球 (CTL) を TME から排除することが syngeneic モデルで示されていた (Tan et al. Clin Cancer Res 2018)。しかし、SOX2 増幅がどのように前がん段階で周辺骨髄系細胞を教育し免疫回避の「発端」を作るか、そして前がん段階に特有の高リスク骨髄系細胞のシグネチャーとその誘導機序については未解明であった。従来の implantable モデル (PDX、syngeneic 皮下移植) では前がん段階自体が存在せず、この gap を埋めるモデルシステムが決定的に不足していた (Lasser et al. NatRevClinOncol 2024)。

目的

SOX2 高発現を持つ前がん口腔粘膜病変 (OED) から HNSCC への悪性転化に伴う免疫微小環境の変化を縦断的に追跡し、骨髄系細胞が免疫回避において果たす役割とその分子機構を解明するとともに、IL-1 シグナル遮断による HNSCC 発症抑制の可能性を検証する。

結果

Sox2-GEMM の確立と高率 HNSCC 転化:遺伝子改変マウスモデル (GEMM: genetically engineered mouse model) として K5-CreER (keratin5 cre estrogen receptor) ;Rosa26-Sox2-EGFP マウスにタモキシフェン 40 mg/mL を口腔粘膜に 5 日間局所塗布して Sox2-GEMM を作製した。ホモ接合体 (K5-CreER;Sox2+/+) は 4~6 週で 100% の HNSCC 自発的 penetrance を示し、ヘテロ接合体 (K5-CreER;Sox2+/-) は 160 日で 60~80% の penetrance を示した (Fig. 2A)。Sox2-GEMM 腫瘍は核異型、角化真珠形成、間質反応、免疫細胞浸潤を含む human HNSCC の組織学的特徴を高い忠実度で再現した (Fig. 1I-L)。Sox2-GEMM は口腔上皮異形成 (OED) 段階 (2 週) から invasive HNSCC (4 週) への縦断的追跡を可能にした初のモデルである (Fig. 1M-N)。共焦点レーザー内視鏡顕微鏡による in vivo イメージングで SOX2-EGFP+ 変換細胞が実際に観察された (Fig. 2C)。HNSCC における SLC2A1 (solute carrier family 2 member 1: グルコーストランスポーター 1) 高発現は meta-analysis 37 研究・3,272 例で OS、DFS、RFS と逆相関することが知られる。

SLC2A1 と免疫抑制サブセットの Pearson r 解析—TCGA 518 例:TCGA HNSCC コホート (n=518 patients) を対象に FARDEEP (Fast And Robust DEconvolution of Expression Profiles) 免疫デコンボリューションを実施した。SLC2A1 発現量は CD8+ CTL 頻度と Pearson r=0.16 (negative, p=0.00021) で有意な逆相関を示した (Fig. 2H)。記憶 T 細胞 (r=0.13 negative, p=0.0029)、濾胞性ヘルパー T 細胞 (r=0.098 negative, p=0.026)、γδ T 細胞 (r=0.28 negative, p<0.0001)、M1 様マクロファージ (r=0.30 negative, p<0.0001) とも逆相関し、Treg (制御性 T 細胞) とは正相関 (Pearson r=0.088, p=0.046) した。HPV 陰性 HNSCC (n=421) と HPV 陽性 (n=97) に層別化すると HPV 陰性でより顕著な相関が認められた (Fig. 2G-H)。縦断的ヒト検体 (SOX2+ OED から HNSCC に進展した患者ペア検体) の多スペクトル免疫蛍光 (MSI: multispectral imaging) では、悪性転化とともに T-bet+CD8+ T 細胞と CXCR3+CD8+ T 細胞が有意に減少し、PD-L1+CD33+ 骨髄系細胞が有意に増加した (Wilcoxon 検定 p<0.05) (Fig. 3C-E)。

scRNA-Seq による IL-1 high SLC2A1-high SPP1-high IFN-low 骨髄系細胞署名の同定:Sox2-GEMM から単離した 8,960 個の高品質転写産物 (CD45+ live 細胞を FACS ソート) を scRNA-Seq で解析し 27 クラスターを同定した (Fig. 4G)。正常口腔粘膜から OED、HNSCC への転化過程で最も顕著な変化は MDSC の劇的増加と T リンパ球消失であった。NK 細胞、NKT 細胞、γδ T 細胞は OED 発生の最早期に消失した。病変内骨髄系細胞は IL-1α、SLC2A1、HIF-1α、Tnf、NOS2、IL-10、PD-L1、Spp1 (osteopontin) の高発現と Stat1、ISG15、MHC クラス II などの IFN-I 標的遺伝子の低発現を示す特徴的転写プログラムを持っていた (Fig. 5E-J)。PHATE (Potential Heat-diffusion Affinity Transition Embedding) 解析では病変内骨髄系細胞が正常粘膜常在骨髄系細胞とは分離したクラスターを形成し、de novo 招集が示唆された (Fig. 5D)。SLC2A1-high 骨髄系細胞の転写プログラムは IL-1α+、PD-L1+、Spp1+ 骨髄系細胞のプログラムと大きく重複した (Fig. 5K)。T 細胞の再クラスタリング解析では 9 サブセットを同定し、Helios high Treg と Th17 が悪性転化とともに増加し、CXCR3+Tbet+CD8+ T 細胞は OED 段階でピーク後に TME から排除されることが示された (Fig. 4J-K)。

SOX2-CCL2 軸による M-MDSC 選択的招集と機能的抑制証明:Sox2 強制発現 MOC2 腫瘍 (n=6) は空ベクター対照 MOC2 (n=6) と比較して有意に速い増殖を示した (GEE model) (Fig. 6A)。フローサイトメトリーでは Sox2 強制発現 MOC2 腫瘍において CD8+ T 細胞、CD4+ T 細胞、CD103+CD11c+ cDC1 が有意に減少し、単球性 M-MDSC (CD11b+Ly6C+Ly6G-low) が選択的に増加した (G-MDSC は変化なし) (Fig. 6E-G)。4 種マウス HNSCC 細胞株 (MOC1、MOC2 E6/E7、NOOC1、NOOC2) と 2 種ヒト HNSCC 細胞株 (UMSCC22A (University of Michigan Squamous Cancer Cell line)、UMSCC108) で SOX2 発現は CCL2 mRNA を有意に増加させた (mean±SEM、n=3 technical replicates、t 検定 p<0.001-0.0001) (Fig. 6J-O)。CCL2 中和抗体 (200 μg/回 i.p.、週 2 回) は Sox2 媒介腫瘍増殖を有意に抑制した (Fig. 6Q)。FACS ソートした SLC2A1-high 骨髄系細胞は SLC2A1-low と比較して共培養 CD8+ T 細胞の IFN-γ と TNF-α 産生を有意に強く抑制した (10:1 T 細胞:MDSC 比) (Fig. 6H-I)。Qian et al. Nature 2011 は乳癌での CCL2 の重要性を示したが、本研究は前がん段階での役割を初めて実証した。

IL-1α プライミングによる STING パルミトイル化阻害機構:OED から HNSCC への転化で IL-1α 発現は早期に上昇し、Sting 発現は抑制された (Fig. 7A-B)。骨髄由来マクロファージ (BMDM: bone marrow-derived macrophage) を IL-1α 10 ng/mL で 24 時間プライミング後 4 日間休止してから STING アゴニスト (ISD (Interferon-Stimulatory DNA) 2 μg/mL または cGAMP 10 μg/mL) で刺激すると、IFN-I 署名遺伝子—Cxcl10、Ifnb1 (interferon-beta)、ISG15—の発現と上清中 IFN-β タンパク量が有意に低下した (t 検定 *p<0.05) (Fig. 7C-F)。IL-1α プライミングは STING のパルミトイル化を担う DHHC3 と DHHC7 パルミトイルトランスフェラーゼの発現を有意に抑制した (Fig. 7G-H)。APE (Acylation palmitoylation Exchange) アッセイで THP-1 細胞での IL-1α プライミングが STING パルミトイル化を直接阻害することが確認された (STING MW 35 kDa の +10 kDa シフト低下) (Fig. 7I)。IL-1α プライミング MDSC は非プライミング MDSC と比較して CD8+ T 細胞増殖抑制がより強力であった (2 replicates 非プライミング vs 4 replicates プライミング、t 検定 ***p<0.001) (Fig. 7J)。

IL-1 シグナル遮断による中央生存期間ほぼ 2 倍延長:K5-CreER;Sox2+/+ マウスへの抗 IL1R1 中和抗体投与 (200 μg/回 i.p.、0・3・6・9 日目、n=13) は PBS 対照 (n=12) と比較して生存を有意に延長し (GEE model *p<0.05)、病変内 PD-L1高発現 MDSC を有意に減少させた (Fig. 7K-L)。遺伝学的アプローチとして K5-CreER;Sox2+/+;IL1R1-/- 複合株 (n=10) を作製したところ、IL1R1 欠失は野生型対照 (n=12) と比較して中央生存期間をほぼ 2 倍に延長した (GEE model、Fig. 7M)。IL1R1-/- マウスでは腫瘍面積が有意に減少し (t 検定 p<0.05)、浸潤 SLC2A1+CD206+CD11b+Gr1- マクロファージが有意に減少した (Fig. 7N-O)。バルク RNA-Seq では IL1R1-/- 群で IFN-γ 応答、同種移植片拒絶、IFN-β 応答経路が顕著に上昇し、Th1 免疫の増強が示唆された (Fig. 7P)。

考察/結論

① 先行研究との違い:これまでの HNSCC 研究は主に確立された腫瘍 TME の免疫抑制機構に焦点を当て、前がん段階での免疫回避の「発端」については解明が不十分であった点と異なり、本研究は前がん病変から HNSCC への縦断的転化を再現できる GEMM を用いて「免疫回避の不可逆的確立点」を特定した。既存の implantable モデルでは前がん段階が存在せず、免疫抑制の初期化を研究できなかったが、本 Sox2-GEMM では OED 段階から MDSC 優位の免疫微小環境へのシフトを初めて in vivo で捉えた。Veglia et al. NatRevImmunol 2021 で MDSC 多様性の重要性は示されていたが、前がん段階に特有の IL-1 high SLC2A1-high SPP1high IFN-low 署名はこれまで報告されていない。

② 新規性:本研究で初めて示されたのは、IL-1α プライミングが STING のパルミトイル化を担う DHHC3/7 パルミトイルトランスフェラーゼを新規に抑制し、骨髄系細胞の STING アゴニストへの脱感作を引き起こすメカニズムである。放射線療法や STING アゴニスト製剤などの STING 誘導戦略が ICI と組み合わされる臨床開発において、IL-1α 高発現 TME では効果が減弱する可能性が初めて示唆される。さらに SOX2-CCL2-M-MDSC 軸が前がん段階から作動するという発見は、HNSCC における免疫回避の起源を前がん病変期にまで遡る新規な知見である。

③ 臨床応用:本研究の知見は、高 SOX2 発現の OED を高リスク前がん病変として同定するバイオマーカー (IL-1α/SLC2A1/SPP1 高発現・IFN-I 低発現骨髄系細胞) を提示し、臨床現場での HNSCC 一次予防戦略への臨床応用が期待される。IL-1 シグナル遮断薬 (アナキンラ等) を用いた免疫予防介入の臨床試験デザインに直結する科学的根拠を提供し、STING 誘導療法の奏効予測因子として IL-1α/SLC2A1 骨髄系細胞評価の有用性も示す。

④ 残された課題:IL-1α/SLC2A1/SPP1 高発現骨髄系細胞の前がん段階でのバイオマーカーとしての臨床的有用性を検証するためには、前向きヒト OED コホートでの検証が必要である。DHHC3/7 が具体的にどのシグナル下流で抑制されるかの詳細な経路解析、および IL-1α によるエピジェネティックな骨髄系細胞「プライミング記憶」の持続性と可塑性は今後の課題として残されている。また、IL-1 阻害が HNSCC 一次予防に実際に有効かどうかの臨床試験データ、および免疫抑制性副作用とのバランスについては今後の検討が不可欠である。

方法

研究デザイン:遺伝子改変マウスモデル (GEMM)・ヒト縦断的検体・in vitro 機能解析・バルク RNA-Seq・scRNA-Seq を組み合わせた基礎/トランスレーショナル研究。

動物モデル:K5-CreER × Rosa26 Sox2/EGFP クロスにより Sox2-GEMM 作製 (C57BL/6 背景)。タモキシフェン 40 mg/mL を 5 日間連続局所塗布 (1 mg/25 μL コーン油/回)。IL1R1-/- マウス (JAX 003245) を K5-CreER;Sox2+/+ と交配し K5-CreER;Sox2+/+;IL1R1-/- 複合株を作製。抗 IL1R1 中和抗体 200 μg/回、週 2 回 i.p. 投与。動物実験は IACUC (MD Anderson 00002478-RN00、University of Michigan PRO00010232) 承認取得。

細胞株:UMSCC22A (CVCL_7731)、UMSCC108 (CVCL_0C71)、MOC1 (CVCL_ZD32)、MOC2 E6/E7、NOOC1、NOOC2、THP-1 (CVCL_0006)。STR プロファイリングで認証済み。骨髄由来 MDSC は C57BL/6 マウス長管骨から骨髄採取して確立。

組織学・免疫組織化学:SOX2 (Cell Signaling 23064)、Ki67 (Abcam ab16667)、SLC2A1 (BiCell 20701)、CCL2 抗体で IHC。多スペクトル免疫蛍光 (MSI) は Akoya Biosciences Vectra Polaris スキャナ使用、リンパ系パネル (CD4/CD8/GATA3/CXCR3/T-bet/PD-1/DAPI) と骨髄系パネル (CD33/CD68/CD11c/HLA-DR/PD-L1/CK/DAPI) を適用。Wilcoxon 検定で OED vs HNSCC の発現量比較を実施。

scRNA-Seq:CD45+ 生細胞を FACS ソート後、10x Genomics 3’ 単細胞処理 (最低 50,000 reads/細胞)。SAVER (Single-cell Analysis Via Expression Recovery) インピュテーション適用、8,960 転写産物・27 クラスターを同定。PHATE 解析で骨髄系細胞の分化軌跡を可視化。

STING パルミトイル化解析:APE (Acylation palmitoylation Exchange) アッセイ—チオエステル結合を hydroxylamine で切断後 5 kDa PEG-マレイミドで質量タグを付加し Western blotting (STING 既知 MW 35 kDa 上に +10 kDa シフトとして検出)。

統計:2 群比較は両側 Student t 検定、多群は 2-way ANOVA + Šidák 検定、腫瘍体積は GEE モデル。データは mean±SEM で表示。有意水準 *p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。ヒト検体研究は IRB (MD Anderson 2024-0364、University of Michigan HUM00042189、HUM00113038) 承認済み。