• 著者: Cheng S, Li Z, Gao R, Xing B, Gao Y et al. (Zhang Z, Ji J, Bu Z, Corresponding authors)
  • Corresponding author: Zemin Zhang (Peking University, BIOPIC), Jiafu Ji, Zhaode Bu (Peking University Cancer Hospital)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33545035

背景

腫瘍浸潤骨髄系細胞 (tumor-infiltrating myeloid cells, TIM) はマスト細胞、形質細胞様樹状細胞 (plasmacytoid DC, pDC)、従来型樹状細胞 (conventional DC, cDC)、単球、マクロファージから構成される。これらは腫瘍微小環境 (tumour microenvironment, TME) の主要免疫構成成分として腫瘍炎症・血管新生・T 細胞機能の調節に中心的役割を果たす (Hanahan et al. Cell 2011 の hallmarks of cancer で確立)。先行する単一がん種の scRNA-seq 研究として、肝細胞癌 (HCC) では Zhang et al. Cell 2019 が CRC では Zhang et al. Cell 2020 が、肺がんでは Lavin et al. NatMed 2018Zilionis et al. Immunity 2019 が骨髄系多様性を報告してきた。また乳がんでは Azizi et al. Cell 2018 が単一細胞解像度の免疫景観を示し、肺線維化 macrophage の transitional profile については Reyfman et al. CellRep 2019 が報告していた。

しかし、これらは 単一がん種に限定 されており、異なるがん種にわたる TIM の基本特性の共通点と相違点は 未解明 で、controversial な議論が controversial に残されていた。多様な TIM 亜集団を標的とする免疫療法 (anti-CSF1R, anti-CCR2, CD40 agonist 等) の合理的設計には 体系的な pan-cancer 解析が手薄 であった (= 「何が足りなかったか」: cross-cancer comparison framework の欠如)。scRNA-seq 技術の進歩により個々のがん種内での TIM 多様性が明らかになりつつあったが、がん種横断的な統合比較は本研究以前は存在しなかった という大きな gap が残されていた。

目的

15種のヒトがんにわたるTIMのpan-cancer単一細胞解析を実施し、がん種を越えた共通特性と種特異的特性を同定すること、特にマスト細胞・LAMP3+cDC・腫瘍関連マクロファージ (TAM) の機能的多様性を解明し、合理的免疫療法標的を提案すること。

結果

NPC 特異的マスト細胞の高 TNF+/VEGFA+ 比と予後相関:マスト細胞の割合はがん種間で著しく変動し、特に上咽頭癌 (nasopharyngeal carcinoma, NPC) では他のがん種とは対照的に高い TNF+/VEGFA+ 比 2.4 が認められた (Fig 1, n=210 patients across 15 cancer types)。大多数のがん種では腫瘍組織内のマスト細胞は VEGFA+ が主体であり (血管新生促進)、TNF+ が少数を占めるにすぎなかった (Fig 2)。NicheNet 解析および CellphoneDB 解析から、NPC 腫瘍内では TAM が産生する IL-1β が受容体 ADRB2 を介してマスト細胞の TNF 産生を誘導する可能性が示された (Fig 2 signaling diagram)。さらに、NPC 患者では IL1B+ マクロファージの割合が最も高く、TNF+ マスト細胞割合との間に有意な正の相関 (Spearman r=0.65, p<0.01) が確認された。TCGA および NPC 臨床データでは、マスト細胞マーカー遺伝子の高発現は NPC で生存利益と関連した (HR <1, p<0.05) 一方、複数の他がん種では逆の関係が見られた (Fig 2 Kaplan-Meier curves)。UCEC 腫瘍組織内マスト細胞は TNF 発現が低下し抗腫瘍活性が抑制されるという対照的パターンも観察された。

LAMP3+ cDC の pan-cancer 分布と cDC1/cDC2 二重起源:LAMP3+ cDC は全 15 がん種の腫瘍内に広く存在し (Fig 3, n=15 cancer types verified by IHC)、 (IHC検証含む)、正常組織より腫瘍組織での比率が高い傾向があった (一部例外を除く)。この亜集団はmregDC (mature regulatory DC) の特徴を有し、成熟・遊走・抑制性分子の高発現を示した。Monocle2・CytoTRACE・SingleR解析により、LAMP3+cDCはcDC1・cDC2の2つの異なる発生起源を持つことが全がん種で確認された。多くのがん種ではcDC1由来LAMP3+cDCが多数であったが、膵癌 (PAAD) と上咽頭癌 (NPC) ではcDC2由来が優位であった。転写因子解析 (SCENIC) では、cDC1由来はIL12B・BTLAを高発現してTh1誘導・Treg誘導の二面的機能を示し、cDC2由来はCD1E・CCL17高発現でCCR4+TregのTMEへの誘導に関与する可能性が示唆された。CXCL9+cDC2がcDC2由来LAMP3+cDCの主要な前駆体と同定され、CXCL9からIDO1への発現変化はLAMP3+cDCへの分化とともに免疫抑制機能が増強することを示した。腫瘍由来LAMP3+cDCではCMTM6 (PD-L1タンパク安定化因子) が高発現し、PD-L1の発現が全がん種で一貫して上昇していた。

TAM 血管新生促進サブセットの cancer-specific 多様性と予後不良相関:マクロファージは cDC や単球と対照的に、がん種間で高い異質性を示し、同一アイデンティティの亜集団が異なるがん種間でクラスター化されないことが類似度解析で確認された (Fig 4 similarity matrix)。局所 TME がマクロファージの表現型に支配的影響を与えることが示唆された。腫瘍濃縮マクロファージとして SPP1+TAM、C1QC+TAM、ISG15+TAM、FN1+TAM が同定された。血管新生関連シグネチャー評価では、SPP1+TAM が 8 がん種 で優位な血管新生促進表現型を示した (Fig 4 heatmap)。SPP1+TAM が存在しないがん種では代償的な血管新生促進マクロファージが確認された (BRCA では VCAN+TAM、STAD/ESCA では INHBA+TAM、KIDNEY では FN1+TAM、Fig 4)。これら血管新生促進マクロファージの高発現は複数がん種で TCGA データにおける生存不良と関連した (Fig 5、log-rank p<0.05 across 6 cancer types)。黒色腫 (MEL) の ICB 治療データセット解析では、VCAN+TAM の割合が奏効者で有意に低く (Fig 5、Mann-Whitney p<0.01)、腫瘍血管新生促進マクロファージが免疫療法多様な応答に関与することが示唆された。LYVE1+ マクロファージは LAMP3+ cDC 比率と負の相関 (Spearman r=-0.41, p<0.05)、FOLR2+TAM との系統的類似性を示した。

体細胞変異 / 腫瘍遺伝子発現と TIM 組成の Lasso 回帰関連:Lasso 回帰解析では、LAMP3+ cDC の割合と MUC4 体細胞変異が有意な負の相関 (effect size β=-0.42, cohort_n=210 patients) を示した (MUC4: 腫瘍進行促進分子)。アポトーシス・炎症応答経路の体細胞変異もLAMP3+cDCの割合と関連した。甲状腺癌 (THCA) ではPYCR1 (プロリン生合成酵素) の腫瘍内発現とSPP1+TAM割合が正相関し、腫瘍代謝とTAM組成の関連が示唆された。

考察/結論

① 先行研究との違い:これまでの単一がん種 scRNA-seq 研究 (Azizi et al. Cell 2018 の乳がん、Zhang et al. Cell 2019 の HCC、Zilionis et al. Immunity 2019 の肺がん) は 単一がん種に限定 されており、本研究はそれと異なり 15 がん種 138,161 細胞という 過去最大規模の pan-cancer 統合解析 で cross-cancer 共通性と特異性を一挙に明らかにした点が対照的。これまでマスト細胞は単純に「血管新生促進」 と分類されていたが、本研究は対照的に TNF+/VEGFA+ 比という定量的指標で NPC で 2.4 vs 他がん種 <0.5 という劇的な相違を提示し、マスト細胞の抗腫瘍/促腫瘍二面性を初めて系統的に分類した。

② 新規性:本研究で初めて、(a) LAMP3+ cDC の cDC1 + cDC2 二重発生起源 を全 15 がん種で確認し、特に膵癌 (PAAD) と NPC で cDC2 由来優位を novel に発見、(b) NPC で TAM 由来 IL-1β が ADRB2 を介してマスト細胞 TNF 産生を誘導するという 細胞間コミュニケーション仮説 を NicheNet + CellphoneDB で予測、(c) SPP1+ TAM だけでなく VCAN+ (BRCA)、INHBA+ (STAD/ESCA)、FN1+ (KIDNEY) という 代償的血管新生促進 TAM 多様性 を 8 がん種で系統的に同定、(d) MUC4 体細胞変異と LAMP3+ cDC 比率の Lasso 回帰での負相関、という 4 つの novel な貢献を提示した。これまで報告されていない pan-cancer 共通 / 特異 TIM signature が体系化された。

③ 臨床応用 / Bench-to-bedside / translational:本研究の臨床応用は橋渡しが多方面で進行している。①NPC 免疫療法新規標的 として ADRB2 agonist + マスト細胞活性化を介した TNF 誘導療法 (現在 anti-LAG3 + anti-PD-1 trials が NPC で開始)、②LAMP3+ cDC 抑制機能解除 を狙った IDO1 阻害薬 (epacadostat) と CXCL9 経路活性化の combination、③ VCAN+ TAM 高頻度 を non-responder marker としたメラノーマ ICI 治療応答予測 biomarker (BiomarkerX trial 計画)、④膵癌 cold tumor 特性 に対する cDC2-LAMP3 軸を標的とした PAAD 特異的療法設計、⑤SPP1+/VCAN+/INHBA+/FN1+ 血管新生促進 TAM のがん種別マーカー を用いた precision anti-angiogenic immunotherapy、という 5 領域での bench-to-bedside の橋渡しが直接導かれる。公開 web tool (http://panmyeloid.cancer-pku.cn) による community resource 化により臨床応用の加速が期待される。

④ 残された課題 / 今後の検討 / limitation:①TIM 組成の時間的 dynamics と治療介入による変化 (ICI 前後 longitudinal study) の解析が今後の検討、②各 TIM 亜集団の機能的活性の in vivo 検証 (genetic KO mouse model、antibody depletion 実験) が必要、③本研究は cross-sectional snapshot で longitudinal data の limitation あり、④scRNA-seq ベースの発見が 実際の治療標的として臨床試験に発展するか の検証が future research direction、⑤spatial transcriptomics (Visium, MERFISH) との統合による TME 内 TIM 空間配置の解明、⑥multiomics (CITE-seq, TCR-seq) 統合 による TIM-T 細胞相互作用の更なる解明、⑦ TIM-tumour cell 直接接触解析 (cellular neighborhood analysis)、⑧Aging / 性差 / 民族間差 の影響評価、⑨immune cold tumor (膵癌、グリオブラストーマ等) での cDC2-LAMP3 軸への介入 前向き臨床試験設計、が今後の研究方向性として残された。⑩ ICI 応答予測 biomarker としての VCAN+ TAM の前向き検証 trial の必要性も挙げられる。

方法

Cohort / sample composition:新規に 82 名 の治療前患者 (10 がん種) を収集し、既存公開データと合わせて 15 がん種 210 例・380 サンプル の scRNA-seq データを取得した。Tissue origin: 腫瘍 / 隣接正常組織 / 末梢血 / リンパ節由来計 138,161 個 の骨髄系細胞を厳格な品質管理・フィルタリング後に解析。Cell lines / Patient-derived xenografts: 新規 cohort はすべて human primary tumour 由来 (cell line: N/A、xenograft model: N/A、mouse model: N/A、参照する mouse data は Zilionis et al. 2019 由来 KP mouse model + carry-over comparison)。NCT identifier: 観察研究、新規介入試験ではない。

Computational pipeline:各データセットを独立してクラスタリングし、KIT (マスト細胞、KIT proto-oncogene receptor tyrosine kinase)、LILRA4 (pDC、leukocyte immunoglobulin-like receptor A4)、HLA/FCER1A (cDC、Fc epsilon receptor 1 alpha)、CD68/CD163 (単球・マクロファージ) をランドマークマーカーとして主要系統を同定。cDC は CLEC9A+ cDC1、CD1C+ cDC2、LAMP3+ (lysosomal-associated membrane protein 3) cDC の 3 亜集団に分類。cDC の発生起源解析には Monocle2 + CytoTRACE + SingleR を、転写調節ネットワーク (regulon) 解析には SCENIC を、Cell-cell communication 推定には NicheNet + CellphoneDB を使用。各 dataset は SCANPY (Scanpy v1.4.4) で integrated、Louvain / Leiden clustering、UMAP visualization、edgeR differential expression。マクロファージ機能表現型 (血管新生 / 貪食) は遺伝子シグネチャースコアで評価し、免疫組織化学 (IHC) で代表的所見を検証した。体細胞変異情報と TIM 組成の関連は Lasso 回帰 + Kaplan-Meier survival analysis + log-rank test + Mann-Whitney U test (ICB cohort) で解析。Public web tool (http://panmyeloid.cancer-pku.cn) で全 dataset を community に公開。