Article data
Neutrophil extracellular traps and neutrophil-derived extracellular vesicles: common players in neutrophil effector functions
- 著者: Heiko Pfister
- Corresponding author: Heiko Pfister (pfister@dhm.mhn.de), Munich Biomarker Research Center, Institute of Laboratory Medicine, German Heart Center Munich, Technical University Munich
- 雑誌: Diagnostics (Basel)
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-07-14
- Article種別: Review article
- PMID: 35885618
背景
好中球顆粒球は自然免疫の最前線を担い、貪食、殺菌、脱顆粒、細胞外小胞 (EV) 放出のほかに、近年NET (neutrophil extracellular trap) 形成という新たなエフェクター機能が解明されてきた。NETsはクロマチンが脱凝縮して細胞外に放出されたDNA線維に顆粒タンパクが装飾された構造物であり、病原体の捕捉・殺菌に有効な一方、過剰産生や不完全なクリアランス時に自己免疫疾患、血栓症、がんを促進する病理的側面を持つことが知られている Brinkmann et al. Science 2004。好中球が放出するEVもまた、pro-またはanti-inflammatoryな多様な機能を持つことが明らかになりつつある。NETsとEVは共通の細胞起源を持ち、同一刺激・同一微小環境で同時に産生されるため、分子的重複が広範に予想される。しかし、両者の比較解析は体系的に行われておらず、特にEV-NET複合体の生物学的意義やクリアランスへの相互影響については未解明な部分が多い。さらに、診断・治療応用においても、両者の分子的重複が研究設計とバイオマーカー選択に与える影響は十分に議論されてこなかった。この知識ギャップが、NETsとEVsの正確な役割解明を妨げ、疾患の診断および治療戦略の進展を遅らせる要因となっている。特に、自己免疫疾患、がん、血栓症といった主要な疾患病態における両者の複雑な相互作用は、依然として理解が不足している。先行研究では、NETsの形成メカニズムや疾患における役割が詳細に報告されているが Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018、EVsとの相互作用については手薄である。また、EVsの機能も活発に研究されているものの Hoshino et al. Nature 2015、NETsとの複合体形成が疾患病態に与える影響については未確立な点が多い。
目的
本総説は、好中球由来のNETとEVの (1) 分子的共通点と差異の体系的整理、(2) 機能的重複・相乗・拮抗作用の疾患別概観、(3) EV-NETハイブリッド複合体の形成・クリアランスへの影響、(4) 診断・予後バイオマーカーとしての現状と課題を包括的に検討することを目的とする。これにより、両者の鑑別と複合体の診断・治療標的としての可能性を明確化することを目指す。特に、自己免疫疾患、がん、血栓症といった主要な疾患病態における両者の複雑な相互作用を解明し、診断・治療への応用可能性を探求する。本レビューは、これらの分子の相互作用が疾患の進行にどのように寄与するかを理解するための新たな視点を提供することを意図している。
結果
NETosisの多様な機序とEVの種類: NET形成 (NETosis) には3経路が存在する。(1) 「自殺型」NETosis: PRR刺激 → MAPK依存的ROS産生 (NADPH-オキシダーゼ) → PAD-4 (peptidyl-arginine-deiminase 4)・NE (neutrophil elastase)・MPO (myeloperoxidase)によるヒストン修飾 → クロマチン脱凝縮 → 核膜・細胞膜破裂 → DNA放出 (刺激後2〜4時間で細胞死)。(2) 「vital」NETosis: 核DNA含有小胞が核から出芽し細胞膜と融合して放出され、好中球はanuclear cytoplastとして生存し遊走能・走化性感知能を維持する。(3) ROS依存的・非自殺型: GM-CSF (granulocyte/macrophage-colony stimulating factor)感作後LPS/C5a刺激でミトコンドリアDNA (mtDNA) が放出される。一方EVはexosome (30〜150 nm)・microvesicle (100〜1,000 nm)・apoptotic body (50〜5,000 nm) に大別され、好中球は安静時・アポトーシス時に主に抗炎症的EV (Annexin A1含有)、活性化時に炎症惹起的EVを放出する。刺激依存性が高く、Mycobacterium tuberculosis感染好中球由来EVはPMA (phorbol-12-myristate-13-acetate)誘導NET産生好中球由来EVより強力にマクロファージを活性化する (pro-inflammatoryサイトカイン誘導・共刺激分子発現亢進)。rolling好中球が放出するENDS (elongated neutrophil-derived structures) はEV様プロテオームを持つが古典的テトラスパニンを欠きDNAを含まない別カテゴリの産物として記載された。sepsis患者ではS100A8/S100A9含有ENDSの血中レベルが著明に上昇する (Figure 1)。
NETと好中球EVが共有する広範な分子スペクトル: 顆粒タンパク群 (NE・MPO・Cathepsin G・Lactoferrin・Defensin・Azurocidin・PR-3 (proteinase-3)・MMP・Lysozyme C) および核成分 (DNA・ヒストンH3・シトルリン化ヒストン・HMGB-1 (high-mobility group protein 1)) が両者に共通して検出される。その他microRNA (miR-155)・S100ファミリー (S100A8/A9)・細胞骨格タンパク (Myosin-9・Actin・α-Enolase)・Annexin群・補体成分・組織因子 (TF)・phosphatidylserine (PS) も共有される (Table 1)。テトラスパニン (CD9・CD63・CD81) はEV特異的マーカーとしてNETとの鑑別に有用であり、負のNETマーカーとして研究設計に組み込むべきとされる。
EV-NET複合体の形成とクリアランスへの相互影響: マウス好中球をPMAまたは連鎖球菌M1タンパクで刺激した実験 (Wang et al.) で、EVがヒストン-PS依存的にNETに結合することが示された。caspase・calpain阻害薬でEV形成を阻害するとNETの好中球誘引活性および血栓促進活性が著明に低下し、EVがNETの機能増強に寄与することが証明された。4T1乳癌細胞由来EVも静的条件下でNETに結合し、TFを供給することでNETの凝固促進活性を相乗的に増強しうる (Leal et al.)。血中EVの半減期は約3時間であるのに対しNETは血管内で数日間持続しうる。DNase1・DNase1-like 3によるNET DNA骨格の分解後、NET結合EVが循環中に放出されEVの標的化・クリアランス経路が変化する可能性がある (Figure 2)。原子間力顕微鏡の解析ではNETタンパクが構造維持に重要であることが示されており、EVの膜露出タンパクがNET構造を変化させる可能性も示唆された。
自己免疫疾患におけるNETとEVの共通・相乗的役割: ANCA (anti-neutrophil cytoplasmic antibody)関連血管炎 (AAV) ではANCAが好中球を活性化しNET形成とEV放出を同時に誘発する。NET上にMPO・PR-3が自己抗原として提示されANCA産生が増悪し、ANCAがさらにNETosisを促進するというフィードバックサイクルが形成される Kessenbrock et al. NatMed 2009。不完全NETクリアランス (DNase1活性低下) がAAV患者で報告されており、NET結合EVの循環増加につながる可能性がある。SLE (systemic lupus erythematosus)ではNETクリアランス障害が自己抗原提示を促進し、EVはnon-classical EV含有免疫複合体を形成して疾患活動性と関連する。RA (rheumatoid arthritis)ではcitrullinated vimentin・fibrinogenがNETおよびEVの自己抗原となりうる。
がんにおけるNETとEVの対照的・相補的役割: NETsは主としてpro-tumorigenicに作用する。NET-DNAがケモタキシス作用でがん細胞を捕捉しインテグリンβ1依存的に定着を促進し、NE・MMP-9がLamininを逐次切断してインテグリン介在性休眠がん細胞の増殖再活性化を促進する (TSP-1 (thrombospondin-1)分解との協調) Albrengues et al. Science 2018。G-CSF (granulocyte-colony-stimulating factor)やCathepsin Cが好中球をNETosisに誘導する。NET-DNA受容体CCDC25がインテグリン結合型キナーゼ-β-parvin経路を活性化してがん細胞運動性を増強する Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013。一方、EVはN1好中球 (抗腫瘍) とN2好中球 (腫瘍促進) の現在の細胞状態を反映し、N1好中球EVはIL-1β・IL-2・IL-4・インテグリン介在性のがん細胞アポトーシス誘導を含む抗腫瘍活性を発揮する Coffelt et al. NatRevCancer 2016。好中球microvesicleがmiR-155を動脈硬化好発内皮に運ぶ動脈硬化促進機序も同定されている。
血栓症におけるNETとEVの協調的作用: NETsはvon Willebrand因子・ヒストン・TF・PSを介して内在的・外在的凝固経路を活性化し、がん関連・自己免疫関連血栓症を促進する。MPO・NEはTFPI (tissue factor pathway inhibitor)・thrombomodulinを阻害して間接的にも凝固促進作用を発揮する。COVID-19ではNETが免疫血栓症 (immunothrombosis) の中心的メディエーターとなり、SARS-CoV-2が直接NETosisを誘発することが示されている。EVはPS・ポリリン酸・TFを介してFVII (外在的経路)・FXII (内在的経路) を活性化し血小板凝集を誘導する。MPO含有EVが次亜塩素酸 (HOCl) 産生を触媒して内皮細胞傷害を誘発し血栓促進に寄与する。
診断・予後バイオマーカーとしての現状と限界: 好中球EVはフローサイトメトリー (FC) (CD15・CD66b・PS・CD11b等) で定量可能であり、敗血症・COVID-19の重症度・血栓リスク予測 (PS+/CD15+/CD66b+ EV; TF活性が血栓リスクと関連)、COPD (chronic obstructive pulmonary disease)・ARDS (acute respiratory distress syndrome)の活動性評価 (BALF (bronchoalveolar fluid)中CD11b+/CD66b+ EVの疾患関連性)、NSCLC (non-small cell lung cancer)の進行度評価 (血中PS+/CD66b+ EVが病期進行と関連、p<0.05)、感染性心内膜炎の鑑別診断 (PS+/CD66b+ EVが疾患特異的上昇)、不安定プラーク評価 (頸動脈狭窄患者でのCD11b/CD66b+ EVが不安定プラークと相関) などの臨床文脈での応用が報告されている (Table 3)。NETバイオマーカーとしてはMPO-DNA複合体・シトルリン化ヒストンH3がELISAで測定可能であり、がん・敗血症・COVID-19・動脈硬化での疾患関連性・予後予測能が報告されているが、商業的に検証されたキットは未確立である。重要な技術的問題として (1) MPO-DNA ELISAの信頼性がヒト血漿では疑問視されている、(2) cfDNA (cell-free DNA)はNETosis・アポトーシス・EV放出など多起源を含むためNET特異的でない、(3) 好中球の個体間変動・活性化状態依存性が大きい、(4) EVとNETを区別する感度・特異度の高い抗体が不足している点が挙げられる。AAV増悪時のDNase1活性低下 (患者 vs 健常者で比較報告あり) はNETクリアランス障害の間接証拠として重要だが、定量的なcut-off値は未確立である。血中EVの半減期は約3時間と短く、NETは数日間血管内に持続するという動態の違いも診断上の重要な考慮事項である。NSCLC患者血中PS+/CD66b+ EV濃度はコントロールと比較して有意に高値 (p<0.05) であることが報告されている。EV標識に使用するAnnexin V結合でPS+として検出されるEVは全EVの約20〜40%に相当するとされ、測定感度・特異度のバリデーションが課題となっている。
考察/結論
NETとEVの分子的重複は共通の細胞起源を反映するが、顆粒タンパクの搭載量、エフェクター分子へのアクセス可能性、標的細胞選択性、クリアランス経路の違いにより、同一分子でも全く異なる、時に相反する機能を示す。特にNEはNET形成そのものに関与する一方で、EVに搭載されて遠隔細胞に運ばれ、両方の経路を通じて疾患進行に寄与する。MPOも同様にNETosisへの直接関与とEV媒介性の内皮傷害という二つの病理的役割を担い、ANCA関連疾患、がん、血管疾患の共通的分子機序となっている。
先行研究と比較すると、本レビューはEVとNETを個別に論じた既報告とは異なり、両者の分子的重複と相互作用を体系的に整理した点に独自性がある。特にEV-NETハイブリッド複合体の概念は新しく、EVがNET構造・機能・クリアランスに影響を与えうることを示したWangらおよびLealらの研究を中核として論じている。診断研究におけるNETバイオマーカーの相矛盾するデータ (ANCA関連血管炎でのNETクリアランス活性と疾患活動性との相関について矛盾報告が蓄積) の解釈は、EVの共存が測定系に与える影響を考慮せずに困難である。
本研究で初めて、テトラスパニン (CD9, CD63, CD81) がEV特異的マーカーとしてNETとの鑑別に有用であり、負のNETマーカーとして研究設計に組み込むべきであることを強調した。これは、両者の明確な区別を可能にし、より特異的なバイオマーカー開発への道を開く新規な知見である。
将来的には、複合バイオマーカーパネル (EVマーカー [CD66b+/PS+/CD11b+] + NETマーカー [MPO-DNA複合体・シトルリン化ヒストンH3] + cfDNA修飾パターン) が個別指標を上回る診断精度をもたらす可能性がある。EV-NETハイブリッド複合体の存在が癌関連血栓症の新しいバイオマーカーとなる可能性も示唆されており、次世代の液体生検戦略においてEV-NET統合バイオマーカーの開発が重要な研究方向として提示される。NETベース診断のためのMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) 相当ガイドラインの策定が急務とされており Thery et al. JExtracellVesicles 2018、特にNETosisのどの経路 (自殺型・vital型・mtDNA依存型) が測定されているかを明確にする標準化が求められる。残された課題として、EV-NET複合体の生体内での動態とクリアランスメカニズムの詳細な解明、およびこれらの複合体が疾患の進行にどのように寄与するかの機能的解析が挙げられる。これらの知見は、臨床応用において疾患の早期診断や治療標的の同定に繋がる可能性を秘めている。
方法
MEDLINE、PubMed、Embase、Web of Science を対象とした体系的文献レビューを実施した。検索期間は2000年から2022年5月までとした。好中球EVおよびNETの生成機序、分子構成、機能的多様性、疾患関連性、診断応用に関する文献を統合した。引用文献は200件超に及ぶ。本レビューには独自の実験データは含まれていない。レビューの過程では、特にEVとNETの共通の分子構成要素、それらの疾患における役割、および両者の相互作用に関する報告に焦点を当てた。文献検索は、キーワード「extracellular vesicles」、「neutrophil extracellular traps」、「neutrophil granulocytes」、「cancer」、「autoimmune disease」、「thrombosis」を用いて行われた。得られた文献は、その関連性に基づいて選別され、好中球の活性化状態、EVの種類(exosome、microvesicle、apoptotic body)、NETosisの経路(自殺型、vital型、mtDNA依存型)といった詳細な情報が抽出された。文献の選定は、査読付きジャーナルに掲載された原著論文および総説論文に限定された。統計手法は用いられていないが、文献間の矛盾するデータや未解決の課題についても言及し、今後の研究方向性を示唆している。本レビューは、特定の統計解析手法(例: Mann-Whitney U検定、Cox回帰分析)を用いる研究デザインではないため、統計的有意差の評価は個々の引用文献に委ねられた。データの統合は定性的な手法で行われ、エビデンスレベルの評価は行われていない。