- 著者: Myat S. L. Ng, Florent Ginhoux, Andrés Hidalgo
- Corresponding author: Melissa S. F. Ng; Lai Guan Ng (A*STAR Singapore Immunology Network / Shanghai Jiao Tong University)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-04-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 38207030
背景
腫瘍微小環境 (TME) に浸潤する好中球が腫瘍促進的な機能 (tumor-associated neutrophils; TAN) を示すことは広く知られているが、好中球には骨髄での成熟段階に応じた異質な前駆集団 (未熟・成熟) が存在し、これらがTME内でどのような転写・エピゲノム軌跡をたどって機能的に統一されるかは未解明であった。好中球は感染や損傷に対する最初の応答細胞であり、その保護機能を発揮するために大量に組織へ迅速に動員される。歴史的に好中球は均一で一過性の集団と認識されてきたが、近年ではがんにおいて多様な好中球の状態が報告されており、それらは成熟度、表面マーカー発現、転写プロファイルにおいて異なるとされる。これらの好中球の状態間の関係性や、それらがどのように統一された腫瘍促進的応答へと組織化されるかは未だ解明されておらず、がんにおける好中球の治療標的化を制限する要因となっていた。
従来の研究では腫瘍内好中球の多様な状態が報告されたものの、それらが共通の終末分化状態に収束するかどうか、またその収束のメカニズムは不明であった。例えば、Sagiv et al. CellRep 2015 は循環好中球の表現型多様性と可塑性を報告しており、Gentles et al. NatMed 2015 はがんにおける免疫細胞浸潤と予後の関連性を示している。また、Bronte et al. NatCommun 2016 は骨髄由来抑制細胞 (MDSC) の命名法と特性評価基準を提唱しているが、好中球の多様な状態がどのようにMDSCとして機能するのか、その詳細なメカニズムは不足していた。膵臓腺がん (PDAC) は高密度のTAN浸潤を特徴とする難治がんであり、TMEにおける好中球の機能的多様性と再プログラミングを解明する最良のモデルである。さらに、循環好中球の半減期は約10時間と短命であるため、腫瘍内での長期滞在と機能的再プログラミングが成立するための機序の解明が求められていた。これらの背景から、腫瘍微小環境における好中球の動態と機能的再プログラミングの決定論的機序を理解することは、新たな治療戦略の開発において極めて重要である。
目的
本研究の目的は、KPC遺伝子改変マウスモデル由来細胞株を用いた同所移植PDACモデルにおいて、腫瘍浸潤好中球の転写・エピゲノム状態を一細胞レベルで解析し、以下の点を明らかにすることである。(1) 未熟・成熟という異なる前駆状態の好中球が腫瘍内で収束的に同一の終末分化T3状態に再プログラムされること (決定論的再プログラミング) を実証する。(2) T3好中球の空間的ニッチ、機能的役割、および臨床的意義を詳細に解明する。(3) 腫瘍微小環境が好中球の表現型、寿命、および腫瘍促進機能をどのように形成するかを、in vitroおよびin vivoアプローチを用いて検証する。最終的に、これらの知見を通じて、がんにおける好中球の治療標的化の可能性を広げることを目指す。
結果
T1/T2/T3の3つの腫瘍特異的好中球転写状態の同定: scRNA-seq解析により、骨髄・脾臓・血液の好中球は成熟スコアに従って単一の発生軌跡 (pre-Neu→IMM→MAT) に沿ってクラスター形成したのに対し、腫瘍内好中球は3つの独自クラスター (T1、T2、T3) を形成することが明らかになった (Fig. 1B)。T1は未熟好中球 (IMM2) に類似した成熟スコアを示し、CXCR4、MMP8、S100A8等を高発現した。T2は成熟好中球 (MAT1-5) と同等の成熟スコアを持ち、SELL、CXCR2、FCGR3B等を発現した。T3はT1/T2のいずれとも異なる中間的成熟スコアを示し、dcTRAIL-R1 (Tnfrsf23)、VEGFa、HK2、LDHA等の低酸素・解糖・血管新生関連遺伝子を高発現した。RNA velocity解析は、T1・T2からT3への収束的分化方向を示唆し、T3が最も終末分化したサブセットである可能性を示した (Fig. 1E)。
ATACseqによるエピゲノム再プログラミングの実証: ATACseqのPCA解析では、腫瘍浸潤未熟・成熟好中球が他組織の同等集団から明確に分離し、腫瘍固有のchromatin accessibility変化が確認された (Fig. 1F)。T3遺伝子に対応するOCRsは、腫瘍浸潤未熟・成熟好中球の両者でaccessibilityが増加していたが、他組織では検出されなかった。T3特異的転写因子 (Mafk、Nfe2l2、Atf3、Hif1a、Bhlhe40等) が同定され、これらが代謝・酸化ストレス応答・低酸素適応を制御することが示唆された (Fig. 1H)。これらのエピゲノム変化は、T1およびT2好中球がT3状態へ移行する際に転写因子活性によって強化されることを示唆している。
dcTRAIL-R1がT3状態の特異的表面マーカー: 249マーカーInfinityFlowスクリーニングにより、T3好中球クラスターはdcTRAIL-R1、PD-L1、CD14、CD371、VISTA、CD39を高発現することが明らかになった (Fig. 2B)。dcTRAIL-R1 (TNFRSF10C) はPDACおよび乳がん (median 20.4%、IQR 18.0-23.1%) ・肺がん (median 12.1%、IQR 4.54-19.5%) モデルの腫瘍浸潤好中球に限定的に発現し、骨髄・脾臓・血液好中球・腫瘍マクロファージ・単球ではほぼ検出されなかった (Fig. 2C)。CD101とdcTRAIL-R1の組み合わせ (dcTRAIL-R1-CD101-=T1、dcTRAIL-R1-CD101+=T2、dcTRAIL-R1+=T3) でフローサイトメトリーによるサブセット分離が可能であり、それぞれのNanostring転写プロファイルはscRNA-seqのT1/T2/T3分類と高い一致を示した (Fig. 2F)。
T3好中球は腫瘍の低酸素-解糖ニッチに局在: 空間トランスクリプトミクス (10X Visium) によるCell2location解析では、T3好中球はhypoxia関連cluster 6 (GO: 0001666) に最も高頻度でマップされた (T3スポットの68.8±19.7%が高グリコリシス領域、53.3±4.65%が高低酸素領域、62.2±14.2%が高血管新生領域) (Fig. 3H)。一方T1・T2好中球の大部分はこれら3領域の低スコア域に存在した。MICSによるシングルセル空間解析 (n=5 ROI) では、T3好中球はCD73hiGLUT1hi低酸素-解糖ニッチへの最短距離が最も短く、同ニッチ内での混合スコアが最高であった (Fig. 4H)。
決定論的収束再プログラミングの実験的実証: 腫瘍条件培地 (TCM) 培養では、骨髄由来未熟・成熟好中球ともに24時間以内にdcTRAIL-R1発現が誘導され (培養3日後には顕著な割合でdcTRAIL-R1+、p<0.05)、3日間以上の延長生存が確認された (Fig. 5A)。通常培地 (cDMEM) 培養や低酸素条件単独ではdcTRAIL-R1誘導は認められなかった。養子移入実験では、CD45.1+未熟好中球は腫瘍内で1日後にT1 (dcTRAIL-R1-CD101-) を経由し、3日後には大部分がdcTRAIL-R1+T3に転換した。成熟好中球 (CD45.1+) は腫瘍内でT2 (dcTRAIL-R1-CD101+) を経て3日後にT3に収束した (Fig. 5E)。いずれも血液・脾臓ではdcTRAIL-R1誘導は生じなかった。T1・T2好中球を腫瘍から単離して培養すると、培地の種類に依存せず24時間以内にdcTRAIL-R1を発現し、腫瘍内での再プログラミングが不可逆的であることが確認された。
T3好中球の腫瘍内半減期と長寿命の実証: BrdU pulse-labeling実験では、血液好中球の半減期は31.4時間であったのに対し、腫瘍好中球の半減期は41.8時間 (95% CI 39.6-46.6時間)、予測寿命は135時間 (約5.625日、95% CI 126.5-142.4時間) と有意に延長していた (Fig. 5G)。BrdU+好中球のdcTRAIL-R1発現はラベリング後6日以降に顕著に上昇し、15日後に最高値に達した (Fig. 5H, I)。これはT3再プログラミングが腫瘍内滞在時間とともに進行することを示す。T3好中球は一度獲得した表現型を安定的に維持し、腫瘍由来因子が存在しない状況でもdcTRAIL-R1の発現を維持した (Fig. 5K)。
T3好中球はVEGFa依存的に血管新生を促進し腫瘍増殖を加速: T3好中球はT1・T2および末梢好中球と比較してVEGFa転写・タンパク質を最も高発現した (Fig. 6A, B)。Matrigel plugアッセイではT3好中球共注射でのみ血管新生が有意に増強された (p<0.05)。皮下PDACモデルでは、T3好中球共注射群 (n=7 mice) は100%腫瘍形成率を示したが、T1・T2・骨髄好中球共注射群やPBS群は形成率が有意に低かった (Fig. 6E)。抗VEGFa中和抗体投与によりT3促進性腫瘍増殖が有意に抑制された (T3+抗VEGFa群 vs. T3+isotype、p<0.05)。抗dcTRAIL-R1抗体投与でもT3共注射腫瘍の増殖が有意に抑制された (p<0.05) (Fig. 6J)。光学的クリアリング・CD31 3D可視化では、T3共注射腫瘍は腫瘍コア内部に高密度のCD31+血管ネットワークを形成し、対照群では腫瘍辺縁に偏在した (Fig. 6H, I)。
ヒトPDACおよび複数がん種での保存と予後相関: 2つのヒトPDAC scRNA-seqデータセット (TCGA-PAAD、PACA-AU) をマウスT1/T2/T3リファレンスUMAPにlabel transferすると、ヒト腫瘍内好中球も明確にT2・T3 (一部T1) に分類され、隣接正常組織や末梢血では腫瘍特異的クラスターは少数であった。T3署名高発現患者ではTCGAコホートのmedian OSが652日、PACA-AUコホートで427日と予後不良を示し (p<0.05 log-rank)、性別・年齢・病期を補正後も有意であった (Fig. 6K)。TCGA PanCancerデータベースでもT3シグナチャー高発現は複数の固形がん (膵臓がんを含む) での死亡リスク上昇 (有意なHR) と関連した (Fig. 6L)。
考察/結論
本研究は、PDACにおいて腫瘍が未熟・成熟という異なる前駆状態の好中球を収束的に同一のT3終末分化状態へと不可逆的に再プログラムする「決定論的再プログラミング」を初めて実証した。この機序の鍵は、T3に特異的なエピゲノム変化 (Mafk・Nfe2l2・Atf3・Hif1aを含む転写因子regulonの活性化) が腫瘍浸潤時から開始され、成熟段階に関わらず同一のT3転写プログラムへ収束することにある。腫瘍因子 (TCM) への曝露が必要十分条件であり、低酸素単独では不十分なことが示された。
新規性: 本研究で初めて、好中球がその初期成熟表現型から最終的な腫瘍促進機能へと脱共役するメカニズム、すなわち腫瘍内での収束的再プログラミングを明らかにした。これは、好中球が環境からの異なる種類のシグナルを同時に統合し、既存の分化段階に新たな機能的表現型を重ね合わせる能力を持つことを示している。この適応性により、未熟好中球も短期間で腫瘍内で動員され、再プログラムされることが可能となる。
先行研究との違い: これまでの研究では、がんにおける好中球の多様な状態が報告されてきたが、それらの状態が共通の終末分化状態に収束するかどうか、またそのメカニズムは不明であった。本研究は、Zilionis et al. Immunity 2019 や Heinz et al. MolCell 2010 が示したような好中球の多様性や転写因子ネットワークの重要性を踏まえつつ、腫瘍微小環境が好中球の運命を決定論的に方向付けるという点で、これまでの知見と異なり、より包括的な理解を提供する。
T3好中球は腫瘍コアの低酸素-解糖ニッチに居住し、5日超の長寿命を獲得し、VEGFa産生と腫瘍血管新生を主導することで持続的腫瘍増殖を支持する。この発見は、好中球を腫瘍から排除するのではなく「T3への転換を遮断する」という精密介入戦略の根拠となる。
臨床応用: dcTRAIL-R1はT3状態の診断的・治療的標的として有望であり、ヒト複数がん種での保存性が臨床応用を支持する。T3シグネチャーはヒトPDAC患者の予後不良と一貫して関連しており、複数の固形がんにおいても死亡リスクの上昇と関連することが示された。これは、T3好中球を標的とすることが、がん免疫療法の効果を高める新たな手段となる可能性を示唆している。
残された課題: 今後の検討課題として、T3誘導の上流シグナルの詳細な同定、T1→T3とT2→T3の動力学的差異の定量、dcTRAIL-R1抗体療法の臨床開発、および他がん種でのT3ニッチの病態的意義の解明が残る。また、T3好中球が血管新生を誘導する詳細な分子メカニズムや、腫瘍微小環境における他の細胞種との相互作用についてもさらなる研究が必要である。
方法
KPC遺伝子改変マウスモデル由来のPDAC細胞株 (FC1242L) をC57BL/6マウスに同所移植し、腫瘍担がんマウスの骨髄・脾臓・血液・腫瘍からCD11b+Ly6G+好中球を採取してscRNA-seq (10X V3 3’ chemistry、生物学的2反復) を施行した。転写状態分類にはLouvainクラスタリングとUMAP、分化軌跡推定にはRNA velocity (La et al. Nature 2018) およびdiffusion mapを用いた。ATACseq (assay for transposable chromatin sequencing) は未熟 (CD101-) および成熟 (CD101+) 好中球を各組織から採取 (各n=2-3 mice) して施行し、腫瘍特異的なopen chromatin regions (OCRs) を同定した。T3特異的転写因子はpySCENIC regulonネットワーク解析で推定した。高次元フローサイトメトリー (249マーカー InfinityFlow、n=10 pooled replicates) でタンパク質レベルのマーカーを同定した。空間トランスクリプトミクス (10X Visium、n=4切片、3腫瘍) とCell2locationを用いて腫瘍内の各好中球サブセットの分布を可視化し、MICS (MACSima imaging cyclic staining) でシングルセル解像度の空間解析を行った (n=5 ROI、2腫瘍)。
養子移入実験ではCD45.1+未熟/成熟好中球を腫瘍担がんマウスへ移入し (n=3-4 mice)、1・3日後にdcTRAIL-R1発現を評価した。BrdU pulse-labeling実験 (day -15 to -1、n=3-5 mice/時点) で腫瘍内好中球の半減期を推定した。機能実験では、T1/T2/T3好中球を腫瘍細胞と共注射しMatrigel plug assayおよび皮下腫瘍モデルで血管新生・腫瘍増殖能を評価した (各n=7-12 mice、5独立実験)。血管新生はドップラーイメージングによる血管流速で測定した。腫瘍増殖能の評価には、皮下PDACモデルで腫瘍細胞と好中球を共注射し、腫瘍体積をキャリパーで毎週測定した。VEGFa (vascular endothelial growth factor alpha) 中和抗体および抗dcTRAIL-R1抗体を用いた治療介入も実施した。光学的クリアリングとCD31染色による3D血管ネットワーク可視化も行った。ヒトPDACのscRNA-seqデータセット (TCGA-PAADおよびPACA-AU) を用いて、マウスT1/T2/T3リファレンスUMAPへのlabel transferによりヒト腫瘍内好中球の分類を行い、T3シグネチャーと患者の全生存期間 (OS) および無病生存期間 (DFS) との関連性をlog-rank検定で解析した。TCGA PanCancerデータベースも利用し、複数の固形がんにおけるT3シグネチャーと死亡リスクの関連性をCox比例ハザード検定で評価した。