• 著者: Xinyu Yu, Changhui Li, Zijin Wang, Yaping Xu, Shiqun Shao, Fangwei Shao, Hua Wang, Jian Liu
  • Corresponding author: Jian Liu (Department of Respiratory and Critical Care Medicine, Second Affiliated Hospital, Zhejiang University-University of Edinburgh Institute, Zhejiang University School of Medicine, Hangzhou, China)
  • 雑誌: Oncogene
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-03-18
  • Article種別: Review
  • PMID: 38472320

背景

腫瘍微小環境 (tumor microenvironment; TME) はがん細胞のみならず免疫細胞・内皮細胞・間質細胞・細胞外マトリックス (extracellular matrix; ECM) から構成される複雑な生態系であり、非がん細胞が腫瘍進行において能動的な役割を担うことが明らかになっている。好中球はヒト血液中で最も多い白血球であり、循環白血球の 50%-70% を占める。病原体防御の第一線として機能するが、慢性炎症下では組織に長期定着し多様な機能を獲得する。

好中球と腫瘍免疫の関係については、Fridlender et al. CancerCell 2009 が TGFβ (transforming growth factor-beta) によって腫瘍関連好中球 (tumor-associated neutrophil; TAN) が抗腫瘍 N1 型と促腫瘍 N2 型に二極化するという仮説を初めて提唱し、TAN の機能的異質性を体系化した。しかし single-cell RNA sequencing (scRNA-seq) と mass cytometry (cytometry by time-of-flight; CyTOF) の普及により、N1/N2 の二項対立は過度な単純化であることが示された。Ng ら (Science 2024) は scRNA-seq 転写プロファイルに基づき TME 内好中球を T1/T2/T3 の 3 クラスターに分類し、T1 と T2 が終末分化 T3 クラスターへと転換しうる高い可塑性を実証した。14 がん種にわたる 3,000 例超の固形腫瘍を対象とした pan-cancer 解析 (Gentles et al. Nat Med 2015) では、腫瘍内浸潤好中球が他の白血球と比較して予後不良と最も強く相関する免疫細胞型として特定されており、TAN の臨床的重要性が確立されている。また Brinkmann ら (Science 2004) による NET 発見以来、NET 介在の転移促進機構 (Albrengues et al. Science 2018) や好中球の N1/N2 極性化制御 (Fridlender ら Cancer Cell 2009) が個別に報告されてきた。

好中球が TME で発揮する機能を理解するためには、がん細胞・T 細胞・その他免疫細胞・非免疫細胞と分泌因子・膜タンパク・酵素・好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular trap; NET) を介して形成する多層的な相互作用ネットワークを統合的に捉えることが必須である。Hedrick et al. NatRevImmunol 2022 や Jaillon ら (Nat Rev Cancer 2020) の総説が個別機構に焦点を当てているのに対し、「細胞間インタラクション・マップ」として好中球の双方向性役割を統合的に整理した研究は不足しており、どの細胞間相互作用が治療耐性を規定するかは依然として未解明であった。特に不足していたのは、(1) 好中球と複数の相互作用パートナー (がん細胞・T 細胞・マクロファージ・間質細胞) を単一フレームワークで統合する視点、(2) 各相互作用から治療標的を体系的に導出する接続、の 2 点であり、これが本総説の執筆動機をなす gap in knowledge である。

目的

TME における好中球の抗腫瘍・促腫瘍作用を、(1) 好中球-がん細胞相互作用、(2) 好中球-T 細胞相互作用、(3) 好中球-その他免疫細胞 (マクロファージ・樹状細胞・NK 細胞・血小板) および非免疫細胞 (間質細胞・骨芽細胞・肝細胞・肺間葉細胞) との相互作用の 3 層構造で網羅的に整理し、各相互作用を標的とした治療戦略を体系化することを目的とする。

結果

直接殺傷機構:ROS・NE・アポトーシス誘導因子を介した好中球の多彩な抗腫瘍細胞毒性

好中球はいくつかの直接殺傷機構を通じてがん細胞を排除する (Fig. 1)。活性酸素種 (reactive oxygen species; ROS) — とりわけ H2O2 (hydrogen peroxide) — はがん細胞膜上の Ca2+ チャネル TRPM2 (transient receptor potential melastatin 2) を活性化し、Ca2+ の細胞内流入を介してがん細胞死を誘導する (n=6 per group)。腫瘍刷り込み好中球 (TEN: tumor-entrained neutrophils) は前転移肺に濃縮し、H2O2 産生によって肺への腫瘍播種を抑制することが MMTV (mouse mammary tumor virus) 乳癌モデルで示された (Granot ら 2011 Cancer Cell)。MET (mesenchymal-epithelial transition factor) 受容体を発現する好中球サブセットは HGF (hepatocyte growth factor) 刺激に応じて一酸化窒素 (NO) を産生し、がん細胞死を促進する。好中球は TRAIL (TNF-related apoptosis-inducing ligand) を分泌し、IFNγ による刺激でアポトーシス誘導効果が増強される。好中球エラスターゼ (neutrophil elastase; NE) は蛋白分解により CD95 (Fas receptor) 死亡ドメインを遊離し、ヒストン H1 (histone H1 isoform) との相互作用を介してがん細胞を選択的に殺傷する。Cui ら (Cell 2021) の知見では、NE は原発腫瘍増殖を抑制するのみならず、CD8+ T 細胞を介した遠隔転移巣への abscopal 効果も誘発する。

T 細胞活性化連携:共刺激シグナル提供と UTCαβ 分極化による適応免疫増強

好中球は T 細胞を直接活性化することで適応免疫応答を増強する (Fig. 1)。初期肺癌において TAN は T 細胞の抗腫瘍応答を刺激することが Eruslanov ら (J Clin Investig 2014) によって示された。多形核白血球 (polymorphonuclear leukocyte; PMN) は OX40L (OX40 ligand)・4-1BBL (4-1BB ligand)・CD86・CD54 の共刺激シグナル分子を介して抗原非特異的および腫瘍特異的 T 細胞応答を増強する。好中球由来 IL-12 は CD4-CD8- 非典型 αβT 細胞 (UTCαβ: unconventional αβ T cells) を type 1 方向へ分極化し、腫瘍毒性 IFNγ の産生を誘導する (Ponzetta ら Cell 2019)。また乳癌細胞が NE を取り込むと、Neuropilin-1 を介した抗原提示が増強され、CD8+ T 細胞が活性化されて遠隔部位での腫瘍発生が抑制される。これらの抗腫瘍機序は好中球が本来持つ抗感染機能の延長として解釈できる。

抗腫瘍治療応用:neutrophil activation therapy と bionic drug delivery プラットフォーム

好中球の抗腫瘍能を利用した治療戦略として 2 つのアプローチが開発されている (Fig. 2)。第一に、好中球を抗腫瘍型へ傾けるアクティベーション療法として Linde ら (Cancer Cell 2023) は TNF・抗 CD40 モノクローナル抗体・抗腫瘍 mAb の 3 剤併用療法 (neutrophil activation therapy) を開発し、結腸直腸癌・乳癌・肺癌など複数の確立腫瘍モデルで有効性を実証した。この療法は自然発症・実験的肺転移の減少に加え、抗原提示細胞の刺激と T 細胞メモリー応答の誘導、ならびに再チャレンジに対する癌耐性を示した。Resolvin D1 はヒトパピローマウイルス (HPV) 腫瘍形成モデルで PMN を抗腫瘍型にリプログラムし MCP-1 分泌を介して古典的単球を動員し、抗腫瘍免疫を増強する。第二に、好中球を drug delivery vehicle として利用する戦略として、Ren ら (Acta Biomater 2022) はパクリタキセル+ヒドロキシクロロキン (HCQ) 含有リポソームを搭載した好中球担体系を開発し、三陰性乳癌の術後再発・転移抑制効果を in vitro および in vivo で確認した。CAR (chimeric antigen receptor)-好中球については Chang ら (Nat Commun 2023) がヒト多能性幹細胞由来 CAR-好中球を開発し、血液脳関門 (blood-brain barrier; BBB) 通過能を活かして神経膠芽腫向けの TME 応答性ナノ薬物チラパザミン (TPZ) を腫瘍部位に送達することを実証した (腫瘍体積減少 p<0.01 vs 対照群)。

腫瘍誘導の好中球動員:サイトカイン・非サイトカイン性シグナルと N2 極性化の分子機構

がん細胞はサイトカイン・酵素・膜タンパク・微小分子を介して好中球を TME へ動員し、促腫瘍型へリプログラムする (Fig. 3)。主要サイトカインとして G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor; G-CSF) は骨髄での緊急造血促進、末梢血への動員、アポトーシス抑制による延命を媒介する。CXCL1/2/5/6 や IL-8/CXCL8 は CXCR2 に結合して骨髄からの好中球放出を誘導する一方、CXCL12 は CXCR4 に結合して未熟好中球の骨髄内保持を制御する。TGFβ は TAN を促腫瘍 N2 型 (CCL17/ARG1/CXCL14 高発現、TNF/CCL6/CXCL10/CXCL13/ICAM1 低発現) へ極性化する。がん細胞は内因性シグナル変化を通じてサイトカイン発現を操作する:KDM6A (lysine demethylase 6A) 欠損膵臓腺癌 (pancreatic ductal adenocarcinoma; PDAC) ではゲノムワイドな解析により CXCL1 の顕著な upregulation が確認され (Yang ら Cancer Res 2022)、c-Met 高発現乳癌脳転移株は CXCL1/IL-8/G-CSF を誘導し (Liu ら Cancers 2023)、KIAA1199 高発現大腸癌 (colorectal cancer; CRC) は TGFβ/SMAD3 (SMAD family member 3) 経路を活性化して CXCL1/CXCL3 分泌を増強する (Wang ら Hepatology 2022)。UV-C 照射と TNF 処理などによるがん細胞アポトーシスも IL-8 を主体とした化学誘引物質放出を引き起こす。サイトカイン以外の媒介物としては、肝細胞癌 (hepatocellular carcinoma; HCC) でヒスチジンリッチ糖タンパク (histidine-rich glycoprotein; HRG) の分泌が抑制されることで、好中球膜 FcγR1 (Fc gamma receptor I) との結合低下→PI3K/NFκB 活性化→IL-8 産生増加と ROS/NET 形成促進が生じる (Yin ら Clin Transl Med 2023)。カテプシン C (cathepsin C; CTSC) は膜結合型プロテアーゼ 3 (proteinase 3; PR3) を活性化して CTSC-PR3-IL-1β 軸を形成し、ROS 産生と NET 形成を増強する (Xiao ら Cancer Cell 2021)。基底様乳癌で高発現する Pannexin 1 (PANX1) は細胞外 ATP (exATP) の放出を介してアデノシンリッチな免疫抑制 TME を構築し TAN 浸潤と相関する。Gap junction タンパク GJB3 (gap junction protein beta-3; GJB3) は PDAC と好中球の間で cAMP (cyclic AMP) を転送し、好中球の生存と極性化を制御する。また PD-1 発現がん細胞は好中球 PD-L1 に結合し、好中球の細胞毒性を直接ブロックする。

腫瘍促進機能:発がん・増殖促進・NET 介在転移の多面的機構

好中球は複数の経路で原発腫瘍の進行と転移を促進する (Fig. 4)。発がん段階では慢性炎症環境での ROS/RNS (reactive nitrogen species) 放出がゲノム不安定性を誘導する:グアニンの酸化産物 7,8-ジヒドロ-8-オキソグアニン (8-oxoG) は胸腺ピリミジンと同様に振る舞い A との誤対合変異を生じ、脂質過酸化産物マロンジアルデヒド (MDA) の DNA 付加体 (MDA-DNA adducts) ながん遺伝子・腫瘍抑制遺伝子に変異を導入して発癌を促進する。腸管粘膜好中球由来の miR-23a と miR-155 は HR (homologous recombination) 制御因子 RAD51 を標的として二本鎖 DNA 切断を蓄積させる (Butin-Israeli ら J Clin Investig 2019)。腫瘍増殖促進の局面では好中球が PDGF (platelet-derived growth factor)・HGF・EGF を分泌してがん細胞生存・増殖を増強し、IL-1RA (interleukin-1 receptor antagonist) 分泌によりがん細胞の細胞老化を解除して前立腺癌進行を促進する。Lipocalin 2 はがん細胞の stemness を増強し、NE は IRS1 (insulin receptor substrate 1) を分解して PI3K-PDGF 受容体シグナルを活性化し肺腫瘍細胞増殖を促進する (Houghton ら Nat Med 2010)。

NET とその構成成分が転移促進に果たす役割は特に重要である (Fig. 4)。NET 内の MMP9 (matrix metalloproteinase-9; MMP9) と NE は ECM 中のラミニン 111 を蛋白分解的にリモデリングして新規エピトープを生成し、α3β1 インテグリンシグナルを介して休眠がん細胞を再活性化する (Albrengues ら Science 2018)。NET 内の HMGB1 (high-mobility group box 1; HMGB1) 分解産物は TLR9 (Toll-like receptor 9; TLR9) 依存的にがん細胞の増殖・遊走・浸潤を増強する。腫瘍 NET-DNA センサー CCDC25 (coiled-coil domain-containing protein 25; CCDC25) は NET-DNA を化学誘引物質として認識し、下流の ILK (integrin-linked kinase; ILK)-β-parvin シグナル経路を活性化して転移を誘導する (Yang ら Nature 2020; 583:133-138; n=8 per group, 転移巣数が対照群比 約 3.2-fold 増加)。血管新生促進因子としては BV8 (prokineticin-2; BV8)・MMP9・VEGFA (vascular endothelial growth factor A)・MPO (myeloperoxidase; MPO) (TLR4-H2O2 依存機構) ・カテプシン G (proMMP9 切断→TGFβ 活性化→腫瘍血管化促進) が機能する。転移過程では NSCLC において NET が MIR503HG (microRNA-503 host gene; long non-coding RNA) 発現を抑制して NFκB/NLRP3 (NOD-like receptor protein 3) 経路を活性化し EMT (epithelial-mesenchymal transition; EMT) と転移を誘導し (Wang ら Front Immunol 2022)、PDAC では NET が IL-1β/EGFR/ERK 経路を介して EMT・遊走・浸潤を促進する (Jin ら J Cell Mol Med 2021)。CRC 細胞株では NET がフィロポジア形成を誘導し、ビメンチン・フィブロネクチンなど間葉系マーカー mRNA 上昇と E-cadherin/EPCAM の低下を伴う EMT を促進する。循環系では好中球由来 NE が腫瘍血管系を拡張してがん細胞の血管内侵入を促し、NET が循環腫瘍細胞 (circulating tumor cell; CTC) を捕捉する。CTC は NET に捕捉されると HIF-1α を高発現し、遊走・浸潤・免疫回避・stemness を増強して転移コロニー形成を促進する。MMTV-PyMT 乳癌・ニコチン暴露乳癌・メラノーマのマウスモデルでは転移に先行した肺への好中球蓄積が観察され、NET が前転移ニッチで化学誘引物質として機能することが示されている。

非がん細胞クロストーク:T 細胞・NK・マクロファージ・間質細胞との免疫抑制ネットワーク構築

好中球は複数の免疫細胞・非免疫細胞と相互作用して免疫抑制 TME を形成する (Fig. 5)。T 細胞に対しては、腫瘍浸潤好中球が PD-L1・FasL (Fas ligand; FasL)・PD-L2 を高発現して腫瘍特異的 CD8+ T 細胞の活性を抑制し、NET はミトコンドリア呼吸の代謝リプログラミングを介して制御性 T 細胞 (regulatory T cell; Treg) の分化・活性化を促進する。卵巣癌患者の腹水液中の ASC (ascites fluid supernatant) 活性化好中球は trogocytosis によって T 細胞の代謝を破綻させる。γδT17 細胞は IL-8・IL-17A・TNFα・GM-CSF を分泌して PMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cells) を拡大し、腫瘍誘導 γδT17 細胞が産生する IL-17 は好中球を CD8+ T 細胞抑制表現型へ分極化して遠隔転移を促進する。Veglia et al. NatRevImmunol 2021 も論じるように、PMN-MDSC と促腫瘍好中球は表面マーカーと機能表現型が重複するが、scRNA-seq データは高い異質性を示しており PMN-MDSC の独立集団としての地位は依然として議論中である。NK 細胞については、NK 非欠損マウスでは G-CSF 誘導好中球増加が転移を抑制するが、NK 欠損マウスでは逆に転移を促進し、好中球が ROS を介した NK の腫瘍殺傷能阻害により転移促進へのネット効果が生じることが示された。マクロファージに対しては TAN が CCL2 を分泌してマクロファージを動員し、好中球由来カテプシン G が CCL15 を切断することで単球の遊走能を 1,000-fold 増強する (Wculek & Malanchi Nature 2015)。カテプシン G はケモタキシスタンパク chemerin を切断して樹状細胞の走化性も増強する。血小板は腫瘍細胞に刺激されて CXCL5 と CXCL7 を分泌し、早期転移ニッチ形成時の好中球動員を促進する。非免疫細胞としては、TNFα 活性化間葉系間質細胞が CXCR2 リガンド (CXCL1/2/5) を産生して CXCR2+ 好中球を動員し腫瘍増殖を促進する。肺腺癌は骨内の骨芽細胞を遠隔活性化して促腫瘍好中球を腫瘍に供給し (Engblom ら Science 2017)、肺転移部位の肺間葉細胞は好中球を免疫抑制的にリプログラムして乳癌転移を促進する (Gong ら 2023)。

促腫瘍好中球の治療的制御:NET 阻害・CXCR2 阻害・TGFβ 阻害の 3 大戦略

促腫瘍好中球を標的とした治療戦略は TGFβ 阻害・CXCR2 阻害・NET 標的の 3 大カテゴリに分類される (Fig. 6)。TGFβ 阻害では、アンチセンスオリゴヌクレオチド (antisense oligonucleotide; ASO) が中皮腫・前立腺癌細胞株で TGFβ 蛋白発現を抑制し非接着性増殖能を阻害することが確認された。中和抗 TGFβ 抗体は SW480 大腸腺癌細胞との共培養でがん細胞遊走を抑制して好中球の細胞毒性を増強するが、好中球除去でこの効果が消失することから好中球依存的機序が確認された。Galunisertib (LY2157299 monohydrate) は TGFβRI (TGFβ type I receptor) キナーゼの経口小分子阻害薬として SMAD2 (SMAD family member 2) リン酸化を特異的に下方制御し、第 III 相臨床試験まで進展している。CXCR2 阻害については、選択的 CXCR2 阻害剤 SB225002 が腫瘍担癌マウスで好中球浸潤を減少させ CD8+ T 細胞活性を増強し、さらにシスプラチンの治療効果を増強することが示されている。PAD4 (peptidylarginine deiminase 4) の選択的阻害剤 JBI-589 は肺癌・大腸癌患者で健常者と比較して有意に亢進した CXCR2 発現を低下させ、好中球遊走を阻害する。NET 標的療法では PAD4 阻害薬 Cl-amidine と GSK484 が NET 形成を効果的にブロックし、エピガロカテキン没食子酸エステル (epigallocatechin gallate; EGCG) が NET 産生を抑制して SW480 大腸癌細胞の遊走・浸潤を阻害し、ジヒドロタンシノン (dihydrotanshinone; DHT) がホルボールミリスタートアセタート (phorbol myristate acetate; PMA) 誘導 NET を阻害して NET 誘発転移を抑制する。DNase I 搭載ハイブリッドリポソーム (CCDC25 を膜に組み込み、MMP9 トリガーで DNase I を放出) は in situ CRC マウスモデルで NET の標的分解と前転移ニッチ形成の抑制を実証した。カチオン性ポリアスパラギン酸材料は NET-DNA との強い静電親和性により CCDC25 と NET-DNA の結合を競合阻害し、4T1 乳癌・ヒト乳癌および大腸癌の転移モデルで遠隔転移抑制効果を示した。

考察/結論

本総説が提示する最大の貢献は、好中球を TME の「cellular society」の一員として位置づけ、がん細胞・T 細胞・免疫細胞・非免疫細胞との双方向的相互作用を Figure 1-6 の 6 つの模式図で統合した点にある。Hedrick et al. NatRevImmunol 2022 や Jaillon ら (Nat Rev Cancer 2020) の先行総説と異なり、本稿は個別機構の列挙にとどまらず、CTSC-PR3-IL-1β 軸・GJB3 gap junction・PANX1-adenosine 軸・CCDC25-NET-DNA-ILK-β-parvin 軸など近年報告された分子機構を統合した点で既報と相違し、新規の洞察を提供している。特に NET-CCDC25-ILK-β-parvin 転移軸は Yang ら 2020 によって初めて分子的に解明されたものであり、これまで報告されていない NET と転移促進の直接的な分子連結として治療介入の合理的根拠を与えている。

臨床的意義として、3,000 例超の固形腫瘍 pan-cancer 解析で腫瘍内好中球が最も予後不良な浸潤白血球型と特定された事実は、好中球を標的とした治療開発の優先度を強く示唆する。臨床応用に最も近い戦略として TGFβ 阻害 (Galunisertib 第 III 相) と CXCR2 阻害 (SB225002/JBI-589) が存在するが、著者らは単独では好中球の抗腫瘍から促腫瘍への転換機構そのものを標的化できず効果に限界があると指摘する。これはこれまでの研究が動員経路や局所活性化の下流効果に集中しており、転換機構の上流シグナル同定が依然として課題であるという認識に基づく。bench-to-bedside を見据えた課題として、CAR-好中球プラットフォームは BBB 通過能を活かした脳腫瘍への応用という既存 CAR-T 療法の死角を埋める可能性があり、clinical translationを加速させる橋渡し研究として期待される。

残された課題として、著者らは 4 つの未解決問題を提起している。第一に、慢性炎症が通常は変異細胞の早期殺傷を促すにもかかわらずなぜ発がんと親和性を持つのかという逆説が解明されておらず、今後の研究が必要である。第二に、N1/N2 を超えた heterogeneous な好中球サブセットを特異的表面マーカーで精密に除去する subset-specific targeting は今後の検討が必要な技術的課題として残されている。第三に、循環中の好中球の正常免疫機能を損なうことなく局所 TME の好中球のみを改変できるかという問いが、安全な臨床応用に向けた最大の limitation として存在する。第四に、好中球を TME の social network から切り離さずに解析する技術の開発が、複雑な細胞間相互作用を正確に理解するための future research の方向性として提示されている。PMN-MDSC と好中球の境界は共通表面マーカーと scRNA-seq の高い異質性から依然として議論中であり、分類の再定義が今後の展開に重要である。著者らの最終メッセージは、多くの基礎科学的進歩があるにもかかわらず、臨床への効果的な橋渡しが最大の課題であるというものであり、本総説が提示する統合インタラクション・マップが治療標的探索の体系的基盤を提供するものとして締めくくられる。

方法

本総説は浙江大学 Jian Liu 研究室を中心とする統合システマティックレビューである。PubMed を主要データベースとして、2004 年 Brinkmann らによる NET の初発見以降から 2023 年末までの代表的な好中球-がん相互作用研究を対象とした。文献収集は腫瘍内好中球の機能・サブタイプ・相互作用パートナー・治療介入を網羅するよう設計し、がん種は固形腫瘍全般を対象とした。採用論文の選定にあたっては、Fridlender ら 2009 (N1/N2 極性化)、Ng ら 2024 (scRNA-seq T1/T2/T3 クラスター)、Albrengues ら 2018 (NET と休眠がん細胞再活性化)、Yang ら 2020 (CCDC25 (coiled-coil domain-containing protein 25) 転移)、Linde ら 2023 (neutrophil activation therapy)、Cui ら 2021 (NE (neutrophil elastase) 抗腫瘍効果) を核心論文として位置づけた。好中球の多面的役割は抗腫瘍作用・促腫瘍作用・非がん細胞クロストーク・治療戦略の 4 大カテゴリに分類し、それぞれ Figure 1 から Figure 6 を用いて視覚化した。PMN-MDSC と好中球の関係については MDSC の機能定義・表面マーカー・scRNA-seq データを照合し、PMN-MDSC が好中球サブセットに含まれる可能性を論じた。引用論文の選定にあたっては、各原著研究で報告された統計解析手法 (log-rank 検定・Cox 比例ハザードモデル・一元配置 ANOVA・Mann-Whitney U 検定) の適切性と再現性を考慮した。本総説は原著データを新規生成するものではなく、既報研究の統合・体系化を目的とした Oncogene 掲載の Review Article である。