- 著者: Christensen JG, Zou HY, Arango ME, Li Q, Lee JH, McDonnell SR, Yamazaki S, Alton GR, Mroczkowski B, Los G
- Corresponding author: James G Christensen (Department of Cancer Research, Pfizer Global Research and Development, La Jolla Laboratories, La Jolla, CA)
- 雑誌: Molecular Cancer Therapeutics
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-09-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 18089725
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) はインスリン受容体スーパーファミリーに属する受容体チロシンキナーゼであり、t(2;5)(p23;q35) 染色体転座によって生じる NPM (nucleophosmin) -ALK 融合タンパク質が、未分化大細胞型リンパ腫 (anaplastic large-cell lymphoma: ALCL) の約 80% を占める ALK 陽性 ALCL の主要な発がん駆動因子 (oncogenic driver) として機能することが知られている (Blume-Jensen et al. Nature 2001)。NPM-ALK は強力なプロモーターの制御下で過剰発現し、自己リン酸化を介して PLCγ (phospholipase C-gamma)、STAT3 (signal transducer and activator of transcription 3)、PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase)/Akt、ERK (extracellular signal-regulated kinase) などの下流シグナル伝達経路を恒常的に活性化することで、細胞のがん化や生存を誘導する。
慢性骨髄性白血病における BCR-ABL 標的治療薬 imatinib の劇的な成功は、キナーゼ融合タンパク質が優れた治療標的となることを実証した。しかし、ALK 陽性 ALCL において臨床応用可能な経口 ALK 阻害薬は、これまで開発されておらず、治療パラダイムとして 未解明 な領域であった。これまでに CEP-14083 や TAE684 などの ALK 阻害化合物が報告されていたものの、選択性や経口吸収性 (bioavailability) の面で 不足 があり、臨床開発に至る薬剤は存在しなかった。
一方、c-Met 受容体チロシンキナーゼも HGF (hepatocyte growth factor) シグナルを介して腫瘍の増殖や血管新生に関与しており、PF-2341066 は ALK と c-Met を同時に標的とする経口可能な ATP 競合型低分子阻害薬として創製された (Zou et al. CancerRes 2007)。しかし、ALK 陽性 ALCL の実験モデルにおける PF-2341066 の詳細なシグナル伝達阻害機構や、in vivo での腫瘍退縮効果、薬理活性と有効性の用量反応関係については、これまで体系的な検証が行われておらず、基礎研究から臨床応用への橋渡しにおける knowledge gap となっていた。
これらを踏まえ、先行研究である Morris et al. (1997) や Iwahara et al. (1997) において ALK の分子生物学的特徴が報告され、さらに Pulford et al. (1997) により ALK 陽性腫瘍の病理学的特徴が示されていたものの、生体内での実用的な阻害剤を用いた治療モデルの検証は 不足 しており、詳細なシグナル遮断と抗腫瘍効果の定量的な相関関係は 未解明 な 課題が残されている 状態であった。
目的
本研究の目的は、新規 ALK/c-Met 阻害薬である PF-2341066 の ALK 陽性 ALCL に対する生化学的・細胞レベルでの阻害活性および標的選択性を検証することである。さらに、SCID-Beige (severe combined immunodeficient-Beige) マウスを用いた Karpas299 異種移植 (xenograft) モデルにおいて、in vivo での抗腫瘍活性、腫瘍内 NPM-ALK 阻害の程度 (extent) および持続時間 (duration) と治療効果の相関関係、ならびに下流シグナル伝達経路への影響を包括的に評価し、臨床応用への妥当性を検証することである。
結果
NPM-ALK リン酸化の強力かつ選択的な阻害: 生化学的および細胞ベースのアッセイにおいて、PF-2341066 は Karpas299 および SU-DHL-1 細胞における NPM-ALK の自己リン酸化を極めて強力に阻害し、その平均 IC50 値は 24 nmol/L であった (Fig 1)。また、c-Met リン酸化に対する IC50 値は 11 nmol/L であった。120 種類以上の多様なキナーゼパネルを用いたスクリーニングにおいて、PF-2341066 は ALK および c-Met に対して他のキナーゼと比較して 20 倍以上の高い選択性を示した。20 から 30 倍低い親和性を示す RON や Axl などのキナーゼに対する off-target 作用は、本研究の薬理学的有効濃度域では無視できるレベルであることを確認した。
ALK 陽性 ALCL 細胞に対する特異的な増殖抑制作用: MTT アッセイの結果、PF-2341066 は NPM-ALK 陽性細胞株である Karpas299 の増殖を IC50 32 ± 1 nmol/L、SU-DHL-1 の増殖を IC50 43 ± 2 nmol/L で強力に抑制した (Fig 1)。この増殖抑制濃度は、NPM-ALK リン酸化阻害濃度 (IC50 24 nmol/L) と極めて良好に相関していた。これに対し、ALK 陰性細胞株である U-937 における増殖抑制の IC50 値は 257 ± 19 nmol/L であり、ALK 陽性細胞と比較して約 8 倍鈍感であった。さらに、ALK 阻害活性を持たない c-Met 選択的阻害薬である PHA-665752 (c-Met Ki 4 nmol/L、ALK IC50 >10,000 nmol/L) および PF-4217903 (c-Met Ki 2 nmol/L、ALK IC50 >20,000 nmol/L) は、5 µmol/L の高濃度に達しても Karpas299 および SU-DHL-1 の増殖を抑制しなかったことから、これらの細胞における増殖抑制作用は c-Met 阻害ではなく、ALK 阻害に依存していることが実証された。
G1-S 期停止およびアポトーシス誘導作用: フローサイトメトリーを用いた細胞周期解析において、PF-2341066 (100 nmol/L、48 時間処理) は Karpas299 細胞において S 期細胞の割合を約 4 分の 1 に減少させ、sub-2N アポトーシス画分を 2.0-fold increase 以上に増加させた (Fig 2)。SU-DHL-1 細胞においても、S 期細胞が約 2 分の 1 に減少し、アポトーシス画分が 4.0-fold increase 以上に増加した (Fig 2)。Annexin V 染色および TUNEL アッセイによる検証でも、100 nmol/L の処理により、両 ALK 陽性細胞株においてアポトーシス細胞数が 3.0-fold から 4.0-fold に増加した (Fig 3)。これらのアポトーシス誘導作用の IC50 値は 25 から 50 nmol/L の範囲にあり、ALK 陰性の U-937 細胞では同様の効果が認められなかったことから、アポトーシス誘導が ALK 阻害特異的であることが確認された。
In vivo 異種移植モデルにおける用量依存的な腫瘍完全退縮効果: Karpas299 異種移植片を担持した SCID-Beige マウス (n=12 mice/群) において、PF-2341066 は顕著な用量依存的抗腫瘍効果を示した。100 mg/kg/day の経口投与群では、投与開始から 15 日以内に全 12 例 (n=12 mice) のマウスにおいて腫瘍の完全退縮 (complete regression) を達成した (Fig 4A)。17 日間の連続投与後に治療を一時中断したところ、一部の個体 (3 例、n=3 mice) で腫瘍の再増殖が観察されたが、100 mg/kg/day の再投与を行うことで、再び完全な腫瘍退縮が誘導された。50 mg/kg/day 投与群では 96% の腫瘍増殖抑制率 (TGI) を示して腫瘍の増殖をほぼ完全に停止 (cytostasis) させ、25 mg/kg/day 投与群では 57% の TGI を示した (Fig 4A) (one-way ANOVA にて p<0.001)。
腫瘍内 NPM-ALK 阻害の程度・持続時間と抗腫瘍効果の相関: 腫瘍組織内の NPM-ALK リン酸化レベルを ELISA で測定した結果、PF-2341066 の薬理作用の持続時間が治療効果を決定する重要な因子であることが明らかになった。100 mg/kg 投与では、投与後 24 時間にわたって NPM-ALK リン酸化がほぼ完全 (>95%) に阻害されており、これが完全退縮の達成に必要であることが示された (Fig 4B)。50 mg/kg 投与では 24 時間にわたり約 80% の阻害が維持され、これが腫瘍増殖停止 (cytostasis) に対応していた。一方、25 mg/kg 投与では 80% 以上の阻害が持続する時間は約 8 時間にとどまり、部分的な腫瘍抑制効果 (57% TGI) にとどまった。この結果は、最大の抗腫瘍効果を得るためには、標的キナーゼの阻害の「程度」だけでなく「持続時間」が極めて重要であることを示している。
腫瘍組織における増殖抑制およびアポトーシス誘導のバイオマーカー修飾: 投与 4 日目の腫瘍組織切片を用いた免疫組織化学染色において、PF-2341066 投与群はすべての用量域で増殖マーカー Ki67 陽性細胞数の有意な減少 (約 2 分の 1) を示した (Fig 5)。一方、アポトーシスマーカーである活性化 caspase-3 陽性細胞数は明確な用量依存的増加を示し、100 mg/kg/day 投与群では 12% を超える顕著な増加 (対照群と比較して 20-fold 以上の増加、p<0.01) が観察され、これが in vivo での腫瘍退縮効果と強く相関していた (Fig 5)。
NPM-ALK 下流シグナル伝達経路の遮断: Karpas299 細胞 (n=3 cells 独立実験) を用いた in vitro 解析において、PF-2341066 (30 から 100 nmol/L、1 時間処理) は p-ALK、p-PLCγ1、および p-STAT3 のレベルを濃度依存的に減少させた (Fig 6)。生存シグナルに関与する p-Akt および p-ERK1/2 は、より高濃度 (100 から 300 nmol/L) で抑制された。In vivo の腫瘍組織 (100 mg/kg/day、4 日間投与) においても同様に、p-ALK、p-PLCγ1、および p-STAT3 の強力な抑制が確認され、p-Akt および p-ERK1/2 の顕著な抑制は、完全退縮およびアポトーシス誘導が観察される 100 mg/kg/day 投与群においてのみ顕著に認められた (Fig 6)。これは、NPM-ALK 陽性腫瘍における「オンコジーンアディクション (oncogene addiction)」の機序と合致するものである。
考察/結論
先行研究との違い: imatinib を用いた BCR-ABL 標的治療が慢性骨髄性白血病で劇的な成功を収めたこと とは異なり、ALK 陽性 ALCL に対する有効な経口チロシンキナーゼ阻害薬は これまで 臨床開発段階に到達していなかった。先行研究で報告されていた CEP-14083 などの ALK 阻害化合物や、PHA-665752 などの c-Met 阻害薬が、選択性や経口吸収性の不足により臨床応用が困難であった課題 と対照的に、PF-2341066 は 120 種類以上のキナーゼパネルにおいて高い選択性を示しつつ、優れた経口吸収性を有している点で従来の化合物と大きく異なる。さらに、in vivo において 100 mg/kg/day の投与により、これまで報告されていない 迅速かつ完全な腫瘍退縮効果を実証した。
新規性: 本研究の新規性は、(i) 本研究で初めて、ALK/c-Met デュアル阻害薬 PF-2341066 の生化学的活性から細胞レベル、in vivo 異種移植モデル、および薬理学的バイオマーカーに至る包括的な前臨床薬理作用を明らかにした点、(ii) これまで報告されていない 腫瘍内 NPM-ALK 阻害の「程度 (extent)」と「持続時間 (duration)」の組み合わせが抗腫瘍効果を決定するという定量的な用量反応フレームワークを確立した点、(iii) Ki67 および活性化 caspase-3 を用いて、in vivo における静細胞作用 (cytostasis) と殺細胞作用 (cytoreduction) の境界を定量的に示した点、(iv) 下流の PI3K/Akt および ERK1/2 経路の完全な遮断が、完全な ALK 阻害用量でのみ達成され、これがアポトーシス誘導に必須であるという新たな分子メカニズムを解明した点にある。
臨床応用: 本研究で得られた強固な前臨床データは、PF-2341066 の 臨床応用 を強力に後押しする原動力となった。本剤はその後 crizotinib として臨床開発が進められ、ALK 陽性非小細胞肺がん (NSCLC) に対する画期的な標的治療薬として、2011 年の米国 FDA による迅速承認 (Kwak et al. NEnglJMed 2010)、2013 年の第 III 相試験による有効性の確立 (Shaw et al. NEnglJMed 2013)、そして 2014 年の一次治療としての承認 (Solomon et al. NEnglJMed 2014) へと繋がる、がん領域における bench-to-bedside (基礎から臨床へ) の最も成功した translational な研究成果の出発点となった。臨床的有用性 として、経口投与による外来治療の実現、24 時間持続阻害を達成するための投与設計の確立、および従来の多剤併用化学療法に伴う副作用 (悪心、骨髄抑制、脱毛など) を回避し、臨床現場 における患者の QOL を劇的に改善する治療選択肢を提供した。
残された課題: 今後の検討 として、(i) ALK 陽性 ALCL の再発・難治性症例における PF-2341066 の臨床的有効性の検証、(ii) 治療経過中に生じる ALK 二次耐性変異 (ゲートキーパー変異 L1196M や溶媒領域変異 G1202R など) に対する克服戦略の構築が 今後の課題 である。また、(iii) EML4-ALK 融合遺伝子陽性 NSCLC や c-Met 異常を伴う他のがん種への適応拡大が 今後の方向性 として示され、(iv) alectinib、ceritinib、lorlatinib などの 次世代 ALK 阻害薬 との治療シークエンスや併用療法の開発が future research として位置づけられた。さらに、(v) 高濃度域 (>300 nmol/L) における RON や Axl などの他キナーゼへの off-target 作用の臨床的影響の解明が limitation として残されており、これらの課題解決に向けた研究が現在も継続されている。
方法
細胞株および培養条件: t(2;5) 染色体転座を有し NPM-ALK 融合タンパク質を発現するヒト ALCL 細胞株として Karpas299 および SU-DHL-1 を使用した。対照群として、ALK および c-Met 陰性のヒト単球性白血病細胞株 U-937 を使用した。細胞は 10% 胎児牛血清 (FBS) を添加した RPMI1640 培地を用い、37°C、5% CO2 条件下で維持した。
生化学的キナーゼアッセイおよび ELISA: 120 種類以上のキナーゼパネルに対する PF-2341066 の阻害活性を評価した。細胞レベルでの NPM-ALK 自己リン酸化阻害活性は、抗 total-ALK 捕捉抗体と HRP (horseradish peroxidase) 標識抗 phospho-ALK (pY1604) 検出抗体を用いたサンドイッチ ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 法により測定し、IC50 値を算出した。
細胞増殖・細胞周期・アポトーシス解析: 72 時間の薬剤処理後の細胞生存率を MTT (3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide) アッセイにより測定した。細胞周期分布および sub-2N アポトーシス画分は、CycloTest Plus DNA Reagent Kit を用いて染色後、フローサイトメーター (FACSCalibur) で 10,000 イベントを測定し、ModFit LT ソフトウェアで解析した。アポトーシス誘導は、Annexin V-FITC 染色および TUNEL (terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling) アッセイにより定量した。ウェスタンブロッティング法により、p-ALK、p-Akt (Ser308/Ser473)、p-ERK1/2 (Thr185/Tyr187)、p-STAT3、p-PLCγ1 などのタンパク質リン酸化レベルを検出した。
In vivo 異種移植モデル: 6 週齢の雌性 SCID-Beige (severe combined immunodeficient-Beige) マウスの皮下に、30% から 50% の Matrigel に懸濁した Karpas299 細胞 (2.5 × 10⁶ cells/100 µL) を接種した。腫瘍体積が約 200 mm³ に達した後、PF-2341066 (25, 50, 100 mg/kg/day) または媒体 (vehicle) を 1 日 1 回経口ゾンデ投与した。腫瘍体積は長径 × 短径² × 0.4 で算出した (n=12 mice/群)。統計解析には one-way ANOVA を用い、p<0.001 を有意差ありと定義した。腫瘍組織内の増殖マーカー (Ki67) およびアポトーシスマーカー (activated caspase-3) は免疫組織化学染色 (IHC) により評価し、ACIS (Automated Cellular Imaging System) で定量化した。