- 著者: Michael C. Milone, Jonathan D. Fish, Carmine Carpenito, Richard G. Carroll, Gwendolyn K. Binder, David Teachey, Minu Samanta, Mehdi Lakhal, Brian Gloss, Gwenn Danet-Desnoyers, Dario Campana, James L. Riley, Stephan A. Grupp, Carl H. June
- Corresponding author: Michael C. Milone (Abramson Family Cancer Research Institute, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: Molecular Therapy
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-04-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 19384291
背景
キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR) 発現T細胞を用いた養子免疫療法は、がん治療の有望なアプローチとして期待されてきた。しかし、CAR-T細胞のin vivoにおける持続性と抗腫瘍効果の不足が、臨床応用における主要な障壁となっていた。第一世代CARは、抗原認識ドメインとTCRζ (T-cell receptor-zeta) 鎖の細胞内シグナル伝達ドメインのみで構成されていた。この設計では、T細胞の活性化は誘導できるものの、IL-2 (interleukin-2) 産生や増殖能、およびin vivoでの長期生存能が著しく不足していた。例えば、卵巣がんに対する臨床試験 (Kershaw et al. ClinCancerRes 2006) や、CD20を標的とした非ホジキンリンパ腫の臨床試験 (Till et al. Blood 2008) では、投与されたCAR-T細胞が速やかに消失し、限定的な治療効果しか得られなかったことが報告されている。
この課題を克服するため、第二世代CARとしてCD28などの共刺激ドメインをTCRζ鎖に連結した受容体が開発された。先行研究 (Brentjens et al. NatMed 2003) では、CD28シグナルの付加によってIL-2産生やin vitroでの増殖能が改善することが示された。しかし、これら第二世代CARを用いても、腫瘍微小環境におけるT細胞の長期的な生存維持やメモリーT細胞への分化を十分に誘導する設計原理は未確立であった。特に、腫瘍細胞側で共刺激リガンドが欠損している場合、CAR-T細胞の持続性は依然として不十分であり、最適な共刺激ドメインの選択に関する知見が不足していた。
TNF (tumor necrosis factor) 受容体スーパーファミリーに属するCD137 (4-1BB) は、T細胞活性化後に誘導される共刺激分子であり、抗アポトーシス遺伝子であるBcl-xLやBfl-1 (B-cell lymphoma 2-related protein A1) の発現を誘導することで、CD8+記憶T細胞の生存と維持を強力に支持することが知られている。しかし、CD137シグナル伝達ドメインをCARの細胞内ドメインに直接組み込んだ場合の有効性や、CD28ドメインとの機能的な差異、さらには両者を組み合わせた第三世代CARの優位性については、in vivo環境下での系統的な比較検討がなされておらず、大きな研究ギャップが存在していた。
目的
本研究の目的は、CD3ζ単独 (第一世代)、CD28-CD3ζ (第二世代CD28型)、CD137-CD3ζ (第二世代CD137型)、およびCD28-CD137-CD3ζ (第三世代) の各シグナル伝達ドメインを内蔵したCD19特異的キメラ抗原受容体 (CAR) を構築し、ヒト初代T細胞におけるin vitroの機能的特徴を詳細に比較評価することである。さらに、高度免疫不全マウスを用いたヒトpre-B細胞性急性リンパ性白血病 (pre-B-cell acute lymphoblastic leukemia: pre-B-ALL) 異種移植モデルにおいて、これら異なる共刺激ドメインを持つCAR-T細胞のin vivoにおける抗白血病効果と持続性を系統的に検証し、臨床応用において最も優れた治療効果と長期生存性をもたらす最適なCAR設計を確立することを目指した。
結果
CD137含有CAR-T細胞による強力なin vivo抗白血病効果と生存期間延長: ヒトpre-B-ALLを移植したNSGマウスモデルにおいて、αCD19-BB-ζ (CD137-CD3ζ) CAR-T細胞を投与した治療群は、末梢血、骨髄、脾臓から白血病細胞を完全に排除した。この群のマウスは6ヶ月以上の長期生存を達成し、メディアン生存期間は未到達であった (Fig. 5e, 6d)。対照的に、αCD19-28-ζ (CD28-CD3ζ) 群では初期の抗白血病効果は認められたものの、その後白血病の再発を示し、メディアン生存期間は85日であった。αCD19-BB-ζ群はαCD19-28-ζ群と比較して、生存期間の有意な延長を示した (HR 0.25, 95% CI 0.09-0.69, p<0.001) (Fig. 6d)。第一世代のαCD19-ζ群では抗白血病効果が極めて限定的であり、メディアン生存期間は45日とモック導入T細胞群と同等であった (Fig. 5e)。αCD19-BB-ζ CAR-T細胞は、αCD19-28-ζ群と比較して、白血病負荷を10万倍 (10^5-fold) 以上減少させることが示された。
抗原非依存的なT細胞生存促進シグナルの同定: 本研究の重要な発見として、CD137ドメインを含むCAR (αCD19-BB-ζ) を発現するT細胞は、抗原刺激が存在しない単純培養条件下でも4-8週間にわたり生存を維持した。これに対し、αCD19-28-ζおよびαCD19-ζを発現するT細胞は2-3週間でAnnexin V陽性となりアポトーシスを起こした (Fig. 4b)。ウェスタンブロット解析により、αCD19-BB-ζ CAR-T細胞は基礎状態で抗アポトーシス分子であるBcl-xLを高発現していることが示された。さらに、腫瘍を移植していない非白血病NSGマウスモデル (n=12 mice) においても、αCD19-BB-ζ CAR-T細胞は投与4週間後において、αCD19-28-ζ群と比較して有意に高い生存率と持続性を示した (p<0.05) (Fig. 6c)。この抗原非依存的な生存促進効果は、CD137ドメインがもたらすトニックシグナル (tonic signaling) に起因すると考えられる。
In vitroアッセイとin vivo治療効果の乖離: 驚くべきことに、in vitroにおける短期の51Cr放出アッセイでは、αCD19-28-ζ CAR-T細胞はαCD19-BB-ζ CAR-T細胞と同等以上の細胞傷害活性を示し (E:T比10:1で両者ともに80%以上の細胞溶解能、Fig. 2b)、抗原刺激後のIL-2産生量もαCD19-28-ζ群の方が高値であった (Fig. 3)。しかし、in vivoモデルにおいては治療効果が完全に逆転し、αCD19-BB-ζが圧倒的に優れた抗腫瘍効果と持続性を示した。この結果は、in vitroの短期アッセイがCAR-T細胞のin vivoにおける長期的な生存能や治療効果を必ずしも予測しないことを示しており、CAR-T細胞開発における評価系設計に重要な示唆を与えた。
第三世代CAR (CD28-CD137-CD3ζ) の評価: CD28とCD137の両ドメインを直列に連結した第三世代CAR (αCD19-28-BB-ζ) は、in vivoにおいて第二世代CD137型CAR (αCD19-BB-ζ) と同等の抗白血病効果およびT細胞持続性を示した (Fig. 5f)。しかし、CD28ドメインを追加することによる明確な上乗せ効果は認められず、よりシンプルな構成である第二世代CD137型CARが、臨床応用において最もバランスの取れた設計であることが示唆された。
長期持続性とベクターコピー数の推移: αCD19-ζとαCD19-BB-ζを1:1の比率で混合して投与した競争的移植実験 (n=27 mice) において、投与後5週間から6ヶ月の期間にわたり、脾臓内におけるαCD19-BB-ζベクターコピー数の有意な濃縮が確認された (p=0.0001) (Fig. 7b)。投与後198日を経過したマウスの脾臓から回収されたT細胞においても、αCD19-BB-ζ CARの安定した表面発現が維持されており、腫瘍の再発を長期にわたり抑制していることが実証された (Fig. 7d)。
用量依存的な治療効果と長期無病生存: 白血病確立後21日目に、1 × 10^6、5 × 10^6、または 20 × 10^6 cells のCAR-T細胞を投与した用量反応試験 (n=16 mice per group) において、5 × 10^6 cells 以上の用量で白血病の完全なコントロールが達成された (Fig. 7c)。5 × 10^6 cells 投与群における生存率は100%であり、モック群と比較して有意な生存ベネフィットを示した (HR 0.12, 95% CI 0.03-0.48, p<0.001) (Fig. 7c)。
考察/結論
本研究は、CD137 (4-1BB) 共刺激ドメインを組み込んだ第二世代CD19特異的CAR-T細胞が、第一世代および第二世代CD28型CAR-T細胞を凌駕する強力な抗白血病効果と、in vivoにおける6ヶ月以上の長期持続性を発揮することを初めて実証した。
先行研究との違い: これまでのin vitro研究では、CD28共刺激ドメインがT細胞の増殖やサイトカイン産生を最も強力に高めると考えられていた。しかし、本研究のin vivoデータはそれらと対照的であり、長期的な生存能と抗腫瘍効果においてはCD137ドメインがCD28ドメインよりも決定的に優れていることを系統的に示した。これは、短期的な活性化シグナルよりも、長期的なアポトーシス耐性と持続性が治療成功の鍵であることを意味している。
新規性: 本研究で初めて、CD137ドメインを搭載したCARが、抗原刺激を必要としない「抗原非依存的な生存促進シグナル」を構成的に駆動し、Bcl-xLの発現維持を介してT細胞の寿命を劇的に延長するという新規の機序を解明した。また、in vitroの機能評価とin vivoの治療効果との間に著しい乖離が存在することを明確に示した点も、新規かつ重要な知見である。
臨床応用: 本研究で確立されたαCD19-BB-ζ CARの設計原理は、ペンシルベニア大学で開発されたCTL019 (tisagenlecleucel) の直接的な技術的基盤となった。この設計は、その後の臨床試験において難治性B細胞性急性リンパ性白血病患者で高い完全寛解率を達成し、2017年にFDA初のCAR-T細胞療法 (Kymriah) として承認されるという歴史的マイルストーンに直結した。本研究は、ベンチ・ツー・ベッドサイド (bench-to-bedside) を体現した極めて臨床的意義の高い業績である。
残された課題: 今後の検討課題として、固形腫瘍に対するCD137型CAR-T細胞の浸潤能および活性維持の最適化、標的抗原の消失による再発 (抗原エスケープ) を防ぐためのマルチ標的CARの開発、およびサイトカイン放出症候群 (CRS) などの重篤な副作用を制御するための安全機構の組み込みが挙げられる。
方法
CAR構築とレンチウイルスベクターの作製: FMC63ハイブリドーマ由来のマウス抗CD19 scFv (single-chain variable fragment) とCD8αヒンジ/膜貫通ドメインを共通の骨格とし、以下の4種類のCARを設計した。(1) CD3ζのみ (αCD19-ζ、第一世代)、(2) CD28-CD3ζ (αCD19-28-ζ、第二世代CD28型)、(3) CD137-CD3ζ (αCD19-BB-ζ、第二世代CD137型)、(4) CD28-CD137-CD3ζ (αCD19-28-BB-ζ、第三世代)。これらのCAR遺伝子は、EF-1α (elongation factor-1 alpha) プロモーター駆動の自己不活化型第三世代レンチウイルスベクターに組み込まれた。一部のベクターでは、CAR発現細胞の追跡を容易にするため、CARとeGFP (enhanced green fluorescent protein) を2Aリボソームスキッピング配列で連結した。
T細胞の調製と遺伝子導入: 健常ドナー由来の初代ヒト末梢血単核球から単離したT細胞を、αCD3/αCD28 Dynabeadsを用いて活性化した。刺激開始後1日目に、構築したレンチウイルスベクターをMOI (multiplicity of infection) 5-8で導入した。遺伝子導入後、T細胞はIL-2 (100 IU/ml) を含む培地で約10日間培養され、CAR発現率85%以上を達成した。
In vitro機能評価: CAR-T細胞の機能は、CD19陽性白血病細胞株NALM-6、CD19発現K562細胞 (K19)、および原発性CLL (chronic lymphocytic leukemia) 患者由来細胞との共培養系で評価した。評価項目には、IL-2、IFN-γ、TNF-αなどのサイトカイン産生 (サイトカインビーズアレイ)、特異的51Cr (chromium-51) 放出細胞傷害活性アッセイ、CFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 希釈法による増殖能、Annexin V/PI染色によるアポトーシス解析、およびBcl-xLタンパク質発現 (ウェスタンブロット) が含まれた。
In vivo異種移植モデル: 6-12週齢のNSG (NOD/SCID/IL-2Rγcnull) マウスまたはNOD-SCIDβ2-/-マウスに、原発性ヒトpre-B-ALL患者検体 (2 × 10^6 cells) を静脈内注射により接種し、白血病を確立させた。白血病確立後、CAR-T細胞 (2-20 × 10^6 cells) またはモック導入T細胞を静脈内投与した。マウスの骨髄、脾臓、末梢血におけるCD19+白血病細胞とCD3+ヒトT細胞の頻度を、経時的にフローサイトメトリーで測定した。T細胞のin vivo持続性は、投与後6ヶ月を超える長期追跡により検証された。生存解析にはlog-rank検定を用いた。CARベクターのin vivoでのコピー数は、脾臓DNAからの定量的PCR (qPCR) により測定された。統計解析にはSTATA version 10を使用し、多群比較には一元配置分散分析 (ANOVA) 後にScheffeのF検定を用いた。