• 著者: Naidoo J, Santos-Zabala ML, Iyriboz T, Woo KM, Sima CS, Fiore JJ, Kris MG, Riely GJ, Lito P, Iqbal A, Veach S, Smith-Marrone S, Sarkaria IS, Krug LM, Rudin CM, Travis WD, Rekhtman N, Pietanza MC
  • Corresponding author: J. Naidoo (Johns Hopkins University, Baltimore, MD, USA; formerly MSKCC)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26898325

背景

肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は肺癌全体の約3%を占める希少な高悪性度神経内分泌腫瘍である。LCNECは1991年にTravisらによって初めて記述され、小細胞肺癌 (SCLC) とは形態学的に異なるものの、神経内分泌分化を示す高悪性度癌として分類されてきた。2015年のWHO分類では、LCNECはSCLC、定型カルチノイド、非定型カルチノイドとともに神経内分泌腫瘍群に分類されている。進行期LCNECの自然歴、治療反応性、および予後に関するデータは極めて限られており、最適な治療法は確立されていないのが現状である。NCCNガイドラインでは非小細胞肺癌 (NSCLC) に準じた治療が推奨される一方で、高悪性度神経内分泌腫瘍であることから、SCLCに用いられる白金製剤+エトポシド (Plt/E) 療法が広く適用されてきた。しかし、LCNECがSCLCと比較して化学療法感受性が低い可能性が複数の研究で示唆されていたものの、進行期LCNECにおける脳転移の頻度、分子変異プロファイル、およびレジメン別の治療反応性を系統的に報告した大規模な単施設研究は不足していた。SCLCではPlt/E療法に対する客観的奏効率 (ORR) が46-78%と報告されているが、LCNECにおけるPlt/E療法の有効性は未解明な点が多かった。例えば、Niho et al. JThoracOncol 2013LeTreut et al. AnnOncol 2013などの先行研究では、LCNECに対する化学療法の奏効率がSCLCの歴史的データと比較して低い可能性が示唆されていたが、脳転移の頻度や分子プロファイルとの関連性については十分な情報が提供されていなかった。これらの先行研究では、限られた患者数での検討であり、LCNECの生物学的特性と治療反応性の包括的な理解には課題が残されている状況であった。

目的

本研究の目的は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) におけるStage IV LCNEC患者の臨床病理学的特徴、特に脳転移の頻度と分子変異プロファイル、一次治療への反応性、および生存転帰を後方視的に解析し、LCNECの管理における現状と課題を明らかにすることである。

結果

患者背景と臨床特徴: 病理学的に確認されたStage IV純粋LCNEC患者49例が同定された。患者の年齢中央値は64歳、男性が31例 (63%)、喫煙歴がある患者が43例 (88%) (現喫煙5例 (10%)、前喫煙38例 (78%)) であった (Table 2)。Karnofsky Performance Status (KPS) 80以上の患者は37例 (76%) であった。診断時のStage IVは32例 (65%)、Stage I/II/IIIからの再発Stage IVは13例 (27%)、限局性転移は4例 (8%) であった。脳転移は23例 (47%) に認められ、うち17例 (35%) が診断時に、6例 (12%) が病経過中に発症した。肝転移は15例 (31%)、骨転移は13例 (27%) に認められた。LDH >250 U/Lの患者は13例 (27%) であった。

分子変異プロファイル: 分子検査が実施された17例中、4例 (24%) の腫瘍にKRAS変異が検出された (G12Dが2例、G12Cが1例、Q61Hが1例)。EGFR変異およびALK再配列は認められなかった。SCLCではKRAS変異が稀であると報告されており、LCNECにおけるKRAS変異の存在は、一部のLCNECがNSCLCに類似した分子背景を持つ可能性を示唆する。

化学療法への反応性: RECIST 1.1基準で評価可能な23例における一次全身療法に対するORRは30% (95% CI, 13%-53%) であった (Table 3)。Plt/E療法を受けた19例のORRは37% (95% CI, 16%-62%) であり、7例が部分奏効 (PR)、11例が病勢安定 (SD)、1例が病勢進行 (PD) であった。一方、他のレジメンを受けた4例ではORRは0% (95% CI, 0%-60%) であったが、症例数が少なく統計的有意差は評価できなかった。Plt/E療法のORR 37%は、進展型SCLC (ES-SCLC) の歴史的データ (46-78%) と比較して低い値であった。

生存データ: 限局性転移の4例を除外した全コホート (45例) の中央値OSは10.2ヶ月 (95% CI, 8.5-16.4ヶ月) であった。De novo Stage IV患者 (n=32) の中央値OSは8.8ヶ月であったのに対し、再発Stage IV患者 (n=13) の中央値OSは19.4ヶ月であり、再発群で有意に予後が良好であった (HR 0.50, 95% CI 0.27-0.94, p=0.031) (Figure 2C)。一次治療レジメン別にみると、Plt/E療法を受けた患者 (n=26) の中央値OSは8.3ヶ月であったのに対し、他のレジメンを受けた患者 (n=11) では19.5ヶ月であり、Plt/E群で有意に予後不良であった (HR 2.0, 95% CI 1.1-3.6, p=0.016) (Figure 2D)。TTP中央値はPlt/E群で4.6ヶ月 (95% CI, 3.9-11.1ヶ月)、他レジメン群で4.7ヶ月 (95% CI, 3.3-NA) であり、両群間に有意差は認められなかった (p=0.89) (Figure 2B)。

再発LCNEC患者の周術期治療と予後: 初期Stage I/II/IIIで確定治療後に再発した13例中、6例が周術期化学療法を受けていた。周術期化学療法を受けた患者は、受けなかった患者と比較して、再発後のOS中央値が19.4ヶ月 vs 11.8ヶ月と数値的に良好であったが、統計的有意差はなかった (p=0.61)。初期診断がStage Iであった患者 (n=4) の再発後のOS中央値は6.9ヶ月であり、Stage II/IIIであった患者 (n=9) のOS中央値が未到達であったことと比較して有意に短かった (HR 0.20, 95% CI 0.06-0.66, p=0.001)。これらの結果は、Stage I LCNEC患者における再発後の予後が特に不良である可能性を示唆しており、早期診断時の治療戦略の重要性を強調する。

考察/結論

本研究は、MSKCCにおけるStage IV LCNEC患者49例の包括的な後方視的解析であり、当時として最大規模のStage IV LCNEC単施設コホートの一つである。

先行研究との違い: 本研究では、Stage IV LCNEC患者において脳転移が47%と高頻度に認められ、診断時で35%であった。これはSCLCにおける脳転移の頻度 (診断時最大18%、2年生存患者で50-80%) と類似しており、LCNECの自然歴がSCLCと一部共通する可能性を示唆する。これまでのLCNECに関する報告では、脳転移の頻度について系統的なデータが不足していた点と対照的である。また、Plt/E療法に対するORRが37%であったことは、ES-SCLCの歴史的データ (Noda et al. NEnglJMed 2002Lara et al. JClinOncol 2009Roth et al. JClinOncol 1992など) と比較して大幅に低い値であり、LCNECがSCLCほど化学療法高感受性ではないことを明確に示した点で、これまでの示唆的な報告を裏付ける結果である。

新規性: 本研究で初めて、Stage IV LCNEC患者の24%にKRAS変異が検出されたことを示した。これはSCLCではKRAS変異が稀である (Rudin et al. NatGenet 2012Peifer et al. NatGenet 2012など) ことと異なり、LCNECの一部がNSCLCに類似した分子背景を持つというRekhtman et al. ClinCancerRes 2016らの最近の報告と一致する新規な知見である。

臨床応用: 脳転移の高頻度は、SCLCと同様にLCNEC患者においても定期的な脳画像サーベイランスや、予防的全脳照射 (PCI) の適応について検討する臨床的意義があることを示唆する。また、KRAS変異の存在は、LCNECの分子サブタイピングの重要性を強調し、将来的にKRAS阻害剤などの分子標的薬が一部のLCNEC患者の臨床応用につながる可能性を示唆する。Plt/E療法への反応性がES-SCLCより低いという結果は、LCNECの治療戦略をSCLCと一律に考えるべきではないという臨床現場への重要なメッセージである。

残された課題: 本研究は後方視的デザインであり、少数例であるという限界を持つ。特に、Plt/E投与群のOSが他レジメン群より有意に短かった (8.3ヶ月 vs 19.5ヶ月、HR 2.0, 95% CI 1.1-3.6, p=0.016) 点は、TTPに差がないことから、治療法選択における交絡因子 (例: より全身状態が不良な患者がPlt/Eを受けた可能性) の影響が考えられ、今後の検討課題である。また、分子サブタイピング (SCLCライク型 vs NSCLCライク型) は実施されておらず、LCNECの生物学的異質性をさらに解明するためには、より大規模な前向き研究と包括的な分子解析が必要である。これらの残された課題を克服することで、LCNECの最適な治療法を確立できると考える。

方法

本研究は、MSKCCにおけるInstitutional Review Boardの承認を得て実施された後方視的コホート研究である。2006年から2013年の間にMSKCCで診断され、病理学的に確認されたStage IV LCNEC患者49例を対象とした。本研究デザインは、Stage IV LCNEC患者の自然歴と治療反応性を詳細に評価することを目的とした。病理診断は、2015年WHO分類基準に基づき再確認された。これには、神経内分泌形態 (器官様構造、柵状配列、索状構造、ロゼット形成)、高有糸分裂像 (>10/10 HPF (high-power fields))、壊死の存在、および少なくとも1つの神経内分泌マーカー (シナプトフィジン、クロモグラニンA、CD56/NCAM (neural cell adhesion molecule)) の免疫組織化学的発現が含まれる。SCLCとの鑑別は、豊富な細胞質、明瞭な核小体、胞状クロマチンなどの非小細胞性細胞形態学的特徴に基づいて行われた。Stage IV患者は、初診時に転移性疾患を有する「de novo Stage IV」と、Stage I/II/IIIで確定治療後に進行した「再発Stage IV」に分類された。また、限局性転移 (oligometastatic disease) の患者4例は別途報告された。

分子検査は、十分な組織サンプルが得られた17例に対して実施され、ポリメラーゼ連鎖反応ベースのフラグメント長解析、質量分析ジェノタイピング (Sequenom)、およびサンガーシーケンス法により、KRAS、EGFR、ALK変異が評価された。

治療反応性の評価は、画像評価が可能な23例について、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009に従って後方視的に実施された。客観的奏効率 (ORR; 完全奏効 + 部分奏効) は、Plt/E群 (19例) と他レジメン群 (4例) で算出され、95%信頼区間 (CI) が付記された。

無増悪期間 (TTP) および全生存期間 (OS) は、Kaplan-Meier法を用いて算出された。TTP解析には、一次治療開始後に少なくとも1回の画像評価を受けた患者 (n=30) が含まれ、TTPはStage IV診断日から一次治療における画像上の進行日までの期間と定義された。OSはStage IV診断日からあらゆる原因による死亡日までの期間と定義された。限局性転移の4例は生存解析から除外された。サブグループ間のTTPおよびOSの比較にはログランク検定 (log-rank test) が用いられた。統計解析はR (version 3.0.1) を使用し、有意水準はp < 0.05とした。本研究はNCT番号を持たない後方視的単施設研究である。