- 著者: Jacques Cadranel, Alexis B. Cortot, Hervé Lena, Bertrand Mennecier, Pascal Do, Eric Dansin, Julien Mazieres, Christos Chouaid, Maurice Perol, Fabrice Barlesi, Gilles Robinet, Sylvie Friard, Luc Thiberville, Clarisse Audigier-Valette, Alain Vergnenegre, Virginie Westeel, Khemaies Slimane, Alexandru Buturuga, Denis Moro-Sibilot, Benjamin Besse
- Corresponding author: Jacques Cadranel (Service de Pneumologie, Hôpital Tenon, AP-HP and Université Pierre-et-Marie-Curie, Paris, France)
- 雑誌: ERJ Open Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-02-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 29450203
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 再構成は非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の約5%に認められる遺伝子異常であり、治療標的として重要であると認識されている。クリゾチニブ (crizotinib) は、ALK、MET、ROS1を標的とする初のALKチロシンキナーゼ阻害剤 (ALK-TKI) として承認され、ALK陽性NSCLC患者において化学療法を上回る有効性を示したことが、PROFILE 1007試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2013) およびPROFILE 1014試験 (Solomon et al. NEnglJMed 2014) で報告されている。しかしながら、クリゾチニブによる治療を受けたほとんどの患者は1年以内に薬剤耐性を獲得し、特に脳や肝臓での疾患進行が頻繁に観察されることが課題として挙げられていた (Katayama et al. SciTranslMed 2012)。この薬剤耐性メカニズムの解明と克服は、ALK陽性NSCLC治療における重要な研究課題として未解明であった。
セリチニブ (ceritinib, LDK378) は、クリゾチニブと比較して約20倍高い酵素活性を持つ選択的経口ALK阻害剤であり、クリゾチニブ耐性細胞株に対してもナノモルレベルの活性を示すことが報告されている (Friboulet et al. CancerDiscov 2014)。セリチニブは、ALK阻害剤未治療およびクリゾチニブ前治療のALK陽性NSCLC患者において、強力な抗腫瘍活性(頭蓋内および頭蓋外の両方)を示すことが、第1相ASCEND-1試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2014, Kim et al. LancetOncol 2016) で実証された。さらに、第2相ASCEND-2試験およびASCEND-3試験では、クリゾチニブ前治療患者およびALK阻害剤未治療患者の両方で高い奏効率 (ORR) と有望な無増悪生存期間 (PFS) が示された。最近では、第3相ASCEND-4試験 (Soria et al. Lancet 2017) およびASCEND-5試験 (Shaw et al. LancetOncol 2017) において、セリチニブが一次治療および二次治療設定で化学療法よりも有効であることが確認された。
しかし、新規薬剤の規制承認プロセスと償還のタイムラグは、患者が革新的な治療にアクセスするのを遅らせるという問題が未解明であった。このギャップを埋めるため、フランスでは「一時的承認使用 (Temporary Authorisation for Use; TAU)」プログラムが導入された。このプログラムは、新しい有望な薬剤への早期アクセスを提供するとともに、実臨床環境における革新的な薬剤の安全性と有効性に関する知見を得る貴重な機会を提供するものであった。本研究は、このTAUプログラムを通じて、クリゾチニブ前治療のALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブの実臨床での有効性と安全性に関する大規模な実臨床データが不足していたため、これを評価することを目的とした。特に、臨床試験で報告された結果との比較を行うことで、実臨床におけるセリチニブの役割をより明確にすることが求められていた。
目的
本研究の目的は、フランスのTAU (Temporary Authorisation for Use) プログラムに登録されたクリゾチニブ既治療のALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブ750 mg/日投与の実臨床での有効性および安全性を評価することである。具体的には、主要評価項目として客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、および治療期間を算出し、これらの結果をセリチニブの登録臨床試験 (ASCEND試験) で報告されたデータと比較する。また、患者の背景因子(ECOG PS、脳転移の有無、前治療ライン数、クリゾチニブ治療期間など)に応じたセリチニブの有効性の違いをサブグループ解析により検討する。さらに、実臨床におけるセリチニブの安全性プロファイル (有害事象 (AEs) の発現割合、重症度、および用量調整・中止の状況) を詳細に評価することも目的とする。これにより、実臨床環境下でのセリチニブの有用性と管理可能性に関する包括的なエビデンスを提供することを目指す。
結果
患者登録とベースライン特性: 2013年3月12日から2015年8月5日までに合計242件のTAUが承認され、そのうち228例がALK陽性NSCLC患者であった。2015年9月5日の時点で、ALK陽性NSCLC患者214例がPUTの対象として追跡された (Figure 1)。患者の年齢中央値は58.5歳 (範囲 19.0-89.9) で、51.9%が女性であった。ECOGパフォーマンスステータス (PS) 0-1の患者が70.8%を占め、50.0%の患者に脳転移が認められた (Table 1)。全患者がクリゾチニブによる前治療を受けており、クリゾチニブの投与期間中央値は9.1ヶ月 (範囲 0.1-52.0) であった。セリチニブは、7.0%の患者でクリゾチニブ単独治療後に導入され、45.5%の患者で3次治療として、47.4%の患者で4次治療以降として導入された。クリゾチニブ中止の主な理由は疾患進行 (91.4%) であった。
セリチニブの有効性: セリチニブ治療を開始したALK陽性NSCLC患者193例のうち、149例 (77.2%) で画像学的および/または臨床的有効性評価データが利用可能であった。その結果、完全奏効 (CR) が5.4% (n=8)、部分奏効 (PR) が47.0% (n=70)、安定疾患 (SD) が22.8% (n=34) であった (Table 2)。客観的奏効率 (ORR) は52.3%であり、病勢コントロール率 (DCR) は75.2%であった。2015年9月5日の時点で、セリチニブ治療期間の中央値 (n=182) は3.9ヶ月 (範囲 0.4-23.0) であった。追跡期間が12ヶ月以上の患者71例では、治療期間中央値は5.5ヶ月 (範囲 0.4-23.0) であり、この時点でも16例 (22.5%) が治療を継続中または打ち切りとされていた (Table 3)。
サブグループ解析による有効性: ECOG PS 0-1の患者ではORRが55.0%であり、治療期間中央値は4.6ヶ月であった。これに対し、ECOG PS ≥2の患者ではORRが42.4%であり、治療期間中央値は2.3ヶ月と、PSが良好な患者でより良い結果が示された (Table 4)。脳転移を有する患者のORRは48.6%であったのに対し、脳転移のない患者では60.0%であった。前治療ライン数に関しては、2ライン以下の患者と2ライン超の患者でORRに大きな差は認められず、それぞれ55.5%と50.0%であった (Table 5)。クリゾチニブ前治療期間が5ヶ月未満の患者ではORRが36.1%であったのに対し、5ヶ月超の患者では51.6%以上と、クリゾチニブへの反応期間が長かった患者ほどセリチニブへの奏効も良好な傾向が認められた。特に、クリゾチニブ治療期間が16ヶ月超の患者では、セリチニブの治療期間中央値が7.6ヶ月と最も長かった。クリゾチニブ直後にセリチニブを投与された患者と、クリゾチニブとセリチニブの間に化学療法を挟んだ患者との間でORRに差はなかった (53.2% vs 51.3%) が、クリゾチニブ直後群で治療期間がわずかに長い傾向が認められた (4.2ヶ月 vs 3.3ヶ月)。用量減量を受けた患者のORRは55.4%であり、用量減量を受けなかった患者の49.3%と比較して同等かそれ以上であり、治療期間中央値も4.9ヶ月 vs 2.7ヶ月と、用量減量が治療継続に寄与した可能性が示唆された。
安全性プロファイル: 225例のNSCLC患者のうち208例 (93.7%) が毒性評価可能であった。治療関連有害事象 (AEs) は56.7%の患者で報告され、そのうち35.6%が重度と評価された (Table 6)。最も一般的な治療関連AEは、下痢 (22.1%, 重度5.8%)、肝毒性 (ALT/AST上昇を含む) (19.7%, 重度12.5%)、悪心 (16.8%)、嘔吐 (16.3%) であった。用量減量および/または中断は32.2%の患者で発生した。これは、ASCEND-1試験 (62%)、ASCEND-2試験 (54.3%)、ASCEND-5試験 (73.0%) で報告された割合よりも低かった。セリチニブの恒久的な中止は13例 (6.3%) であり、薬物関連死亡は8例報告された (肝不全1例、脱水+腎呼吸不全1例、呼吸不全1例、転移出血1例、原因不明4例)。
考察/結論
本研究は、フランスのTAUプログラムを通じて収集された228例のALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブの実臨床での有効性と安全性を評価した最大規模のコホート研究である。本研究の患者集団は、ECOG PS ≥2が29.3%、脳転移が51.2%、2ライン以上の前治療歴が47.4%と、予後不良因子を多く有するheavily pretreatedな集団であった。これは、ASCEND-1、ASCEND-2、ASCEND-5といった登録臨床試験の患者背景と非常に類似しており、実臨床におけるセリチニブの適用が、臨床試験で示された患者層と一致していたことを示唆する (Table 7)。
先行研究との違い: 本TAUプログラムにおけるORR 52.3%は、ALK阻害剤前治療患者を対象としたASCEND-1試験のORR 56.4%と匹敵するものであった。また、ASCEND-2試験 (ORR 38.6%) およびASCEND-5試験 (ORR 39.1%) の結果と比較しても、本研究のORRは高い値を示した。中央レビューが実施されていないため、奏効率が過大評価されている可能性は否定できないが、病勢コントロール率 (DCR) はTAUコホートで75.2%であり、ASCEND試験のDCR (約75-77%) と非常に類似していた。このことは、実臨床におけるセリチニブの有効性が臨床試験と同等であることを裏付けるものである。治療期間中央値は全体で3.9ヶ月であったが、12ヶ月以上の追跡期間があった患者群では5.5ヶ月であり、これはASCEND試験で報告されたPFS (ASCEND-1で6.9ヶ月、ASCEND-2で5.7ヶ月、ASCEND-5で5.4ヶ月) と同等であった。
新規性: 本研究で初めて、実臨床環境下でのセリチニブの用量減量/中断の割合が、ASCEND-1 (62%)、ASCEND-2 (54.3%)、ASCEND-5 (73.0%) 試験と比較して有意に低い32.2%であったことを示した。これは、医師が消化器系有害事象の管理に習熟し、用量減量を回避できた可能性、およびベストプラクティスや消化器系問題のより良い管理に関する新たなデータの共有が影響した可能性を示唆する新規な知見である。また、用量減量を受けた患者の治療期間が、減量を受けなかった患者よりも短くなかった (4.9ヶ月 vs 2.7ヶ月) ことは、許容できない有害事象(例:消化器系AEsや肝炎)の場合に用量減量が治療継続に有用であることを示唆する。
臨床応用: 本研究の結果は、クリゾチニブ前治療のALK陽性NSCLC患者に対し、セリチニブ750 mg/日が実臨床において管理可能な安全性プロファイルと臨床試験に匹敵する有効性を示すことを明確に示した。特に、クリゾチニブへの反応期間が長かった患者 (>16ヶ月) がセリチニブからより長く利益を得た (治療期間中央値7.6ヶ月) という所見は、腫瘍生物学的な特性が連続的なALK-TKI奏効を維持する上で重要である可能性を示唆し、臨床現場での治療戦略に含意を与える。さらに、ASCEND-8試験で示された、食事とともに450 mg/日のセリチニブを投与することで同等の曝露量と消化器毒性の有意な軽減が期待されるという知見は、今後の臨床応用において患者の忍容性をさらに向上させる可能性を秘めている。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、中央レビューが実施されていないため、奏効評価が医師の主観に依存し、過大評価されている可能性がある。第二に、治療中止後の患者の追跡調査が不足しているため、正確なPFSや全生存期間 (OS) を算出することができなかった。第三に、TAUプログラムの登録が終了直前に集中したため、一部の患者では追跡期間や有効性データが不均一であった。第四に、喫煙歴が収集されていないため、この重要な予後因子が結果に与える影響を評価できなかった。今後の検討課題として、これらの限界を克服するための前向き研究や、ALK再構成のサブタイプとセリチニブの有効性の関連性に関する分子レベルでの詳細な解析が挙げられる。
方法
本TAUプログラムは、フランス国立医薬品・医療製品安全庁 (ANSM) によるベネフィット・リスク評価に基づき承認された。2013年3月12日から2015年8月5日までの期間に、セリチニブに対する合計242件のTAUが承認された(指名型TAU 118件、コホート型TAU 124件)。本研究の対象患者は、進行ALK陽性NSCLC患者であり、FISH (fluorescent in situ hybridisation) および/またはIHC (immunohistochemistry) によりALK再構成が確認された。全ての患者はクリゾチニブによる前治療を受けており、当時フランスで実施されていたセリチニブの臨床試験(ASCEND-4 (NCT01828099), ASCEND-5 (NCT01828112))への登録が不適格または不可能と判断された。
患者は経口セリチニブ750 mg/日を、疾患進行、許容できない毒性、または患者・医師の判断による中止まで投与された。治療期間は、患者が臨床的利益を得ていると医師が判断した場合、疾患進行後も継続が許容された。データ収集は、PUT (Protocol for Therapeutic Use and Information Collection) に基づき、医師が記入するフォームを用いて前向きに行われた。患者の人口統計学的データおよびベースラインの臨床的特徴は初回受診時に記録されたが、喫煙歴は収集されなかった。
有効性評価は3ヶ月ごとに医師評価ベースで実施され、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) バージョン1.1が推奨された。完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、安定疾患 (SD)、進行性疾患 (PD) が評価され、奏効の確認は必須ではなかった。安全性評価には、有害事象 (AEs)、臨床検査値異常、バイタルサインのモニタリングが含まれた。全てのAEsはNCI (National Cancer Institute) Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) バージョン3.0を用いて定義された。患者は最終投与後少なくとも28日間モニタリングされた。治療終了日は、恒久的な中止の場合には最終投与日、または最終評価日(PUTに記録された最終日またはカットオフ日)とされた。セリチニブ治療終了後の患者の追跡調査は行われなかった。
安全性解析は、セリチニブを1回以上投与されたNSCLC (ALK陽性/ROS1陽性) 患者全員を対象とした。統計解析には記述統計が用いられ、治療期間およびサブグループ解析の推定にはKaplan-Meier法が使用された。全ての統計計算はSASバージョン9.3を用いてNovartis Pharma SAS, Franceにより実施された。本研究は、実臨床データ収集プログラムであり、中央レビューは実施されなかった。