• 著者: Huber RM, Hansen KH, Paz-Ares Rodriguez L, West HL, Reckamp KL, Leighl NB, Tiseo M, Smit EF, Kim DW, Gettinger SN, Hochmair MJ, Kim SW, Langer CJ, Ahn MJ, Kim ES, Kerstein D, Groen HJM, Camidge DR
  • Corresponding author: Rudolf M. Huber (University Hospital of Munich, Germany)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-11-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31756496

背景

ALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は全NSCLCの3%〜5%に認められ、その治療において、第一世代ALK阻害薬であるクリゾチニブは高い奏効を示す Koivunen et al. ClinCancerRes 2008。しかし、多くの患者が最終的に疾患進行を経験する。この進行の主な原因は、後天性ALK耐性変異の獲得、二次的なドライバー経路の活性化、およびクリゾチニブの低い中枢神経系 (CNS) 移行性による脳転移の制御不良であるとされている Solomon et al. NEnglJMed 2014Costa et al. JClinOncol 2011。クリゾチニブ耐性後の二次治療として、セリチニブ、アレクチニブ、ロルラチニブといった次世代ALK阻害薬が利用可能である。しかし、これらの薬剤の無増悪生存期間 (PFS) 中央値は一般に1年未満にとどまることが報告されており (セリチニブで5〜7か月、アレクチニブで8〜9か月、ロルラチニブで11.1か月) Shaw et al. NEnglJMed 2014Shaw et al. LancetOncol 2016Ou et al. JClinOncol 2016Solomon et al. LancetOncol 2018、これらの薬剤の有効性には限界があることが示唆される。

ブリガチニブは、次世代の経口ALK阻害薬であり、前臨床モデルにおいてクリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ投与後に生じる様々なALK耐性変異に対して広範な活性を示すことが報告されている Gainor et al. CancerDiscov 2016。この薬剤は、クリゾチニブ耐性または不耐容の転移性ALK陽性NSCLC患者に対する治療薬として、米国および欧州連合で承認されている。第2相ALTA試験の初回解析では、中央値8か月の追跡期間において、ブリガチニブ90 mg 1日1回投与群 (arm A) でPFS中央値9.2か月、90 mg 7日間リードイン後に180 mg 1日1回に増量する群 (arm B) でPFS中央値12.9か月が報告された Kim et al. JClinOncol 2017。しかし、これらの初回解析では、ブリガチニブの長期的な有効性、特に全生存期間 (OS) や頭蓋内有効性の持続性に関するデータが不足しており、さらなる長期追跡データが求められていた。また、腫瘍縮小の深さ (depth of response) と臨床アウトカムとの関連性についても、その重要性が示唆されつつも、詳細な解析は未解明であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者を対象としたブリガチニブの第2相ALTA試験において、最終登録患者から約2年間という長期フォローアップ期間における更新された全身性および頭蓋内有効性データを報告することである。具体的には、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、頭蓋内PFS (iPFS)、頭蓋内客観的奏効率 (iORR) などの主要な臨床アウトカムの長期成績を評価する。

さらに、探索的解析として、標的病変の縮小の深さ (depth of target lesion response) がPFSおよびOSといった生存アウトカムとどのように相関するかを詳細に検討する。これにより、奏効の深さが将来のALK陽性NSCLCに対する標的療法試験における重要なエンドポイントとなりうるか、また、治療効果の予測因子となりうるかについて、新たな知見を提供することを目指す。本研究は、ブリガチニブの長期的な臨床的有用性を確立し、ALK陽性NSCLC治療戦略の最適化に貢献することを意図している。

結果

患者背景および追跡期間: 222例のランダム化患者 (arm A 112例、arm B 110例) のうち、解析時点で59例 (27%) がブリガチニブ治療を継続していた (arm A 24%、arm B 29%)。追跡期間中央値はarm Aで19.6か月 (範囲 0.1〜35.2)、arm Bで24.3か月 (範囲 0.1〜39.2) であった。治療期間中央値はarm Aで13.2か月、arm Bで17.1か月であった。ベースラインにおいて、arm Aの71% (80/112例) およびarm Bの67% (74/110例) の患者が脳病変を有しており、約半数 (arm A 48%、arm B 50%) が活動性脳病変 (未照射または照射後に進行) を有していた。全標的病変の約16% (451病変中70病変) はCNS内に位置していた (Figure 1)。

全身有効性: 治験医師判定による確認済み客観的奏効率 (cORR) は、arm Aで46% (97.5% CI 35%〜57%)、arm Bで56% (97.5% CI 45%〜67%) であった (Table 1)。奏効持続期間 (DOR) 中央値は、arm Aで12.0か月 (95% CI 9.2〜17.7)、arm Bで13.8か月 (95% CI 10.2〜19.3) であった。IRC判定によるPFS中央値は、arm Aで9.2か月 (95% CI 7.4〜12.8)、arm Bで16.7か月 (95% CI 11.6〜21.4) であり、arm Bで有意な延長が認められた (Figure 2A)。1年PFS確率はIRC評価でarm A 45%、arm B 61%であった。OS中央値は、arm Aで29.5か月 (95% CI 18.2〜NR)、arm Bで34.1か月 (95% CI 27.7〜NR) であった (Figure 2B)。1年OS確率はarm A 70%、arm B 80%、2年OS確率はarm A 55%、arm B 66%であった。疾患制御率 (DCR) はIRC評価でarm A 78%、arm B 84%であった。クリゾチニブに対する最良効果がCR/PRであった患者では、cORRおよびPFSがその他/不明例と比較して良好であった (cORR: arm A 51% vs 37%、arm B 67% vs 35%)。

頭蓋内有効性: IRC評価による測定可能ベースライン脳病変を有する患者における頭蓋内確認済み客観的奏効率 (iORR) は、arm A (n=26) で50% (13/26例、95% CI 30%〜70%)、arm B (n=18) で67% (12/18例、95% CI 41%〜87%) であった (Table 1)。頭蓋内完全奏効はarm Aで8% (2例) に認められたが、arm Bでは認められなかった。頭蓋内奏効持続期間 (iDOR) 中央値は、arm Aで9.4か月 (95% CI 3.7〜24.9)、arm Bで16.6か月 (95% CI 3.7〜NR) であった。頭蓋内疾患制御率 (iDCR) はarm A 85%、arm B 83%であった。脳転移を有する患者のIRC評価によるiPFS中央値は、arm Aで12.8か月 (95% CI 9.2〜18.3)、arm Bで18.4か月 (95% CI 12.6〜23.9) であった (Figure 3B)。頭蓋内標的病変で30%以上の縮小を達成した患者の割合は、arm Aで68% (17/25例)、arm Bで82% (18/22例) であった。一方、頭蓋外標的病変では、arm Aで59% (10/17例)、arm Bで67% (6/9例) であった (Figure 3A)。

奏効の深さとPFS・OSとの相関: 治験医師判定による奏効の深さに関する探索的解析では、両群合算の201例において、標的病変の縮小率カテゴリが大きいほどPFSおよびOSが延長する傾向が認められた。IRC評価によるPFS中央値は、縮小なし群で1.9か月 (95% CI 1.9〜1.9) であったのに対し、1%〜25%縮小群で5.5か月 (HR 0.17, 95% CI 0.04〜0.82)、26%〜50%縮小群で11.1か月 (HR 0.07, 95% CI 0.01〜0.35)、51%〜75%縮小群で16.7か月 (HR 0.06, 95% CI 0.01〜0.29)、76%〜100%縮小群で15.6か月 (HR 0.08, 95% CI 0.02〜0.39) となった (Figure 3D)。治験医師判定によるPFS中央値は、縮小なし群で3.6か月 (95% CI 1.9〜11.0) であったのに対し、76%〜100%縮小群で19.5か月 (HR 0.26, 95% CI 0.13〜0.51) であった (Figure 3C)。OS中央値は、縮小なし群で8.3か月 (95% CI 4.7〜NR) であったのに対し、76%〜100%縮小群ではNR (HR 0.27, 95% CI 0.12〜0.60) であった。多変量解析の結果、26%〜50%、51%〜75%、および76%〜100%の縮小カテゴリは、それぞれ独立してより長いPFSおよびOSと関連することが示された。

安全性: 長期フォローアップ期間において、新たな安全性シグナルは認められなかった。治療関連のGrade 3以上の主要な有害事象は、血中クレアチンホスホキナーゼ (CPK) 上昇 (arm A 4%、arm B 13%)、高血圧 (両群とも5%)、リパーゼ上昇 (両群とも5%)、肺炎 (arm A 2%、arm B 4%) であった (Table 2)。全Gradeの有害事象としては、下痢 (arm A 16%、arm B 35%)、悪心 (26%・33%)、CPK上昇 (14%・32%) が高頻度で報告された。用量減量はarm Aで7%、arm Bで29%の患者に発生し、主な原因はCPK上昇であった。治療中止はarm Aで4%、arm Bで11%の患者に発生した。早期発症肺イベント (EOPEs: early-onset pulmonary events) は、219例中14例 (6%) に発生し (Grade 3以上は7例 [3%])、すべて90 mg投与中 (180 mgへの増量後には発生なし) に生じた。

考察/結論

ALTA試験の2年間の長期フォローアップにより、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者に対するブリガチニブ180 mg (90 mgリードイン付き) の長期的な全身および頭蓋内有効性が明確に確認された。本研究で示されたブリガチニブ180 mg群のPFS中央値16.7か月 (95% CI 11.6-21.4) は、セリチニブ (5〜7か月)、アレクチニブ (8〜9か月)、ロルラチニブ (11.1か月) と比較して数値的に最長であり、ブリガチニブがクリゾチニブ後の二次治療において最も長いPFSを達成した薬剤であることが示唆される。

先行研究との違い: この長期PFSの理由は完全には解明されていないが、前臨床データでは、ブリガチニブがセリチニブやアレクチニブよりも広範なALK耐性変異スペクトルに対して活性を持つことが一因である可能性が考えられる。しかし、ロルラチニブの活性には及ばない。本研究のデータは、これまでの報告と比較してブリガチニブがより持続的な奏効を示すことを示唆している。

頭蓋内有効性に関しては、測定可能脳転移を有する患者におけるiORR 67% (95% CI 41-87%)、iDOR中央値16.6か月 (95% CI 3.7-NR)、iPFS中央値18.4か月 (95% CI 12.6-23.9) という良好な成績が示された。これらの数値は、セリチニブ (iDOR 7か月) やアレクチニブ (iDOR 11か月) の報告と比較して数値的に優れており、ロルラチニブ (iORR 87%) に次ぐレベルであると評価される。CNS病変における奏効率が頭蓋外病変よりも高い傾向 (arm Bで82% vs 67%) は、クリゾチニブの低いCNS移行性により、CNS病変がより治療ナイーブな状態にあることを反映していると考察される。この傾向は、ロルラチニブのデータでも同様に観察されており、クリゾチニブ後のCNS病変に対する次世代ALK阻害薬の優位性を示唆している。

新規性: 本研究の最大の新規性は、奏効の深さ (depth of response) とPFSおよびOSとの相関を多変量解析で示した点である。腫瘍縮小の深さが大きいほど、PFSおよびOSが有意に延長することが示され、特に76%〜100%の縮小を達成した群では、縮小なし群と比較してOSのハザード比が0.27 (95% CI 0.12-0.60, p値有意) と明確なOS延長が認められた。この結果は、depth of responseが将来のALK陽性NSCLC標的療法試験における重要なエンドポイントとなりうる可能性を示唆しており、臨床的意義は大きい。

臨床応用: 臨床応用として、ブリガチニブ180 mg (90 mgリードイン) は、クリゾチニブ後のALK陽性NSCLCに対して、長期にわたる全身および頭蓋内有効性を提供する有力な治療選択肢である。早期発症肺イベント (EOPEs) は、投与継続または段階的増量 (shallow step-up) によって管理可能であることが示されている。

残された課題: 今後の検討課題としては、ブリガチニブの一次治療としての使用 (ALTA-1L試験でPFS優越性が確認済み) と二次治療としての最適なシーケンシング戦略の確立、および奏効の深さをバイオマーカーとして患者選択を行う実現可能性の検討が挙げられる。本研究のlimitationとして、比較対象となる他の次世代ALK阻害薬との直接比較試験ではない点が挙げられる。

方法

本研究は、第2相非盲検ランダム化国際多施設共同試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT02094573) として実施された。対象患者は、局所進行または転移性ALK陽性NSCLC患者で、クリゾチニブ投与中に疾患進行を認めた者である。主要な適格基準は、年齢18歳以上、ECOGパフォーマンスステータスが2以下、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を少なくとも1つ有することであった Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。患者は、ベースラインのCNS転移の有無およびクリゾチニブに対する最良効果 (完全奏効 [CR] または部分奏効 [PR] vs その他/不明) を層別因子として、arm A (ブリガチニブ90 mg 1日1回) とarm B (ブリガチニブ90 mg 7日間リードイン後、180 mg 1日1回) に1:1でランダムに割り付けられた。

患者は、疾患進行、許容できない毒性、または同意撤回までブリガチニブの投与を継続した。治験医師の裁量により、進行後も治療を継続することが可能であった。arm Aの患者は、90 mg 1日1回投与で進行した場合、ブリガチニブ180 mg 1日1回に移行することができた。治療関連有害事象 (AEs) の管理のため、用量中断または減量が義務付けられた。AEの重症度は、National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (NCI-CTCAE) v4.0を用いて評価された。

主要評価項目は、治験医師判定によるRECIST v1.1に基づく確認済み客観的奏効率 (cORR) であった。副次評価項目には、独立評価委員会 (IRC) 判定によるPFS、OS、頭蓋内PFS (iPFS)、頭蓋内ORR (iORR)、奏効持続期間 (DOR)、安全性および忍容性が含まれた。疾患評価は、スクリーニング時およびサイクル15 (1サイクル28日間) まで8週間ごと、その後は疾患進行まで12週間ごとに、造影CTまたはMRIを用いて胸部および腹部で実施された。CNS転移を有する患者では、ベースラインおよびその後8週間ごとに造影脳MRIが必須であった。

探索的解析として、治験医師判定およびIRC判定による標的病変の縮小の深さ (no shrinkage, 1%〜25%, 26%〜50%, 51%〜75%, 76%〜100%の5つのカテゴリ) とPFSおよびOSとの相関が評価された。多変量解析は、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて実施され、最良標的病変縮小カテゴリ、治療アーム、ベースラインECOGパフォーマンスステータス (0-1 vs 2)、および喫煙状況 (never/unknown vs current/former) が共変量として含まれた。統計解析にはSASソフトウェア (バージョン9.4) が使用された。データカットオフは2017年9月29日であった。安全性評価は、NCI-CTCAE v4.0に基づき実施された。