- 著者: Duruisseaux M, Besse B, Cadranel J, Pérol M, Mennecier B, Bigay-Game L, Descourt R, Dansin E, Audigier-Valette C, Moreau L, Hureaux J, Veillon R, Otto J, Madroszyk-Flandin A, Cortot A, Guichard F, Boudou-Rouquette P, Langlais A, Missy P, Morin F, Moro-Sibilot D
- Corresponding author: Denis Moro-Sibilot (Centre Hospitalier Universitaire Grenoble Alpes, Grenoble, France)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-02-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 28423535
背景
ALK遺伝子再配列は非小細胞肺がん (NSCLC) の約5%に認められ、ALKチロシンキナーゼドメインの恒常的活性化と腫瘍形成を引き起こすことが知られている Soda et al. Nature 2007。クリゾチニブはALK阻害剤として、進行ALK陽性NSCLCに対する標準化学療法と比較して、高い奏効率と有意な無増悪生存期間 (PFS) の延長を示し、世界的に承認されている Shaw et al. NEnglJMed 2013、Solomon et al. NEnglJMed 2014。しかし、クリゾチニブによる全生存期間 (OS) の正確な推定値、特に「選択されていない実臨床患者集団」における大規模なOSデータは、この時点では不足していた。PROFILE 1007試験の更新解析ではOS中央値21.7か月が報告されたが、これはクロスオーバーの影響を受けており、実臨床でのOSを正確に反映しているとは言い難い状況であった Shaw et al. LancetOncol 2011。
ほとんどの患者はクリゾチニブ開始から1年以内に病勢進行を経験する Shaw et al. NEnglJMed 2013、Solomon et al. NEnglJMed 2014。クリゾチニブ進行後の治療戦略、特に次世代ALK阻害剤 (ALK-TKI) と化学療法や支持療法との比較におけるOSへの影響は、前向き比較試験では未検証であった。セリチニブ (ASCEND-1試験: クリゾチニブ前治療後の奏効率 (ORR) 56%、PFS中央値6.9か月) やアレクチニブ (ORR 48〜55%、PFS 8.1〜8.9か月) といった次世代ALK-TKIは、クリゾチニブ耐性後に有効であることが示されていた Shaw et al. NEnglJMed 2014、Gadgeel et al. LancetOncol 2014、Shaw et al. LancetOncol 2016、Ou et al. JClinOncol 2016。しかし、これらの薬剤を用いた逐次治療が実臨床においてOSを改善するかどうかは未解明であった。また、RECIST基準で定義される病勢進行後もクリゾチニブを継続する「crizotinib beyond progressive disease (CBPD)」戦略の生存への影響も十分に検討されておらず、その有効性に関する大規模な実臨床データが不足していた。これらの知識ギャップを埋めることが、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略を最適化する上で重要な課題であった。
目的
本研究は、フランス全国規模の後方視的コホート研究 (IFCT-1302 CLINALK) として、以下の目的を達成することを目指した。(1) 厳格な選択基準が適用されていない実臨床のALK陽性進行NSCLC患者集団におけるクリゾチニブによるOSを推定する。(2) クリゾチニブ進行後の治療戦略(次世代ALK-TKI、次世代ALK-TKI以外の薬剤、または支持療法のみ)がOSおよび進行後生存期間 (post-PD survival) に与える影響を詳細に解析する。(3) CBPD、脳転移、oligoprogressionなどの臨床的因子がOSに与える影響を多変量解析を用いて同定し、予後因子としての意義を評価すること。これらの目的を達成することで、ALK陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブおよびその後の治療戦略に関する実臨床データに基づくエビデンスを確立し、最適な治療シーケンスの確立に貢献することを目指した。
結果
患者背景: 合計318例が解析対象となった。内訳はEAPからの214例と、承認薬としてクリゾチニブを投与された104例であった。初回クリゾチニブ投与時の中央年齢は58.3歳 (範囲19.2〜88.4歳) で、男性が50.6%、腺癌が91.8%、非喫煙者が55.8%を占めた (Table 1)。ECOG PS 0-1の患者は77.3%であり、脳転移を有する患者は34.9%であった。転移診断から初回クリゾチニブ投与までの平均期間は13.9か月 (95% CI 12.4〜15.5) であった。治療ラインの内訳は、一次治療が16例 (5.0%)、二次治療が172例 (54.1%)、三次治療が59例 (18.6%)、四次以降が71例 (22.3%) であった。前治療として白金製剤ベースの化学療法を91.7%、ペメトレキセドベースの化学療法を80.8%の患者が受けていた。ほぼ全例が非アジア系 (98.3%) であった。
クリゾチニブの有効性: データカットオフ時点で、284例 (89.3%) に病勢進行が認められた。クリゾチニブによるPFS中央値は6.8か月 (95% CI 5.6〜8.3) であった。評価可能な267例におけるORRは50.2% (95% CI 44.2〜56.2) であり、完全奏効が1例 (0.4%)、部分奏効が133例 (49.8%) であった。DCRは74.9% (95% CI 69.7〜80.1) であった。解析時点で39例がクリゾチニブ投与を継続していた。
クリゾチニブによるOS: 解析時点で209例 (65.7%) が死亡しており、中央追跡期間は44.4か月 (95% CI 40.6〜47.5) であった。転移診断日からのOS中央値は30.9か月 (95% CI 26.7〜34.5) であった。初回クリゾチニブ投与日からのOS中央値は16.6か月 (95% CI 12.2〜19.6) であった (Figure 2)。6か月生存率は73.4% (95% CI 68.5〜78.3)、12か月生存率は56.2% (95% CI 50.7〜61.7) であった。多変量Cox解析 (Table 2) では、OSと有意に関連する因子として、非喫煙者または元喫煙者であること (vs 現在喫煙者) がHR 0.44 (95% CI 0.29〜0.67, p<0.001) とOS改善の独立予測因子であった。また、腺癌組織型 (vs 非腺癌) はHR 0.59 (95% CI 0.36〜0.97, p=0.04)、PS 0-1 (vs PS 2-4) はHR 0.35 (95% CI 0.26〜0.48, p<0.001) とOS改善に寄与した。クリゾチニブの治療ライン (一次/二次/三次以降) はOS中央値に有意な影響を与えなかった (p=0.09)。脳転移の有無は単変量解析で有意差を認めなかった (HR 0.95, 95% CI 0.71〜1.25, p=0.70)。PS 0-1群のOS中央値は19.5か月 (95% CI 16.5〜25.0) であったのに対し、PS 2-4群では4.5か月 (95% CI 3.0〜7.3) と有意に短かった (p<0.001)。
CBPD (crizotinib beyond progressive disease) の影響: 病勢進行後の263例のうち、86例 (32.7%) でCBPDが実施された (Table 3)。CBPD期間の中央値は6.6か月 (範囲0.7〜35.2か月) であった。CBPDを実施された患者は、65歳未満 (83% vs 70%)、クリゾチニブPFS中央値以上 (69% vs 38%)、脳進行 (56% vs 29%)、oligoprogression (71% vs 42%) の割合が高く (いずれもp<0.001またはp=0.02)、次世代ALK-TKIの後続投与も多かった (42% vs 27%, p=0.02)。初回クリゾチニブ投与日からのOSは、CBPD群で32.2か月 (95% CI 25.4〜NR) であったのに対し、非CBPD群では11.2か月 (95% CI 8.4〜12.9) と有意に長かった (p<0.0001)。同様に、進行後OSもCBPD群で18.7か月 (95% CI 15.1〜26.9) と、非CBPD群の4.0か月 (95% CI 3.0〜5.6) と比較して有意に良好であった (p<0.0001)。
クリゾチニブ進行後の治療戦略別OS: 病勢進行後の全身治療として、次世代ALK-TKI群84例 (セリチニブ57例、アレクチニブ19例、セリチニブ後にアレクチニブ5例など)、次世代ALK-TKI以外の薬剤群74例、支持療法のみ群105例に分類された (Table 4, Table 5)。進行後OS中央値は全体で6.5か月 (95% CI 5.3〜9.8) であった。次世代ALK-TKI群の進行後OSは25.0か月 (95% CI 18.6〜NR) であり、次世代ALK-TKI以外の薬剤群の6.4か月 (95% CI 5.1〜10.2) および支持療法のみ群の1.5か月 (95% CI 0.8〜2.1) と比較して著明に良好であった (ログランクp=0.0002) (Figure 3B)。次世代ALK-TKI群の初回クリゾチニブ投与日からのOS中央値は未到達であり、1年生存率は92.9% (95% CI 87.3〜98.4)、3年生存率は59.2% (95% CI 46.4〜72.1) であった (Figure 3A)。転移診断日からのOS中央値は、次世代ALK-TKI群で89.6か月 (95% CI 53.5〜NR) と、次世代ALK-TKI以外の薬剤群の28.2か月 (95% CI 22.1〜33.0) および支持療法のみ群の19.6か月 (95% CI 15.1〜24.5) と比較して有意に長かった (ログランクp<0.001) (Figure 3C)。
多変量Cox解析 (n=263) (Table 6) では、初回クリゾチニブ投与日からのOSおよび進行後OSの両方において、以下の因子が独立した有意な予後因子として同定された: PS 0-1 (OS: HR 0.49, 95% CI 0.34〜0.70, p<0.0001; 進行後OS: HR 0.43, 95% CI 0.30〜0.62, p<0.0001)、クリゾチニブPFS中央値以上 (OS: HR 0.28, 95% CI 0.20〜0.40, p<0.0001; 進行後OS: HR 0.68, 95% CI 0.48〜0.95, p=0.02)、脳進行 (OS: HR 0.55, 95% CI 0.39〜0.77, p=0.0006; 進行後OS: HR 0.67, 95% CI 0.49〜0.94, p=0.02)、oligoprogression (OS: HR 0.63, 95% CI 0.46〜0.87, p=0.005; 進行後OS: HR 0.60, 95% CI 0.44〜0.83, p=0.002)、CBPD (OS: HR 0.52, 95% CI 0.35〜0.77, p=0.001; 進行後OS: HR 0.46, 95% CI 0.31〜0.68, p<0.0001)、次世代ALK-TKI投与 (OS: HR 0.34, 95% CI 0.21〜0.55, p<0.0001; 進行後OS: HR 0.36, 95% CI 0.23〜0.57, p<0.0001)。一方、次世代ALK-TKI以外の全身治療は有意なOS改善効果を示さなかった (p=NS)。支持療法のみは、OSおよび進行後OSの両方で有意な予後不良因子であった (OS: HR 2.06, 95% CI 1.45〜2.93, p<0.0001; 進行後OS: HR 2.39, 95% CI 1.67〜3.42, p<0.0001)。
考察/結論
本研究は、ALK陽性NSCLC患者における大規模な実臨床OSデータを提供した。クリゾチニブによるOS中央値16.6か月は、PROFILE 1007試験で報告された21.7か月と比較して短く、これは臨床試験の厳格な選択基準による患者富化(女性、非喫煙者、アジア系、良好なPSが多い)を反映していると考えられる。本研究の患者は、PROFILE 1007の患者と比較して高齢で、女性や非喫煙者が少なく、PSも不良であった。また、40.9%の患者がクリゾチニブ前に複数の全身治療を受けていた。治療ライン(一次/二次/三次以降)がOSに影響しなかった点は、ALK陽性という分子背景が、PSや喫煙などの交絡因子よりも予後を規定する可能性を示唆している。
新規性: 最も重要な発見は、クリゾチニブ後に次世代ALK-TKIを受けた84例の転移診断日からのOS中央値が89.6か月(約7.5年)と著明に長い点である。これは、ALK陽性NSCLCが逐次的ALK-TKI使用により「慢性疾患化」し得ることを、実臨床データで初めて大規模に示した研究の成果である。多変量解析で次世代ALK-TKI投与が進行後OSを64%改善 (HR 0.36, 95% CI 0.23〜0.57, p<0.0001) した一方、次世代ALK-TKI以外の全身治療(化学療法等)は有意な改善効果を示さなかったことは、ALK-TKIシークエンスの優位性を強く支持する。
先行研究との違い: CBPDは脳進行やoligoprogression例に多く実施され、生存改善と独立して関連した (HR 0.52, 95% CI 0.35〜0.77, p=0.001)。これは、先行研究であるOu et al.の報告と類似した生存アウトカムを示しており、CBPDの有効性を裏付けるものである。しかし、本研究のCBPD群は、非CBPD群と比較して若年、良好なPS、PFS中央値以上、次世代ALK-TKIの後続投与が多いなど、患者背景に偏りがあり、交絡(治療反応性の高い生物学的特性や次世代ALK-TKIとの組み合わせ)を完全に除外できない点は、先行研究と同様の課題である。
臨床応用: 本研究で報告された、クリゾチニブ後に次世代ALK-TKIを受けた患者における転移診断からのOS中央値89.6か月という結果は、ALK陽性NSCLC患者の治療における重要なベンチマークとなり得る。この知見は、分子標的治療の迅速な診断とアクセスが、分子定義された患者集団においていかに重要であるかを強調している。実臨床における逐次的ALK-TKI療法の有効性は、今後の臨床現場での治療戦略に大きな臨床的意義を持つ。
残された課題: 本研究の限界として、(1) 後方視的・非ランダム化デザインによる患者選択バイアス(次世代ALK-TKI群は若年、良好なPS、PFS中央値以上の患者が多い)、(2) 3群間の患者背景の不均一性、(3) 局所切除や放射線治療などの局所療法が記録されていない(oligoprogression管理のバイアス)、(4) 解析期間の大部分でアレクチニブが一次治療で未承認であり、一次治療でのクリゾチニブ使用が54.1%に留まる構成、が挙げられる。今後は、ALEX試験やALTA-1L試験などのアレクチニブやブリガチニブの一次治療試験結果を踏まえた、第一世代と第二世代ALK-TKIの最適なシーケンス、および脳転移やoligoprogression患者における局所療法とALK-TKI継続の標準化が残された課題となる。
方法
本研究は、フランス全国規模の後方視的コホート研究 (IFCT-1302 CLINALK) として実施された。対象患者は、フランスのクリゾチニブ拡大アクセスプログラム (EAP、2010年11月〜2012年10月、80施設から313例) のデータ、およびEAP終了後に承認薬として二次治療でクリゾチニブを投与された患者 (2013年12月末まで、同80施設) のデータを統合して収集された。適格基準は、FISH法によりALK遺伝子再配列陽性が確認された進行性または転移性NSCLC患者、18歳以上、クリゾチニブ臨床試験に不参加、かつクリゾチニブを7日以上投与された患者であった。クリゾチニブは250 mgを1日2回経口投与された。
主要評価項目は、初回クリゾチニブ投与日から死亡または最終追跡日までのOSであった。副次評価項目には、RECIST 1.1基準に基づく治験責任医師評価による客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、RECIST定義の病勢進行日からのOS (post-PD survival)、および転移診断日からのOSが含まれた。
クリゾチニブ進行後の治療戦略が生存に与える影響を解析するため、病勢進行が確認された284例のうち、進行後21日以内に死亡した21例を除外した263例を対象とした。これらの患者は、進行後の全身治療戦略に基づいて3つの群に分類された: 次世代ALK-TKI群 (84例)、次世代ALK-TKI以外の薬剤群 (74例)、および支持療法のみ群 (105例)。
統計解析には、Kaplan-Meier法を用いてOSおよびPFSを推定し、ログランク検定を用いて群間の比較を行った。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて推定された。多変量解析では、潜在的な交絡因子を調整するために後退法が用いられた。単変量Coxモデルでp値が0.20未満の変数が多変量モデルに組み込まれた。OSは初回クリゾチニブ投与日から死亡または最終追跡日までと定義され、post-PD survivalはRECIST定義のクリゾチニブ下での病勢進行日から死亡または最終追跡日までと定義された。生存解析のデータカットオフは2015年7月31日であった。すべての統計検定は両側検定であり、p値が0.05未満を有意と判断した。解析はSASソフトウェアバージョン9.3を用いて実施された。本研究は非介入研究であり、ヘルシンキ宣言およびGCPガイドラインに従って実施され、フランスの倫理委員会およびデータ保護機関 (CNIL) の承認を得ている。