• 著者: Alice T Shaw, Beow Y Yeap, Benjamin J Solomon, Gregory J Riely, Justin Gainor, Jeffrey A Engelman, Geoffrey I Shapiro, Daniel B Costa, Sai-Hong I Ou, Mohit Butaney, Ravi Salgia, Robert G Maki, Marileila Varella-Garcia, Robert C Doebele, Yung-Jue Bang, Kimary Kulig, Paulina Selaru, Yiyun Tang, Keith D Wilner, Eunice L Kwak, Jeffrey W Clark, A John Iafrate, D Ross Camidge
  • Corresponding author: Alice T Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-09-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21933749

背景

ALK遺伝子再配列(主にEML4-ALK融合遺伝子)は、非小細胞肺癌(NSCLC)の約4%に認められる分子異常であり、若年、非喫煙者または軽喫煙者、腺癌といった独特の臨床病理学的特徴を持つ新たな分子サブタイプを規定する。このEML4-ALK融合遺伝子は、2007年にSoda et al. Nature 2007によって初めて同定され、その後、Rikova et al. Cell 2007Koivunen et al. ClinCancerRes 2008らによって、ALK阻害剤への感受性が示された。

Crizotinibは、MET、ALK、ROS1阻害活性を有する経口小分子チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であり、その第1相臨床試験(NCT00585195)において、進行ALK陽性NSCLC患者に対して客観的奏効率(ORR)61%、無増悪生存期間(PFS)中央値10ヶ月という顕著な抗腫瘍活性を示したことがKwak et al. NEnglJMed 2010によって報告された。この結果は、従来の標準的な単剤化学療法(ORR 10%未満、PFS中央値3ヶ月未満)と比較して大幅な改善であり、ALK陽性NSCLCにおけるクリゾチニブの潜在的な有効性を示唆するものであった。しかし、クリゾチニブが全生存期間(OS)に与える影響は、その時点ではまだ未解明であった。

従来のランダム化比較試験(RCT)では、化学療法群の患者が病勢進行後にクリゾチニブへのクロスオーバー(治療群の切り替え)が不可避となるため、OSの真のベネフィットを正確に評価することが困難であるという課題があった。これは、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象としたIPASS試験において、ゲフィチニブが化学療法と比較してPFSを改善したにもかかわらず、化学療法群からのゲフィチニブへのクロスオーバーにより、OSにおいて有意差が検出されなかった事例(Mok et al. NEnglJMed 2009)と同様の問題である。このような状況下では、伝統的なRCTによるOS評価は実用的または有意義な主要評価項目とはなりにくい。

本研究は、この課題に対処するため、第1相クリゾチニブ試験に登録されたALK陽性NSCLC患者と、同時期にスクリーニングされたクリゾチニブ未治療のALK陽性対照群、およびALK陰性患者(EGFR変異陽性、野生型)のOSを後方視的に比較解析することで、クリゾチニブのOS改善効果を評価することを試みた。これにより、クリゾチニブがALK陽性NSCLCの自然経過を根本的に変えうるか、またALK再配列自体が良好な予後因子であるか否かを明らかにすることが目的とされた。従来の報告では、ALK再配列の予後的意義については一致した見解が不足しており、一部の報告では予後改善の可能性が示唆される一方で、別の報告では予後不良または差がないとされていた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、以下の3点である。 (1) クリゾチニブ治療を受けたALK陽性NSCLC患者の全生存期間(OS)を、同時期に同定されたクリゾチニブ未治療のALK陽性対照群と比較し、クリゾチニブのOS改善効果を評価すること。特に、ランダム化比較試験におけるクロスオーバーの影響を回避し、実臨床に近い状況でのOSベネフィットを推定する。 (2) ALK陰性対照群(EGFR変異陽性患者および野生型患者)のOSと比較することで、クリゾチニブのOS効果を、他の明確に定義されたNSCLCサブセットにおける標的療法(例: EGFR TKI)の文脈で位置付けること。これにより、クリゾチニブが既存の成功した分子標的療法と同等の効果をもたらすかを確認する。 (3) クリゾチニブ未治療のALK陽性患者のOSを、ALK陰性野生型患者のOSと比較し、ALK再配列自体が進行NSCLCにおける良好な予後因子であるか否かを明らかにすること。ALK再配列の予後的意義については、これまで報告が不足しており、本研究でその自然経過を解明する。

結果

クリゾチニブ治療群(n=82)の全生存期間(OS): 第1相クリゾチニブ試験に登録されたALK陽性NSCLC患者82名のOSを評価した。患者の年齢中央値は51歳(範囲25-78歳)であり、32%がアジア人であった。ほとんどの患者が非喫煙者で腺癌の組織型であった。前治療歴の中央値は2ライン(範囲0-7)であり、89%の患者が少なくとも1回の前治療を受けていた。クリゾチニブ初回投与日からのOS中央値は未到達(95% CI 17ヶ月-未到達)であった。1年OS率は74%(95% CI 63-82)、2年OS率は54%(95% CI 40-66)であった(Figure 2)。OSは年齢(≤50歳 vs >50歳, p=0.692)、性別(p=0.975)、喫煙歴(非喫煙者 vs 喫煙者, p=0.857)、または民族(アジア人 vs 非アジア人, p=0.857)によって有意な差は認められなかった。追跡期間中央値は18ヶ月(IQR 16-22)であった。

クリゾチニブ治療群とALK陽性対照群の比較(セカンドライン/サードライン設定): クリゾチニブ治療群とALK陽性対照群の比較では、韓国人患者の薬物動態学的差異を考慮し、非韓国人クリゾチニブ治療患者56名とALK陽性対照患者36名が比較された。これらの2群は、年齢、性別、民族、喫煙歴、病理組織型、脳転移の有無において良好にバランスが取れていた(Table 1)。前治療ライン数の中央値も両群ともに2ラインであり、プラチナ製剤、ペメトレキセド、エルロチニブなどの標準治療の曝露率も類似していた(Table 2)。 特に、セカンドラインまたはサードラインでクリゾチニブを投与された非韓国人患者30名と、セカンドラインで任意の治療を受けたALK陽性対照患者23名のOSを比較した。クリゾチニブ治療群のOS中央値は未到達(95% CI 14ヶ月-未到達)であったのに対し、対照群のOS中央値は6ヶ月(95% CI 4-17)であった(Figure 3)。1年OS率はクリゾチニブ治療群で70%(95% CI 50-83)、対照群で44%(95% CI 23-64)であり、2年OS率はそれぞれ55%(95% CI 33-72)と12%(95% CI 2-30)であった。ハザード比(HR)は0.36(95% CI 0.17-0.75, p=0.004)であり、クリゾチニブ治療がALK陽性NSCLC患者のOSを有意に延長することを示した。この結果は、韓国人患者を含めたサブセット解析でも同様であった。

ALK陽性対照群の妥当性評価: ALK陽性対照群36名のうち、12名(33%)は後方視的に同定され、クリゾチニブの臨床試験登録目的でスクリーニングされた患者ではなかった。残りの24名(67%)は前方視的に同定されたが、そのうち14名(58%)は臨床的悪化やプロトコル適格性の問題など様々な理由でクリゾチニブの投与を受けなかった。後方視的対照群と前方視的対照群のOSを比較したところ、OS中央値はそれぞれ26ヶ月(95% CI 13-48)と18ヶ月(95% CI 6-22)であり、有意差は認められなかった(p=0.195)。この結果は、両群が同様の予後因子を持つ集団である可能性を示唆し、ALK陽性対照群全体を比較対象として使用することの妥当性を支持する。

ALK陽性患者とEGFR変異陽性患者のOS比較: クリゾチニブ治療を受けた非韓国人ALK陽性患者56名と、ゲフィチニブまたはエルロチニブによるEGFR TKI治療を受けたEGFR変異陽性患者63名のOSを比較した。TKI治療開始時点からのOSは両群で類似しており、ALK陽性群のOS中央値は未到達(95% CI 17ヶ月-未到達)、1年OS率71%(95% CI 58-81)、2年OS率57%(95% CI 40-71)であった。一方、EGFR変異陽性群のOS中央値は24ヶ月(95% CI 15-34)、1年OS率74%(95% CI 61-83)、2年OS率52%(95% CI 38-65)であり、両群間に有意差は認められなかった(p=0.786)(Figure 4A)。セカンドラインまたはサードラインでTKI治療を受けたサブセット(ALK陽性30名 vs EGFR変異陽性19名)においても、OSは類似していた(OS中央値未到達 vs 15ヶ月、p=0.578)。この結果は、クリゾチニブがEGFR TKIによる標的療法と同等のOS改善効果を達成しうることを示唆している。

ALK陽性対照群と野生型対照群のOS比較: クリゾチニブ未治療のALK陽性対照患者36名と、ALKおよびEGFR変異陰性の野生型対照患者253名のOSを比較した。診断時からのOS中央値は、ALK陽性対照群で20ヶ月(95% CI 13-26)、野生型対照群で15ヶ月(95% CI 13-17)であり、有意差は認められなかった(HR 0.77, 95% CI 0.50-1.19, p=0.244)(Figure 4C)。セカンドライン治療開始時点からのOSを比較しても、ALK陽性対照群23名のOS中央値は6ヶ月(95% CI 4-17)、野生型対照群125名のOS中央値は11ヶ月(95% CI 8-15)であり、有意差はなかった(p=0.175)(Figure 4B)。 ALK陽性患者は若年、非喫煙者または軽喫煙者、腺癌といった特徴を持つため、これらの予後因子を考慮して、60歳以下の非喫煙者または軽喫煙者のサブセットで比較を行った。このサブセットにおけるALK陽性対照24名と野生型対照52名の診断時からのOS中央値は、それぞれ20ヶ月(95% CI 13-26)と24ヶ月(95% CI 16-33)であり、依然として有意差は認められなかった(HR 1.01, 95% CI 0.55-1.85, p=0.978)(Figure 4D)。これらの結果は、クリゾチニブ治療がない場合、ALK再配列自体は進行NSCLCにおける良好な予後因子ではないことを示唆している。 一方で、セカンドラインまたはサードラインでクリゾチニブを投与されたALK陽性患者は、野生型対照患者(n=125)と比較して、OSが有意に良好であった(HR 0.49, 95% CI 0.27-0.91, p=0.020)(Figure 4B)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ランダム化比較試験(RCT)におけるクロスオーバーの影響によりOS評価が困難な状況下で、第1相クリゾチニブ試験に登録されたALK陽性NSCLC患者と、同時期の臨床的に同等なクリゾチニブ未治療のALK陽性対照群を後方視的に比較した。その結果、セカンドラインまたはサードラインの治療設定において、クリゾチニブが有意なOSベネフィット(HR 0.36, 95% CI 0.17-0.75, p=0.004)をもたらすことを初めて示した。1年OS率はクリゾチニブ治療群で70%に対し対照群で44%、2年OS率は55%に対し12%と、その絶対差も臨床的に極めて大きい。この知見は、クリゾチニブがALK陽性NSCLCの自然経過を根本的に変えうることを強く示唆している。これまでのALK陽性NSCLCの自然経過に関する報告は少なく、予後因子としてのALK再配列の意義は不明確であった。一部の報告では予後改善の可能性が示唆されたが、本研究の結果は、クリゾチニブ未治療のALK陽性患者の予後が、年齢や喫煙歴などの予後因子を調整した後でも、野生型NSCLC患者の予後と類似していることを示し、ALK再配列自体は良好な予後因子ではないという点で、これまでの報告と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブ治療を受けたALK陽性患者のOSが、EGFR TKI治療を受けたEGFR変異陽性患者のOSと類似していることを示した。これは、クリゾチニブがEGFR TKIに比肩する分子標的療法として位置付けられることを新規に実証したものである。この結果は、ALK陽性NSCLCがEGFR変異陽性NSCLCと同様に、特異的な標的療法によって劇的な治療効果が得られることを示唆する。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブの臨床的有用性を強力に支持するものである。特に、RCTでのOS検証が困難な時代において、後方視的解析ながらも堅牢な比較対照群を設定することで、クリゾチニブのOS改善効果を明確に示したことは、臨床現場でのALK検査の実施とクリゾチニブ処方を強く推奨する重要な根拠となる。米国では既にクリゾチニブが承認されているが、それ以外の地域では、これらの患者をクリゾチニブの臨床試験へ誘導することの臨床的意義は大きい。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、後方視的かつ非ランダム化デザインであるため、患者選択バイアスが完全に排除できない点である。クリゾチニブ治療群は臨床試験の適格基準を満たす比較的病状が安定した患者が含まれる可能性があり、対照群はより多様な予後を持つ集団である可能性がある。ただし、人口統計学的・臨床病理学的特徴、脳転移の有無、前治療ライン数の中央値(両群ともに2ライン)、および標準治療の曝露率が両群で良好にバランスしていたこと、さらにセカンドライン/サードラインのサブセット解析で頑健な結果が得られたことから、本結論の妥当性は支持される。第二に、クリゾチニブ治療後の後続治療に関する詳細な情報が不足している点もlimitationである。最後に、野生型対照群が分子レベルで不均一である可能性があり、KRAS変異やHER2変異など他のドライバー変異を持つ患者が含まれていた可能性がある。今後の検討課題として、これらのバイアスを最小限に抑えた前向き研究や、より詳細な分子プロファイリングに基づく比較研究が望まれる。

方法

本研究は、3つの異なる患者集団を対象とした後方視的解析である(Figure 1)。

  1. クリゾチニブ治療群: 第1相臨床試験(NCT00585195)に2007年12月26日から2010年2月10日までに登録された進行ALK陽性NSCLC患者82名で構成される。これらの患者は7つの研究施設で登録され、ALK陽性ステータスは蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法により確認された。治療歴、クリゾチニブ初回投与日、および生存データは、2011年3月15日時点のスポンサーデータベースから取得された。本試験は安全性、薬物動態、薬力学効果を評価する目的で設計され、PFSやOSの評価を主目的とはしていなかった。
  2. ALK陽性対照群: 同時期に4つの研究施設でスクリーニングされた、クリゾチニブ未治療の進行ALK陽性NSCLC患者36名。これらの患者は、後方視的(1998年から2008年の間に死亡した患者、または治験以外の研究目的でスクリーニングされた患者12名)および前方視的(2010年2月10日までにクリゾチニブ治験への登録を意図してスクリーニングされた患者24名)に同定された。ALK陽性ステータスはFISH法により確認され、人口統計学的、臨床病理学的、治療、生存データは患者の医療記録から取得され、2011年3月15日時点で更新された。
  3. ALK陰性対照群: マサチューセッツ総合病院(MGH)でALK陽性患者と同時期(2010年2月10日まで)にスクリーニングされたALK再配列陰性の進行NSCLC患者320名。このうち、EGFR変異陽性患者67名と、ALKおよびEGFR変異のいずれも陰性である野生型患者253名が含まれる。EGFR変異は直接DNAシーケンシングまたはマルチプレックス変異スクリーニング(SNaPshot)により確認された。ALK再配列とEGFR変異の共存例はなかった。

主要比較: クリゾチニブ治療群とALK陽性対照群の比較は、特に臨床的に同等なサブセットで実施された。具体的には、非韓国人クリゾチニブ治療患者56名とALK陽性対照患者36名が比較された。さらに、前治療歴を考慮し、セカンドラインまたはサードラインでクリゾチニブを投与された30名と、セカンドラインで任意の治療を受けたALK陽性対照23名との間でOSが比較された。

統計解析: 患者集団間の人口統計学的および臨床病理学的特徴、治療歴の比較には、Fisherの正確検定およびWilcoxon順位和検定が用いられた。生存期間はKaplan-Meier法により推定され、群間の比較にはログランク検定が使用された。ハザード比(HR)はCox比例ハザード回帰モデルにより推定され、95% Wald信頼区間(95% CI)が付記された。データ解析はSASバージョン9.2を用いて行われ、全てのp値は両側検定であった。追跡期間中央値は逆Kaplan-Meier法により算出された。