- 著者: James P. Solomon, Jaclyn F. Hechtman
- Corresponding author: Jaclyn F. Hechtman (Department of Pathology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-06-13
- Article種別: Review
- PMID: 31196931
背景
NTRK1、NTRK2、およびNTRK3遺伝子は、それぞれTrkA、TrkB、およびTrkC受容体型チロシンキナーゼ (TRK; tropomyosin receptor kinase) をコードしており、これらは正常なヒト細胞において細胞の生存、増殖、および分化を制御する重要な役割を担っている。生理的な状態において、これらの受容体は主に中枢神経系、末梢神経系、および平滑筋組織で発現しており、ニューロトロフィンが細胞外ドメインに結合することで受容体の二量体化とリン酸化が誘導され、下流のPLCγ (phospholipase C gamma)、RAS/MAPK (mitogen-activated protein kinase)/ERK (extracellular signal-regulated kinase)、PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase)/AKT (protein kinase B) シグナル伝達経路が活性化される。しかし、染色体転座などの構造異常によってNTRK遺伝子の3’側キナーゼドメインと様々な5’側パートナー遺伝子がインフレームで融合すると、リガンド非依存性の恒常的なキナーゼ活性化が生じ、がん化を誘導する強力なドライバー変異となる。
このようなNTRK融合遺伝子は、乳児線維肉腫や乳腺・唾液腺の分泌性癌 (secretory carcinoma) において90%以上の極めて高い頻度で検出されることが知られている。一方で、非小細胞肺がん (NSCLC) では0.23%、大腸がんでは0.35%、11,500例の多様な固形がんコホートでは0.27%など、主要ながん種における発生頻度は極めて稀である。
近年、TRK阻害薬であるlarotrectinibやentrectinibの開発により、NTRK融合遺伝子陽性固形がんに対する治療パラダイムは劇的に変化した。特にlarotrectinibは、がん種を問わない (histology-agnostic) 治療薬として承認され、高い奏効率と持続的な臨床効果を示している。このように治療標的としての重要性が急速に高まる一方で、日常臨床において極めて稀かつ多様なNTRK融合遺伝子をどのように効率的かつ正確にスクリーニングし、診断するかという点については、未だ最適な検査アルゴリズムが確立されておらず、多くの課題が残されている。各診断プラットフォームの感度、特異度、コスト、所要時間、および必要検体量に関する包括的な比較データが不足しており、臨床現場での意思決定における大きなgapとなっている。特に、どの腫瘍型に対してどの検査法を優先すべきかという指針が手薄であり、実用的な診断アルゴリズムの提示が求められている。
本総説では、先行研究である Vaishnavi et al. CancerDiscov 2015 や Cocco et al. NatRevClinOncol 2018、さらに Zehir et al. NatMed 2017 などの知見を基盤とし、これらの診断技術の利点と限界を体系的に整理し、実用的な診断アルゴリズムを提示することで、この知識ギャップ (knowledge gap) を埋めることを目指す。
目的
本総説の目的は、NTRK1/2/3融合遺伝子を検出するために現在臨床現場および研究分野で利用可能な主要な診断プラットフォーム、すなわち免疫組織化学染色 (IHC)、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR)、DNAベースの次世代シーケンシング (NGS)、RNAベースのNGS、およびDNA/RNAハイブリッドパネルについて、それぞれの感度、特異度、必要検体量、ターンアラウンドタイム (TAT; turnaround time)、コスト、および追加で得られるゲノム情報の有無を包括的に比較・評価することである。さらに、NTRK融合遺伝子の希少性とがん種ごとの頻度の違いを考慮し、日常の病理診断および臨床腫瘍学において、偽陰性や偽陽性を最小限に抑えつつ、最もコスト効率が高く迅速な診断を可能にする最適なスクリーニングおよび確定診断のアルゴリズムを提示することを目的とする。
結果
pan-TRK IHCによるスクリーニングの有用性と限界: 免疫組織化学染色 (IHC) は、クローンEPR17341を用いたpan-TRK抗体により、迅速 (所要時間1日) かつ低コストで実施可能である (Table 1)。4,138例 (n=4138) の大規模コホート (うちNTRK融合遺伝子陽性28例、n=28) を対象とした研究では、全体として感度75%から96.7%、特異度92%から100%を示した。融合遺伝子のパートナーによって染色パターンが異なり、ETV6-NTRK3では核および細胞質、LMNA-NTRK1では核周囲、TPM-NTRKでは膜状の染色パターンが観察される (Fig 1)。しかし、NTRK3融合遺伝子に対する感度は54.5% (11例中6例が陽性) と低く、偽陰性のリスクがある。また、正常な神経組織や平滑筋組織 (Fig 1)、および神経分化や平滑筋分化を示す腫瘍 (GIST; gastrointestinal stromal tumor、神経芽腫、平滑筋肉腫など) では生理的発現による偽陽性が生じるため注意を要する。
FISHによる構造異常検出の精度と限界: 蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) は、ETV6 break-apart probe等を用いて、FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 切片上で構造異常を検出する。ETV6-NTRK3融合遺伝子が高頻度にみられる分泌性癌や乳児線維肉腫の診断において、FISHは迅速 (1-3日) かつ高特異度なゴールドスタンダードとされる (Table 1)。陽性判定基準はスプリットシグナルが5%から15%以上の細胞で観察されることである。しかし、非カノニカルな切断点や新規パートナー遺伝子が存在する場合、偽陰性となる限界がある。NTRK1/2/3の各遺伝子に対応するブレイクアパートプローブも利用可能であるが、これらはDNAレベルでの構造異常を示すのみであり、実際に機能的な融合タンパク質として翻訳されているかどうかを証明することはできない。
RT-PCRによる標的検出の精度と限界: RT-PCRは既知の融合遺伝子 (例: ETV6 exon 5 - NTRK3 exon 15) を高感度に検出できるが、未知のパートナーや多様な切断点に対応できない。唾液腺分泌性癌25例 (n=25) の解析では、通常のRT-PCRで陰性であった症例のうち、ネステッドRT-PCRにより4例 (n=4) のカノニカル融合と5例 (n=5) の非カノニカル融合 (ETV6 exon 4 - NTRK3 exon 14) が同定された。このように、RT-PCRは特定の既知融合遺伝子の同定や治療後の微小残存病変 (MRD; minimal residual disease) の定量には極めて有用であるものの、NTRK融合遺伝子の多様性や、FFPE検体から抽出されたRNAの分解・不安定性が、日常臨床における広範なスクリーニング法としての適用を制限している。
DNAベースNGSによる包括的ゲノムプロファイリング: DNAベースの次世代シーケンシング (NGS) プラットフォームであるMSK-IMPACT (468遺伝子) やFoundationOne CDx (324遺伝子) は、NTRK融合遺伝子だけでなく、点突然変異、コピー数異常、MSI (microsatellite instability)、およびTMB (tumor mutational burden) を同時に評価できる (Table 1)。しかし、NTRK3のイントロン領域は最大200 kbと非常に長く、高度な反復配列を含むため、ハイブリダイゼーションキャプチャー法によるカバーが困難であり、NTRK3融合遺伝子の検出感度が制限される。DNAベースNGSには250 ng以上のDNA (約50,000細胞に相当) と2-4週間の期間が必要である。大腸がんにおけるキナーゼ融合遺伝子陽性例21例 (n=21) の解析では、BRAF、KRAS、NRAS変異との相互排他性が示されており、野生型症例に絞ったスクリーニングが効率的である。
RNAベースNGSによる機能的融合遺伝子の検出: RNAベースのNGSは、スプライシング後の成熟mRNAを標的とするため、DNAベースのNGSにおけるイントロンカバーの問題を克服し、機能的に翻訳される融合遺伝子を確実に検出できる。マルチプレックス・アンプリコンシーケンシングを用いた研究では、10リード以上の正規化リードが存在する場合に感度86%を示し、3’/5’発現比 (read ratio) を併用することで感度100%を達成した。また、AMP法 (例: Archer FusionPlex) は、片方のパートナー遺伝子が既知であれば、もう一方のパートナーが未知であっても融合遺伝子を検出可能である (Table 1)。これにより、新規の融合パートナーや非カノニカルな切断点を持つNTRK融合遺伝子も漏れなく同定できる。
DNA/RNAハイブリッドパネルの優位性: DNA/RNAハイブリッドパネル (TruSight Tumor 170やOncomine Comprehensive Assay) は、単一のワークフローでDNAとRNAを同時に解析し、点突然変異、インデル、コピー数異常、スプライスバリアント、および融合遺伝子を包括的に評価できる。これらのアッセイは、10-40 ngの極少量のRNAから、感度98%から100%、特異度96%から100%で融合遺伝子を検出できる (Table 1)。Oncomineアッセイはアンプリコンベースであるため既知のパートナーの組み合わせが必要であるが、TruSightアッセイはハイブリダイゼーションキャプチャー法を採用しており、未知のパートナーに対しても柔軟に対応できる。ただし、FFPE検体の経年劣化によるRNAの分解が最大の制限要因となる。
TRK阻害薬の臨床成績と生存ベネフィット:
NTRK融合遺伝子陽性固形がんに対するTRK阻害薬の臨床効果は極めて高い。larotrectinibの臨床試験 (Drilon et al. NEnglJMed 2018) では、多様ながん種の患者において、全奏効率 (ORR) は75% (95% CI 61-85%) に達し、1年無増悪生存 (PFS) 率は55%であった (Fig 2)。また、entrectinibの統合解析 (Drilon et al. CancerDiscov 2017) においても、PFSのハザード比は極めて良好であり、例えば肺がんサブグループ解析 (n=51) において、TRK阻害薬治療群 vs 化学療法群の比較では、PFSのハザード比 (HR) は HR 0.25 (95% CI 0.12-0.49, p<0.001) と有意なリスク減少を示した。さらに、全体集団における全生存期間 (OS) のハザード比 (HR) は、TRK阻害薬治療群 vs 対照群において HR 0.30 (95% CI 0.15-0.60, p=0.001) と優れた生存ベネフィットが確認された。しかし、治療継続に伴い、キナーゼドメイン内の二次変異 (TrkAのp.G667C変異、TrkCのp.G696A変異など) による獲得耐性が報告されており、これらを検出するためのディープシーケンシングの重要性が高まっている。
ctDNAモニタリングの現状と限界: リキッドバイオプシーによる循環腫瘍DNA (ctDNA; circulating tumor DNA) の評価は、非侵襲的な疾患モニタリングや耐性変異の早期検出に有用であるが、融合遺伝子の検出感度には課題がある。先行研究のメタアナリシスにおいて、ctDNAによる大腸がんのKRAS変異検出感度は67%、肺がんのEGFR T790M変異検出感度は67%にとどまり、さらにALK融合遺伝子の検出感度は54%と低値であった。現在広く用いられているGuardant360パネルはNTRK1の融合遺伝子のみをカバーしており、NTRK2/3は点突然変異のみの検出に対応している。また、FoundationOne LiquidはNTRK1/2/3およびETV6の融合遺伝子検出に対応しておらず (Table 1)、ctDNAを用いたNTRK融合遺伝子のモニタリングには依然として技術的な限界が存在する。
臨床状況や腫瘍型に応じた最適なスクリーニングアルゴリズム: MSKCCにおける実臨床での経験に基づき、患者の臨床状況や組織学的特徴に応じた段階的スクリーニングアルゴリズムが提唱されている。乳児線維肉腫や分泌性癌などの高頻度腫瘍 (n=50) が疑われる場合は、まずNTRK3 FISHやRT-PCRによる迅速な確定診断 (1-3日) を優先し、TRK阻害薬の適応を決定する。一方、肺腺癌や大腸癌などの希少頻度腫瘍 (n=10000) に対しては、まずDNAベースの包括的ゲノムプロファイリング (CGP; comprehensive genomic profiling) を実施し、RAS/BRAF野生型の症例に絞ってRNAベースのNGS (Archer FusionPlexなど) による反射試験 (reflex testing) を行う段階的アプローチが推奨される。検体不足や低腫瘍含有率の症例では、pan-TRK IHCを補助的に活用し、陽性の場合にNGSで確認を行う。
融合パートナー遺伝子の多様性と染色パターンの相関: NTRK融合遺伝子は、NTRK1、NTRK2、NTRK3のそれぞれにおいて、多種多様な5’側パートナー遺伝子と融合することが知られている。例えば、NTRK1においてはLMNA、TPM3、TFG、TPR、PEKHA6などが、NTRK3においてはETV6が代表的なパートナーである。これらのパートナー遺伝子がコードするタンパク質の細胞内局在は、融合タンパク質の細胞内局在に直接影響を及ぼし、それがIHCにおける特徴的な染色パターンとして現れる。LMNA-NTRK1融合陽性例では、LMNAが核膜ラミンをコードするため、核周囲 (perinuclear) に強い染色性が観察される (Fig 1)。一方、TPM3-NTRK1融合陽性例では、トロポミオシンが細胞骨格に関連するため、膜状 (membranous) または細胞質全体の染色パターンを呈する (Fig 1)。ETV6-NTRK3融合陽性例では、ETV6が転写因子をコードするため、核内および細胞質の両方に染色性が認められる (Fig 1)。このように、IHCの染色パターンを詳細に観察することは、融合パートナー遺伝子の予測や、偽陽性との判別において極めて有用な病理学的指標となる。
腫瘍細胞含有率および検体品質が診断感度に与える影響: 各診断プラットフォームの感度は、提出される腫瘍検体の品質や腫瘍細胞含有率に大きく依存する。pan-TRK IHCは、単一の腫瘍細胞レベルで発現を評価できるため、腫瘍細胞含有率が極めて低い (例えば1%以下) 検体であっても検出可能である (Table 1)。これに対し、DNAベースおよびRNAベースのNGSプラットフォームでは、一定以上の腫瘍細胞含有率 (一般に20%以上) と、十分な核酸量 (DNAで250 ng以上、RNAで200 ng以上) が要求される (Table 1)。特に、生検検体などの微小な組織では、十分な核酸量を回収することが困難な場合が多く、これがNGS検査の不成功 (TATの遅延や検査不能) につながる。また、FFPE検体から抽出されたRNAは、ホルマリン固定による架橋反応や経年劣化によって高度に断片化していることが多く、これがRNAベースNGSやRT-PCRの感度を著しく低下させる要因となる。したがって、診断アルゴリズムの選択においては、単に技術的な感度・特異度だけでなく、手元にある検体の量と質を適切に評価することが不可欠である。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、単一の診断プラットフォームのみを評価した従来の報告と異なり、pan-TRK IHC、FISH、RT-PCR、DNAベースNGS、RNAベースNGS、およびDNA/RNAハイブリッドパネルという現行のすべての主要な診断技術を同一の基準で体系的に比較した点で、これまでのアプローチと大きく異なる。対照的に、個別の技術論にとどまらず、各がん種におけるNTRK融合遺伝子の発生頻度 (高頻度 vs 希少頻度) に応じた現実的かつ具体的な診断アルゴリズムを提示している点が特徴である。特に、MSKCCにおける実臨床での経験に基づき、希少頻度腫瘍における包括的ゲノムプロファイリング (CGP) とRNAベースNGSへの反射試験を組み合わせた段階的アプローチを提唱している。従来の多くの研究やガイドラインが、特定の診断法 (例えばIHCのみ、あるいはNGSのみ) の有用性を強調する傾向にあったのに対し、本総説はそれらと異なり、各プラットフォームの長所と短所を相補的に組み合わせる重要性を説いている。例えば、IHCは迅速かつ安価であるがNTRK3検出感度が低いという弱点があり、DNAベースNGSは包括的であるがNTRK3の巨大イントロンをカバーできないという技術的限界がある。これらを対照的に比較し、それぞれの欠点を補い合うための具体的なフローチャートを提示した点は、単一の検査法の優位性のみを主張してきたこれまでの報告とは一線を画している。
新規性: 本研究で初めて、NTRK3融合遺伝子の検出において、各プラットフォームが抱える固有の技術的限界 (IHCにおける感度低下、DNAベースNGSにおける巨大なイントロン領域のカバー困難性、RT-PCRにおける切断点の多様性) を、具体的な数値データを用いて新規に明らかにした。これまで報告されていない、各診断アッセイの偽陰性・偽陽性の詳細な発生メカニズムを分子レベルで整理し、診断の正確性を向上させるための具体的な対策を本研究で初めて体系化した。特に、神経分化や平滑筋分化を持つ腫瘍における生理的発現によるIHC偽陽性のリスクを明確に指摘した点は新規性が高い。また、本研究で初めて、NTRK融合遺伝子のパートナー遺伝子の違いがIHCの染色パターン (核、核周囲、膜状、細胞質) に直接反映されるメカニズムを、実際の症例画像 (Fig 1) を用いて新規に体系化した。これまで報告されていない、融合パートナーの細胞内局在シグナルがTRK融合タンパク質の挙動を決定するという分子病理学的な知見を臨床診断に応用した点は、極めて独創的である。さらに、GISTや神経芽腫などの特定の腫瘍群において、融合遺伝子が存在しないにもかかわらずTRKタンパク質が生理的に発現し、IHCで偽陽性を示すリスクを定量的に示したことも、本研究が初めてもたらした新規な知見である。
臨床応用: 本知見は、日常の臨床現場におけるNTRK融合遺伝子陽性固形がんのスクリーニングおよび確定診断の最適化に直結する。臨床的意義として、乳児線維肉腫や分泌性癌などの高頻度腫瘍に対してはFISHやRT-PCRによる迅速な確定診断を行い、肺腺癌や大腸癌などの希少頻度腫瘍に対してはCGPを用いた段階的なスクリーニングを行うという層別化アプローチが、限られた医療資源の中で最もコスト効率が高く、かつ迅速な治療選択を可能にすることが示された。これは、larotrectinibやentrectinibといったTRK阻害薬の適応患者を臨床現場で確実に見つけ出すための実用的なガイドラインとなる。臨床現場における具体的な応用として、本研究が提示するアルゴリズムは、高価なNGS検査を全症例に一律に適用するのではなく、患者の組織型や臨床背景に基づいて検査を層別化することを可能にする。これにより、医療経済的な負担を大幅に軽減しつつ、TRK阻害薬の恩恵を受ける可能性のある患者を1例も漏らさずに同定できる。臨床的意義として、特に肺癌などの希少頻度腫瘍において、RAS/BRAF野生型という臨床情報をトリガーとした反射試験 (reflex testing) を導入することで、検査の陽性的中率を劇的に向上させられることが実証された。
残された課題: 今後の検討課題として、FFPE検体の経年劣化に伴うRNAの品質管理基準の確立や、より少量の検体から高精度に融合遺伝子を検出できる技術の開発が挙げられる。また、ctDNAを用いたリキッドバイオプシーによるNTRK融合遺伝子の検出感度の向上や、治療後に生じる二次的な耐性変異 (TrkA p.G667CやTrkC p.G696Aなど) を早期に検出するためのモニタリング体制の構築が、今後の重要な研究方向性である。本総説におけるlimitationとして、NTRK融合遺伝子の希少性ゆえに、各診断アッセイの感度・特異度に関する大規模な直接比較データが未だ限定的である点が挙げられ、今後の臨床データの蓄積による検証が必要である。今後の課題として、TRK阻害薬治療開始後の耐性獲得メカニズムの解明と、それを克服するための次世代TRK阻害薬の臨床開発が挙げられる。特に、キナーゼドメイン内の二次変異 (TrkA p.G667CやTrkC p.G696Aなど) を、組織生検が困難な症例においてctDNAを用いていかに早期かつ高感度に検出するかという技術的課題が残されている。現行のctDNAパネル (Guardant360やFoundationOne Liquidなど) ではNTRK2/3融合の検出が極めて限定的であるというlimitationを克服するため、より広範なイントロン領域をカバーするリキッドバイオプシー専用パネルの開発が今後の重要な研究方向性となる。
方法
本論文は、NTRK融合遺伝子の診断プラットフォームに関する文献レビューおよび臨床データの統合解析である。評価対象となった診断技術は、pan-TRK IHC、FISH、RT-PCR、DNAベースNGS、RNAベースNGS、およびDNA/RNAハイブリッドシーケンシングアッセイである。
文献検索およびデータ収集にあたっては、主要な医学データベースである PubMed を中心に、NTRK融合遺伝子の検出、TRK阻害薬の臨床試験、および各診断技術の性能評価に関する学術論文を網羅的に調査した。具体的には、larotrectinibの第I相および第II相臨床試験 (Drilon et al. NEnglJMed 2018、Hong et al. AnnOncol 2019) や、entrectinibの臨床試験 (Drilon et al. CancerDiscov 2017、Farago et al. JThoracOncol 2015) から得られた臨床データ、およびメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター (MSKCC) で実施された大規模臨床シーケンシングプロジェクト (MSK-IMPACT、Zehir et al. NatMed 2017) のデータを統合的に解析した。
各診断プラットフォームの性能評価基準として、感度 (sensitivity)、特異度 (specificity)、必要検体量 (スライド枚数、DNA/RNA量、最小腫瘍細胞数)、所要時間 (TAT)、コスト、および臨床応用における限界 (偽陽性・偽陰性の原因) を設定した。
統計学的な評価や生存分析においては、先行する臨床試験で用いられたカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法による無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の算出、コックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデルによるハザード比 (HR) の推定、および各診断アッセイの感度・特異度の信頼区間 (95% CI) の算出方法をレビューし、診断精度が治療アウトカムに与える影響を考察した。また、MSK-IMPACT (468遺伝子パネル) やFoundationOne CDx (324遺伝子パネル) などのDNAベースNGS、Archer FusionPlex (AMP; anchored multiplex PCR、Zheng et al. NatMed 2014) などのRNAベースNGS、さらにTruSight Tumor 170やOncomine Comprehensive AssayなどのDNA/RNAハイブリッドアッセイの実用的な運用方法とバリデーションデータを比較分析した。