• 著者: Planchard D, Kim TM, Mazieres J, Quoix E, Riely G, Barlesi F, Souquet PJ, Smit EF, Groen HJM, Kelly RJ, Cho BC, Socinski MA, et al.
  • Corresponding author: Bruce E. Johnson (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-04-11
  • Article種別: Original Article (Phase 2 single-arm trial)
  • PMID: 27080216

背景

BRAF は RAF/MEK/ERK シグナル経路のセリン・スレオニンキナーゼであり、Val600Glu (valine-to-glutamate substitution at codon 600) 置換を引き起こす BRAF V600E 変異は、腫瘍細胞の増殖・生存を駆動する活性化変異として知られる。Davies ら (Nature 2002) がヒトがんにおける BRAF 変異を初めて系統的に記載して以降、NSCLC においても BRAF 変異が肺腺癌の約2-4%に存在し、そのうち約50%が V600E 変異であることが報告された (Paik et al., J Clin Oncol 2011)。BRAF V600E 変異を有する NSCLC 患者は、野生型 BRAF 患者と比較してプラチナ製剤ベース化学療法への反応率が低く、全生存期間も短い傾向が示されていた (Marchetti et al., J Clin Oncol 2011)。

標的治療の文脈では、EGFR 変異および ALK 転座を有する NSCLC において各々の阻害薬が高い奏効率と生存延長を示していたが (Mok et al. NEnglJMed 2009Kwak et al. NEnglJMed 2010Shepherd et al. NEnglJMed 2005)、BRAF V600E 変異陽性 NSCLC に対する前向き標的治療試験は存在しなかった。これまでの知見は孤立症例報告・後ろ向きコホート (合計35例) と非黒色腫バスケット試験 (NSCLC n=19、ORR 42%) に限られており、NSCLC 限定での BRAF 阻害療法の奏効・安全性プロファイルは未解明の状態にあった。すなわち、BRAF V600E 変異陽性 NSCLC のみを対象とした専用の前向き試験が手薄であり、dabrafenib の系統的な有効性・安全性エビデンスが不足していたことが本試験実施の直接的な動機となった。dabrafenib はメラノーマにおいてすでに BRAF V600E 変異に対する選択的阻害薬として米国・欧州で承認されており、NSCLC への拡張応用の根拠が求められていた。

目的

BRAF V600E 変異陽性進行 NSCLC 患者 (既治療例を主対象、未治療例を探索的対象) における dabrafenib 単剤の臨床的抗腫瘍活性と安全性を評価すること。

結果

奏効率と疾患制御 (主要評価項目)

n=84 の登録患者のうち n=78 が既治療例 (主解析対象) であった。中央追跡期間 10.7ヶ月 (IQR 4.5-16.2ヶ月) において、治験責任医師評価による確認 ORR は 33% (26/78例、95% CI 23-45%) であり、全例が部分奏効 (PR) であった (Fig 2)。IRC 評価でも同様に 33% (21/64例、95% CI 22-46%) を示し、うち1例は完全奏効 (CR) であった。奏効の迅速性が特徴的であり、初回評価 (投与開始後6週時点) で奏効が確認されたのは26例中19例 (73%) であった。残りは12週時点で3例、18週2例、24週1例、36週1例と遅発性奏効も認められた。疾患制御率 (確認奏効 + 12週以上の安定病態) は 58% (45/78例) であった (Table 2)。

無増悪生存・全生存期間

生存アウトカムについて、中央 DOR は治験責任医師評価 9.6ヶ月 (95% CI 5.4-15.2ヶ月) vs IRC 評価 9.9ヶ月 (95% CI 4.2-NE) と双方が一致した (Table 2、Fig 3)。中央 PFS は治験責任医師評価 5.5ヶ月 (95% CI 3.4-7.3ヶ月) vs IRC 評価 5.5ヶ月 (95% CI 2.8-6.9ヶ月) と内的一貫性が示された。死亡が n=46 (59%) に達した時点での中央 OS は 12.7ヶ月 (95% CI 7.3-16.9ヶ月) であった。分析時点で n=9 (12%) が引き続き dabrafenib を投与されており、n=69 (88%) が投与を中止していた。dabrafenib の中央曝露量は 4.6ヶ月 (IQR 1.8-11.1ヶ月)、中央 1日投与量は 296.2 mg/日 (IQR 269.1-300.0 mg) であり、意図した 300 mg/日の 98.7% と高いアドヒアランスを維持した。

サブグループ解析と未治療例の探索的結果

後ろ向き (post-hoc) サブグループ解析では、喫煙歴が奏効率に強く影響することが示された (Fig 2 参照)。never smoker ORR 52% (15/29例) vs 30 pack-year 以下の喫煙者 24% (6/25例) vs 30 pack-year 超 21% (5/24例) と、喫煙量増加に伴う奏効率の段階的低下パターンを認めた。前治療ライン数別では、1次治療後の患者で ORR 38% (15/40例)・疾患制御率 65% (26/40例)、2次治療以降の患者で ORR 29% (11/38例)・疾患制御率 50% (19/38例) であり、前治療が少ないほど良好な傾向を示した。

探索的解析として含まれた未治療例 6例では、4例が PR を達成した。各患者の PFS はそれぞれ 4.5、8.6、11.0、16.6ヶ月であり、DOR は 3.2、7.2、9.6、12.5ヶ月であった。奏効なしの2例の PFS は 4.0 および 8.1ヶ月であった。未治療例は少数であるため主解析対象外だが、複数の持続奏効が得られており、ファーストライン設定での dabrafenib 活性を示唆する探索的知見となった。

安全性プロファイル

n=84 のうち n=83 (99%) に何らかの AE が発現した。Grade 3以上の主要 AE は、皮膚扁平上皮癌 (SCC; squamous-cell carcinoma) が n=10 (12%)、無力症 (asthenia) が n=4 (5%)、基底細胞癌 (basal-cell carcinoma) が n=4 (5%) であった (Table 3)。皮膚 SCC の中央発現時期は 13.1週 (IQR 5.1-21.7週) であり、いずれも dabrafenib 継続のまま外科的切除で管理可能であった。重篤な AE (SAE) は n=35 (42%) に発生し、最頻は発熱 (pyrexia) n=5 (6%)、射出率低下 n=2 (2%)、肺炎 n=2 (2%) であった。治療関連と判断された死亡が1例 (factor Xa 阻害薬併用患者の頭蓋内出血、投与開始後2週以内に発症)。投与量関連の対応として、休薬が n=36 (43%)、減量が n=15 (18%) に行われたが、休薬の最多原因は発熱 (pyrexia) n=9 (11%)、悪寒 (chills) n=5 (6%)、嘔吐 n=4 (5%) であった。Grade 1-2 の高頻度 AE は pyrexia n=28 (33%)、角化症 (hyperkeratosis) n=24 (29%)、皮膚乳頭腫 (skin papilloma) n=22 (26%)、食欲低下 n=23 (27%) など皮膚・全身症状が主体であった。

考察/結論

本試験は BRAF V600E 変異陽性 NSCLC のみを専用対象とした最初の前向き第2相試験であり、dabrafenib 単剤が既治療例において ORR 33%・中央 OS 12.7ヶ月を示すことを確立した。これまでの研究では、孤立症例報告・後ろ向きコホート (合計35例) と非黒色腫バスケット試験 (NSCLC n=19) しか存在せず、NSCLC 限定のゲノタイプ選択型前向き試験として、本研究で初めて dabrafenib の系統的な有効性エビデンスが示された点が新規の意義である。

当時の 2次治療標準薬と比較すると、docetaxel や erlotinib による非選択 NSCLC の ORR は約10%、PFS 2-3ヶ月であり (Shepherd et al. NEnglJMed 2005)、dabrafenib の ORR 33%・PFS 5.5ヶ月は明らかに対照的な優位性を示す。また、既報のメラノーマにおける dabrafenib の中央 PFS 5.1ヶ月 (Hauschild et al. Lancet 2012) とも類似した結果であり、ゲノタイプ選択治療の一貫性が確認される。一方、EGFR 変異または ALK 転座を持つ NSCLC では標的療法の ORR が通常 60-80% 超に達することとは相違があり (Mok et al. NEnglJMed 2009Kwak et al. NEnglJMed 2010)、BRAF 単独阻害では ERK→RAF フィードバック活性化 (野生型 BRAF のリン酸化によるリカバリー) が一因となって奏効率が制限される可能性が示唆される。

臨床的意義として、本試験は NSCLC 全例に対する BRAF V600E スクリーニングの重要性を示した。BRAF V600E 変異は EGFR 変異・ALK 転座とは異なり喫煙歴とは無関係に発生するが、ほぼ腺癌に限局するため、喫煙歴非依存のスクリーニング方針が適切である。Never smoker での ORR 52% という高い数値は、腫瘍微小環境の差異または免疫活性の違いを反映している可能性があるが、その機序は不明であり、臨床応用に際しては喫煙歴によって患者を選別しないことが推奨される。

残された課題としては、①本試験で BRAF V600E 変異のセントラル確認が完了していなかったこと、②耐性機序を系統的に評価するための進行時生検が実施されていないこと、③奏効率が EGFR/ALK 阻害薬より低い理由 (MAPK フィードバック再活性化) への対処として MEK 同時阻害の検討が必要なこと、が挙げられる。本試験と並行して開始された dabrafenib + trametinib 併用コホートがその後 ORR 64% を達成しており、今後の検討として MEK 阻害との組み合わせが標準的な BRAF 変異陽性 NSCLC の治療戦略として確立されることが期待される。なお、BRAF 変異は NSCLC の約 1.5% に過ぎず希少性ゆえにランダム化試験が困難であることも、今後の研究設計上の limitation として残される。

方法

試験デザイン: 第2相、多施設共同、非ランダム化、非盲検、単群試験 (NCT01336634)。北米・欧州・アジアの10ヶ国34施設で実施。主解析対象は既治療例 (1次療法以上後に進行した Stage IV BRAF V600E 変異陽性 NSCLC)、探索的対象は未治療例 (2013年4月のプロトコル修正後に追加)。

投与: dabrafenib 150 mg を1日2回経口投与。疾患進行または許容不能な有害事象 (AE) まで継続。Grade 2以上の AE に対してはまず休薬、改善後に100→75→50 mg/日へ段階的減量。

評価項目: 主要評価項目は治験責任医師評価による確認奏効率 (ORR; 完全奏効 (CR) + 部分奏効 (PR))。副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、奏効持続期間 (DOR)、疾患制御率 (disease control rate; DCR)、全生存期間 (OS)、安全性。腫瘍評価は RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1 に基づき、投与開始後6週毎 (36週まで) に CT を実施後12週毎に継続。独立審査委員会 (IRC) による二重評価も実施。

統計: ORR の帰無仮説は「臨床的に意義ある効果なし (ORR ≤10%)」、対立仮説は「臨床的に意義あり (ORR ≥30%)」。Green-Dahlberg の二段階デザイン (type I error 0.038、検出力 92.6%) を採用し、各段階 n=20 で計画。ORR の 95% CI は Clopper-Pearson 法、中央値 PFS/DOR/OS の 95% CI は Kaplan-Meier 法と Brookmeyer-Crowley 法で算出。すべての解析は SAS version 9.4 を用いた。登録期間:2011年8月3日〜2014年2月25日。