- 著者: Skoulidis F, Li BT, Dy GK, Price TJ, Falchook GS, Wolf J, Italiano A, Schuler M, Borghaei H, Barlesi F, Kato T, Curioni-Fontecedro A, Sacher A, Spira A, Ramalingam SS, Takahashi T, Besse B, et al.
- Corresponding author: Ferdinandos Skoulidis (University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA) / Ramaswamy Govindan (Washington University School of Medicine, St. Louis, MO, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-06-05
- Article種別: Original Article (Phase 2 clinical trial)
- PMID: 34096690
背景
KRAS (Kirsten rat sarcoma viral oncogene homologue) のp.G12C変異はNSCLCの約13%を占める最頻度のKRAS変異サブタイプであり、グリシンがシステインに置換されることでKRASタンパク質のGDP (guanosine diphosphate) 結合不活性型に特異的なシステイン残基が生じる。KRAS変異は長らく「undruggable」とされてきたが、構造的・機序的研究の進展により、GDP結合状態に特有のSIIP (Switch II Pocket) を標的とした共有結合型小分子阻害薬の設計が可能となった。sotorasibはこのSIIPに不可逆的に結合し、KRAS G12CをGDP結合不活性型に固定してRAS/MAPK (mitogen-activated protein kinase) 下流経路の過活性化を遮断する、最初の選択的・不可逆的KRAS G12C阻害薬として開発された。
CodeBreaK100第1相試験 (Hong et al. NEnglJMed 2020) では、KRAS p.G12C変異陽性の既治療固形腫瘍患者を対象にsotorasib単剤療法の安全性と有効性が初めて報告され、NSCLCコホートではORR 32.2%・DCR (disease control rate) 88.1%という有望な初期成績が示された。しかしこの第1相データはサンプルサイズが限定的であり、分子サブグループ (特にSTK11・KEAP1共変異) とsotorasib感受性の関連は未解明のままで、臨床的に検証するためのエビデンスが不足していた。
一方、KRAS変異陽性NSCLCの2次治療は依然として不満足な状況が続いていた。プラチナ製剤ベース化学療法後に進行した患者への単剤化学療法 (ドセタキセル、ペメトレキセド) のORRは10%未満・中央PFS (progression-free survival) は4ヶ月未満に留まり (Borghaei et al. NEnglJMed 2015)、ICI (immune checkpoint inhibitor) との第2/3相組み合わせ試験も大きな改善をもたらしていなかった。REVEL試験では2次治療のドセタキセル+ラムシルマブでORR 23%・中央PFS 4.5ヶ月が示されており、これが本試験のベンチマーク応答率として設定された。
さらに、KRAS変異NSCLCにはSTK11・KEAP1・TP53などの共変異が高頻度に認められ、特にSTK11変異はICI (anti-PD-1/PD-L1) に対する原発性耐性を付与することが知られていた (Skoulidis et al. CancerDiscov 2018)。しかし、これらの共変異がKRAS G12C阻害薬への応答性をどう修飾するかは未解明であり、共変異サブグループ別にsotorasib感受性が異なるかを示す臨床エビデンスが根本的に不足していた。KEAP1変異やSTK11変異といった共変異プロファイルがKRAS G12C阻害薬への応答予測において何を意味するかを明らかにするための前向きデータが欠落していたことが、分子層別化精密医療を構築するうえでの主要なギャップとなっていた。
目的
CodeBreaK100第2相試験において、プラチナ製剤ベース化学療法およびICI (anti-PD-1/PD-L1) による標準前治療後に進行したKRAS p.G12C変異陽性の局所進行/転移性NSCLC患者に対するsotorasib単剤療法の有効性 (ORR、DOR、PFS、OS) および安全性を評価する。また、STK11・KEAP1・TP53共変異、PD-L1発現、TMB (tumor mutational burden) とsotorasib奏効の関連を探索的に検討する。
結果
客観的奏効率(主要評価項目):2019年8月〜2020年2月に126例が登録されsotorasibを投与。IRRによる有効性評価対象は124例 (残2例はベースライン測定可能病変なし)。ORRは37.1% (46/124例、95% CI 28.6-46.2)。内訳はCR (complete response) n=4 (3.2%)、PR (partial response) n=42 (33.9%)。疾患制御率 (DCR) は80.6% (100/124例、95% CI 72.6-87.2)。腫瘍縮小は121例中102例 (82.3%) で観察され、奏効例のベースラインからの腫瘍径最大縮小率中央値は60%。本試験の主要評価をクリアし、sotorasib群ORR 37.1% vs 事前設定ベンチマーク23%であり、95% CI下限 (28.6%) がベンチマークを超過した (Table 2)。担当医評価によるORRは44.4% (55/124例) とやや高率であった。
奏効の持続性と生存転帰:奏効46例における奏効までの中央時間は1.4ヶ月 (range 1.2-10.1ヶ月)、中央DORは11.1ヶ月 (95% CI 6.9ヶ月-NE [not evaluable])。奏効例のKaplan-Meier推定奏効持続率は3ヶ月時点90.5% (95% CI 76.7-96.3)、6ヶ月時点70.8% (95% CI 54.3-82.2)、9ヶ月時点57.3% (95% CI 40.4-71.0)。最初の腫瘍評価 (約6週) 時点で奏効した患者は33例 (71.7%)。中央追跡期間15.3ヶ月の時点でも16例 (34.7%) が進行なく治療継続中。中央PFSは6.8ヶ月 (95% CI 5.1-8.2)、6ヶ月PFS率52.2% (95% CI 42.6-60.9)、9ヶ月PFS率37.5% (95% CI 28.4-46.5)。中央OSは12.5ヶ月 (95% CI 10.0ヶ月-NE) であった (Fig 1C, Fig 1D)。
探索的バイオマーカー解析:PD-L1とTMB:PD-L1発現評価可能な86例を解析した (Fig 2A)。PD-L1陰性群 (TPS <1%、n=25) のORRは48% (95% CI 32-63)、TPS 1-49%群のORR 35% (95% CI 22-50)、TPS ≥50%群のORR 45% (95% CI 27-64) であり、PD-L1発現に関わらず広範な奏効が確認された。TMBについて評価可能な84例では、低TMB群 (<10 mutations/Mb、n=57) のORR 42% (95% CI 30-55)、高TMB群 (≥10 mutations/Mb、n=27) のORR 40% (95% CI 16-68) であり、sotorasibの有効性はTMBにも依存しないことが示された。
探索的バイオマーカー解析:共変異サブグループ:共変異評価可能な104例においてSTK11・KEAP1・TP53変異状況とORRの関連を解析した (Fig 2B, Fig 2C)。KEAP1変異陰性かつSTK11変異陽性のサブグループ (n=22) ではORR 50% (95% CI 28-72) vs 全評価集団37.1%を大きく上回った。一方、STK11/KEAP1両変異陽性群 (n=17) のORRは23% (95% CI 5-54) vs KEAP1野生型/STK11変異群50%、STK11野生型/KEAP1変異陽性群 (n=7) のORRは14% (95% CI 0-58) と低率であり、KEAP1変異がsotorasib感受性を最も大きく低下させる共変異として同定された。TP53変異の有無はORRに有意な差をもたらさなかった。なお、これらの探索的解析は統計的検出力を持たず95% CIが各サブグループ間で重複するため解釈には慎重を要する。
安全性プロファイル:全126例のAE (adverse event) を評価した (Table 3)。何らかのGradeのAEが125例 (99.2%) で観察され、最多は下痢 (50.8%)・悪心 (31.0%)・疲労感 (25.4%)・関節痛 (21.4%)・AST (aspartate aminotransferase) 上昇 (21.4%)・ALT (alanine aminotransferase) 上昇 (20.6%)。治療関連AEは88例 (69.8%) に認められ、Grade 3は25例 (19.8%)、Grade 4は1例 (0.8%; 肺炎+呼吸困難)、治療関連Grade 5 AEは0例。主要な治療関連Grade 3以上AEとして下痢 (4.0%)、ALT上昇 (6.3%)、AST上昇 (5.6%)、γ-GT (γ-glutamyltransferase) 上昇 (2.4%) が認められた。治療関連AEによる用量変更は28例 (22.2%)、投与中止は9例 (7.1%) にとどまり、安全性プロファイルは管理可能であった。
考察/結論
本試験はCodeBreaK100第2相試験の主要成績を報告し、sotorasibが既治療KRAS G12C変異陽性NSCLC (n=126、81%がプラチナ+ICI両前治療あり) においてORR 37.1%・中央DOR 11.1ヶ月・中央OS 12.5ヶ月という臨床的に意義ある有効性を示すことを確立した。これは本研究で初めて第2相規模で実証されたKRAS変異NSCLCへの直接標的治療の成功であり、「undruggable」とされてきた40年来の概念を覆す歴史的成果として2021年5月のFDA加速承認の根拠となった。
これまでの研究で標準とされてきた2次治療 (ドセタキセル単剤: ORR <10%・中央PFS <4ヶ月、ドセタキセル+ラムシルマブ: ORR 23%・中央PFS 4.5ヶ月) と異なり、sotorasibによるORR 37.1%・中央PFS 6.8ヶ月は既存化学療法を上回る成績であり、95% CI下限 (28.6%) がベンチマーク23%を超過した。既報のMEK阻害薬selumetinib+ドセタキセルによるKRAS変異NSCLC 2次治療の試み (SELECT-1試験、selumetinib plus docetaxel vs. docetaxel phase III RCT) が有効性を示せなかったことと対照的であり、SIIPへの共有結合を介した直接KRAS G12C阻害という新規アプローチの有効性が初めて臨床的に実証された。また、1次治療でのICI+プラチナ化学療法の普及 (Gandhi et al. NEnglJMed 2018) により多くの患者がICI/プラチナ両方の前治療を受ける現代的な治療環境において、PD-L1発現・TMBに関わらず奏効が得られたことは臨床的意義が高い。
探索的解析においてKEAP1変異がsotorasib耐性の主要予測因子として同定されたことは重要な知見である。KEAP1はNRF2 (nuclear factor erythroid 2-related factor 2) の負の調節因子であり、KEAP1変異によるNRF2過活性化が酸化ストレス応答・細胞生存経路を強化し、KRAS G12C阻害への適応耐性機序として機能すると推察される。一方、既報でICI (anti-PD-1/PD-L1) 治療に対する原発性耐性を付与するSTK11変異は、KEAP1野生型の場合にはsotorasib奏効を大きく損なわない (ORR 50%) ことが示され、sotorasibがSTK11変異/ICI耐性集団にも有効な治療選択肢となり得ることを示唆した。
残された課題として、後続のCodeBreaK200第3相無作為化試験 (sotorasib vs ドセタキセル) ではsotorasibのORR優越性 (28.1% vs 13.2%) が確認されたが、中央PFSの差は限定的 (5.6ヶ月 vs 4.5ヶ月、HR 0.66、p=0.002)、中央OS差は認められず (10.6ヶ月 vs 11.3ヶ月、HR 1.01) 、sotorasibの最終的な臨床的位置付けに関する議論が続いている。さらに活動性脳転移患者は本試験から除外されており、中枢神経系転移に対する有効性は今後の検討が必要である。また、KRAS G12C阻害への獲得耐性機序 (KRAS amplification、BRAF変異、EGFR活性化など) の解明と、MEK・SHP2・EGFR阻害薬との組み合わせ戦略の開発、さらにKEAP1変異陽性集団での代替治療法の確立が今後の研究課題となっている。今後の展望として、KRAS G12C変異NSCLCの分子的多様性に基づく精密医療の実現と、耐性克服を目指したコンビネーション戦略の臨床開発が期待される。limitation として、単群非盲検デザインのため試験間の間接比較に留まり、docetaxelなどの対照群との直接比較は本試験では実施されていない。
方法
CodeBreaK100試験 (NCT03600883) の第2相部分。多施設単群非盲検デザイン。対象はKRAS p.G12C変異陽性 (therascreen KRAS RGQ (Rotor Gene Q) PCR Kitによる中央検査室確認) の局所進行/転移性NSCLCで、anti-PD-1/PD-L1免疫療法またはプラチナ製剤ベース化学療法 (あるいは両方) 後に進行した18歳以上の患者 (ECOG [Eastern Cooperative Oncology Group] PS 0-1、前治療3レジメン以下、RECIST [Response Evaluation Criteria in Solid Tumors] 1.1による測定可能病変あり)。活動性・未治療の脳転移を有する患者は除外。
sotorasibを960 mg/日で経口投与 (1日1回)。疾患進行・許容不能な有害事象・同意撤回まで継続。主要評価項目はIRR (independent radiologic review) によるORR (complete response + partial response、RECIST 1.1)。副次評価項目はDOR (duration of response)、疾患制御率、PFS、OS (全生存期間)、安全性 (CTCAE [Common Terminology Criteria for Adverse Events] v5.0)。奏効割合と95%信頼区間はClopper-Pearson exact法で算出。時間依存的エンドポイント (PFS、OS、DOR) はKaplan-Meier法で集計。sample sizeは105例で、真のORRがベンチマーク23%を超える確率≥90%を保証するよう計算。継続的な安全性評価はデータレビューチームがBayesian predictive probability (ベイジアン予測確率) によるfutility解析を実施。探索的バイオマーカー解析では腫瘍組織NGS (next-generation sequencing) によるKEAP1・STK11・TP53変異状況、PD-L1 TPS (tumor proportion score)、TMBとsotorasib奏効の関連を記述的に評価した。