• 著者: Zofia Piotrowska, Myung-Ju Ahn, Pei Jye Voon, Yong-Kek Pang, Soon Hin How, Sang-We Kim, Diego Cortinovis, Javier de Castro Carpeño, Marcello Tiseo, Delvys Rodríguez Abreu, Suresh S. Ramalingam, Jingyi Li, Leslie Servidio, Rosemary Taylor, Ryan Hartmaier, Aleksandra A. Markovets, Kwan Ho Tang, Byoung Chul Cho
  • Corresponding author: Zofia Piotrowska (Department of Medicine, Massachusetts General Hospital, Boston, Massachusetts)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-03-06
  • Article種別: Original Article (Phase II Clinical Trial)
  • PMID: 41790042

背景

オシメルチニブは第三世代のEGFR-TKI (EGFR tyrosine kinase inhibitor) であり、EGFR変異陽性進行NSCLC (non-small cell lung cancer) において標準的な一次治療薬として確立されている。FLAURA試験 (Soria et al. NEnglJMed 2018) では、オシメルチニブが第一世代EGFR-TKIと比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善し、続くFLAURA OS解析 (Ramalingam et al. NEnglJMed 2020) では全生存期間 (OS) でも優越性が示された。しかし、オシメルチニブによる治療は最終的に後天性耐性を来し、疾患進行に至ることが知られている (Leonetti et al. 2019)。

一次治療オシメルチニブ後の後天性耐性機序については、FLAURA試験のctDNA (circulating tumor DNA) 解析でMET増幅 (16%) およびEGFR C797S変異 (6%) が主要な耐性変化として報告されたが (Chmielecki et al. 2023)、ctDNA解析には本質的な限界が存在する。組織学的転換 (例: 扁平上皮癌化・SCLC転換) を検出できず、コピー数異常に対する検出感度が組織生検より低いことが問題として指摘されている。ORCHARD試験 (a phase II resistance profiling study after first-line osimertinib) のベースライン組織解析では、一次治療オシメルチニブ後のMET増幅頻度が24%とFLAURA ctDNA解析の16%を上回り、組織生検の優位性が示された (Hartmaier et al. 2022)。また後ろ向き解析では、治療前後のペア組織生検を用いることで進行時に15%の扁平上皮癌転換が確認されている (Schoenfeld et al. 2020)。

このように、一次治療オシメルチニブ後の後天性耐性の全貌は未解明な点が多く、前向きかつ治療前後ペア組織生検を用いた大規模研究は不足しており、特にプロテオゲノムレベルでの評価は未実施であることが重大な知識のギャップとして残されていた。さらに、耐性機序に基づく後続治療の最適化のためには、組織生検とctDNAが相補的に担う役割についても体系的な前向き評価が手薄であった。

目的

ELIOS試験 (Evaluating Latent Mechanisms of Osimertinib Resistance; NCT03239340) である本研究の主要目的は、EGFR変異陽性進行NSCLC患者における一次治療オシメルチニブ後の後天性耐性機序を、治療前 (ベースライン) および疾患進行時 (RECIST [Response Evaluation Criteria in Solid Tumors] 1.1定義) のペア腫瘍組織生検を用いたNGS (next-generation sequencing) およびプロテオゲノム解析により前向きに評価することである。副次目的として、オシメルチニブの有効性 (PFS・ORR・DoR・TTD) と安全性の評価、ならびに組織NGSと血漿ctDNA NGSの相補的役割の探索的評価を行った。

結果

ペア組織NGSによる後天性耐性ゲノム変化の同定:ベースライン評価可能生検を提出した126例のうち、データカットオフ時点で91例が疾患進行を経験した。このうちペア組織生検からNGS結果が得られたのは52例 (57%) であり、51例がプロトコル定義上の評価可能ペアを構成した (1例は文書化PD 9日前の生検のためPASには含まれないが翻訳解析には含む)。進行後生検が得られなかった主な理由は、進行後の生検未実施 (n=29) およびベースライン生検評価不可 (n=25) であった (Fig. 1A)。

ペア組織生検NGS結果を有するn=52における後天性遺伝子変化 (進行後に検出されるがベースラインでは認められない変化) は以下の通りであった (Fig. 1B): MET増幅 17%・CDKN2A/CDKN2B欠失 15%・MTAP欠失 13%・EGFR C797S変異 13%。MTAP欠失は全例でCDKN2A/CDKN2B欠失と同時に認められた。NKX2-1 (TTF-1をコードする遺伝子) 増幅が10%のサンプルで後天的に獲得された。TP53変異はベースラインで73%と高頻度に観察されたが、後天的TP53変異獲得は1例のみ。後天的BRAF変異は3例 (G469A n=1・V600E n=2)、ALK再構成が2例に認められた。組織学的転換は52例中5例 (10%) に確認され: 扁平上皮癌転換3例・腺扁平上皮癌転換1例・SCLC転換1例であった。EGFR増幅やCDKN2A/CDKN2B欠失のベースライン検出から進行後での消失・または逆に新規獲得が混在して観察され (Fig. 1C)、正の選択圧に基づく典型的な耐性パターンとは異なる確率的なゲノムイベントを反映していると考えられた。PFSの長さと特定の耐性機序との間に明確な関連パターンは認められなかった。

プロテオゲノム解析による新規タンパク質マーカーの同定:プロテオミクスデータはベースライン n=32 (評価可能ベースラインサンプルの25%)・進行後 n=18 (評価可能進行後サンプルの35%)・ペアサンプル n=6 で取得された。評価した15のプロテオミクスマーカーの中で、TROP2 (trophoblast cell-surface antigen 2) はベースライン・進行後ともに最も高レベルの発現を示し、観察されたゲノム変化の有無に関わらず普遍的な高発現が確認された (Fig. 2A、Fig. 2B)。これはゲノム変異から独立した新規プロテオミクスマーカーとしての重要性を示す。AXL (AXL receptor tyrosine kinase) の発現はペアサンプル n=6 中4例でベースラインから進行後にかけて2-fold以上増加し、MET発現も6例中3例で2-fold以上増加した (Fig. 2C)。MET過剰発現は必ずしもMET増幅と一致せず、非遺伝的なMET発現増加機序の存在が示唆された。唯一のSCLC転換症例では、質量分析によりCD56・SYP (synaptophysin)・クロモグラニンAのSCLC既知マーカー発現が確認された。

組織NGSと血漿NGSの相補的役割:進行後にマッチした組織・血漿NGS結果が利用可能な n=51 における探索的解析で、EGFR感受性変異の組織・血漿間一致率はベースラインで80%・進行後で88%と高値であった (Fig. 3A、Fig. 3B)。一方、コピー数異常では一致度が低く、MET増幅は進行後組織NGSで24% vs. 血漿NGSで8%にとどまった。RAS変異やEGFR C797Sについても進行後の検体では組織・血漿間の一致度が低かった。組織と血漿NGSを組み合わせることで、既知の耐性変化が進行後検体の82%で同定された (Fig. 3C)。これは組織NGS単独での報告値 (41-53%) を大幅に上回る検出率である。組み合わせ解析における耐性機序別頻度 (Fig. 3D): EGFR C797S 27%・MET増幅 24%・PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase) 経路活性化変異 20%・MAPK (mitogen-activated protein kinase) 経路活性化変異 18%・RTK (receptor tyrosine kinase) オンコジェニック再構成 (ALK/RET/FGFR) 6%。複数の耐性変化の共存も多例に認められ、腫瘍内不均一性の高さが示された。

一次治療オシメルチニブの有効性:FAS (Full Analysis Set, n=154) における主要有効性成績: 中央値PFS 16.4カ月 (95% CI 12.7-20.3)。ORR 73% (95% CI 66-80): CR (complete response) 3例 (2%)・PR (partial response) 110例 (71%)。SD (stable disease) ≥8週は32例 (21%)。奏効例n=113のうち92例 (81%) がその後進行または死亡。中央値DoR 18.8カ月 (95% CI 14.2-22.3)、中央値TTD 20.0カ月 (95% CI 16.3-23.8)。探索的解析として、ベースライン血漿EGFRm (sensitizing EGFR mutation) 検出例 (n=111) のPFS中央値は15.7カ月 (95% CI 11.3-20.2) vs. 非検出例 (n=26) での29.4カ月 (95% CI 9.1-44.2) と良好な傾向を示した。ベースラインEGFRm検出例のうち8週時点で消失した94例 (90%) のPFS中央値は19.6カ月 (95% CI 14.3-23.8) であった。

考察/結論

ELIOS試験は、一次治療オシメルチニブ後の後天性耐性機序を前向きペア組織生検・プロテオゲノム解析で評価した試験として、後ろ向き解析やctDNA単独解析が主体であったこれまでの研究と対照的に、組織学的転換を含む多次元的な耐性プロファイリングを前向きに実施した点で重要な意義を持つ。

先行研究との違い: 本試験における後天性EGFR C797S変異の頻度は、組織単独で13%、組織・血漿組み合わせでは27%であり、これまでの一次治療後の報告 (7%未満) と異なり著しく高い値を示した。この差異は、血漿ctDNAがサブクローナルな変異や腫瘍の空間的不均一性をより高感度に反映している一方、組織生検は単一生検部位に限定されるため、真の耐性変異頻度の測定において両者の組み合わせが不可欠であることを示す。また、CDKN2A/CDKN2B欠失やEGFR増幅はベースラインと進行後で獲得・消失が混在して観察され、正の選択圧による耐性駆動とは異なるランダムなゲノムイベントである可能性が示唆された点も既報と対照的な新知見である。

新規性: 本研究で初めて、一次治療オシメルチニブへの後天性耐性の文脈でプロテオゲノム解析が実施された。TROP2がベースラインから進行後にかけてゲノム変異に依存せず普遍的に高発現することが新規に明らかにされ、潜在的な治療標的としての意義を持つ。また、MET過剰発現が必ずしもMET増幅と一致しない点をペアプロテオミクス解析で示し、遺伝子レベルの変化に頼らない発現レベルでのMET評価の重要性を示したことも novel な知見である。NKX2-1増幅が10%の進行後サンプルで後天的に認められ、EGFR変異NSCLCにおけるNKX2-1の腫瘍形成への関与を示す前臨床知見を裏付けた。

臨床的意義と臨床応用: TROP2の普遍的高発現という知見は、TROP2標的ADC (antibody-drug conjugate) であるDato-DXd (datopotamab deruxtecan) とオシメルチニブの組み合わせ療法の臨床的意義を支持するものであり、第III相TROPION-Lung14試験 (NCT06350097) およびTROPION-Lung15試験 (NCT06417814) の科学的根拠と直結する。MET増幅/過剰発現に対するオシメルチニブ+savolitinibの組み合わせ (SAVANNAH試験、Ann Oncol 2025) や、オシメルチニブ+tepotinib (INSIGHT 2試験、Wu et al. LancetOncol 2024) も本研究のMET増幅頻度データを裏付けるものである。組織・血漿NGSの組み合わせによる82%という高い耐性変化検出率は、臨床現場での両アプローチ並用の臨床的意義を強く支持し、後続治療選択の最適化に向けたbench-to-bedsideエビデンスを提供する。さらに、一次治療オシメルチニブ後の後続治療を耐性機序に基づき個別化することで予後が改善するという後ろ向き解析の知見 (Choudhury et al. 2023) とも整合し、包括的耐性検査の臨床的有用性を強調する。

残された課題: 進行後の評価可能ペア生検が当初計画の154例に対し52例にとどまった点が最大の limitation である。これはEGFR-TKI治療中に進行したNSCLC患者での侵襲的組織生検取得の現実世界における困難さを反映する。本研究では限られた遺伝子パネルによるNGSを優先したため、SWI/SNF (SWItch/sucrose non-fermentable) クロマチン複合体関連変異など非遺伝子駆動型耐性機序が見落とされた可能性がある。また、MET増幅の検出にNGSを用いたが、FISH (fluorescence in situ hybridization) がゴールドスタンダードであることからMET増幅頻度が過小評価された可能性も否定できない。MET増幅の定義カットオフは研究によって異なるため、報告頻度の比較には注意が必要である。プロテオミクス解析は組織量制限からサンプル数が限られ、追加の症例蓄積が必要である。今後の検討として、全エクソームシーケンシングや液体生検技術の発展、および組織学的転換の前向き評価プロトコルの確立が今後の研究の重要課題として残されている。

方法

ELIOS試験はイタリア・マレーシア・韓国・スペイン・米国の5カ国26施設で実施された第II相、非盲検、単群試験である。登録期間: 2018年5月30日から2019年5月14日。

適格基準: EGFR変異陽性 (既知のEGFR-TKI感受性変異を有する) 局所進行または転移性の非扁平上皮NSCLC、根治的治療が不可能な患者。WHO PS (performance status) 0または1、進行NSCLCに対する前治療歴なし (アジュバント化学療法は終了から6カ月以上経過していれば許容)。ベースライン組織生検の提出が必須。患者背景 (n=154): 中央値年齢62歳 (範囲35-87)、女性60%、アジア人77%、非喫煙者66%。EGFR変異型: Ex19del 55%・L858R 38%・非定型変異のみ 7% (G719X・L861Q・S768I)。

介入: オシメルチニブ 80 mg/日を連日経口投与。RECIST 1.1定義の疾患進行後も臨床的に有益であると判断された場合は投与継続可。腫瘍評価はベースラインおよびその後8週ごとに実施、3.5年以降は10週ごと。安全性評価はNCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0に基づく有害事象グレード分類を用いた。

組織生検: 治療開始前 (アーカイブまたはスクリーニング60日以内の新鮮組織) と、RECIST 1.1定義の疾患進行から新たな全身治療開始前の間に計2回の必須腫瘍組織生検を実施した。組織NGS: FoundationOne CDxアッセイ (Foundation Medicine Inc.)。MET増幅の定義: 腫瘍倍数性に対してMET遺伝子コピー数が4コピー以上。NGS後に十分な組織が残存した場合、質量分析法 (selected reaction monitoring mass spectrometry、LiquidTissueアッセイ、mProbe) による74種類のタンパク質パネルのプロテオゲノム解析を実施した。プロテオゲノム解析対象: ベースライン32例・進行後18例・ペアサンプル6例。FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 腫瘍ブロックから10 μm 切片を切り出し、DIRECTOR (tissue macrodissection slide system; Expression Pathology Inc.) スライド上で組織マイクロダイセクション後にタンパク質を定量。Micro BCA Protein Assay Kit (Thermo Fisher Scientific) で総タンパク量を正規化し、Pinnacle software (Optys Tech) で解析した。

探索的解析 (血漿NGS): 血漿サンプルはGuardant360 NGSおよびddPCR (droplet digital PCR) (GeneStrat、Biodesix) で解析し、ベースライン119例・進行後51例で組織と血漿のマッチNGS結果を比較した。

統計解析: 主要評価項目 (特定のゲノム/プロテオミクスマーカーを有する患者の割合) は95% Clopper-Pearson正確信頼区間 (CI) で算出。PFS・DoR (duration of response)・TTD (time to treatment discontinuation) はKaplan-Meier法で要約し、組織と血漿NGSの一致度は両方で陽性であったシグナル数をいずれか一方で陽性だったシグナル総数で除して算出。データカットオフ日: 2023年7月18日。PAS (Primary Analysis Set、主要解析セット): 評価可能なペア組織生検 (両時点で有効なNGS結果を有する) を持つ51例 (プロトコル定義上の評価可能ペア)。