- 著者: Christian Rolfo, Elisa Giovannetti, David S. Hong, Trever Bivona, Luis E. Raez, Giuseppe Bronte, Lucio Buffoni, Noemí Reguart, Edgardo S. Santos, Paul Germonpre, Mìquel Taron, Francesco Passiglia, Jan P. Van Meerbeeck, Antonio Russo, Marc Peeters, Ignacio Gil-Bazo, Patrick Pauwels, Rafael Rosell
- Corresponding author: Christian Rolfo (Phase I - Early Clinical Trials Unit, Oncology Department, Antwerp University Hospital, Edegem, Belgium)
- 雑誌: Cancer Treatment Reviews
- 発行年: 2014
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 24953979
背景
肺がんは世界におけるがん関連死亡の主要な原因であり、そのうち非小細胞肺がん (NSCLC) は全体の約85%を占める。2000年代初頭における表皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異の発見は、NSCLCの治療パラダイムを劇的に変化させた。特に、EGFR遺伝子のexon 19欠失変異 (del19) およびexon 21のL858R点変異は、EGFR活性化変異の85%以上を占め、これらは第1世代の可逆的EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) であるgefitinibやerlotinibに対して高い感受性を示すことが Paez et al. Science 2004 などの先行研究によって明らかにされた。
その後、複数のランダム化第III相試験、例えば Mok et al. NEnglJMed 2009 (IPASS試験) や Maemondo et al. NEnglJMed 2010 (NEJ002試験)、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010 (WJTOG3405試験) において、EGFR変異陽性NSCLCに対するファーストライン治療としてのEGFR-TKIの優位性が確立された。さらに、欧州における Rosell et al. LancetOncol 2012 (EURTAC試験) や中国における Zhou et al. LancetOncol 2011 (OPTIMAL試験) でも、erlotinibが標準的なプラチナ製剤併用化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することが実証された。
しかし、これらのEGFR-TKI治療は初期に75%以上の高い奏効率を示すものの、平均10〜14ヶ月でほぼすべての症例において薬剤耐性が不可避的に発生し、病勢が進行する。この耐性現象には、治療開始前から存在する「一次耐性 (primary/de novo resistance)」と、治療の選択圧によって出現する「獲得耐性 (acquired resistance)」の2種類が存在する。一次耐性の機序や、獲得耐性におけるT790M変異、MET遺伝子増幅、上皮間葉転換 (EMT)、小細胞肺がん (SCLC) への組織型転化などの多様なバイパス経路の活性化については、多くの部分が「未解明」であり、臨床現場における克服戦略は「不十分」であった。特に、耐性発生後の治療選択肢は極めて限定されており、個々の患者のゲノムプロファイルに基づいた最適な治療アプローチを確立するための知見が「不足している」ことが、当時の最大の「課題」であった。
目的
本レビューの目的は、EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKIに対する一次耐性および獲得耐性の多面的な分子生物学的メカニズムを体系的に整理し、それぞれの耐性機序に対応する新規治療戦略の臨床開発状況を網羅的に検証することである。具体的には、治療前後に検出されるT790M変異の定量的評価とその臨床的・予後的意義を明らかにすることを目的とする。また、BRCA1発現、NF-κBシグナル、BIM遺伝子多型などの一次耐性因子、およびMET/HGF増幅、AXL活性化、HER2増幅、SCLC転化、EMTなどの獲得耐性因子の詳細な機序をレビューする。さらに、これらの耐性機序を克服するために開発された第2世代不可逆的ErbBファミリー阻害薬 (afatinib、dacomitinib) や、T790M変異を選択的に阻害する第3世代EGFR-TKI (AZD9291、CO-1686)、さらにはHSP90阻害薬、mTOR阻害薬、エストロゲン受容体拮抗薬、HDAC阻害薬などの並行経路阻害薬を用いた併用療法の有効性を評価し、個別化医療におけるゲノムガイド下アプローチの有用性を提唱することを目的とする。
結果
T790M変異の一次・獲得耐性における定量的位置づけと予後的価値: T790M変異はEGFR exon 20のgatekeeper変異 (790番スレオニン→メチオニン置換) であり、TKIのATP結合ポケットへの結合を立体阻害するとともに、ATPに対するEGFRの親和性を増大させることで耐性を引き起こす。一次耐性における検出率は、高感度なMALDI-TOF MS (matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry) 法 (検出感度1:100) を用いると治療前の患者の31.5%〜35%に達するのに対し、従来のdirect sequencing法では2.8%にとどまり、検出技術の感度が評価に大きく影響することが示された (Table 1)。EGFR-TKI治療後の獲得耐性例においては、T790Mの検出率が83.3%へと上昇し、治療の選択圧によって治療前から存在した微小なT790M陽性クローンが選択的に増殖することが実証された。
臨床的に重要な点として、T790M陽性患者は陰性患者と比較して病勢進行が緩徐な傾向があり、erlotinib進行後であっても長期生存を達成することが観察されている。また、化学療法を施行した際にも、T790M陽性例は良好なPFSと関連するという報告があり、T790M変異が単なる予後不良因子ではなく、予測的・予後的価値の両側面を有することが明らかになった。
一次耐性に関与する新規バイオマーカー (BRCA1、NF-κB、BIM多型): T790M以外の一次耐性因子として、3つの重要な分子機序が同定された。第一に、BRCA1発現レベルであり、T790M変異共存例においてBRCA1の低発現はerlotinib治療中のPFS延長と関連し、治療選択の指標となり得ることが示された (Table 1)。また、BRCA1と関連腫瘍遺伝子AEG-1 (astrocyte elevated gene-1) の共発現が、野生型EGFR患者の予後マーカーおよびEGFR変異患者のerlotinib応答マーカーになり得ることも示された。第二に、NF-κBシグナル経路の活性化であり、shRNAを用いたスクリーニングによりNF-κBシグナルを抑制するとerlotinib感受性が有意に増強することが示され、臨床検体においてIκB低値 (=NF-κB高活性) がEGFR変異陽性患者のerlotinibに対する応答不良および生存期間の短縮を予測することが確認された (Table 1)。
第三に、BIM (BCL2-like 11) 遺伝子多型および発現レベルである。BIMのエクソン2における欠失多型は東アジア人の12%〜16%に存在し、TKI誘導性アポトーシスに必須のBIM経路を障害して一次耐性をもたらす (Table 1)。また、BIM mRNAの低発現も生存期間短縮のバイオマーカーとして機能する。前臨床研究において、HDAC (histone deacetylase) 阻害薬であるvorinostatがBIMのプロアポトーシスアイソフォームの発現を回復させ、BIM多型に関連する耐性をエピジェネティックに克服できることが示された。
多様な獲得耐性機序 (MET/HGF、AXL、SCLC転化、EMT、CRKL): 獲得耐性の機序は極めて多岐にわたる。T790M変異が50%〜83%で最多を占めるが、それ以外にMET遺伝子増幅が獲得耐性例の約20%に認められ、ErbB3依存的なPI3K/Akt経路のバイパス活性化を介してEGFR-TKI耐性をもたらすことが Engelman et al. Science 2007 により示された (Table 1)。TKI未治療の切除検体でも7%にMET増幅が検出され、EGFR阻害がHGF (hepatocyte growth factor) を介したクローン選択を誘導することが示唆された。また、AXL活性化は獲得耐性例の20% (n=7/35例、うち2例はT790M共存) に認められ、TAM (Tyro3-AXL-Mer) ファミリー受容体チロシンキナーゼであるAXLおよびそのリガンドであるGAS6の増加が耐性に必須であることが実証された (Table 1)。HER2増幅は12% (n=3/26例) に検出され、T790M変異とは相互排他的であった。
さらに、NSCLCからSCLCへの組織型転化が耐性生検の14%に認められ、転化後は元のEGFR変異を維持しつつもT790MやMET増幅を伴わず、エトポシド系化学療法への感受性を示すことが Sequist et al. SciTranslMed 2011 により報告された (Table 1)。EMT (上皮間葉転換) も重要な耐性機序であり、E-cadherinの低下を伴う。MED12の消失がTGFβR2の脱抑制を介してEMT様耐性を誘導する機序も解明された。その他、PIK3CA変異 (約5%)、BRAF変異 (1%)、MAPK1増幅 (5%)、CRKL (crk-like protein) 増幅 (3%)、NF1低発現なども獲得耐性因子として同定された。
第2世代および第3世代EGFR-TKIによる耐性克服効果: ErbBファミリー全体の同時ブロックを目指す第2世代TKIとして、afatinibおよびdacomitinibの臨床成績が評価された。LUX-Lung 1試験 (afatinib vs プラセボ、先行TKIおよび化学療法治療歴あり) では、PFSが有意に延長した (p<0.0001) ものの、OSの有意な改善には至らなかった (afatinib 10.8 vs プラセボ 12.0ヶ月)。しかし、ファーストライン治療としてafatinibと化学療法を比較したLUX-Lung 3試験においては、全体集団における主要評価項目であるPFSが、afatinib群で11.1ヶ月、化学療法群で6.9ヶ月であり、ハザード比 0.58 (95% CI 0.43-0.78, p<0.001) と有意な延長を示した。さらに、サブグループ解析における共通変異 (del19/L858R) 陽性患者群では、afatinib群のPFSが13.6ヶ月、化学療法群が5.6ヶ月であり、ハザード比 0.28 (95% CI 0.18-0.44, p<0.001) と極めて顕著な治療効果が実証された。
第3世代TKIであるAZD9291は、in vitroにおいてT790Mおよび活性化変異を選択的に阻害し、PC9細胞株 (EGFR変異) で250%、H1975細胞株 (L858R+T790M) で132%の腫瘍増殖抑制を示した。第I相試験の初期報告では、20 mg/日投与において約50%のRECIST奏効率が報告された。また、CO-1686もT790M選択的阻害を示し、第I相試験でT790M陽性患者に対して約67%の奏効率を示した。さらに、afatinib+cetuximab併用療法は、T790M陽性例を含むEGFR-TKI難治患者 (n=22例) において、DCR 100%およびPR 36% (8/22例) を達成した (Table 3)。
並行経路阻害薬および新規治療戦略の臨床成績: ErbB経路以外の標的として、HSP90阻害薬 (AUY922) が評価され、EGFR-TKI後進行例 (n=16例) においてORR 13% (2/16例、いずれもT790M陽性) を示し、ALK陽性およびEGFR変異陽性NSCLC全体でORR 18%および推定PFS率34%を達成した (Table 4)。mTOR阻害薬everolimusは、化学療法後NSCLCで7.1%、化学療法+TKI後で2.3%の奏効率を示した。IGF-1R抗体 (figitumumab) は、第II相試験で化学療法との併用により奏効率54% vs 42%と良好な成績を示したが、第III相試験は有効性不十分のため中止された。
エストロゲン受容体拮抗薬fulvestrantとgefitinibの併用療法は、細胞および異種移植モデルで相乗的な増殖抑制を示し、臨床試験が進行中である。HDAC阻害薬entinostatとerlotinibの併用は、E-cadherin高発現患者においてOSを有意に改善した (9.4 vs 5.4ヶ月)。また、局所的な寡進行 (oligoprogression) 病変に対する局所焼灼療法 (LAT; local ablative therapy) とTKI継続の併用戦略は、EGFR変異NSCLC (n=27例) において中央値PFS 6.2ヶ月を示した。さらに、FASTACT-2試験における介在型化学療法+erlotinib併用療法は、EGFR変異陽性例においてPFS 16.8ヶ月およびOS 31.4ヶ月という極めて良好な生存成績を達成した。
考察/結論
先行研究との違い: 本レビューは、単一の耐性因子のみに焦点を当てていた「これまでと」異なり、EGFR-TKIに対する耐性機序を「一次耐性」と「獲得耐性」に体系的に分類し、それぞれの分子生物学的背景と臨床的アプローチを包括的に整理した点で大きく異なる。特に、T790M変異が治療前から高感度検出法 (MALDI-TOF MS) によって31.5%〜35%の頻度で微小クローンとして存在し、治療後に83.3%へと増加するという定量的データを提示したことは、耐性が治療中の新規変異獲得だけでなく、既存クローンの選択圧による増殖 (Darwinian selection) によって生じるという動的な概念を明確に示した点で「対照的」なアプローチである。
新規性: 本レビューは、T790M変異が単なる予後不良因子ではなく、予測的・予後的価値の両側面を持つことを「本研究で初めて」体系的に論じた。また、BIM遺伝子欠失多型が東アジア人の12%〜16%に存在し、これが一次耐性を規定する「新規」のバイオマーカーであること、そしてHDAC阻害薬vorinostatの併用によってこの耐性をエピジェネティックに克服できるという革新的な治療概念を提示した。さらに、AXL活性化やMED12消失に伴うEMT様耐性など、「これまで報告されていない」最新のバイオマーカーやバイパス経路を網羅的に同定した。
臨床応用: これらの知見は、臨床現場における個別化医療の「臨床応用」に直結する極めて重要な「臨床的意義」を持つ。治療前の生検組織における高感度な遺伝子解析だけでなく、治療経過中のゲノムプロファイルの変化を捉えるための再生検 (rebiopsy) や、血漿DNAを用いた低侵襲な液体生検 (liquid biopsy) による動的モニタリングの重要性を強調している。これは、その後に開発・承認された第3世代TKI (osimertinibなど) や、amivantamabなどの多重特異性抗体、さらには第4世代EGFR-TKIの臨床開発における概念的基盤を提供する「translational」な成果である。
残された課題: 「今後の検討課題」として、耐性機序の極めて高い多様性と「腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity)」への対策が「残された課題」として挙げられる。単一の生検サンプルでは腫瘍全体の耐性プロファイルを代表できない可能性があり、これが臨床試験における「limitation」となっている。また、第2世代および第3世代TKIの最適な投与スケジュールや、化学療法、並行経路阻害薬との最適な併用シークエンスの確立は未だ発展途上であり、耐性クローンの出現を遅延させるための高用量パルス療法などの数学的モデルに基づいた新規スケジュールの検証が「今後の研究」において不可欠である。
方法
本レビューの執筆にあたり、著者らは広範な文献検索およびデータ収集を実施した。検索データベースとして、主要な医学・科学文献データベースであるPubMed、Embase、Cochrane Library、およびWeb of Scienceを使用し、2014年年初までに発表された学術論文、臨床試験報告、および主要ながん学会 (ASCO、ESMO、WCLCなど) の発表データを網羅的に検索した。検索キーワードには、“EGFR mutations”, “tyrosine kinase inhibitors”, “resistance mechanisms”, “primary resistance”, “acquired resistance”, “T790M”, “MET amplification”, “epithelial-mesenchymal transition”, “small-cell lung cancer transformation”, “afatinib”, “dacomitinib”, “AZD9291”, “CO-1686”, “HSP90 inhibitors”, “combination therapy” などの論理的組み合わせを用いた。
文献の選択基準として、EGFR変異陽性NSCLCにおけるTKI耐性機序を解明した基礎研究、トランスレーショナルリサーチ、および耐性克服を目指した新規薬剤の第I相〜第III相臨床試験を対象とした。臨床試験の評価においては、主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) や全体生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR) のデータを抽出し、Kaplan-Meier法による生存曲線、log-rank検定による有意差検定、およびCox比例ハザード回帰分析 (Cox regression) によるハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) の算出方法などの統計解析手法の妥当性を検証した。
また、検証された臨床試験の識別子として、afatinib+cetuximab併用療法の試験 (NCT01090011)、dacomitinibの第II相試験 (NCT00818441)、MET阻害薬onartuzumabの第III相METLung試験 (NCT01456325)、onartuzumab+erlotinibの第III相試験 (NCT02031744)、olaparib+gefitinib併用療法の試験 (NCT01513174)、およびTKI継続+化学療法のIMPRESS試験 (NCT01544179) などのデータを詳細にレビューした。