- 著者: Jenn-Yu Wu, Chong-Jen Yu, Yeun-Chung Chang, Chih-Hsin Yang, Jin-Yuan Shih, Pan-Chyr Yang
- Corresponding author: Jin-Yuan Shih (Department of Internal Medicine, National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-04-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 21531810
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) において、上皮成長因子受容体 (EGFR) 変異は、チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるゲフィチニブやエルロチニブに対する治療効果を予測する重要なバイオマーカーとして広く認識されている。特に、エクソン19欠失とL858R変異は「古典的変異 (classical mutation)」として知られ、全EGFR変異の50%から90%を占め、TKIに対して高い感受性を示すことが多くの研究で報告されている (Paez et al. Science 2004、Shigematsu et al. JNatlCancerInst 2005、Mok et al. NEnglJMed 2009)。これらの変異を持つ患者は、TKI治療により顕著な奏効と生存期間の延長を享受できることが確立されている。
一方で、T790M変異はTKI耐性に関連することが知られており、de novo変異として存在する場合や、TKI治療後に獲得される二次変異として出現する場合がある (Pao et al. PLoSMed 2005、Balak et al. ClinCancerRes 2006)。また、エクソン20挿入変異もTKIに対する一次耐性を示すことが報告されており、これらも臨床的意義が明確な変異として分類される。
しかし、E709、G719、S768、L861などのアミノ酸置換を含む「uncommon EGFR mutations (稀少EGFR変異)」と呼ばれる一群の変異は、症例数が少なく、その臨床的意義、特にTKI治療への反応性との関連については、これまで十分なデータが不足しており、未解明な点が多かった。これらのuncommon変異は、単独で存在する場合もあれば、複数の変異が同時に存在する複合変異 (complex mutation) として検出されることもあり、その生物学的挙動やTKIに対する反応性が不均一である可能性が示唆されていた。これまでの研究では、uncommon変異は散発的に報告されるに留まり、大規模なコホートでの系統的な解析が手薄であったため、これらの変異を持つNSCLC患者に対する最適な治療戦略を確立するための知識が不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、大規模な非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者コホートにおいて、uncommon EGFR変異の頻度、分布、および臨床病理学的特徴を詳細に明らかにすることである。さらに、これらのuncommon EGFR変異がEGFR-TKI (ゲフィチニブおよびエルロチニブ) 治療に対してどのような反応性を示すかを、古典的変異、T790M変異、エクソン20挿入変異、および野生型EGFRと比較検討することを目指した。特に、uncommon変異の中でもG719およびL861変異を含むサブグループと、それ以外のuncommon変異との間でTKI効果に差があるかを評価し、uncommon変異の多様な構成がTKI反応性に与える影響を解明することを目的とした。これにより、uncommon EGFR変異を持つNSCLC患者に対する個別化された治療戦略の確立に貢献する。
結果
EGFR変異の全体分布とuncommon変異の頻度: 1,261例のNSCLC患者のうち、627例 (49.8%) がEGFR変異陽性であった。その内訳は、エクソン19欠失がn=258 (41.1%)、L858R変異がn=260 (41.5%)、エクソン20挿入/重複変異がn=25 (4.0%)、de novo T790M変異がn=6 (1.0%、全てL858Rとの複合変異)、そしてuncommon変異がn=78 (12.4%) であった。uncommon変異群は、古典的変異群と比較して男性 (48.7% vs 37.3%、P=0.053) および喫煙者 (28.2% vs 19.9%、P=0.092) の割合がやや高い傾向を示した (Table 1)。
uncommon変異コホートにおけるTKI治療効果: uncommon変異陽性患者n=78例中n=62例がEGFR-TKI治療 (ゲフィチニブn=51例、エルロチニブn=11例) を受けた。この群全体の客観的奏効率 (ORR) は48.4% (30/62)、病勢コントロール率 (DCR) は62.9% (39/62) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は5.0ヶ月 (範囲 0.2-37.5ヶ月)、全生存期間 (OS) 中央値は15.0ヶ月 (範囲 1.1-59.3ヶ月) であった。古典的変異群と比較すると、uncommon変異群のORRは有意に低かった (47.5% vs 74.1%、p<0.001)。しかし、PFS中央値 (5.0ヶ月 vs 8.5ヶ月、HR 0.81, 95% CI 0.58-1.13, p=0.101) およびOS中央値 (15.0ヶ月 vs 19.6ヶ月、HR 0.90, 95% CI 0.65-1.25, p=0.477) に統計的有意差は認められなかった (Figure 1, Figure 2)。一方、野生型EGFR群と比較すると、uncommon変異群はORR (47.5% vs 16.5%、p<0.001)、PFS中央値 (5.0ヶ月 vs 2.0ヶ月、HR 0.44, 95% CI 0.32-0.60, p<0.001)、OS中央値 (15.0ヶ月 vs 10.4ヶ月、HR 0.69, 95% CI 0.49-0.97, p=0.030) の全てにおいて有意に良好な結果を示した (Table 2)。
G719およびL861変異サブグループのTKI反応性: uncommon変異群のうち、G719変異 (G719A/C/D/S) はn=15例 (単独n=8例、複合n=7例) に、L861変異 (L861Q/R) はn=15例 (単独n=7例、複合n=8例) に認められた。G719変異単独/複合群のORRは53.3% (8/15)、PFS中央値は8.1ヶ月、OS中央値は16.4ヶ月であった。L861変異単独/複合群のORRは60.0% (9/15)、PFS中央値は6.0ヶ月、OS中央値は15.2ヶ月であった。G719とL861変異を合わせた群では、ORRは57.1%、PFS中央値は6.0ヶ月であり、これは古典的変異群よりは劣るものの、uncommon変異の他のサブタイプと比較して有意に良好なTKI反応性を示した (Table 4)。
G719/L861以外のuncommon変異の反応不良: 古典的変異との複合を含まず、かつG719またはL861変異も含まないuncommon変異を持つn=15例の患者では、TKIに対する反応が著しく不良であった。この群のORRは20.0% (3/15) に留まり、PFS中央値はわずか1.6ヶ月、OS中央値は11.1ヶ月であった。G719/L861変異群と比較して、この群のPFSは有意に短縮していた (1.6ヶ月 vs 6.0ヶ月、HR 0.45, 95% CI 0.27-0.75, p=0.002)。この群にはL747P (n=2例、いずれもPD)、V769M+exon 19 del (n=1例、PD)、A871E+L858R (n=1例、PD)、T847I、V851I、V774M、F784F、K806E、N826Y、N842Sなどの変異が含まれ、一部はde novo耐性変異として同定された (Table 3)。
複合変異の解析: TKI治療を受けたuncommon変異患者n=62例中n=32例が複合変異を有していた。E709変異 (n=5例) およびS768変異 (n=4例) は単独では存在せず、常に他の変異との複合として検出された。E709はL858RまたはG719との複合、S768はG719またはL858Rとの複合が多い傾向にあった。古典的変異との複合変異を持つn=20例では、ORR 60%、PFS中央値5.3ヶ月、OS中央値18.8ヶ月と比較的良好な反応を示し、古典的変異の存在がTKI反応性を規定する傾向が示唆された。
エクソン20挿入/重複変異およびde novo T790M変異のTKI反応性: エクソン20挿入/重複変異を持つn=25例中n=11例がTKI治療を受け、ORRは0%、PFS中央値は1.4ヶ月、OS中央値は4.8ヶ月であった。これはuncommon変異群と比較して明らかに反応不良であった (ORR 0% vs 47.5%、p=0.003;PFS 1.4ヶ月 vs 5.0ヶ月、HR 0.30, 95% CI 0.15-0.60, p<0.001)。De novo T790M変異 (全てL858Rとの複合) を持つn=6例中n=4例がTKI治療を受け、全例がPDとなり、ORRは0%、PFS中央値は1.2ヶ月であった。
考察/結論
本研究は、台湾のNSCLC患者1,261例という大規模コホートにおいて、uncommon EGFR変異78例 (全EGFR変異の12.4%) の臨床病理学的特徴とEGFR-TKI治療への反応性を系統的に解析した最大規模の研究である。本研究の結果は、uncommon EGFR変異が一括りにはできない不均一な集団であり、TKIに対する反応性が多様であることを明確に示した。
先行研究との違い: これまでの研究ではuncommon変異の症例数が少なく、その臨床的意義が十分に確立されていなかったが、本研究は大規模コホートでuncommon変異のサブグループごとのTKI反応性を詳細に評価した点で、これまでの報告と異なり、より強固なエビデンスを提供した。特に、G719およびL861変異が古典的変異よりは劣るものの、TKIに対して比較的良好な反応性 (ORR 57.1%、PFS中央値6.0ヶ月) を示すことを明らかにし、これらの変異を「TKI感受性変異」として分類すべきであることを支持する。この知見は、Kancha et al. (2009) のin vitro実験でG719SやL861QがL858Rやエクソン19欠失よりも高いTKI濃度を要するものの感受性を維持することを示した結果と整合している。
新規性: 本研究で初めて、G719およびL861変異以外のuncommon変異 (例: L747P、V769M、A871E、T847I、V851Iなど) がTKIに反応不良 (ORR 20.0%、PFS中央値1.6ヶ月) であり、野生型EGFRと同等の低反応性を示すことを大規模コホートで新規に同定した。また、E709およびS768変異が単独で存在せず常に複合変異として検出されること、そして古典的変異との複合変異 (例: S768I+L858R、G719+L861) が比較的良好な反応を示す一方、V769MやA871Eなどの特定の変異が古典的変異と併存してもTKI耐性を呈する可能性 (dominant-negativeな耐性変異として機能する可能性) を示唆した点は、これまで報告されていない重要な新規知見である。
臨床応用: 本知見は、uncommon EGFR変異を持つNSCLC患者の治療戦略を個別化するための臨床応用において極めて重要な意義を持つ。uncommon変異を一括りにせず、G719/L861変異を持つ患者にはTKI治療を考慮し、それ以外のuncommon変異を持つ患者には化学療法や他の治療選択肢を検討すべきであることを示唆する。この結果は、その後のLUX-Lung 2/3/6統合解析におけるアファチニブの適応拡大や、NCCN・ESMOガイドラインにおけるuncommon変異の取り扱いに関する推奨の根拠の一つとなった。
残された課題: 本研究の限界は、後方視的デザインであること、単一施設 (台湾) のデータであること、個々のuncommon変異の症例数が依然として少ないこと、およびアファチニブやオシメルチニブなどの新世代TKIに関するデータが欠如している点である。今後の検討課題として、COSMICデータベースなどを通じた稀少変異情報の国際的な集積と、多施設共同による大規模前向き研究での検証が残されている。これにより、エクソン20挿入変異特異的薬剤 (モボセルチニブ、アミバンタマブ) やG719/L861変異に対するアファチニブの適応拡大など、個別化医療のさらなる進展が期待される。
方法
患者選定: 2000年1月から2009年12月までの期間にNational Taiwan University Hospitalで非小細胞肺癌 (NSCLC) と診断された患者1,261例のEGFR変異状態を解析対象とした。本研究は後方視的コホート研究として実施された。検体は、手術切除組織 (n=464)、細針生検 (fine-needle biopsy) (n=396)、胸水 (pleural effusion) (n=401) から採取された。全患者は、気管支鏡検査、頭部・胸部・腹部CT、全身骨シンチグラフィーを含む完全な病期診断を受けていた。臨床データとして、人口統計学的情報、パフォーマンスステータス、喫煙歴、癌細胞型、画像診断結果がレビューされた。非喫煙者は生涯で100本未満の喫煙歴を持つ者と定義された。本研究は病院の倫理委員会により承認され、組織の分子解析への使用について患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。
EGFR変異解析: ホルマリン固定パラフィン包埋組織 (FFPE) からQIAamp DNA Mini Kit (Qiagen) を用いてDNAを抽出した。EGFR遺伝子のチロシンキナーゼドメインをコードするエクソン18、19、20、21をPCRおよびRT-PCRで増幅し、ABI Prism 3100または3700 DNA Analyzer (Applied Biosystems) でダイレクトシークエンスを行った。全てのシークエンス反応は、少なくとも2回のPCRから得られたトレースを用いて、フォワードおよびリバースの両方向で実施された。腫瘍含有率が80%以上の組織サンプルが選択され、マクロダイセクションが用いられた。
TKI治療と効果評価: ゲフィチニブ (250 mg/日) またはエルロチニブ (150 mg/日) が経口投与された。治療効果はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準に従って評価され、胸部X線は2〜3週ごと、胸部CTは2〜3ヶ月ごとに実施された。完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、安定 (SD)、進行 (PD) が定義され、PRまたはCRの患者はレスポンダーとされた。病勢コントロール率 (DCR) はCR+PR+SDとして算出された。
エンドポイント: 主要評価項目は、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) であった。PFSはTKI治療開始日から病勢進行または死亡までの期間、OSはTKI治療開始日から死亡またはデータカットオフ日までの期間と定義された。
統計解析: カテゴリカル変数はχ²検定またはFisher’s exact testを用いて解析され、連続変数はStudent’s t testを用いて比較された。PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定され、群間の比較にはログランク検定が用いられた。全てのP値は両側検定であり、p<0.05が統計的に有意とみなされた。統計解析はSPSSソフトウェア (バージョン13.0; SPSS Inc.) を用いて実施された。