• 著者: Yuichiro Ohe, Fumio Imamura, Naoyuki Nogami, et al.
  • Corresponding author: Yuichiro Ohe (National Cancer Center Hospital, Tokyo)
  • 雑誌: Japanese Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30508196

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対する第一・二世代EGFR-TKI(gefitinib、erlotinib)は、日本を含む複数のランダム化比較試験において化学療法に対する優越性を確立し、一次治療の標準治療として広く定着している。例えば、Maemondo et al. NEnglJMed 2010Mitsudomi et al. LancetOncol 2010の研究は、これらの薬剤がPFSを大幅に延長することを示した。しかし、これらの薬剤のPFS中央値は通常10〜12ヶ月にとどまり、大多数の患者は治療開始から1年以内にT790M耐性変異を中心とした獲得耐性を発現することが課題として認識されていた(Oxnard et al. ClinCancerRes 2011Yu et al. ClinCancerRes 2013)。このT790M変異に対する効果的な治療オプションの不足が、臨床現場における重要な課題として残されていた。

第三世代EGFR-TKIであるosimertinibは、感作変異(exon 19 deletionおよびL858R)とT790M耐性変異の両方に対して強力かつ選択的な阻害活性を持つことが、前臨床研究(Cross et al. CancerDiscov 2014Ballard et al. ClinCancerRes 2016)および臨床試験(Mok et al. NEnglJMed 2017)で示されている。国際共同第III相FLAURA試験(全体N=556)では、osimertinibが一次治療としてgefitinibまたはerlotinibと比較して、PFS中央値を18.9ヶ月 vs 10.2ヶ月(ハザード比 [HR] 0.46、95%信頼区間 [CI] 0.37-0.57、p<0.0001)と有意に延長することが報告された(Soria et al. NEnglJMed 2018)。

日本人はNSCLC患者におけるEGFR変異陽性率が他の人種と比較して高い集団の一つであり、EGFR-TKI治療における間質性肺疾患(ILD)などの毒性リスクが他の人種と異なる可能性が指摘されてきた。このため、日本人集団におけるosimertinibの有効性と安全性を詳細に評価することは極めて重要である。これまでの研究では、日本人患者におけるEGFR-TKIの安全性プロファイル、特にILDの発生頻度に関して、他の集団とは異なる傾向が示されており、新規薬剤の導入に際しては、この点が常に懸念事項として残されていた。特に、日本人集団におけるosimertinibのILD発生率に関する詳細なデータは未解明であり、この知識ギャップを埋めることが臨床的意義を持つ。本報告は、FLAURA試験の日本人サブセット(n=120)における有効性および安全性の事前設定解析であり、日本人患者におけるosimertinibの一次治療としての位置づけを確立するための重要なデータを提供するものである。

目的

FLAURA試験の日本人サブセットを対象に、osimertinibと標準治療であるgefitinibを比較し、その有効性(主要評価項目である無増悪生存期間 [PFS]、副次評価項目である全生存期間 [OS]、客観的奏効率 [ORR]、奏効期間 [DoR])および安全性(特に間質性肺疾患 [ILD])を事前設定サブグループ解析として評価することを目的とする。本解析は、日本人EGFR変異陽性進行NSCLC患者におけるosimertinibの一次治療としての臨床的有用性を明確にすることを意図している。具体的には、PFSの延長効果が日本人集団においても全体集団と同様に認められるか、また日本人患者で特に懸念されるILDの発生率がosimertinib群で増加しないかを確認する。さらに、ORRやDoRといった他の有効性指標についても、日本人集団におけるosimertinibの優位性を評価する。OSデータは本解析時点では未成熟であったが、その傾向についても言及し、日本人患者におけるosimertinibの長期的な治療効果と安全性プロファイルを包括的に評価することを目指す。

結果

患者背景と治療曝露: 日本人サブセットでは、合計120例の適格患者が無作為化された(osimertinib群65例 [54.2%]、gefitinib群55例 [45.8%])。患者のベースライン特性は両群間で良好にバランスが取れていた(Table 1)。全体の中央年齢は67歳であり、osimertinib群では女性の割合が66.2%とgefitinib群の50.9%より高かった。非喫煙者は全体で53.3%であった。全患者が少なくとも1回の割り付け治療を受け、治療曝露期間中央値はosimertinib群で15.3ヶ月(範囲0.5〜25.5ヶ月)、gefitinib群で11.0ヶ月(範囲0〜25.1ヶ月)であった。疾患特性も両群間で類似しており、ほとんどの患者が転移性NSCLC(全体で94.2%)であり、ベースライン時にCNS転移を有する患者はosimertinib群で14例(21.5%)、gefitinib群で13例(23.6%)であった。EGFR変異タイプは、exon 19 deletionが63例(52.5%)、L858R変異が57例(47.5%)であった。

PFS (主要エンドポイント): 病勢進行または死亡イベントは、osimertinib群で34例(52.3%)、gefitinib群で36例(65.5%)に発生した(Figure 2A)。PFS中央値は、osimertinib群で19.1ヶ月(95% CI 12.6-23.5ヶ月) vs gefitinib群で13.8ヶ月(95% CI 8.3-16.6ヶ月)であった。ハザード比(HR)は0.61(95% CI 0.38-0.99、名目P=0.0456)であり、osimertinib群がgefitinib群に対して統計学的に有意なPFSの延長を示した。この結果は、FLAURA試験全体のHR 0.46と一貫した方向性を示しており、日本人集団においてもosimertinibの優越性が確認された。EGFR変異サブタイプ別のPFS解析では、exon 19 deletionを有する患者でosimertinibの優越性がより顕著であったが、L858R変異を有する患者でも同様の傾向が観察された。

OS (副次エンドポイント): 本報告のデータカットオフ時点では、OSデータは未成熟であり、両治療群ともにOS中央値は未到達であった(Figure 2B)。osimertinib群で9例(13.8%)、gefitinib群で10例(18.2%)の死亡が報告された。OS解析はイベント数が不十分であったため、最終的な結論は保留された。gefitinib群で病勢進行後にT790M変異が確認された患者はosimertinibへのクロスオーバーが許容されており、これが長期生存に影響を与えた可能性が指摘されている(FLAURA全体では、最終OS解析でHR 0.80 [95% CI 0.64-1.00, p=0.046] が後日報告された)。

ORR・DoR (副次エンドポイント): 客観的奏効率(ORR)は、osimertinib群で75.4%(49/65例)、gefitinib群で76.4%(42/55例)と両群で同程度であった(Table 2)。調整済み奏効率はosimertinib群で76.8%、gefitinib群で77.1%であった。完全奏効(CR)はosimertinib群で2例(3.1%)に認められたが、gefitinib群では認められなかった。奏効期間(DoR)中央値は、osimertinib群で18.4ヶ月(95% CIは未算出、データ未成熟) vs gefitinib群で9.5ヶ月(95% CI 6.2-13.9ヶ月)であり、osimertinib群で約2倍の延長が認められた(Figure 3)。6ヶ月時点での奏効維持率はosimertinib群で87.4%(95% CI 74.1-94.1%)、gefitinib群で69.0%(95% CI 52.0-81.1%)であった。12ヶ月時点では、osimertinib群で69.9%(95% CI 54.5-81.0%)、gefitinib群で43.6%(95% CI 27.4-58.8%)であった。病勢コントロール率(DCR)は、osimertinib群で96.9%(63/65例)、gefitinib群で96.4%(53/55例)と両群で高率かつ同等であった。標的病変サイズのベースラインからの最大変化率中央値は、osimertinib群で-50.0%(標準偏差25.3)、gefitinib群で-45.6%(標準偏差24.2)であった。

安全性 (特にILD・主要毒性): 日本人サブセットにおける有害事象(AE)は、osimertinib群で100%(65/65例)、gefitinib群で96.4%(53/55例)に認められた(Table 3)。Grade ≥ 3のAEは、osimertinib群で31例(47.7%)、gefitinib群で31例(56.4%)と両群で同程度であった。治療関連死に至るAEはgefitinib群で1例(1.8%)報告されたが、治療とは関連がないと判断された心内膜炎であった。治療中止に至ったAEは、osimertinib群で17例(26.2%)、gefitinib群で19例(34.5%)であった。

間質性肺疾患(ILD)および肺炎の発生率は、osimertinib群で8例(12.3%)、gefitinib群で1例(1.8%)と、全グレードではosimertinib群で高かった。しかし、Grade ≥ 3のILDおよび肺炎の発生率は両群ともに1例(osimertinib群1.5%、gefitinib群1.8%)と低く、日本人集団におけるosimertinibの新たな安全性懸念は認められなかった。これは、歴史的に日本人患者におけるgefitinib関連ILDの高頻度(3〜4%)に関する懸念を踏まえると重要な知見である。ILDを発症した全患者は治療を中止した。osimertinib群のILDイベントはすべて回復し、患者はその後別のEGFR-TKIで治療された。

その他の主要なAE(全グレード)として、下痢はosimertinib群で38.5%、gefitinib群で29.1%に認められた。皮疹はosimertinib群で46.2%、gefitinib群で69.1%と、gefitinib群でより高頻度であった。肝酵素上昇(AST、ALT)もgefitinib群で高頻度であった。一方、白血球数減少はosimertinib群で14例(21.5%)、gefitinib群で1例(1.8%)とosimertinib群で多く、QTc延長もosimertinib群で14例(21.5%)、gefitinib群で5例(9.1%)とosimertinib群で高頻度であった。しかし、これらのAEはほとんどがGrade 1または2であり、QTc延長は不整脈、白血球数減少は感染症といった臨床的後遺症とは関連していなかった。全体的なAEプロファイルはFLAURA試験全体の結果と一致していた。

治療継続性と投与量変更: AEによる治療中止率はosimertinib群で26.2%、gefitinib群で34.5%であった。AEによる用量減量率はosimertinib群で13.8%、gefitinib群で12.7%と両群で同程度であった。osimertinibの服薬継続性はgefitinibと同等であることが確認され、日本人患者での長期的な管理可能性を支持した。病勢進行後の治療として、gefitinib群の11例(20.0%)がosimertinibによる治療を受けた。

考察/結論

本FLAURA日本人サブセット解析は、EGFR変異陽性進行NSCLCの一次治療として、osimertinibがgefitinibと比較してPFSを有意に改善することを確認した。PFS中央値はosimertinib群で19.1ヶ月 vs gefitinib群で13.8ヶ月であり、HR 0.61(95% CI 0.38-0.99、名目P=0.0456)であった。このPFS優越性は、FLAURA試験全体の結果(HR 0.46)と一貫した方向性を示しており、日本人集団においてもosimertinibの臨床的有用性が裏付けられた。

ORRが両群で同等(75.4% vs 76.4%)であったにもかかわらず、DoRがosimertinib群で約2倍長い(18.4ヶ月 vs 9.5ヶ月)という特徴は、osimertinibが奏効の持続性において優れていることを日本人集団でも実証した。この奏効持続期間の延長は、osimertinibがT790M耐性変異の発現をより効率的に予防または抑制する能力に起因すると考えられる。EGFR変異陽性率が特に高い日本人患者群において、osimertinibの有効性が確認されたことは、本薬剤の日本での一次治療承認(2018年)の重要な根拠の一つとなった。

安全性プロファイルに関して、Grade ≥ 3のILDおよび肺炎の発生率が両群で同等(各1例)であったという知見は、日本人患者におけるgefitinib関連ILDリスクの高さという歴史的懸念を考慮すると極めて重要である。この結果は、osimertinibが日本人NSCLC患者においても安全に使用可能であることを示唆している。その他の有害事象プロファイルも、FLAURA試験全体の結果と概ね一致しており、osimertinib群では下痢やQTc延長が、gefitinib群では皮疹や肝酵素上昇がより多く認められる傾向があった。これらの違いは、各EGFR-TKIの野生型EGFRに対する選択性の違いを反映していると考えられる。

本解析は全体N=120という比較的小規模なサブグループ解析であり、多重比較調整がされていない名目上のp値である点には注意が必要である。OSデータは本解析時点では未成熟であったが、FLAURA試験全体の最終OS解析(HR 0.80、95% CI 0.64-1.00、p=0.046)と合わせて、日本人患者へのosimertinib一次治療の有益性が支持された。

先行研究との違い: 本研究は、FLAURA試験の日本人サブセットに特化してosimertinibの有効性と安全性を評価した点で、これまでの国際共同試験とは異なる。特に、日本人患者におけるILDの発生率が、歴史的に懸念されてきたgefitinibと比較して増加しないことを示した点は、臨床現場でのosimertinib導入における重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、日本人EGFR変異陽性NSCLC患者の一次治療において、osimertinibがgefitinibに対しPFSを有意に延長し、かつ安全性プロファイルが許容範囲内であることを明確に示した。これは、日本人集団におけるosimertinibの一次治療としての位置づけを確立する上で新規性のあるデータである。

臨床応用: 本知見は、日本人EGFR変異陽性進行NSCLC患者に対する一次治療としてosimertinibを推奨する強力な根拠となる。PFSの延長と良好な安全性プロファイルは、臨床現場での患者QOL向上と治療成績改善に直結する臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、日本人患者におけるosimertinibの長期的なOSデータや、病勢進行後の治療戦略、特にT790M陰性耐性メカニズムに対する効果的な治療法の開発が残されている。また、本サブセット解析は小規模であるため、より大規模な日本人集団での検証も今後の研究課題である。

方法

本研究は、国際共同第III相FLAURA試験(ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02296125)の事前設定日本人サブセット解析として実施された。FLAURA試験は2014年12月から2017年6月にかけて実施され、日本国内の18施設から登録された日本人患者120例が対象となった。患者はosimertinib群65例、gefitinib群55例に1:1で無作為に割り付けられた。対象患者は、以前に治療歴のないEGFR変異陽性の進行性または転移性NSCLC患者であり、gefitinibまたはerlotinibの治療に適格であった。中枢神経系(CNS)転移を有する患者も、状態が安定しているか無症状であれば適格とされた。EGFR変異は、exon 19 deletionまたはL858R変異が局所または中央検査で確認された患者が組み入れられた。本解析の対象となる「日本人患者」は、症例報告書(CRF)に「Japanese」と記載され、日本国内の治験施設で登録された患者と定義された。

標準治療群では、各施設が事前に選択したEGFR-TKIが使用されたが、日本においてはgefitinib(250 mg/日)のみが標準治療として採用され、erlotinibは使用されなかった。無作為化は、EGFR変異タイプ(exon 19 deletion vs L858R)および人種(Asian vs non-Asian)で層別化された。主要評価項目は、治験責任医師評価によるRECIST 1.1に基づくPFSであった。副次評価項目には、OS、ORR、DoR、病勢コントロール率(DCR)、および安全性が含まれた。有害事象(AE)は、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v4.03を用いて評価された。

腫瘍評価はベースライン時、最初の18ヶ月間は6週ごと、その後は病勢進行が確認されるまで12週ごとに行われた。CNS転移が既知または疑われる患者にはスクリーニング時に脳画像検査が実施され、確認されたCNS転移を有する患者には追跡スキャンが行われた。病勢進行後、標準治療群の患者でT790M変異が組織または血中循環腫瘍DNA(ctDNA)で確認された場合、プロトコル改訂によりosimertinibへのクロスオーバーが許容された。

統計解析では、有効性評価は全無作為化日本人患者を含むFull Analysis Setで実施され、安全性評価は少なくとも1回割り付け治療を受けた全患者を含むSafety Analysis Setで実施された。PFSおよびOSの解析にはKaplan-Meier法が用いられ、治療群間の比較には、EGFR変異タイプ(exon 19 deletion vs L858R)で層別化した調整済みログランク検定が実施された。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)が算出された。ORRおよびDCRの調整済み解析には、EGFR変異タイプで層別化したロジスティック回帰解析が用いられた。本サブグループ解析は日本人サブセットの検出力に基づいて設計されていないため、すべてのP値は名目的なものとして扱われた。データ解析にはSAS version 9.4が使用された。