- 著者: Alvin S. Wong, Richie Soong, Serena Bee-Kee Seah, et al.
- Corresponding author: Alvin S. Wong (National University Hospital, Singapore)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2008
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 18379359
背景
EGFR-TKI (gefitinibおよびerlotinib) は、アジア人非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において特に高い奏効率を示すことが知られている。特に非喫煙者、女性、腺癌といった「典型的gefitinib感受性」の表現型を持つ患者群では、高い疾患制御が期待された。しかし、初期奏効後には中央値4〜6ヶ月で薬剤耐性が生じ、その後の治療選択肢は限られていた。gefitinib後にerlotinibを投与した場合の有効性については、両薬剤が同様の作用機序を持つため、理論上は交差耐性により効果が期待されにくいと考えられていた。しかし、Cho et al. JClinOncol 2007やShepherd et al. NEnglJMed 2005による単発的な症例報告では、第二のTKIによる一定の疾患制御が報告されており、この領域には未解明な部分が残されていた。Kris et al. JAMA 2003やFukuoka et al. JClinOncol 2003らの研究でgefitinibの有効性が示された一方で、耐性後の治療戦略は課題が残されており、本研究は、シンガポールの国立大学病院でgefitinibとerlotinibの両方による治療を受けた患者群を後ろ向きに分析し、この課題に取り組んだ。
目的
gefitinib治療後に進行したNSCLC患者を対象に、erlotinibを二次TKIとして投与した場合の疾患制御率 (DCR) を評価すること。さらに、erlotinibの効果を予測する臨床的および分子的因子を探索することを目的とした。本研究は、gefitinib耐性後のerlotinibの有効性を評価する後ろ向きコホート研究としてデザインされた。
結果
コホート概要と患者背景: 解析対象となったのは、gefitinib治療後に進行したアジア人NSCLC患者14例であった。患者の民族的背景は中国系が12例 (85.7%)、マレー系が1例 (7.1%)、インド系が1例 (7.1%) であった (Table 1)。性別は女性が10例 (71.4%)、男性が4例 (28.6%) であった。喫煙歴は非喫煙者が13例 (92.9%)、元喫煙者が1例 (7.1%) であった。組織型は腺癌が8例 (57.1%)、細気管支肺胞癌 (BAC) が2例 (14.3%)、扁平上皮癌が1例 (7.1%)、非小細胞肺癌特定不能 (NSCLC-NOS) が3例 (21.4%) であった。gefitinibは9例 (64.3%) で一次治療として使用され、erlotinibは9例 (64.3%) で第四次治療以降として使用された (Table 2)。
gefitinibによる疾患制御率とEGFR変異の関連: gefitinibによる疾患制御率 (DCR) は64.3% (14例中9例) であった。gefitinibを一次治療として受けた9例のうち、6例 (66.7%) で疾患制御が達成された。gefitinibで疾患制御を達成した9例の患者は、女性が8例 (89%)、非喫煙者が8例 (89%)、腺癌またはBACが優位であった。疾患制御に失敗した5例は、全員がgefitinibで疾患制御を達成できなかった。EGFR遺伝子変異は8例 (57.1%) で検出され、EGFR変異陽性8例中7例 (88%) がgefitinibで疾患制御を達成した。一方、野生型EGFRの6例中、gefitinibで疾患制御を達成したのは1例 (16.7%) のみであった (p=0.003)。この結果は、EGFR変異がgefitinibの奏効予測因子であることを強く示唆する。
erlotinib二次TKIによる疾患制御率: erlotinibを二次TKIとして投与した場合の全体DCRは35.7% (14例中5例) であった (Figure 1)。特に、gefitinibで疾患制御を達成した9例中5例 (55.6%) が、erlotinibでも疾患制御を達成した。一方、gefitinibで疾患制御を達成できなかった5例では、erlotinibによる疾患制御は認められなかった (0/5)。この差は統計的に有意ではなかったものの、傾向が認められた (Fisher’s exact test: p=0.09)。erlotinibで疾患制御を達成した5例は、全例が非喫煙者、腺癌またはBAC、gefitinibでの先行疾患制御あり、EGFR変異陽性という共通の特性を有していた (Table 3, Table 4)。これらの患者におけるgefitinibでの疾患制御期間の中央値は227日 (範囲 197-537日) であり、erlotinibでの疾患制御期間の中央値は97日 (範囲 50-238日) であった。
EGFR変異とerlotinibによる疾患制御の関連: EGFR変異陽性は、erlotinibでの疾患制御に対する予測因子であった。EGFR変異陽性8例中5例 (62.5%) がerlotinibで疾患制御を達成したのに対し、野生型EGFRの6例ではerlotinibによる疾患制御は認められなかった (0/6、p=0.03)。これは、EGFR変異がerlotinibの奏効にも寄与することを示唆する。非喫煙者および腺癌という臨床的表現型もerlotinibによる疾患制御と相関した。erlotinibで疾患制御を達成した患者群の生存期間中央値は報告されていないが、疾患制御期間の中央値は97日であり、臨床的意義のある期間であると考えられた。例えば、患者1はgefitinibで197日、erlotinibで50日の疾患制御を達成し、生存期間は690日であった。患者5はgefitinibで537日、erlotinibで198日の疾患制御を達成し、1276日生存中であった (Table 4)。
TKIフリー期間中の化学療法の影響: 14例中8例の患者が、gefitinib中止からerlotinib開始までのTKIフリー期間中に従来の細胞傷害性化学療法を受けていた。このTKIフリー期間は89日から388日の範囲であった。これらの患者のうち5例が、化学療法により疾患制御を達成した。しかし、TKIフリー期間中の化学療法による疾患制御と、その後のerlotinibによる疾患制御との間に、統計的な関連性は認められなかった。この結果は、化学療法がTKI耐性クローンを減少させ、その後のTKI再投与の効果を高めるという仮説を支持するものではなかった。
考察/結論
本後ろ向き小規模研究 (n=14) は、典型的gefitinib感受性アジア人NSCLC患者において、gefitinib治療後に進行した後でもerlotinib投与により35.7% (5/14) の患者が疾患制御を達成できることを示した最初期の報告の一つである。
新規性: 本研究で初めて、特に「gefitinibで疾患制御を達成し、非喫煙者、腺癌、EGFR変異陽性」という特性を持つ患者群では、55.6% (5/9) に二次TKI効果が期待できる可能性を新規に示唆した。これは、EGFR変異陽性患者における交差耐性が完全ではない場合があること、あるいはEGFR変異と疾患制御に異なる分子機序が存在する可能性を示唆する。
先行研究との違い: Cho et al. JClinOncol 2007による先行研究では、erlotinib後の疾患制御率が29.6%と報告されており、本研究の35.7%と類似している。しかし、Cho et al. JClinOncol 2007の研究では、erlotinibの奏効がEGFR変異を欠く患者やgefitinibで安定病変を達成した患者と関連すると報告されたのに対し、本研究ではerlotinibで疾患制御を達成した患者は典型的なgefitinib感受性患者であり、ほとんどが古典的なEGFR感受性変異を有していた点で対照的である。この違いは、RECIST基準の適用が非測定可能病変の多い患者には不適切である可能性に起因するかもしれない。
臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性患者においてgefitinib耐性後のerlotinibの連続投与が、一部の患者で臨床的意義のある疾患制御をもたらす可能性を示唆する。これは、治療選択肢が限られる状況において、第二のTKIが有用な選択肢となり得ることを示唆する。特に、gefitinibに反応した患者は、erlotinibにも反応する可能性が高いことが示唆された。
残された課題: 本研究はn=14という極めて小規模な後ろ向き研究であり、RECISTの非厳密適用という評価上の限界があった。また、この時代 (2008年) はT790M耐性機序が明確でなかったため、その影響を十分に評価できていない。Kobayashi et al. NEnglJMed 2005やKosaka et al. ClinCancerRes 2006らの研究で耐性機序の理解が進む中で、今後の検討課題として、より大規模な前向き研究による検証、T790Mなどの耐性機序の評価、および異なるTKI間の連続投与戦略の最適化が残されている。
方法
本研究は、シンガポール国立大学病院において2005年から2006年の2年間に行われた後ろ向き解析である。電子薬局記録システムを通じて、gefitinibとerlotinibの両方による治療を受けた18例の患者が同定された。このうち、4例は解析から除外された。具体的には、3例は疾患進行以外の理由で第二のTKIを投与されており、1例はerlotinibがgefitinibに先行して投与されていたためである。最終的に、gefitinib治療後に疾患進行し、その後erlotinibを投与された14例が解析対象となった。
患者特性としては、中国系が優勢であり、女性および非喫煙者が多数を占めた。組織型は腺癌が8例、細気管支肺胞癌 (BAC) が2例、扁平上皮癌が1例、その他が3例であった。EGFR遺伝子変異の検索は、ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織サンプルからDNAを抽出し、変性高速液体クロマトグラフィー (DHPLC: denaturing high-performance liquid chromatography) 法を用いてエクソン18から21の領域を解析した。
疾患制御の評価は、画像上の改善または安定、臨床症状の緩和または安定、および薬剤治療の継続をもって定義された。これは、多くの患者が粟粒状転移や網状結節性浸潤、肺炎様陰影といった非測定可能病変を有していたため、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) の厳密な適用が困難であったためである。疾患進行は、既存病変の画像上の悪化または新規病変の出現と定義された。統計解析にはFisherの正確検定が用いられた。疾患制御期間は、各TKIの投与開始から疾患進行が記録されるまでの日数として定義された。