- 著者: Mark G. Kris, Ronald B. Natale, Roy S. Herbst, Thomas J. Lynch Jr., Diane Prager, Chandra P. Belani, Joan H. Schiller, Karen Kelly, et al.
- Corresponding author: Mark G. Kris (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York)
- 雑誌: JAMA
- 発行年: 2003
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 14570950
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は癌死亡の主要原因であり、2レジメン以上の化学療法後に進行した患者では有効な治療選択肢が乏しかった。当時、既存の化学療法では奏効率が低く、重篤な有害事象を伴うことが多く、患者のQOL改善は不十分であった。例えば、ドセタキセルを用いた既治療NSCLC患者を対象とした試験では、奏効率が6-7%程度と報告されており (Shepherd et al. JClinOncol 2000、Fossella et al. JClinOncol 2000)、新たな治療法の開発が喫緊の課題であった。EGFRはNSCLCを含む多くの固形腫瘍で過発現し、細胞増殖・生存を制御する重要な分子標的である。Gefitinib (ZD1839/イレッサ) は経口のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) であり、Phase I試験では化学療法前治療患者において症状改善と画像的腫瘍退縮が報告されていた (Kris et al. 2000)。しかし、これらの初期報告は小規模な非ランダム化試験であり、gefitinibの有効性と最適用量を大規模な患者集団で検証する必要があった。特に、EGFR変異スクリーニングの概念が確立される以前の時代 (Lynch et al. 2004によるEGFR活性化変異の発見以前) に、対照薬なし・EGFR変異未選択の患者集団でgefitinibの有効性と最適用量を評価することは、新たな治療戦略を確立する上で不可欠であった。当時の標準治療と比較して、より忍容性が高く、効果的な治療法の開発が強く求められており、この治療ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。特に、既治療進行NSCLC患者における症状改善と客観的奏効を両立する治療法は不足しており、その臨床的意義は未解明な点が多かった。
目的
2レジメン以上の化学療法後に進行した症候性NSCLC患者を対象に、gefitinib 250 mg/日と500 mg/日の有効性 (症状改善および画像的奏効) と安全性を二重盲検ランダム化Phase II試験 (IDEAL-2) で比較評価することを目的とする。
結果
患者背景: 登録された221例中216例がランダム化され、治療を受けた。両治療群間でベースラインの患者特性に有意差は認められなかった (Table 1)。中央年齢は61〜62歳、女性が41〜45%、腺癌が64〜69%を占めた。患者の58%が3レジメン以上の化学療法を受けていた。gefitinib投与期間の中央値は250 mg群で56日、500 mg群で53日であった。
症状改善率 (主要エンドポイント): 全体で39% (84/216例) の患者に症状改善が認められた (Table 3)。250 mg群では43% (95% CI 33%-53%)、500 mg群では35% (95% CI 26%-45%) であり、両群間に有意差は認められなかった (p=0.26)。症状改善の75% (63/84例) は投与開始後3週以内に発現し、迅速な効果を示した。症状改善の持続期間の中央値は両群ともに未到達であり、一部の患者では1ヶ月から8ヶ月以上の長期にわたる症状コントロールが得られた。ベースラインのFACT-L症状スコアの中央値は16点から治療後22点へと25%改善し (p<0.001)、QOLスコアも同様に改善した (Figure 2)。画像的奏効を認めた患者では、症状改善の平均変化が4.8点と最も大きく、安定疾患患者では2.6点、疾患進行患者では1.0点であった。
画像的奏効率 (主要エンドポイント): 全体で10% (22/216例) の客観的奏効 (全て部分奏効) が認められた (Table 3)。250 mg群では12% (95% CI 6%-20%)、500 mg群では9% (95% CI 4%-16%) であり、両群間に有意差は認められなかった (p=0.51)。250 mg群における奏効率が5%を超える確率はp=0.005、500 mg群ではp=0.06であった。画像的奏効の持続期間の中央値は250 mg群で7ヶ月 (範囲3〜9ヶ月以上)、500 mg群で6ヶ月 (範囲3〜8ヶ月以上) であった。画像的奏効を認めた患者の96%で同時に症状改善も認められ、画像的奏効と症状改善の間に強い相関が確認された (p<0.001) (Figure 3)。
生存期間と1年生存率: 全生存期間 (OS) の中央値は250 mg群で7ヶ月、500 mg群で6ヶ月であり、両群間に有意差は認められなかった (p=0.40) (Figure 4)。推定1年生存率は250 mg群で27%、500 mg群で24%であり、両群合計で25%であった (p=0.54)。ランドマーク解析では、部分奏効患者のOS中央値は13ヶ月、安定疾患患者は9ヶ月、疾患進行患者は5ヶ月であり、有意な差が認められた (p<0.001)。また、症状改善を認めた患者のOS中央値は13ヶ月であったのに対し、症状改善を認めなかった患者では5ヶ月であり、これも有意な差であった (p<0.001)。
用量依存的毒性と250 mg推奨用量の確立: 有害事象は両群で異なったプロファイルを示した (Table 4)。500 mg群では250 mg群と比較して、皮疹 (62% vs 75%; p=0.04) および下痢 (57% vs 75%; p=0.006) の発生率が有意に高かった。Grade 3以上の毒性では、500 mg群で皮疹が8%、下痢が5%であったのに対し、250 mg群ではそれぞれ3%と2%と、500 mg群で毒性の重症度が増加した。骨髄抑制、神経毒性、脱毛は両群でほとんど認められず、従来の化学療法とは異なる毒性プロファイルを示した。有効性が両用量で同等であったにもかかわらず、500 mg群で毒性が増加したことから、250 mgが推奨用量として確立された。間質性肺疾患 (ILD) の発生は本試験では報告されず (観察率0%; 95% CI 0%-1.7%)、従来の化学療法と比較して低頻度であった。
女性・腺癌サブグループの傾向: 探索的サブグループ解析では、女性患者で症状改善率50% vs 男性31% (p=0.006) と、女性で有意に高い応答傾向が示された。画像的奏効率も女性で19% vs 男性3% (p=0.001) と、女性で有意に高かった。腺癌患者では症状改善率43% vs 非腺癌30% (p=0.06)、画像的奏効率13% vs 4% (p=0.046) と、腺癌で高い応答傾向が示された。これらの傾向は、本試験と並行して実施されたIDEAL-1 (Iressa Dose Evaluation in Advanced Lung Cancer 1) 試験 (Fukuoka et al. JClinOncol 2003) とも一致しており、後のEGFR活性化変異の発見 (Lynch et al. 2004; Paez et al. 2004) により、これらの患者群が高いEGFR変異含有率を反映していたことが明らかになった。
考察/結論
IDEAL-2試験は、2レジメン以上の化学療法後に進行したNSCLC患者に対するgefitinibの最初の無作為化Phase II試験として、歴史的に重要な意義を持つ研究である。本試験は、gefitinibが客観的奏効率10%・症状改善率39%・1年生存率25%を示したことを実証した。用量250 mgと500 mgの有効性は同等であったが、毒性プロファイルが異なり、忍容性の観点から250 mgが最適用量として確立された。
先行研究との違い: 本研究は、EGFR変異選択の概念が確立される以前の時代に実施されたものであり、従来の化学療法 (例えば、Shepherd et al. JClinOncol 2000 や Fossella et al. JClinOncol 2000 で報告されたドセタキセルの奏効率6-7%と比較して) とは異なる作用機序で、同等以上の奏効と良好な忍容性を示した点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、既治療進行NSCLC患者において、経口EGFR-TKIであるgefitinibが疾患関連症状の迅速な改善と客観的腫瘍縮小をもたらすことを新規に実証した。また、用量設定の観点から、有効性を維持しつつ毒性を最小限に抑える250 mgの推奨用量を確立したことは、その後の臨床開発において極めて重要であった。
臨床応用: 本知見は、NSCLCにおける分子標的治療の臨床応用への道を開いた。特に、女性、腺癌、非喫煙者といった特定の患者サブグループで高い応答傾向が観察されたことは、後のEGFR活性化変異の発見と、それに基づく精密医療の発展に繋がる先見的な所見であった。gefitinibの迅速承認 (2003年FDA) は、本試験およびIDEAL-1試験の結果に基づいている。
残された課題: 今後の検討課題として、本試験ではEGFR変異の有無が評価されていないため、応答を予測するバイオマーカーの特定が残されていた。また、長期的な有効性と安全性プロファイルのさらなる評価、および他の治療法との併用療法の可能性についても検討が必要であった。これらのlimitationは、その後の研究でEGFR変異がバイオマーカーとして確立される契機となった。
方法
本研究は、2000年11月から2001年4月にかけて米国30施設で実施された二重盲検ランダム化Phase II試験 (Iressa Dose Evaluation in Advanced Lung Cancer 2; IDEAL-2) である。合計221例が登録され、216例がランダム化され治療を受けた。gefitinib 250 mg群には102例、500 mg群には114例が割り付けられた。本試験はClinicalTrials.govに登録されており、試験デザインはRCT (Randomized Controlled Trial) である。
患者選択基準: 病理学的に確認されたStage IIIBまたはIVのNSCLC患者で、プラチナ製剤およびドセタキセルを含む2レジメン以上の化学療法後に疾患進行または許容できない毒性を経験していること、FACT-L (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung) 肺癌サブスケールスコアが28点中24点以下である症候性NSCLCであること、測定可能または評価可能な病変を有すること、WHOパフォーマンスステータスが0〜2であること、および書面によるインフォームドコンセントが得られていることが条件とされた。
治療: 患者はgefitinib 250 mg/日 (250 mg錠1錠とプラセボ1錠) または500 mg/日 (250 mg錠2錠) のいずれかを毎日経口投与された。用量はPhase I試験の結果に基づき、治療活性の可能性を最大化しつつ安全域を確保するために選択された。
主要評価項目: 症状改善率 (FACT-L肺癌サブスケールスコアの2点以上の改善で、4週間以上の持続を確認) と画像的奏効率 (画像診断で病変サイズが50%以上減少) が共主要エンドポイントとされた。
副次評価項目: 全生存期間 (OS)、QOL (FACT-L)、有害事象の頻度と重症度。
統計解析: 患者はWHOパフォーマンスステータス (0-1 vs 2) および前治療レジメン数 (2 vs 3 vs 4以上) で層別化された。両主要評価項目について、各用量群で独立して評価するためにサンプルサイズが設定された。症状改善または画像的奏効の真の割合が15%である場合に、5%以下の割合に対する片側0.0125有意水準検定で検出力0.90を確保するため、各群100例が目標とされた。全生存期間の解析にはKaplan-Meier法が用いられ、ログランク検定で群間比較が行われた。症状改善と画像的奏効の相関、およびそれらと生存期間との相関も解析された。ロジスティック回帰分析およびχ²検定を用いて、疾患および人口統計学的因子と主要評価項目との関連が探索された。データカットオフは2001年8月1日、画像的奏効は2001年12月17日、生存データは2002年5月7日に更新された。統計解析にはSAS version 8.1およびStatXact version 4が使用され、p<0.05を有意水準とした。