- 著者: Ken Uchibori, Naohiko Inase, Makoto Nishio, et al.
- Corresponding author: Ryohei Katayama (Cancer Chemotherapy Center, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-04-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 29702287
背景
EGFR変異陽性肺がん患者の生存率は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の導入以来、劇的に改善した。特に、第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、一次治療において第一世代EGFR-TKIと比較して無増悪生存期間(PFS)を大幅に延長することを示し、EGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の標準一次治療としてのパラダイムシフトが示唆された。具体的には、FLAURA試験においてオシメルチニブのPFSは18.9ヶ月であり、第一世代TKIの10.2ヶ月を大きく上回ったとSoria et al. NEnglJMed 2018が報告している。このPFS延長は、HR 0.46 (95% CI 0.37-0.57, p<0.001) であり、統計学的に有意な差であった。
しかし、一次オシメルチニブ治療後の獲得耐性機序は多様であり、C797S変異、MET増幅、MEK1変異、KRAS変異などが報告されている。特にC797S変異は、オシメルチニブ耐性患者の約30%に認められる主要な耐性機序の一つであるとThress et al. NatMed 2015が報告している。C797S変異出現後の至適治療戦略は未確立であり、in vitroデータではC797S/T790M in trans変異に対しては第一世代TKIと第三世代TKIの併用が有効である一方、in cis変異に対しては全てのTKIに耐性を示すことが示唆されていた。さらに、一次オシメルチニブ治療後にC797S変異と活性化変異を有する患者に対する二次治療として、第一世代TKIであるゲフィチニブと第二世代TKIであるアファチニブのどちらが優れているかについても不明な点が残されていた。この領域における治療戦略の確立は喫緊の課題である。
第一世代EGFR-TKIであるゲフィチニブやエルロチニブに対する耐性機序としては、EGFR T790M変異が主要なものとして知られており、これは患者の約50-60%に認められるとKobayashi et al. NEnglJMed 2005やKosaka et al. ClinCancerRes 2006が報告している。このT790M変異を克服するために開発されたのがオシメルチニブであり、T790M陽性NSCLC患者に対してプラチナ製剤とペメトレキセド併用療法と比較して有意なPFS延長を示したとMok et al. NEnglJMed 2017が報告している。PFS中央値はオシメルチニブ群で10.1ヶ月、プラチナ製剤とペメトレキセド併用群で4.4ヶ月であり、HR 0.36 (95% CI 0.28-0.46, p<0.001) であった。しかし、オシメルチニブに対する耐性機序はT790Mに対する耐性機序よりも多様であることがSequist et al. SciTranslMed 2011やYu et al. ClinCancerRes 2013によって示されており、特にC797S変異はオシメルチニブの結合部位であるCys797に生じるため、オシメルチニブの効果を減弱させると考えられている。これらの多様な耐性機序を考慮した治療戦略の確立が喫緊の課題であったが、そのための前臨床データが不足していた。本研究では、ENU変異誘発スクリーニングを用いて、一次および二次オシメルチニブ治療における耐性機序の解明と、C797S耐性に対する最適な治療戦略を前臨床的に評価することを目的とした。特に、ゲフィチニブとオシメルチニブの併用療法が耐性獲得を抑制する可能性についても検討し、今後の臨床応用に向けた基礎的な知見を提供することを目指した。
目的
本研究の目的は、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)変異誘発スクリーニングシステムを用いて、EGFR変異陽性非小細胞肺がんにおけるEGFR-TKI耐性機序を詳細に解明することである。具体的には、以下の3つの主要な目的を設定した。
- 一次EGFR-TKI(ゲフィチニブとオシメルチニブ)から出現する耐性機序の比較: 活性化変異単独を有するBa/F3細胞を用いて、第一世代TKIであるゲフィチニブと第三世代TKIであるオシメルチニブ、それぞれに対する主要な獲得耐性機序を同定し、その違いを比較する。これにより、各TKIの耐性プロファイルを明らかにする。
- C797S/活性化変異からゲフィチニブまたはアファチニブで出現する耐性機序の評価: 一次オシメルチニブ治療後に高頻度で出現するC797S変異と活性化変異を併せ持つBa/F3細胞を用いて、二次治療としてゲフィチニブまたはアファチニブを選択した場合に、どのような新たな耐性変異が出現するかを同定する。特に、多剤耐性変異の出現パターンを比較し、C797S耐性に対する最適な二次治療選択肢を検討する。
- ゲフィチニブとオシメルチニブの組み合わせによる耐性抑制効果の評価: 活性化変異単独を有するBa/F3細胞を用いて、ゲフィチニブとオシメルチニブの併用療法が、単剤療法と比較して耐性クローンの出現をどの程度抑制できるかを評価する。これにより、併用療法が一次治療としての耐性獲得を遅延させる可能性を前臨床的に検証する。
これらの目的を達成することで、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する最適なEGFR-TKI治療戦略、特に一次オシメルチニブ治療後のC797S耐性に対する二次治療の選択、および将来的な併用療法の可能性に関する重要な前臨床的エビデンスを提供することを目指した。
結果
本研究では、ENU変異誘発スクリーニングを用いて、EGFR-TKIに対する耐性機序を詳細に解析した。
一次TKI(ゲフィチニブ vs オシメルチニブ)からの耐性機序比較: ゲフィチニブスクリーニング(del19またはL858R活性化変異を有するBa/F3細胞)では、主要な耐性機序として+T790M変異が圧倒的多数を占めた。del19およびL858R変異細胞のいずれにおいても、出現した耐性クローンの80%以上がT790M変異を獲得した(Fig 1A, 1B)。具体的には、del19細胞で504クローン、L858R細胞で430クローンがT790M変異を示した。他の軽微な耐性機序(KRAS変異、BRAF変異、MET増幅模倣)も少数割合で出現したが、T790Mが主要なドライバー変異であった。 一方、オシメルチニブスクリーニングでは、主要な耐性機序として+C797S変異が出現した。del19細胞では59クローン(50%以上)、L858R細胞では44クローン(約40%)がC797S変異を獲得した(Fig 1C, 1D)。その他、L718Q、L792H、C797Gなどの少数変異も観察された。興味深いことに、高濃度オシメルチニブ(600 nMまたは1200 nM)で選択した場合、低濃度(150 nMまたは300 nM)と比較してC797S出現クローン数が少なく、高濃度維持が耐性出現を抑制する可能性が示唆された。 各変異細胞におけるIC50値の確認では、C797S/del19変異細胞はオシメルチニブに対しIC50 348.9 nMと高度な耐性を示したが、ゲフィチニブ(IC50 2.9 nM)およびアファチニブ(IC50 2.3 nM)には感受性を示した(Supplementary Fig 1C, 1D)。対照的に、T790M/del19変異細胞はオシメルチニブに対しIC50 4.3 nMと感受性を示したが、ゲフィチニブ(IC50 4238 nM)には高度な耐性を示した(Supplementary Fig 2A, 2B)。これらの結果は、T790MとC797Sが互いに逆のTKI感受性パターンを示すことを実証した。
C797S変異を持つ細胞での二次耐性機序比較(ゲフィチニブ vs アファチニブ選択): 一次オシメルチニブ治療後にC797S変異が出現することを踏まえ、C797S/del19およびC797S/L858R発現Ba/F3細胞を用いた二次TKIスクリーニングを実施した。 ゲフィチニブ選択スクリーニングでは、出現した耐性クローンの主要機序は+T790M変異であった。これにより、del19+T790M+C797SまたはL858R+T790M+C797Sという三重変異が形成された(Fig 2A, 2B)。このスクリーニングでは、T854AやL792Hといった変異は一切出現しなかった。 一方、アファチニブ選択スクリーニングでも+T790Mが主要な耐性機序であったが、アファチニブ選択のみで+T854Aおよび+L792H変異が副次的に出現した(クローン全体の約10-20%)(Fig 2C, 2D)。これらのT854AおよびL792H変異はゲフィチニブスクリーニングでは全く検出されなかった。T854AおよびL792H変異を有する細胞のTKI感受性確認では、これらの変異を持つ細胞は第一世代(ゲフィチニブ)、第二世代(アファチニブ)、第三世代(オシメルチニブ)の全てのクラスのEGFR-TKIに対して耐性を示し、pan-resistant triple mutantとなることが示された(Fig 2E, 2F, 2G, Fig 3A)。特に、T854A/C797S/del19変異細胞はゲフィチニブ、アファチニブ、ブリガチニブに対してそれぞれIC50 95.1 nM, 72.5 nM, 27.1 nMを示した(Fig 3A)。L792H/C797S/L858R変異細胞は、ゲフィチニブに対してIC50 101.3 nMと中程度の効果を示したが、アファチニブ、オシメルチニブ、ブリガチニブには耐性を示した(Fig 3A)。ブリガチニブの最大血漿中濃度は2485.9 nMと報告されているのに対し、アファチニブは50-60 nMであり、T854A/C797S変異に対する治療効果には大きな差があることが示唆された。
ゲフィチニブ+オシメルチニブ組み合わせの耐性抑制効果: del19またはL858R発現Ba/F3細胞を用いたゲフィチニブ+オシメルチニブ併用ENU変異スクリーニングでは、単剤(ゲフィチニブ単独またはオシメルチニブ単独)と比較して耐性クローンの出現数が著しく少なかった(Fig 1E)。具体的には、ゲフィチニブ150 nM単独およびオシメルチニブ150 nM単独では多数の耐性クローンが出現したが、ゲフィチニブ150 nM+オシメルチニブ150 nMの組み合わせではほとんどクローンが出現しなかった。高濃度組み合わせ(300 nM+300 nM)でも同様の耐性抑制効果が確認された。この耐性抑制効果は、オシメルチニブがC797Sに耐性を示すがT790Mには感受性であり、ゲフィチニブがT790Mに耐性を示すがC797Sには感受性であるという、互いに補完的な作用機序に基づくと考えられる。これにより、いかなる単一変異による耐性クローンも増殖できない状態が作り出される。この併用療法は、将来の一次治療における耐性獲得を遅延させる可能性を示唆する。
活性化変異細胞でのIC50確認(確認試験): Del19単独、T790M/del19、C797S/del19、およびdel19+T790M+C797S(三重変異)に対するゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブのIC50値をCellTiter-Gloアッセイで確認した。Del19+T790M+C797S(in cis三重変異)細胞は、ゲフィチニブに対してIC50 2.9 nMと感受性を示した。これは、in cisの三重変異であっても第一世代TKIが一定の感受性を保持する可能性を示唆する。ウェスタンブロット解析により、各変異細胞におけるpEGFR、pAkt、pERKのリン酸化阻害がIC50値と相関することが確認された(Supplementary Fig 3B, 3C, 3D, Supplementary Fig 4C, 4D)。T854A/C797S/L858R変異細胞は、ゲフィチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ブリガチニブに対してそれぞれIC50 95.1 nM, 72.5 nM, >1000 nM, 27.1 nMを示し、広範な薬剤耐性を示すことが明らかになった(Fig 3A)。
考察/結論
本研究は、ENU変異誘発スクリーニングを用いて、EGFR-TKI耐性戦略を検討する上で重要な前臨床的エビデンスを提供した。
先行研究との違い: これまでの研究では、一次EGFR-TKIに対する耐性機序の多様性が報告されていたが、本研究は特に一次オシメルチニブ後のC797S耐性に対する二次治療の選択肢として、ゲフィチニブとアファチニブの比較を詳細に行った点で先行研究と異なる。アファチニブ選択時にT854AやL792Hといった多剤耐性変異が出現するが、ゲフィチニブ選択時にはT790Mのみが出現するという明確な違いを初めて示した。
新規性: 本研究で初めて、一次オシメルチニブ治療後のC797S/活性化変異を有する細胞において、アファチニブ選択時にT854AおよびL792Hという新規の多剤耐性変異が出現することを同定した。これらの変異は、第一世代、第二世代、第三世代の全てのEGFR-TKIに耐性を示すpan-resistant triple mutantを形成する。これは、これまで報告されていない新たな耐性機序であり、アファチニブの結合様式がC797S変異によって変化し、新たな耐性経路が誘導される可能性を示唆する。
臨床応用: 本知見は、一次オシメルチニブ治療後にC797S耐性が出現した患者に対する二次治療の選択において、重要な臨床的意義を持つ。アファチニブと比較してゲフィチニブが好ましい可能性が示唆されたのは、アファチニブ選択ではT854A/L792Hというpan-resistant triple変異が生じるリスクがあるのに対し、ゲフィチニブ選択ではT790Mのみが出現するためである。T790Mはブリガチニブと抗EGFR抗体の併用療法で克服できる可能性が示されており、治療選択肢がより明確になる。また、ゲフィチニブとオシメルチニブの併用療法が耐性クローンの出現を最小限に抑えたという知見は、この組み合わせを一次治療として用いることで耐性獲得自体を抑制できる可能性を示唆する。これは、Ramalingamら(ESMO 2018)が報告したFLAURA試験の血漿サンプル解析における多様な耐性機序と組み合わせて解釈すべき重要な前臨床データであり、将来的な臨床応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究がin vitroのBa/F3細胞系を用いた前臨床研究であるため、これらの結果が実際の臨床現場でどの程度再現されるかを検証する必要がある。ENU変異誘発スクリーニングはEGFRキナーゼドメイン内の変異検出に特化しており、MET増幅やSCLC形質転換といったバイパス経路の活性化など、EGFRキナーゼドメイン以外の多様な耐性機序を評価することは困難である。したがって、これらの結果を臨床に応用する際には、液状生検などによるC797S変異の検出と、他の耐性機序の包括的な評価が引き続き重要となる。また、一次オシメルチニブ治療の優位性が、TKIのシーケンシャル治療による長期的な臨床応答期間の観点から完全に確立されているわけではない。Park et al. (2017 WCLC) が報告したように、一次アファチニブ-二次オシメルチニブのシーケンシャル治療を受けた患者のオシメルチニブ治療期間は長く、最適なシーケンシャル治療戦略の探求は今後の重要な研究方向性である。
方法
本研究では、EGFR変異を有するBa/F3細胞株を用いたENU変異誘発スクリーニングシステムを主要な実験手法として採用した。本研究は前臨床試験であり、臨床試験登録番号(NCT番号など)は存在しない。
試薬と細胞培養: アファチニブ、ブリガチニブ、ダコミチニブ、ゲフィチニブ、オシメルチニブは各社から購入した。EGFR変異を導入したBa/F3細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加した低グルコースDMEM(Dulbecco’s minimal essential medium)で培養した。
レンチウイルスの作製と安定発現Ba/F3細胞の樹立: EGFR活性化変異(del19、L858R)単独、およびT790M、C797S、C797S/T790M変異を併せ持つBa/F3細胞は既報の方法に従って作製した。T854A変異は、QuikChange部位特異的変異導入法を用いてpENTRベクターに導入し、その後pLenti6.3レンチウイルスベクターに組み込んだ。レンチウイルスは293FT細胞で産生され、Ba/F3細胞に感染させた。感染細胞はブラストサイジン(7 μg/mL)とIL-3非含有DMEMで選択し、EGFRシグナル依存性の細胞株を樹立した。
ENU変異誘発スクリーニング: EGFR-TKIに高感受性を示すdel19、L858R、C797S/del19、C797S/L858R変異を有するクローン性Ba/F3細胞を限界希釈法により取得した。これらの細胞(3-10^8個)を100 μg/mLのENUで24時間処理し、ランダムな変異を導入した。ENU除去後、細胞(5-10^7個)を96ウェルプレートに播種し、以下の条件で各EGFR-TKIを含む培地で選択した。
- 一次TKIスクリーニング(del19またはL858R単独細胞): ゲフィチニブ(150, 300, 600, 1200 nM)、オシメルチニブ(150, 300, 600, 1200 nM)、ゲフィチニブ+オシメルチニブ(150+150 nM, 300+300 nM)。
- 二次TKIスクリーニング(C797S/del19細胞): ゲフィチニブ(150, 300, 600, 1200 nM)、アファチニブ(75, 150, 300 nM)。
- 二次TKIスクリーニング(C797S/L858R細胞): ゲフィチニブ(300, 600, 1200 nM)、アファチニブ(150, 300 nM)。 プレートはTKI曝露開始後4週間まで週2-3回観察し、出現した耐性クローンを回収してEGFRチロシンキナーゼドメインのシーケンス解析を行った。このシーケンス解析にはサンガーシーケンス法を用いた。
細胞生存率アッセイ: CellTiter-Gloアッセイ(Promega)を用いて、96ウェルプレートに播種したBa/F3細胞(2000細胞/ウェル)の細胞生存率を評価した。各TKIを10段階濃度(0.3 nM~10 μM)で72時間処理し、IC50値を算出した。IC50値の算出には、非線形回帰分析を用いた。
ウェスタンブロッティング: 指定条件下で培養した細胞を溶解し、SDS-PAGEで分離後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。5%ウシ血清アルブミン(BSA)または4%ミルク/トリス緩衝生理食塩水・Tween 20(TBS-T)でブロッキング後、リン酸化EGFR、全EGFR、リン酸化Akt、全Akt、リン酸化ERK、全ERK1/2、リン酸化S6、全S6、β-アクチンに対する抗体を用いてインキュベートし、シグナルを検出した。シグナル検出には化学発光法を用いた。