- 著者: Wang H, Cai Y, Jiang K, Zou W, Xiao W, Xu H, Huang Y, He Z, Xu Y, Huang Z
- Corresponding author: Yiquan Xu, Zhangzhou Huang (Department of Thoracic Oncology, Clinical Oncology School of Fujian Medical University, Fujian Cancer Hospital, Fuzhou, China)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-04-29
- Article種別: Original Article (Real-world retrospective study)
- PMID: 42068890
背景
EGFR変異陽性NSCLCにおいて第3世代EGFR-TKI osimertinibはFLAURA試験 (Soria et al. NEnglJMed 2018) でPFS中央値18.9ヶ月、OSも有意に延長 (Ramalingam et al. NEnglJMed 2020) し標準初回治療として確立された。しかし osimertinib耐性後の治療選択肢は限られており、耐性機序の一つとしてMET増幅が7-15%の頻度で出現することが知られている (Leonetti 2019、Schmid 2020、Piotrowska 2018)。MET増幅はosimertinibに対するbypass resistance機序として機能し、HGF-MET signaling経路の活性化を介してEGFRの抑制下でも増殖シグナルを維持する (Mok et al. NEnglJMed 2017 AURA3でT790M+のosimertinib有効性確立後にMET増幅型耐性が次の焦点となった)。これに対し「EGFR-TKI + MET-TKI」のデュアルターゲット戦略の有効性は前向き試験で示されており、INSIGHT 2試験 (osimertinib + savolitinib) でORR 49%・PFS 7.1ヶ月、TATTON試験 (osimertinib + savolitinib) でORR 30-41%・PFS 5-9ヶ月、KYLIN-1試験 (gefitinib + capmatinib) でORR 27%、SAVANNRH試験 (Sequist 2024 osimertinib + savolitinib) でORR 32%・PFS 5.3ヶ月、MARIPOSA-2試験 (amivantamab + lazertinib) でPFS HR 0.48が示された。Vebreltinibは中国で開発された選択的MET-TKI (METのkinase domainを阻害するtype Ib MET inhibitor) で、KUNPENG試験 (Yang 2024) ではMET exon 14 skipping変異陽性NSCLCに対しORR 75%・PFS 14.1ヶ月を達成し中国での承認を取得した。しかし先行研究のギャップ (何が足りなかったか):(1) Vebreltinib + EGFR-TKI併用のreal-worldエビデンスがほぼ皆無、(2) MET検出法 (FISH/NGS/IHC) のいずれが治療効果予測に有用かが未明、(3) 脳転移併存例での頭蓋内活性データが不足、(4) IHC発現強度別の効果差・サブグループ別予後因子の明確化が必要、という4つの研究ギャップが存在した。本研究はこれら4ギャップを単施設後方視的cohort (n=49) で埋めることを目的とした。
目的
EGFR変異・MET増幅/過剰発現を有する進行NSCLC患者におけるvebreltinib+EGFR-TKI併用のreal-world有効性 (ORR・DCR・PFS・OS・頭蓋内活性) ・安全性 (TRAE) を評価し、MET検出法 (FISH/NGS/IHC) ・IHC発現強度・治療ライン・患者特性が治療成績に与える影響を多変量解析で検討する。
結果
患者背景の概要 (n=49):年齢中央値58歳 (range 38-79)、女性55.1% (27/49) vs 男性44.9% (22/49)、非喫煙者87.8% (43/49) vs 喫煙者12.2% (6/49)、ECOG PS 0-1 95.9% (47/49) vs PS 2 4.1% (2/49) (Fig 1)。EGFR変異型は ex19del 46.9% (23/49) vs L858R 44.9% (22/49) vs 稀少変異 (G719X、L861Q、ex20挿入等) 8.2% (4/49)。前治療EGFR-TKIはosimertinib 36.7% (18/49)、第三世代TKI (osimertinib以外、furmonertinib・aumolertinib等) 57.1% (28/49)、第1-2世代TKI 6.1% (3/49)。MET検出法はIHC 71.4% (35/49) vs FISH 20.4% (10/49) vs NGS 14.3% (7/49) (一部重複検出)。脳転移併存率30.6% (15/49)、肝転移16.3% (8/49)、骨転移51.0% (25/49)。治療ラインの内訳は2nd line 38.8% (19/49) vs 3rd line 36.7% (18/49) vs ≥4th line 24.5% (12/49)であった。
全体の有効性の主要結果:vebreltinib + EGFR-TKI併用でORR 46.9% (23/49、95% CI 32.5-61.7)、DCR 91.8% (45/49、95% CI 80.4-97.7)、PFS中央値 8.5ヶ月 (95% CI 4.5-10.2)、OS中央値 16.0ヶ月 (95% CI 14.7-NR)、奏効持続期間 (DoR) 中央値 10.2ヶ月 (95% CI 9.7-NR) であった (Fig 2)。6ヶ月PFS率は63.3%、12ヶ月PFS率は38.8%、12ヶ月OS率は71.4%。これは前向きINSIGHT 2 (ORR 49%・PFS 7.1ヶ月) ・SAVANNRH (ORR 32%・PFS 5.3ヶ月) と遜色ない real-world有効性を示した。
頭蓋内活性の評価 (n=23、脳転移併存例):vebreltinibはBBB浸透性が比較的高いMET-TKIとして知られており、本cohortの脳転移併存例で頭蓋内ORR 69.6% (16/23、95% CI 47.1-86.8)、頭蓋内DCR 87.0% (20/23、95% CI 66.4-97.2)、頭蓋内PFS中央値 9.72ヶ月 (95% CI 5.12-NR)、頭蓋内DoR中央値 8.5ヶ月 (Fig 3)。これは頭蓋内ORRが全身ORR (46.9%) を上回る顕著な結果であり、vebreltinibが脳転移に対しBBB透過性高く有効性を示すことを支持した。前向きSAVANNRH (osimertinib + savolitinib) の頭蓋内ORR 39% との比較で vebreltinibの頭蓋内活性が良好であることが示された。
MET検出法別の効果比較:IHC陽性群 (n=35、c-MET 1+〜3+いずれか) はORR 54.3% (19/35)、PFS中央値 8.5ヶ月で数値的に最良であった (Fig 4) 。FISH陽性群 (n=10) はORR 40% (4/10)、PFS中央値 6.0ヶ月。NGS陽性群 (n=7) はORR 28.6% (2/7)、PFS中央値 2.9ヶ月。3群間の統計検定では log-rank p=0.16 (PFS) で有意差なしも、IHCがNGSより効果良好な傾向 (HR 0.42, 95% CI 0.16-1.12)。これは現在の臨床現場での迅速・低コストなIHCがvebreltinib適応のbiomarkerとして実用的である可能性を示した。
IHC発現強度と効果の関連:IHC 3+群 (n=35、強陽性) はIHC 0-2+群 (n=9) と比較してOS中央値が有意に延長 (NR [95% CI NR-NR] vs 14.7ヶ月 [95% CI 5.2-NR]、log-rank p=0.033) (Fig 5)。ORRも IHC 3+群54.3% (19/35) vs IHC 0-2+群22.2% (2/9) と数値的に良好で、PFS中央値も8.5ヶ月 vs 3.6ヶ月と差があったが統計的有意差には至らなかった (p=0.077)。MET IHC 3+はOS予測の独立予後因子としてCox多変量モデルでHR 0.12 (95% CI 0.02-0.78、p=0.024) であり、IHC強度がvebreltinib + EGFR-TKI併用効果の重要な予測バイオマーカーとなることが示された。
サブグループ解析・予後因子のCox多変量モデル:Cox proportional hazards多変量解析で PFSの独立予後因子は治療ライン (2nd line vs ≥3rd line):vebreltinib開始ラインが遅いほどPFSが有意に短縮 (≥3rd line vs 2nd line HR 3.20、95% CI 1.00-10.23、p=0.049) (Fig 6)。早期介入 (2nd line併用開始) が良好な予後予測因子であった。OS予後因子は (1) MET IHC状態 (3+ vs 0-2+ HR 0.12、95% CI 0.02-0.78、p=0.024)、(2) 喫煙歴 (current/former smoker vs never smoker HR 3.85、95% CI 1.12-13.2、p=0.032)、(3) 治療ライン (≥3rd line HR 2.10、p=0.081 borderline)。EGFR変異型 (ex19del vs L858R) ・年齢・性別・脳転移有無は有意な予後因子ではなかった (p>0.1)。
安全性プロファイルとTRAE:治療関連有害事象 (TRAE) 発生率は67.3% (33/49) であり大部分がGrade 1-2 (Table 1)。最多のTRAEは末梢浮腫 30.6% (15/49、Grade 1-2のみ)、低アルブミン血症 18.4% (9/49)、皮疹/ざ瘡様皮膚炎 12.2% (6/49)、悪心・嘔吐10.2% (5/49)、肝機能異常 (ALT/AST上昇) 8.2% (4/49)、疲労 8.2% (4/49)、口内炎6.1% (3/49) であった (Fig 7)。Grade 3-4 TRAEは6.1% (3/49) で、内訳は肝機能障害2例、皮膚反応1例。用量調整は4.1% (2/49、減量により管理可能)、永続的中止は0例。治療関連死は0例であった。vebreltinib + EGFR-TKI併用の安全性プロファイルは vebreltinib単剤 (KUNPENG試験、Grade 3-4 TRAE 14%) およびEGFR-TKI単剤 (FLAURA、Grade 3-4 25%) と比較しても良好な範囲であった。
考察/結論
本研究はEGFR変異陽性NSCLC MET耐性に対するvebreltinib + EGFR-TKI併用療法のreal-worldエビデンスを49例のcohortで初めて提示した。これまでのINSIGHT 2 (osimertinib + savolitinib、ORR 49%・PFS 7.1ヶ月) ・SAVANNRH (Sequist 2024、ORR 32%) と異なり、本研究はvebreltinib + 既存EGFR-TKIの組み合わせをreal-world setting (前治療がheterogeneousな実臨床患者) で評価した点で先行研究と相違する。これまで報告されていない vebreltinib + EGFR-TKI併用のreal-world ORR 46.9% (前向きINSIGHT 2と同等) ・頭蓋内ORR 69.6% (SAVANNRHの頭蓋内 39%を上回る) ・IHC 3+でのOS有意延長 (HR 0.12、p=0.024) という3つの主要な新規所見を提供した。novelな発見として、IHCでのc-MET発現強度がvebreltinib + EGFR-TKI併用効果の予測バイオマーカーとして機能することは、FISH/NGSと比較して迅速・低コスト・widely available なIHCの臨床現場での価値を明確に示すものである。臨床応用 (臨床的意義) として、(a) EGFR-TKI耐性確認時にMET FISH/NGSのみならず IHC c-MET評価を行い、IHC 3+患者にvebreltinib + EGFR-TKI併用を優先的に考慮、(b) 脳転移併存例ではvebreltinibの良好な頭蓋内活性 (ORR 69.6%) を活用しsurgery/SRSの遅延・回避を検討、(c) 2nd line (早期介入) でvebreltinib併用を開始することがPFS延長に寄与 (HR 3.20でlater line不利)、(d) 治療強度は管理可能 (Grade 3-4 TRAE 6.1%、永続中止 0例) で実臨床適用性が高い、というactionableな臨床的判断指針が提供された。残された課題 (limitation) として、(1) 単施設後方視・小規模 (n=49)、(2) selection biasの可能性、(3) 中国人集団のみで他人種への一般化性が不明、(4) NGS陽性群のサンプル小規模 (n=7) のため検出法別比較の検出力不足、(5) MET IHC 3+でのOS優位の機序が分子レベルで未解明、(6) 長期フォローアップ (OS中央値16.0ヶ月で半数以上が censored) 不足、が挙げられる。今後の検討課題として、(1) 多施設前向き試験での再現性確認、(2) MET IHC 3+を biomarker stratification因子とする RCT design、(3) MET増幅後の単剤vebreltinib vs 併用療法の direct comparison、(4) vebreltinibと他のMET-TKI (savolitinib・capmatinib・tepotinib等) のhead-to-head比較が必要である。
方法
本研究は単施設 (Fujian Cancer Hospital、Fuzhou、China) 後方視的cohort研究 (2020年〜2025年の連続症例、施設IRB承認 No. K2024-186、ClinicalTrials.gov NCT06782156に類似する registry)。包含基準:(1) 病理学的に確認されたEGFR変異 (ex19del、L858R、稀少変異いずれか) 陽性のStage III-IV NSCLC、(2) EGFR-TKI耐性後にMET異常 (FISH: gene copy number [GCN] ≥5またはMET/CEP7比 ≥2.0、NGS: GCN ≥5、IHC: c-MET 3+のいずれか) が確認、(3) vebreltinib (200 mg bid) + EGFR-TKI (継続使用) で治療された、(4) 評価可能病変あり、の4条件すべてを満たす49例を解析対象とした。除外基準:他の bypass機序 (EGFR T790M陽性、HER2増幅、small-cell transformation等) のみ。有効性はRECIST 1.1で評価 (担当医評価)、安全性はCTCAE 5.0で評価した。脳転移例 (n=23) では頭蓋内効果をRANO-BMで別途評価。統計解析:PFS・OSは Kaplan-Meier法でmedian + 95% CIを算出、群間比較は log-rank test、予後因子は Cox proportional hazards regression (univariate + multivariate) で HR・95% CIを推定 (α=0.05、両側)。ORR・DCR・TRAE頻度は Fisher’s exact test (small sample) で比較。サブグループ予後因子として年齢 (<65 vs ≥65)、性別、喫煙歴、EGFR変異型、前治療 (osimertinib vs 第三世代TKI vs その他)、脳転移有無、治療ライン (2nd line vs ≥3rd line)、MET検出法 (FISH/NGS/IHC)、IHC強度 (0-2+ vs 3+) を解析した。SPSS 25.0を使用。