- 著者: Matthew J. Niederst, Lecia V. Sequist, John T. Poirier, Craig H. Mermel, Elizabeth L. Lockerman, Angel R. Garcia, Ryohei Katayama, Carlotta Costa, Kenneth N. Ross, Teresa Moran, Emily Howe, Linnea E. Fulton, Hillary E. Mulvey, Lindsay A. Bernardo, Farhiya Mohamoud, Norikatsu Miyoshi, Paul A. VanderLaan, Daniel B. Costa, Pasi A. Jänne, Darrell R. Borger, Sridhar Ramaswamy, Toshi Shioda, Anthony J. Iafrate, Gad Getz, Charles M. Rudin, Mari Mino-Kenudson, Jeffrey A. Engelman
- Corresponding author: Jeffrey A. Engelman (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-03-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 25758528
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブは効果的な治療法であり、多くの患者で腫瘍縮小、症状緩和、化学療法と比較した予後改善が認められる Mok et al. NEnglJMed 2009、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Maemondo et al. NEnglJMed 2010、Rosell et al. LancetOncol 2012、Sequist et al. JClinOncol 2013。しかし、治療開始後平均約12ヶ月で獲得耐性が生じ、病勢進行に至ることが一般的である。この獲得耐性の主要な分子機序としては、EGFR T790M二次変異(約60%)、MET遺伝子増幅、PIK3CA変異などが報告されている Engelman et al. Science 2007。
これらの耐性機序の解明に貢献したのは、治療抵抗性発現時に繰り返し生検を行う研究プログラムであった。Sequist et al. SciTranslMed 2011による先行研究では、耐性獲得患者の5〜15%において、NSCLCから小細胞肺癌(SCLC)への組織学的形質転換が認められることが報告された。この形質転換したSCLCは、原発腺癌と同一のEGFR活性化変異を保持しており、これは新たな原発癌ではなく、既存の癌からの直接的な進化を示唆するものであった。しかし、この組織学的形質転換の分子機序は依然として未解明であり、EGFR-TKI耐性との関連性や、形質転換SCLCと古典的SCLCとの分子的な類似性については不明な点が多かった。この分野における知識ギャップが残されている。
古典的SCLCでは、網膜芽細胞腫(RB1)遺伝子とTP53遺伝子の両アレル欠失が普遍的な遺伝子変化として知られている Peifer et al. NatGenet 2012。このことから、EGFR変異腺癌のSCLC形質転換においても、同様の腫瘍抑制遺伝子の不活性化が関与する可能性が示唆されていたが、その直接的な証拠は不足していた。また、SCLC形質転換後のEGFR発現の変化や、神経内分泌マーカーの発現、さらには特定の薬剤への感受性についても、体系的な解析が不足しており、新たな治療戦略を開発するための基盤となる知見が求められていた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的とする。
目的
本研究の目的は、EGFR変異陽性NSCLCがEGFR-TKI獲得耐性によりSCLCへ形質転換する際の分子変化を体系的に解析することである。具体的には、RB1遺伝子欠失、TP53変異、EGFR発現変化、神経内分泌マーカーの発現パターン、およびBCL-2ファミリー阻害薬であるABT-263に対する感受性を評価する。これらの解析を通じて、SCLC形質転換のメカニズムを解明し、形質転換SCLCの治療的含意を明らかにすることを目指す。また、形質転換SCLCが古典的SCLCと分子・表現型的にどの程度類似しているかを評価し、このサブセットの耐性癌に対する新たな治療戦略の可能性を探る。最終的には、EGFR-TKI耐性後のSCLC形質転換における普遍的な分子ドライバーを特定し、その臨床的意義を確立することを目的とする。
結果
RB発現喪失がSCLC形質転換の普遍的マーカーであることの同定: 免疫組織化学(IHC)解析の結果、EGFR-TKI獲得耐性後にSCLC形質転換を来した10検体中10例(100%)でRB発現が陰性であった。これに対し、NSCLCの組織型を維持した9検体では、8/9例(89%)でRB陽性であり、RB陰性は1/9例のみであった。この結果は、RB発現喪失がSCLC形質転換に選択的に関連する普遍的な分子変化であることをFisherの正確検定で示し(p<0.0001)、統計的に極めて有意な関連性が認められた (Table 1)。患者#7の腫瘍検体を用いたWESおよびArray CGH解析、さらにqPCRによる遺伝子解析では、SCLC形質転換腫瘍においてRB1遺伝子の二アレル性欠失(比較的大きな欠失と局所的な欠失の組み合わせ)が確認された (Fig 3b, Fig 4a,b)。この二アレル性欠失は、NSCLCの組織型を維持した耐性腫瘍では観察されなかった。さらに、患者#1のSCLC形質転換腫瘍でも同様のRB1の二アレル性欠失が確認された (Fig 4e)。これらの結果は、SCLC形質転換においてRB1遺伝子の機能喪失が遺伝子レベルで普遍的に生じていることを強く示唆する。
SCLC形質転換細胞におけるEGFR発現の消失とTKI耐性: Western blottingおよびIHC解析により、SCLC形質転換患者由来細胞株(MGH131-1、MGH131-2)ではEGFR蛋白発現が完全に消失していることが明らかになった (Fig 2b)。これに対し、T790M変異を保有するNSCLCモデル(MGH121)ではEGFR発現が維持されていた。SCLC形質転換患者の腫瘍IHCにおいても、治療前(NSCLC)と比較して治療後(SCLC)の検体でEGFR発現の顕著な低下が確認された(H-scoreで有意な低下、p<0.0001、一元配置分散分析) (Fig 2c,d)。細胞生存率アッセイでは、SCLC形質転換細胞株はゲフィチニブおよび第三世代EGFR阻害薬WZ4002に対して高い耐性を示した (Fig 2a)。これは、EGFR発現の消失がSCLC形質転換細胞のEGFR-TKI耐性の主要な原因であることを示唆する。CCLEデータベースの解析でも、古典的SCLC細胞株は腺癌細胞株と比較して有意に低いEGFR mRNAレベルを示すことが確認された。
BCL-2/BCL-XL阻害薬ABT-263に対する高感受性: BCL-2/BCL-XL阻害薬ABT-263に対する感受性を評価した結果、SCLC形質転換細胞株(MGH131-1、MGH131-2)は、T790M陽性NSCLCモデル(MGH121、MGH134)と比較して、ABT-263に対して顕著に高い感受性を示した (Fig 2e)。これらのSCLC形質転換細胞株のABT-263 IC50値は、MGH131-1が0.09 μM、MGH131-2が0.05 μMであり、21種類の古典的SCLC細胞株パネルと比較しても最も感受性の高いグループに属しており、古典的SCLCと同等の高感受性を示した (Fig 2f)。単剤ABT-263処理により、SCLC形質転換細胞においてアポトーシスが強力に誘導されることも確認された。この所見は、SCLC形質転換後の治療戦略として、ABT-263(ナビトクラックス)などのBCL-2ファミリー阻害薬が有効である可能性を強く示唆する。
SCLC形質転換腫瘍の遺伝子・発現プロファイルの類似性: WES解析(患者#7)では、SCLC形質転換腫瘍においてTP53の不活性化変異とヘテロ接合性喪失(LOH)が確認された。これは古典的SCLCで普遍的に認められる変化である。また、PIK3CAの活性化変異(E545K)もSCLC形質転換腫瘍に同定された (Fig 3b)。RNA発現アレイの階層クラスタリング解析では、MGH131-1およびMGH131-2(SCLC形質転換細胞株)が古典的SCLC細胞株に近いクラスターを形成し、T790M陽性NSCLCなどの耐性NSCLCモデルとは明確に分離することが示された (Fig 1b,c)。SCLC形質転換細胞株では、クロモグラニンAやシナプトフィジンなどの神経内分泌マーカーの発現が高く、miRNA解析でもSCLC型の発現パターンを示した (Fig 1a, Supplementary Fig 1c)。これらのデータは、SCLC形質転換後の腫瘍が、遺伝子発現および表現型の両面で古典的SCLCに類似した特徴を獲得することを示している。
RB欠失の必要性と限界: shRNA実験により、EGFR変異陽性NSCLC細胞株(PC9、HCC827)へのRB1 shRNAノックダウン単独では、ゲフィチニブ感受性の変化や神経内分泌分化の誘導は認められなかった。in vivoゼノグラフトモデルにおいても、RB1ノックダウン単独による耐性化やSCLC分化は観察されなかった。これらの結果は、RB1欠失がSCLC形質転換に「必要(necessary)」なイベントである可能性が高いものの、単独では「十分(not sufficient)」ではないことを示唆する。RB欠失に加えて、他の遺伝子変化(例: TP53変異)やエピジェネティックな変化が複合的に作用することで、SCLC形質転換が促進される可能性が考えられる。
考察/結論
本研究は、EGFR変異陽性NSCLCがEGFR-TKI獲得耐性後にSCLCへ形質転換する分子的基盤として、RB1遺伝子欠失が普遍的(100%)に認められることを初めて体系的に証明したランドマーク研究である。古典的SCLCにおいてRB1とTP53の普遍的な不活性化が知られているのと同様に、EGFR変異腺癌のSCLC形質転換においてもRB1(およびTP53)の変化が中心的役割を果たすことが示された。
先行研究との違い: これまでの研究では、SCLC形質転換の存在は報告されていたものの Sequist et al. SciTranslMed 2011、その分子メカニズム、特にRB1欠失の普遍性については不明であった。本研究は、SCLC形質転換におけるRB1欠失の頻度と遺伝子学的詳細を初めて明らかにし、古典的SCLCとの分子的な類似性を明確に示した点で、先行研究と対照的な知見を提供する。また、SCLC形質転換後のEGFR発現消失がEGFR-TKI耐性の主要因であることを初めて提示し、EGFR経路に依存しない神経内分泌分化経路への移行を分子レベルで説明した。
新規性: 本研究で初めて、EGFR変異陽性NSCLCのSCLC形質転換において、RB1の二アレル性欠失が普遍的に認められることを遺伝子レベルおよび蛋白レベルで証明した。さらに、形質転換SCLCがEGFR発現を消失し、神経内分泌マーカーを獲得し、BCL-2/BCL-XL阻害薬ABT-263に対して高感受性を示すことを新規に同定した。これらの知見は、SCLC形質転換後の腫瘍が古典的SCLCと類似した分子・表現型プロファイルを持つことを強く示唆する。
臨床応用: ABT-263に対するSCLC形質転換細胞の高感受性という治療的知見は、その後の臨床試験(例: ナビトクラックスとオシメルチニブの併用療法など)の強力なラショナルを提供した。この発見は、EGFR-TKI耐性後のSCLC形質転換患者に対する新たな治療戦略の開発に直結する臨床的意義を持つ。SCLC形質転換後の患者は、古典的SCLCに準じた治療(例: プラチナ製剤とエトポシドの併用化学療法)に加えて、BCL-2ファミリー阻害薬の有効性が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、RB1欠失がSCLC形質転換に必要ではあるが単独では不十分であるという結果から、RB1欠失と協調してSCLC形質転換を駆動する他の分子イベント(例: TP53変異、エピジェネティックな変化、特定のシグナル経路の活性化)を特定することが挙げられる。また、in vivoにおけるSCLC形質転換の動態をより詳細に解析するための、より生理学的なモデル(例: オルガノイドモデルや患者由来異種移植モデル)の開発と検証が必要である。さらに、SCLC形質転換の早期診断バイオマーカーの探索や、ABT-263を含む新規治療薬の臨床的有効性を評価する大規模な臨床試験が今後の方向性として重要である。本研究のLimitationとして、患者検体数が限られている点や、RB欠失が前治療前のNSCLC検体の一部でも認められた症例が存在する点が挙げられる。これは、SCLC形質転換の潜在的な素因が治療前から存在しうる可能性を示唆しており、さらなる研究が必要である。
方法
本研究では、EGFR変異陽性NSCLC患者から得られた腫瘍検体および細胞株を用いた多角的な解析を実施した。
患者検体および細胞株の収集: EGFR変異陽性NSCLC患者のうち、EGFR-TKI治療後にSCLC形質転換を来した9患者(10検体)と、NSCLCの組織型を維持した9患者(11検体)の腫瘍サンプルを収集した。また、SCLC形質転換患者由来の細胞株(MGH131-1、MGH131-2)およびT790M変異陽性NSCLC患者由来の細胞株(MGH121、MGH134など)を樹立し、解析に用いた。これらの細胞株は、IRB承認プロトコルに基づき、患者からインフォームドコンセントを得て樹立された。
遺伝子発現解析:
- Gene expression array: Affymetrix U133plus DNAマイクロアレイを用いて、患者由来細胞株およびCancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) データベースの肺癌細胞株パネル(n=170)のmRNA発現プロファイルを比較した。R BioconductorパッケージのRMA法で正規化後、階層クラスタリング解析を実施し、SCLC形質転換細胞株と古典的SCLC細胞株、および耐性NSCLC細胞株との類似性を評価した。
- miRNA発現解析: Taqmanアッセイを用いて、腺癌とSCLC細胞株間で最も発現が異なることが既報の10種類のmiRNAの発現パターンを解析した。RNU6Bを内部標準として正規化した。
蛋白発現解析:
- Western blotting: RB、EGFR、神経内分泌マーカー(クロモグラニンA、シナプトフィジン、NCAM、NeuroD)、リン酸化Akt (pAkt T308)、リン酸化ERK (pERK T202/Y204)、総Akt、E-cadherin、Vimentinなどの蛋白発現を評価した。
- 免疫組織化学(IHC): 患者腫瘍検体において、RB、EGFR、クロモグラニン、シナプトフィジンの発現を評価した。RB IHCはAbcam E182抗体(1:500希釈)を用い、Leica RX Bond Autostainerで実施した。EGFR IHCはCell Signaling 4267抗体(1:500希釈)を用い、H-score(0-300)で定量化した。
遺伝子異常解析:
- Array CGH (Comparative Genomic Hybridization): Agilent Sureprint G3 Cancer CGH + SNP 4x180kマイクロアレイを用いて、RB1遺伝子座を含むゲノムワイドなコピー数変化を評価した。ホルマリン固定パラフィン包埋組織からDNAを抽出し、CY3-dUTP/CY5-dUTPで標識後、ハイブリダイゼーションを行った。データはAgilent CytoGenomics v2.0ソフトウェアで解析した。
- WES (Whole Exome Sequencing): 患者#7の4検体(正常肝臓、NSCLC横隔膜腫瘍、SCLC肝臓腫瘍、SCLC肺腫瘍)について、Applied Biosystems SOLiD 5500深層シーケンサーを用いてWESを実施した。得られたデータはLifeScopeソフトウェアでhg19参照ゲノムにアラインメントし、muTectソフトウェアで変異を検出した。
- qPCR (Quantitative Polymerase Chain Reaction): RB1遺伝子のエクソン3、13、25を増幅するプライマーセットを用い、RB1遺伝子コピー数を定量的に評価した。LINE-1をローディングコントロールとした。
薬剤感受性試験:
- Cell viability assay: SCLC形質転換細胞株およびT790M陽性NSCLC細胞株に対し、ゲフィチニブ、第三世代EGFR阻害薬WZ4002、およびBCL-2/BCL-XL阻害薬ABT-263を様々な濃度で72時間処理し、CellTiter-Gloアッセイで細胞生存率を測定した。IC50値を算出し、21種類の古典的SCLC細胞株のABT-263 IC50値と比較した。
機能解析:
- shRNA実験: EGFR変異陽性NSCLC細胞株(PC9、HCC827)にRB1 shRNAを導入し、RB1発現を抑制した。ゲフィチニブ感受性、神経内分泌分化マーカーの発現、およびSCLC形態への変化をin vitroおよびin vivoゼノグラフトモデルで評価した。in vivo実験は、マサチューセッツ総合病院のInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認を得て実施された。
統計解析: 統計解析にはFisherの正確検定、一元配置分散分析(ANOVA)とBonferroni事後検定を用いた。p値0.05未満を有意とした。