• 著者: Zhu M, Huang Y, Bender ME, Girard L, Kollipara R, Eglenen-Polat B, Naito Y, Savage TK, Huffman KE, Koyama S, Kumanogoh A, Minna JD, Johnson JE, Akbay EA
  • Corresponding author: Esra A. Akbay (Department of Pathology, University of Texas Southwestern Medical Center)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-01-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33495232

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌全体の約 15% を占める極めて悪性度の高い肺神経内分泌腫瘍であり、その 5 年生存率は 5% 未満と予後は著しく不良である。多くの患者は診断時に既に広範な転移を伴う進行期にあり、標準的な化学療法であるシスプラチンとエトポシドの併用療法に対して初期には高い感受性を示すものの、ほぼ全例が 1 年以内に耐性化して再発する。近年、抗 PD-1 抗体ニボルマブや抗 PD-L1 抗体アテゾリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬が治療に導入されたが、その生存期間延長効果は数ヶ月に留まり、長期生存に寄与する割合は約 10% 程度の限られたサブセットに過ぎない。

SCLC は 90% 以上の症例で腫瘍抑制遺伝子である RB1 および TP53 の不活化変異を伴うが、非小細胞肺癌 (NSCLC) とは異なり、EGFR 遺伝子変異や ALK 融合遺伝子のような標的治療の対象となるドライバー変異を持たない。近年、SCLC は ASCL1 (achaete-scute homolog 1)、NEUROD1、POU2F3、YAP1 という 4 つの主要な転写因子の発現パターンに基づいてサブタイプ分類されることが提唱された。このうち ASCL1 高発現 (SCLC-A) および NEUROD1 高発現 (SCLC-N) サブタイプは、全 SCLC の約 80% を占め、神経内分泌分化マーカーを強く発現する「神経内分泌型」に分類される。しかし、これらサブタイプ特異的な免疫微小環境や、治療抵抗性および転移能を駆動する分子メカニズムの全貌は未解明であった。

一般に、SCLC は遺伝子変異の蓄積を示す指標である TMB (tumor mutational burden) が極めて高い腫瘍として知られている。Schumacher et al. Science 2015 などの先行研究によれば、高い TMB はネオアンチゲンの増加を介して免疫チェックポイント阻害薬への良好な治療反応性と相関することが示されている。しかし、SCLC ではこの相関が成立せず、免疫療法への反応性は極めて低い。この矛盾を説明する機序として、SCLC が MHC-1 (major histocompatibility complex class I) の発現を著しく低下させ、適応免疫系による抗原提示から逃避していることが既報で示されている (Rudin et al. NatRevCancer 2019)。しかし免疫学的原理に照らせば、MHC-1 発現の消失は NK (natural killer) 細胞による「Missing-self」認識を誘導し、NK 細胞の細胞傷害活性をむしろ増強するはずである。それにもかかわらず SCLC が生体内で NK 細胞の監視をかいくぐり攻撃的に増殖・転移する詳細な回避機序に関する知見は手薄であり、自然免疫監視からの逃避を司る分子基盤には決定的な gap in knowledge が存在していた。

NK 細胞は自然免疫系を構成する重要なエフェクター細胞であり、標的細胞表面に発現する NKG2D (natural killer group 2, member D) 受容体を介して異常細胞を認識し排除する。ヒトの NKG2D リガンド (NKG2DL) には MICA (MHC class I polypeptide-related sequence A)、MICB、および ULBP (UL16-binding protein) ファミリーが存在する。マウスには MICA/B の相同遺伝子は存在しないが、Rae1 (retinoic acid early inducible 1) ファミリーなどのオルソログが NKG2D 受容体に結合する。これら NKG2DL の発現低下が SCLC の悪性度や転移能にどう寄与するのか、またその発現がどのようなエピジェネティック制御を受けるのかについては十分な検証が行われておらず、治療標的としての可能性も未開拓のままであった。

目的

本研究の目的は、ASCL1 高発現の神経内分泌型 SCLC における NK 細胞監視回避の具体的な分子メカニズムを解明することである。特に、NK 細胞活性化リガンドである MICA および MICB の発現低下が SCLC の原発巣増殖および遠隔転移 (肝臓・肺) に及ぼす影響を定量的に評価する。さらに、これらリガンドの遺伝子座におけるエピジェネティックな沈黙化機構 (ヒストンアセチル化状態) を同定し、HDAC (histone deacetylase) 阻害薬を用いたエピジェネティック治療によってリガンド発現を回復させ、NK 細胞および CD8+ T 細胞依存的な抗腫瘍免疫を再活性化できるかを検証する。加えて、この免疫逃避機構が ASCL1 を高発現する他の神経内分泌腫瘍 (神経芽腫など) にも共通する系統依存的な現象であるかを明らかにすることを目指す。

結果

SCLCにおけるNKG2Dリガンド発現の消失と自然免疫監視回避: 臨床検体と公的データベースの統合解析により、SCLC の顕著な免疫逃避プロファイルが明らかになった。George et al. Nature 2015 および TCGA 肺腺癌データセットの比較解析において、SCLC 腫瘍組織は NSCLC 組織と比較して MICA および MICB の mRNA 発現量が著しく低下していた (p<0.0001) (Fig 1A)。肺癌患者血清を用いた ELISA 解析では、進行期 NSCLC 患者 (n=44) で可溶性 MICA タンパク質が有意に上昇していたのに対し、進展期 SCLC 患者 (n=25) では健康対照者 (n=16) と同等の極めて低いレベルに留まっていた (Fig 1B)。フローサイトメトリーにより、ASCL1 高発現の神経内分泌型ヒト SCLC 細胞株 (NCI-H69, NCI-H510, SHP77, NCI-H2081) では表面 MICA/B タンパク質発現がほぼ完全に消失していたのに対し、NSCLC 細胞株 (NCI-H1792, NCI-H2030, NCI-H460, SK-LU-1) では高い発現が維持されていた (Fig 1D)。この現象は遺伝子組み換えマウスモデル (GEMM) でも再現され、NSCLC モデル (Kras LSL-G12D, n=8) 由来 Epcam+ 腫瘍細胞は高い NKG2DL を発現したが、SCLC モデル (Rb1-/-/Trp53-/-/Rbl2-/-, n=6) 由来細胞では発現が消失していた (Fig 1F, 1G)。同種移植モデルでも SCLC 腫瘍内への CD45+ 免疫細胞および NK1.1+ NK 細胞の浸潤数は NSCLC より有意に少なく、浸潤 NK 細胞の活性化マーカー CD107a の発現率も著しく低下していた (p<0.05) (Fig 1H–1J)。

NKG2Dリガンド強制発現による原発腫瘍増殖の抑制: SCLC における NKG2DL 欠損が機能的な免疫逃避を駆動しているかを検証するため、ヒト SCLC 細胞株 SHP77 に MICA を安定発現させた。MICA 強制発現 SHP77 細胞は in vitro で NK92 細胞による LDH 介在性細胞傷害活性を著しく増強し (p<0.05)、共培養 NK92 細胞の IFNγ 陽性率を対照ベクター群の約 2.5-fold に上昇させた (Fig 2B)。in vivo では、MICA 発現 SHP77 細胞を無毛マウスに皮下移植したところ、対照群と比較して腫瘍増殖が極めて強力に抑制された (n=6 匹, p<0.01) (Fig 2C)。MICA は in vitro での増殖速度には影響しなかったため、この効果は細胞自律的なものではない。この腫瘍抑制効果は抗 asialo-GM1 抗体による NK 細胞除去で部分的に消失したため、NK 細胞依存的な機構であることが実証された (n=6) (Fig 2D)。フローサイトメトリーでは MICA 発現腫瘍において浸潤 CD45+ 免疫細胞と NK 細胞が増加し、CD107a および IFNγ 産生で示される NK 細胞活性化が亢進していた (Fig 2E)。

Rae1d強制発現による肝・肺遠隔転移の抑制とNK細胞依存性: 免疫能を有する野生型マウスを用いた同種移植モデルで、マウス SCLC 細胞株 RP984 にマウス NKG2DL である Rae1d を安定発現させ皮下移植したところ、原発巣の増殖が有意に抑制された (n=6 匹, p<0.01) (Fig 3C)。尾静脈注射による転移モデルでは、対照群 (n=11 匹) では肝臓および肺に多数の肉眼的転移結節が形成されたのに対し、Rae1d 発現群 (n=9 匹) では肝臓への転移面積割合が有意に減少した (p<0.01) (Fig 3D, 3E)。この抗腫瘍・抗転移効果は抗 NK1.1 抗体による NK 細胞除去で完全に消失し (p<0.05)、抗 CD8 抗体による CD8+ T 細胞除去でも部分的に減弱したが、抗 CD4 抗体による CD4+ T 細胞除去では影響を受けなかった (Fig 3F, 3G)。免疫能を有する同種移植モデルでは、Rae1d 発現群において CD3+CD8+ 細胞傷害性 T 細胞および NK 細胞の Ki67+ 増殖マーカー陽性率が有意に上昇し、NK 細胞の IFNγ 産生も増加した (Fig 3H)。NKG2D 受容体は T 細胞にも発現するため、免疫能を有する宿主では NK 細胞と T 細胞の双方が活性化された。

MICA/B遺伝子座のエピジェネティック沈黙化とHDAC阻害薬による発現回復: NKG2DL 発現消失の分子機構を解明するため H3K27ac (histone H3 lysine 27 acetylation) ChIP-seq データを解析した。その結果、NSCLC 細胞株 (A549, NCI-H2087, NCI-H3122, PC-9) と比較して ASCL1 高発現 SCLC 細胞株 (NCI-H69, NCI-H510, NCI-H2107) では MICA/B 遺伝子座のエンハンサー領域における H3K27ac シグナル量が極めて低く、クロマチン構造が閉じた沈黙化状態にあることが判明した (p<0.001) (Fig 4A, 4B)。STING (stimulator of interferon genes) 経路を介すると報告されるシスプラチン・エトポシドや PARP 阻害薬オラパリブでは MICA/B 発現は誘導されなかった。これに対し pan-HDAC 阻害薬トリコスタチン A (TSA, 1 μmol/L) またはボリノスタット (SAHA, 5 μmol/L) で H69 および H510 細胞を 48 時間処理すると MICA/B mRNA が劇的に増加した (p<0.001) (Fig 4C)。TSA 処理 H69 細胞の RNA-seq では MICA/B が最も顕著に上昇した遺伝子群に含まれ、同時に神経内分泌マスター転写因子 ASCL1 と INSM1 の発現が低下し、MHC-1 構成要素 B2M および各種 HLA 遺伝子の発現が上昇した (Fig 4D–4F)。TSA・SAHA・プラシノスタットは複数のヒト神経内分泌型 SCLC 細胞株 (NCI-H69, NCI-H510, NCI-H82, NCI-H209) で MICA/B の表面タンパク質発現を有意に誘導した (Fig 4G, 4H)。

HDAC阻害薬によるIn Vivo腫瘍抑制と免疫微小環境の再活性化、および神経芽腫への一般化: TSA 前処理 H69 細胞と NK92 細胞の共培養では、TSA 処理が NK92 細胞の細胞傷害活性を有意に増強し IFNγ 産生を促進した (p<0.05) (Fig 5A)。免疫能を有する野生型マウスに RP984 細胞を皮下移植し TSA (5 mg/kg) を週 5 回経口投与したところ、対照群 (n=4) と比較して腫瘍増殖が著しく抑制された (p<0.01) (Fig 5D)。TSA 投与群では腫瘍細胞表面 NKG2DL の上昇、NK1.1+ NK 細胞の浸潤増加、および浸潤 CD8+ T 細胞における IFNγ/Granzyme B (顆粒酵素 B) 陽性率の上昇が確認され、この治療効果は抗 NK1.1 抗体による NK 細胞除去で有意に減弱した (p<0.05) (Fig 5E, 5F)。さらに CCLE (Cancer Cell Line Encyclopedia) 全がん種解析では、SCLC は NKG2DL 発現が 2 番目に低い腫瘍であり、最も低いのは同じく ASCL1 を高発現する神経芽腫であった (Fig 6B)。ASCL1 高発現神経芽腫細胞株 (IMR32, SK-N-BE) では MICA/B 表面発現が消失していたが ASCL1 低発現株 SK-N-SH では発現が保たれ、前者を TSA またはボリノスタットで処理すると MICA の mRNA・表面タンパク質発現が著しく誘導された (Fig 6C–6E)。RPP GEMM 由来の浮遊細胞 (RPP-S: ASCL1 高・神経内分泌型) と接着細胞 (RPP-A: ASCL1 低・非神経内分泌型) の比較でも、RPP-A が高い NKG2DL を発現し、分化可塑性と免疫逃避能が密接に連動することが示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ASCL1 高発現の神経内分泌型 SCLC が NK 細胞活性化リガンド NKG2DL (MICA/B) をエピジェネティックに沈黙化させることで自然免疫監視から逃避していることを実証した。従来の免疫逃避研究は主に MHC-1 発現低下による適応免疫 (T 細胞) からの逃避に焦点を当ててきたが、本研究は NK 細胞による認識をも回避する追加の障壁を同定した点でこれまでの研究とは対照的な視座を提供する。Schumacher et al. Science 2015Yarchoan et al. NEnglJMed 2017 が示した「高 TMB が免疫チェックポイント阻害薬感受性を高める」という一般則が SCLC で破綻している理由について、本研究は腫瘍細胞表面の抗原提示機構 (MHC-1) と自然免疫刺激機構 (NKG2DL) の双方が二重に喪失しているためという明確な分子論的根拠を提示した。既報では細胞質型 HDAC6 阻害薬が NKG2DL 非依存的な NK 細胞依存性細胞傷害を誘導すると報告されていたが、本研究は pan-HDAC 阻害薬による NKG2DL 発現誘導という異なる機序を示した点でも既報と相違する。

新規性: 本研究で新規に、SCLC における MICA/B 発現低下がエンハンサー領域の H3K27ac 低アセチル化を伴うクロマチン閉鎖状態 (エピジェネティックな沈黙化) によるものであることを ChIP-seq 解析で明らかにした。さらに、この沈黙化が pan-HDAC 阻害薬で解除されて NKG2DL の再発現が誘導されること、そしてこれが生体内で NK 細胞および CD8+ T 細胞の浸潤・活性化を促し、原発巣増殖のみならず肝転移をも強力に抑制することを治療モデルで本研究で初めて実証した。また、この免疫逃避機構が SCLC のみならず同じく ASCL1 を高発現する小児神経芽腫にも共通する「神経内分泌系統依存的」な現象であることを新規に同定した。これは Rudin et al. NatRevCancer 2019 が提唱した転写因子サブタイプ分類に対し、ASCL1 陽性サブタイプが特異的な免疫回避プロファイルを持つという新たな免疫生物学的属性を加える novel な知見である。

臨床応用: 本研究の知見は難治性 SCLC に対する新たな治療戦略の臨床応用に直結する。腫瘍組織における MICA/B の発現状態、あるいは血清中の可溶性 MICA レベルの測定が、SCLC 患者の予後予測因子として臨床的意義を持つ可能性が示唆された。また、すでに他癌種で臨床承認または治験段階にあるボリノスタットやプラシノスタットなどの HDAC 阻害薬を、SCLC に対する「免疫微小環境改変薬」として再開発する bench-to-bedside 戦略の妥当性が示された。特に HDAC 阻害薬は NKG2DL 発現回復による NK 細胞活性化に加え、ASCL1 など神経内分泌プログラムの抑制やアポトーシス経路の感受性亢進を同時に引き起こすため多面的な抗腫瘍効果が期待できる。さらに HDAC 阻害薬と養子 NK 細胞輸注や抗 PD-1/PD-L1 抗体との併用は、SCLC の免疫的に冷たい腫瘍微小環境を変換する次世代複合免疫療法として有望である。Niederst et al. NatCommun 2015 が報告した EGFR 阻害薬耐性獲得時の肺腺癌から SCLC への神経内分泌転分化の過程でも、本アプローチが転分化に伴う免疫逃避を阻止する臨床的有用性を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、HDAC 阻害薬が腫瘍細胞のみならず宿主免疫細胞自体に及ぼす影響を精査する必要がある (limitation)。一部の先行研究では HDAC 阻害薬が NK 細胞の生存能や NKG2D 受容体発現を抑制する可能性も指摘されており、抗腫瘍効果を最大化する最適な投与量・スケジュールの確立が必須である。また、特定の HDAC アイソフォーム (例えば HDAC6) を標的とした選択的阻害薬がより低毒性で効果的に NKG2DL を誘導できるかの検証も今後の研究の重要な方向性である。さらに、可溶性リガンド (Shed MICA/B) が全身の NK 細胞機能を抑制するデコイとして働くリスクについて、ヒト臨床環境での詳細な動態解析が求められる。最後に、ASCL1 以外のサブタイプ (NEUROD1, POU2F3, YAP1) における独自の自然免疫逃避機構の有無を解明し、各サブタイプに最適化された個別化免疫療法を開発することが今後の展望として重要である (future research)。

方法

臨床検体およびデータベース解析

ヒト肺癌患者の臨床サンプルとして、大阪大学病院にて 2012 年 10 月から 2017 年 3 月の間に治療開始前に採取された SCLC 患者 25 例 (限局期 13 例、進展期 12 例)、NSCLC 患者 44 例 (扁平上皮癌 15 例、腺癌 29 例)、および健康対照者 16 例の血清を用いた。血清中可溶性 MICA タンパク質濃度は Human MICA DuoSet ELISA Kit (R&D Systems) で定量した。公的データとして Barretina et al. Nature 2012 による CCLE (Cancer Cell Line Encyclopedia) データベース、George et al. Nature 2015 の SCLC ゲノムデータ、および Cancer et al. Nature 2014 の TCGA (The Cancer Genome Atlas) 肺腺癌データセットから RNA-seq データを取得し NKG2DL の発現解析を行った。統計解析には GraphPad Prism を用い、2 群間比較には Student’s t-test または Mann-Whitney U-test を、群間有意差判定には ANOVA を適用し、患者血清は分散の不均一を考慮した検定で評価した。

細胞培養および薬物処理

ヒト SCLC 細胞株 (NCI-H69, NCI-H510, SHP77, NCI-H2081, NCI-H82, NCI-H209)、ヒト NSCLC 細胞株 (NCI-H1792, NCI-H2030, NCI-H460, SK-LU-1)、ヒト神経芽腫細胞株 (SK-N-SH, IMR32, SK-N-BE)、ヒト NK 細胞株 NK92 を使用した。マウス SCLC 細胞株として Rb1/Trp53 欠損マウス由来の RP984 株、および Rb1/Trp53/Rbl2 三重欠損マウス由来の RPP (Rb1/p53/p130) 株を用いた。細胞は DNA フィンガープリント (PowerPlex 1.2 Kit) で同定し Mycoplasma 陰性を確認した。エピジェネティック修飾薬として pan-HDAC 阻害薬トリコスタチン A (TSA: Trichostatin A; 0.1–5 μmol/L)、ボリノスタット (SAHA: Vorinostat; 0.5–5 μmol/L)、プラシノスタット (Pracinostat; 0.25–5 μmol/L) で各細胞株を 48 時間処理した。化学療法薬としてシスプラチン、エトポシド、PARP (poly ADP-ribose polymerase) 阻害薬オラパリブを用いた。

遺伝子導入および安定発現株の構築

ヒト MICA およびマウス Rae1d (Rae1 delta) の cDNA をレンチウイルスベクター pLvx-EF1a-IRES-puro にクローニングした。HEK293FT 細胞でウイルス粒子を調製し、SHP77、NCI-H510、NCI-H69、RP984 に感染させ、プロマイシン選択および FACS (fluorescence-activated cell sorting) ソーティングにより MICA または Rae1d を安定発現する細胞株を樹立した。空ベクターを対照とした。

クロマチン免疫沈降シーケンシング解析

H3K27ac の ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing) データ (NCI-H69: GSE62412、A549/NCI-H3122/PC-9: GSE89128、NCI-H2087: GSE72956、および NCI-H510/NCI-H2107 の未発表データ) を用い、MICA/B 遺伝子座のスーパーエンハンサー領域を HOMER ソフトウェアで Poisson p 値閾値 1×10^−9 を用いて定量化した。RNA-seq データは STAR で hg19 にマッピングし、edgeR で FDR ≤ 0.05、log2CPM ≥ 0 を閾値に差次発現解析を行った。

In Vitro 細胞傷害活性試験

ヒト NK 細胞株 NK92 を 1,000 U/mL の組み換えヒト IL-2 (interleukin-2) で 48 時間活性化した。標的 SCLC 細胞 (SHP77 または H69) と NK92 細胞をエフェクター/ターゲット (E:T) 比 10:1 で 4 時間共培養し、細胞傷害活性は CyQUANT LDH (lactate dehydrogenase) Cytotoxicity Assay Kit で LDH 放出量を測定して算出した。NK92 細胞の活性化はフローサイトメトリーによる IFNγ (interferon gamma) および CD107a 発現で評価した。

マウス腫瘍モデルおよび免疫細胞除去試験

4–8 週齢の無毛マウス (athymic nude mice) または C57BL/6J と 129S1 のハイブリッド野生型マウスを用いた。皮下移植モデルでは 5×10^6 個のヒト SCLC 細胞または 1×10^6 個のマウス SCLC 細胞をマトリゲルと混合して側腹部に皮下注射した。転移モデルでは 5–10×10^4 個のマウス SCLC 細胞を尾静脈より注射し肺・肝臓への転移巣を組織学的に評価した。特定免疫細胞サブセットの除去には抗 NK1.1 抗体、抗 CD4 抗体、抗 CD8 抗体、または抗 asialo-GM1 抗体を用い、3 日おきに 200 μg を腹腔内投与した。TSA による治療実験では 5 mg/kg を週 5 回経口ゾンデ投与した。